MDの終末に思う

まずお断りから。本日の記事は、自分の個人的感想に基づくもので、特定の企業の公式見解であることも当然無く、また、私が所属していた企業・組織における経験に基づくものでもないことを事前にお断りしておきます。

…というちとおっかない前振りから、何の話かと訝る方もいらっしゃるかもしれませんが、本日は、消えつつあるMD(MiniDisc)についての個人的感想です。

知人のブログで、MD再生機器が既に販売されているところがほとんどないことから、MD規格は過渡的なものであったのではということが書かれていました。で、私が考えるところは概略次のようなものです。

MDは1992年に発表されたわけですが、当時の傾向を振り返ってみると、CDというデジタルミュージック時代を切り拓いたメディアが音楽産業を席巻する中で、次はアナログコンパクトカセット(いわゆるカセットテープ)を代替するデジタルデータ記録メディアが待望されていたのだと記憶しています。実は、デジタルデータ記録メディアとしては、DATが1987年に発表されていますが、このDATはVHSのようにヘリカルスキャン方式の磁気記録を採用していましたから、簡便性という観点からすると(DATも民生用のものを当初は随分推進していたと記憶していますが)一般への普及はなかなか難しいものがあったのだと思っています。これ以外の理由も含めて、DATは業務用で一時期隆盛を誇りました。

この当時、実はMDと対抗する規格としてDCC(デジタルコンパクトカセット)というものがありました。DCCは、CDの時にはソニーと共同で規格を詰めたフィリップスが松下(パナソニック)と共同で規格推進をしています。DCCはある意味でアナログコンパクトカセットの延長線に位置づけられるもので、アナログコンパクトカセットの大きさを引き継いだ上でテープにデジタル記録をするものでしたが、MDは2.5inchというコンパクトなメディアにCDとほぼ同一時間(登場当時はそうではなかったのですが)を記録できること、3.5inch FDのようなシャッター構造を採用したシェル(カートリッジ)に保護されているので運搬性に優れることなどの理由から結構決着は早く着いたように記憶しています。

このMDは、非可逆圧縮アルゴリズム(ATRAC)によりCDのオーディオデータが圧縮されて格納されています。ディスク寸法を小さくしながらCDの記録時間にできるだけ近づけるためには、音声圧縮技術を採用することが必須だったと言えます。MDでは、先に書いたように、ATRACという非可逆圧縮方式(コーデック)が採用されています。MDが発表された当時を考えると、音声圧縮技術が実用化を迎えた黎明期とでも言うべきものであり、後にATRACの音質について様々な批判が出るわけですが、ある意味で致し方なかった選択であると言えます。ご存じMP3(MPEG Audio Layer-3)は、MD発表の数年後に規格が定まりましたので、MDにMP3を採用することは難しかったと言えます。とは言え、音声圧縮技術はMD以降に格段の進歩を遂げましたので、MD規格でATRACを必須とすることがもしかしたらMDそのものの普及を阻害する要因のいくばくかになったのかもしれません。とは言え、MD規格を制定したソニーは、その後、ATRACの改良及びMDそのものの改良を怠りなく行い、私としては現在のATRACについて音質面で云々すべきところはないと思っています。実際、私は自分が所有するWalkmanに格納されている音楽データは全てATRACで圧縮しています。

さて、このMD、日本ではMDウォークマンなどの携帯型MDプレイヤーが大きく売れましたので、普及率は相当なものがあったのですが、海外に目を転じてみると、プレイヤーも含めてMDの営業成績は惨憺たるものだったようです。つまり、MDは日本独自規格ではないのですが、日本での普及率ほどには海外の普及率は高まらなかったようです。海外の人に聞いたわけではないのでその真相は不明なところが多々ありますが、日本の場合、ダビング文化とでもいうべきものが広まっていて、MDはこのダビング文化に当て嵌まったのだろうと思っています。

もう一つ、非可逆圧縮データとは言え、MDにはデジタルオーディオデータが格納されています。これを無制限にダビング/コピーできるとすると海賊版を多数生むことにもなりますので、SCMS(シリアルコピーマネジメントシステム)と呼ばれるコピーガード技術がMDには採用されています。従って、VHSで見られたようなダブルデッキを作っても、MDからMDにはアナログデータコピーしかできません。著作権保護技術が必要であることは納得できるわけですが、ユーザーの利便性の観点からすると十分な満足が得られなかったとも言えます。余談ですが、私の手元には100枚以上のMDがありますが、MD内にあるデータを書き出せば必ずアナログになってしまいますので、結果的に死蔵状態になっています。その後、ソニーはHi-MDという、データをPCに転送できる規格も作ったわけですが、時遅し、と言うべきでしょうか。余談ですが、ソニーはMD内のデータをWalkmanやHDDにデジタルで吸い出せるコンポを売り出しているようです。一時期、真剣に購入を考えたのですが、そこまでしてもなぁと思い返し、結果的にMDは死蔵状態のままです。

そして、iPodに代表される、デジタルデータをメモリ内に大量に保管できる機器の登場により、74分あるいは80分のオーディオデータしか格納できないMDは徐々にその役目を終えたのだと言えます。

このように考えてみると、MDは規格発表当時としては画期的な製品だったと思うのですが、オーディオデータをどのように扱い、そして保管するかという周辺環境の激変により急速に時代遅れとの評価を得たのではないかと思っています。従って、決して過渡的な規格ではなく、一時代を確実に築くことはできたものの、時代の流れに抗うことはできなかった、という言い方がよいのではないかと思っています。

オーディオデータについては、iPodも様々なコーデックに対応していますし、先進的なオーディオファンはover CD spec、つまり、16bit、44.1KHzを超える音質のデータを求めるようになっています。こうなると、オーディオデータはメモリオーディオなりネットワーク上のストレージに格納することがこれからも当分続くのだろうと思いますが、どのような機器で、どのように聴取するかという形態については大きな変遷があるように思っています。ただ、コーデックを変えるとそれまであるデータが使えなくなることもあるので、なかなか悩みどころなのですが。

技術分野別の出願公開件数に見る企業の出願傾向

2012年最初の記事です。相変わらず雑用をこなす日々で、気付くと夜も遅くなっていることが多いためにBLOGを放置せざるを得ず、申し訳ありません。こんな状態ですが、ご覧いただいている方々には、今年もよろしくお願いいたします。

さて、まずは簡単なご連絡を。事情により勤務していた特許事務所を昨年末で退職し、本年早々から自宅開業することに相成りました。50歳を迎え、定年までの10年間をどのように過ごすかについて一度落ち着いて考え、次なる活動をするための準備期間としたいと考えています。とは言え、研修やら何やらで週の半分は外出している状態です。ずっと自宅開業を続けるかどうかは未定です。次の動きがあったら、またご報告します。

さて、昨年から性懲りもなく続けている、ここ数年の日本の特許出願件数の激減の理由を探るシリーズ、本日は技術分野別の統計数字から見てみました。WIPOは技術分野別の出願件数の統計数字を公開しています(ページはこちら)。この技術分野は、前回ご紹介したIPCのグループとは若干異なる観点から決められたようで、IPCをベースに集計されたものですが、複数のグループにまたがるものもいくつかあります。この記事に、日本国特許庁が発行した特許行政年次報告書に添付されている技術分野の凡例を添付しておきます。

「2-24-bunyabetu.pdf」をダウンロード

さて、まずは各技術分野(大分類)毎の2000年~2009年の出願公開件数をグラフ化したものをお見せします。残念ながらというか、前回のIPCセクション単位のデータからある程度推測できたことなのですが、各技術分類の増減傾向はほとんど同じに見えます。これは、各技術分類の全体に対する割合を表示した次のグラフからも裏付けられます。

Photo_5

Photo_6

そこで、一定の仮説、すなわち、日本の特許出願件数の減少が電機産業及び自動車産業において顕著ではないかとの仮定の下に、電気工学及び機械工学に属する技術分類(小分類)毎の毎の2000年~2009年の出願公開件数をグラフ化したものを作成しました。

Photo_3

Photo_4

面白いことに、電気工学では音響・映像技術に関する出願公開件数がここ1~2年漸減傾向にあるものの、台湾・韓国勢の擡頭が目覚ましい(と言っても随分前からですが)半導体に関する出願公開件数は増加傾向にあり、また、コンピュータテクノロジーについても減少傾向は見られない、という、日本の電機産業の現状(売上面での)と出願公開件数との間にあまり相関がなさそうな結果が出ました。機械工学では、自動車産業に直接的に関連性のあると思われるエンジン、ポンプ、タービンと運輸(ここに車体などが入ると思われます)との双方の技術分野において、出願公開件数は漸増傾向にあります。とは言え、近年の自動車産業においては、エンジンや車体以外にもカーナビ、ハイブリッドを含む電気自動車(この中は燃料電池や二次電池に関する出願が含まれます)などの、伝統的な内燃機関自動車に関する出願には含まれない技術分野に関する出願の割合が多いと思われますので、機械工学の出願公開件数だけを見ていたのでは自動車産業の出願傾向を全て把握したとは言えません。

こんなことで、未だに日本の特許出願件数の激減の理由を掴めずにいます。情けない限りです。この後は、各産業に属する企業の中で出願件数が上位に位置する企業の出願件数の増減傾向を見ることで、また違った観点から検討してみたいと思っています。データは、特許庁が公開している特許行政年次報告書の統計数字にありますので。

追伸:WIPOデータは、日本以外にも主要国について同様のものを公開しています。今回は記事の趣旨から離れるのでグラフ化していませんが、主要国(例えば米国、中国)の技術分野別の出願公開件数の増減傾向は大変興味深いものがあります。そのうちおまけで記事を書くかもしれません。

IPCセクション単位の日本国特許庁への出願件数の推移

ご無沙汰しております。全然BLOGの書き込みができずに申し訳ありませんでしたm(_ _)m。公私ともにバタバタしている関係で、まだまだBLOG書き込みを継続的にできる状態にありませんが、あまり放置しているのも申し訳ないので、本日はデータのご紹介だけでhappy01

以前(正確には前々回)の記事で、日米の内外人別特許出願件数及び特許登録件数のグラフをお見せして、日本国特許庁への出願件数の減少の理由は何であるかを探ってみました。結果的にあまり「これ」という理由が見つからず、IPCのセクション(IPCの一番最初のアルファベット)単位での出願件数の増減を見てみたいという終わり方をしました。現在、私が所属している事務所では使い放題の有料特許DBを契約していないので、さて、どうやってこの数字を無料で入手しようかと一月ほど考えていたのですが、ふと思い出して、特許庁が毎年発行している特許行政年次報告において、分類別統計表が発表されているので、これを参考に計算できないか、と考えてみました。特許庁の分類はクラス(IPCのセクションの下にある2桁数字)単位なのですが、CSVデータも公開されていますので、クラスの数字をセクション単位に集計することは簡単にできます。その結果が次のグラフです。

Ah

グラフは、ここ10年間の出願年毎に、各セクションの出願件数がどのくらいになったかというのを積算したものになっています。各出願は、特許行政年次報告の表現をそのまま借りると、「本表は、分類が付与された出願における、発明を最も適切に表現する分類についての統計である。」とのことですので、多分、各出願の筆頭分類が属するクラス毎の集計であると思います。

以前、特許庁が作成した資料の中で、IPCのセクション単位を見ると産業毎に出願件数の減少のタイミングが異なるというものを見た気がするのですが、私が作成したグラフを見る限り、そういった傾向は特段見えてきません。しかし、これだけではよくわからないので、各セクションが占める%を計算してみました。これが次のグラフです。

Ah_2

このグラフを見ると、微妙な%の上下はあるものの、実は全てのセクションにおいて%の大幅な増減は見えて取れません。つまり、ここ10年間の出願件数の増減傾向の中で、セクション毎の%の大幅な増減はない、つまり、産業毎の出願件数(セクションは産業との連関性が強いと考えられます)は大体同じ比率で増減していることがわかります。

この結果は、私の推測、つまり、電機産業がまず出願件数を減少させ、その後、精密機器産業が出願件数を減少させたというものとは一致しません。では一体何があったのか…実は、IPCのセクションは技術分野別になっているように見えて、若干の出入りがあります。この辺りについて、特許行政年次報告では「分野別」の統計も取っています。分類と分野は違う、ということです。この「分野別」はWIPOが決定したものらしいです。次回は、この「分野別」の傾向を見て、出願件数の減少について更に要因を探ってみたいと思います。

ということで尻切れトンボの話になって申し訳ありませんが、本日はここまでで失礼します。

追伸:本来は諸外国の同様なデータがあるといいのですが、私が探した限りでは、USIPOにもEPOにも似たようなデータが公開されていませんでした。

ここ最近の電機メーカーの決算報告に思う

本日もとりとめのないお話しで失礼しますm(_ _)mえ?いつもとりとめのない話ばかりだって?coldsweats01ま、否定できないのが哀しいですがcrying

2011年度も半分を過ぎ、いわゆる第2四半期の決算報告が各社からされています。総合家電メーカーと言われる中で、オーディオビジュアルに重点を置いているパナソニック、ソニーはTV事業の大不振が響き、2011年度通期でも赤字決算になりそうだとの話になっています。一方、重電(今は社会インフラという言い方もするようですね)にかなり軸足を置きつつある日立、東芝は、この重電部門での好調さのおかげで決算は明るめの報告になり、そのせいか、日立がパナソニックの時価総額を抜いた、というニュースがありました。なお、ニュース記事は結構早くにリンクが切れる傾向にあるので、敢えてリンクは張らずに起きます。

考えてみると、TV事業は市場全体が極端な安値攻勢に晒されており、日本大規模メーカーの場合、赤字体質が全然改善されていません。TVセット自体は完全なコモディティ化が進んでしまい、しかも各国でデジタルTV化が急激に進んでいますので、デジタルTVの受像機(古い言い方だなぁ)という観点からすると、どの会社の製品を購入しても基本性能では大差ない状態になってきています。TVメーカーも以前からかなりの危機感を持って様々なてこ入れをしており、その一つとして、「我社にしかない特殊機能」を付加しています。このような「特殊機能」としては、倍速(メーカーによっては4倍速)表示、LEDバックライト、3Dがあります。しかし、どこかのメーカーがこのような機能を付加した製品を出しても、他のメーカーがあっという間に追従してしまっています。

この、他メーカーがあっという間に追従、というメカニズムは非常に不思議なものですが、大抵において競業他社がどのような技術開発をするかについては、方向性のレベルではどのメーカーも共有しており(具体的なやり方は共有しませんが)、それに向けての技術開発を怠っていない、ということだと思っています。要は、どのメーカーも市場化のタイミングを計っている段階に来ている技術を幾つか持っており、どのメーカーが先鞭を付けるかということなのだと思います。また、仮に(言葉は悪いですが)他社に出し抜かれたとしても、急いで技術開発すれば間に合ってしまう(成熟度はさておき)のが、近年デジタル技術を多く取り入れている製品の特徴とも言えます。。

テレビを取り巻く現状を見ると、非常に重層的な構造になっていると私は思っています。それは、インターネット環境が整った状態において、そもそもテレビを視聴する時間が減少傾向にある人々、デジタルTV視聴環境が整った段階で、これ以上の画質も利便性も特段要求することのない人々、高度成長の勢いの中で「薄型テレビ」を購入することがステイタスであると感じる人々、ブラウン管TVでの視聴に特段不満を感じず、薄型テレビはあまりに高価で手を出しにくいと感じている人々、などなど。現状は各メーカーが価格帯や若干の機能差で様々な人々に対応しようとしているわけですが、そうは言っても、機能差を実感できるほどの特殊機能はなかなかなく、結果的に低価格帯の商品に人気が集まるのだろうと推測しています。確かに、LEDバックライトは消費電力の観点などからは魅力的なのですが、majorityが購入する気になるかどうかは難しく、3Dは今現在ではコンテンツ不足で訴求力が今ひとつであるのと、そもそも3Dのニーズはどこまであるのか(3Dコンテンツの迫力はすごいものがあると思いますけど)を我々が把握できていないので、商品としての魅力を理解できていないです。

こう考えると、現状のTVセットはかなり完成してしまった部分が多く、買い換え需要を喚起するためには業界側の次なる仕掛けが必要だと言えます。で、業界が仕掛けようとしているのは、いわゆるネットTVです。しかし、このネットTV、AppleTVを含めて(ロジャースのイノベータ理論にいう)イノベーターには受容されているものの、次なるアーリーアダプターの受容までには至っていないように考えています。結局、ネットTVでしかできないものは何か?という明確な利点を需要者に提示できていないのだと推測しています。インターネットに接続できるTVだけなのか、インターネットに接続するとこんな新しい世界が広がるのかを提示できるのか、その分かれ目にあると思っています。

とは言え、このネットTVは、ブロードバンド環境が整っている地域に居住する人々向けのものであり、世界的に見ればそれら人々はごく少数(急激に増加すると思いますが)であるので、大多数の人々に対しては従前の薄型TVを安価に提供することになるので、これに向けた対策がどのTVセットメーカーにも依然として必要であると思います。ここ10年間程度でTVセットのコモディティ化は急激に進み、しかもグローバルに展開する企業にとっては世界全体での最適化とローカリゼーションが必要であるので、部品調達、生産、物流、開発設計を含めたバリューチェーンの最適化(VCMと言ってもいいでしょう)が求められています。

一時期、パナソニックはこの解として垂直統合を選択しました。IPSパネルメーカーへの資本投入、自社製共通プラットフォームの深化(Uniphier)、自社製造を前提とした徹底した合理化(イタコナ分析など)がその例として挙げられます。しかし、台湾メーカーを中心としたLCDパネルの大量生産に伴う急激な価格低下、Androidのプラットフォームとしてのmajorityへの動き(まだ家電に適用した例はありませんが、いずれそうなるでしょう)、そして、台中EMSメーカーの技術進歩に伴う自社製造のこだわりに対する疑問(Appleは完全にファブレスになってしまいましたね)など、垂直統合であることが足枷になりかかっています。IPSパネルも、現時点ではその優位性を発揮するまでには至っていないように思います。TV業界をPC業界のアナロジーで語ることに対する抵抗はあるのですが(まだまだ作り込む部分の必要性はあるので)、PC業界以上に勝者のない業界に陥る可能性はあります。

では、PC業界におけるAppleの一人勝ち構図がTV業界でもあり得るのか…インタフェースの統一性や使い勝手の良さ、さらにはコンテンツ流通の柔軟性といった、iPod→iPhone→iPadで見せたAppleの利点をTV業界で活かすには、まだまだ超えるべきハードルが数多くあるように思います。そして、上に書いたネットTVは正にこの道の上に存在する(すべき)商品ですから、Appleが奇跡的な商品を提供しない限り勝者になるのは難しいように思っています。

こんなことで、TV産業は当分苦戦が続くように思っています。しかし、新しいモデルを模索する作業は継続して行われているように思っていますので、単純な安売り攻勢だけで勝者になれる期間もそんなに続かないように思っています。

ちと長くなりましたが、あと少しだけ。それは、重電に軸足を移した電機メーカーについてです。重電に関しては、現時点ではBRICs+台韓は納入先という位置づけでいられそうなので、TV業界のような血で血を洗うような安売り攻勢に晒されることもなく、また、基本的にB2B取引ですから、価格だけが訴求要件でもなく、また、コモディティ化の洗礼も受けにくい(考えにくい)ので、とりあえずは利益を確保することができると思っています。特に、日本企業が得意の作り込みが十分通用する業界だと思いますので、製品の優位性に基づく市場確保というかつての日本企業のお家芸に持ち込む構図が描けそうです。しかし、多分に注意すべき点は、欧米企業はモジュール化とサービスを入れ込んだワンストップサービスと技術標準化という得意技を持っており、日本企業はこの点でまだ欧米企業に及んでいない部分があるのでは、と思います。

モジュール化は、例えば欧米の鉄道車両製造メーカーが、各国毎、鉄道業者毎にcustomizeされた製品を納入するのではなく、customizeするべき部分と共通化すべき部分とを切り分けて各国、各鉄道業者に提案している例があるように記憶しています。そして、この共通化すべき部分は世界的技術標準にしてしまおうとするわけです。サービスを入れ込んだワンストップサービスについては、例えば欧米の医療機器メーカーは、CT、MRIを納入する際にアフターサービスシステムまで入れ込んでしまい、メンテナンスの合理化、省力化まで同時に提案してしまう例があるように記憶しています。

こう考えると、日本の重電産業の優位性がどこにあるのか、メーカーは冷静に考える必要があると思っています。しかも、重電にITを応用するトレンドが近年見えてきています。日本の重電メーカーはITメーカーでもあるので、本来はこの分野において先進的な地位にあってもよいように思うのですが…どうなのでしょうか。IT産業においては、プラットフォームを作り上げたメーカーが勝者になるのは、IntelであれMicrosoftであれ歴史の必然ですので、ここにたいするcareがどうなっているのか、気になるところです。

と言うことで、やっぱり結論が出ない話になってしまいましたcoldsweats01。申し訳ありません。

日米の特許出願件数の簡単な検討

本日は短めで(いつも嘘付いてますが、本日は本当bleah)。

米国特許出願件数はここ10年ほどの間、ほぼ単調増加傾向にある一方、日本特許出願件数は最近下降傾向にあることは、時々このBLOGでも話題にしています。ちと遅くなりましたが、WIPOで毎年作成している統計データが公開されましたので、この統計データを使って少し検討をしてみたいと思います。

次のグラフは、ここ数十年間の日本と米国の特許出願/登録件数のグラフです。上に書いた定性的な議論が定量的な形で表れています。

Us_japan

さて、この傾向の背景に何があるのか、ちと気になって、日本/米国における国内/海外出願人の出願件数をグラフ化しました。何故そのようなグラフを作る気になったのかというと、米国における特許出願件数の伸びは、米国の市場の重要性、さらには米国における特許の権利活用のしやすさ(特に訴訟における被告側のdiscoveryの負担、比較的原告寄りの判断など)を考慮して、海外出願人が多数米国特許出願をしているのではないか、との推測があったからです。

そして、そのグラフです。まとめきれずに4枚になってしまって申し訳ないです。

Us_application

Us_granted

Japan_application

Japan_granted

結論から言うと、米国特許出願において、国内/海外出願人の比率は大して変わっていません。つまり、海外出願人が旺盛に出願活動をする一方で、国内代理人もそれに見合う形で旺盛に出願活動をしている、ということです。一方、日本においては、海外出願人の出願件数は増加傾向にあるにもかかわらず、国内出願人の出願件数はかなり減少しており、これが全体の出願件数の減少に寄与していることがわかります。

もしかしたら、日本の国内出願人は、日本国内に特許出願する件数を厳選する傾向に更に進んだとも言えます。その背後に、日本国内に特許出願する意義や魅力が減退したと日本の国内出願人が考えているのだとしたら(あくまで憶測の域を出ませんが)、これは由々しき問題です。

これ以上の検討は、例えばIPCのグループ毎の出願件数の傾向などを見て、産業毎の出願件数の傾向から細かい分析をしないとわからない(特許庁の資料に大まかなものが掲載されているのを見たことがあるのですが、どこにあるのかわかりません、ごめんなさいconfident)ので、とりあえず本日はここまでにします。

外国特許出願に思うこと(雑感)

本日のお話しは、正直なところ私なりの結論が全く出ていないので、単なるぼやきと思ってお読み下さいm(_ _)m。

日本国特許庁への特許出願件数が減少している一方で、大企業を中心に、外国への特許出願を強化する姿勢を打ち出していることが報道されています(例えばこんな報道があります)。この姿勢は、米国及び中国における特許出願件数の増加が背景にあるでしょうし、また、大企業が日本市場中心から海外市場への依存を高めていることも大きな理由でしょう(例えば、パナソニックは海外売上高比率を48%(2009年)から55%(2012年目標)に引き上げる目標を立てています)。

特許事務所業界でも、外国特許出願対応の重要性は随分前から説かれており、実際に、外国特許出願を得意とする特許事務所が数多く存在します。とは言え、30万件~40万件という特許出願件数の存在があるが故に、大多数の特許事務所は、その収入基盤を国内出願(ここでいう国内出願とは、日本企業の日本国特許庁への出願と海外企業の日本国特許庁への出願とを合わせたものです)に大きく依存している(いた)のが現状だと思います。例えば、平成22年度特許出願技術動向調査報告書によれば、5極(日本、米国、EP、中国、韓国)への特許出願件数で見ると、2006年の優先日ベースで日本国民が日本国特許庁に出願しているのが約30万件である一方、他の4カ国、地域の特許庁に日本国民が出願しているのが約12万件です。

H22_makuro_tyousa

代理人の有無については統計が取りにくい(国内であればわかりやすいのですが、外国出願において日本国弁理士が関与しているかどうかは統計上取ることができない)ので、日本の特許事務所がどの程度の割合で国内/海外出願を代理しているかについては正確な数字を出すことができません。とは言え、上に書いた出願件数に概ね近い数字であることは予想できます。

しかし、上に書いたように、日本国特許庁への特許出願件数は漸減(割合として、という意味であり、数字としては5万件程度の減少になります)しており、これに伴い、一部の特許事務所では経営に少なからずの影響を与えています。実際に、特許事務所のリストラ話をここ数年聞きますし、小規模事務所の吸収・合併という話も聞き及んでいます。従って、日本企業の日本国特許庁への特許出願「だけ」を頼りに特許事務所の経営を行うことに対するリスクが年々高まっていると言えます。

一方、企業側が外国出願をどのように取り扱うかについて、外国出願件数の増加が命題としてある一方、権利形成手続を含めた知的財産権関係の費用に対するスリム化、コストダウンも、もう一方の命題としてあります。これに対応して、外国出願を日本の特許事務所経由ではなく、外国の現地代理人に直接依頼する方式を(全件ではなく一部の案件だけというところもありますが)採用する企業も、わずかながらですが増加するように見受けられます(これについても、統計を取ることができませんので、漏れ聞く話、でしか言えませんが)。しかし、このような直接方式の場合、企業知財部門の担当者が英語を(しかも特許英語を)かなり自在に扱う必要があります。少なくとも、いわゆるコレポンと呼ばれる英文レター、メールを自分で起案する必要があります。出願時は定型文書で済むことが多いのですが、外国特許庁から拒絶理由等が来てこれに応答する場合、意見書案、補正書案を用意してレター/メールに記す必要があります。当然、現地代理人に一存するやり方もありますが、この場合、権利内容に対する企業側のコントロールがどこまでできるのか、ということが懸案として残ります。

また、外国出願費用のかなりの部分を占める翻訳費用についてもコストダウンの要求が強い項目になります。最近の傾向として、アジア系の特許事務所が、複数国への外国出願をする場合、特定の特許事務所に日本語原稿を渡すと各国向け(とは言え、中国、台湾、韓国以外は英語でいいわけですが)に翻訳した原稿を作成する、ワンストップサービスを提供しているようです。この場合、各国の給与水準の差に起因するのだと思うのですが、日本において英語に翻訳するよりも安価な翻訳サービスを提供してくれるようで、このワンストップサービスのある意味での「売り」になっているようです。とは言え、ワンストップサービスに限った話ではないものの、翻訳内容をどのようにして企業がコントロールするかということが懸案として残ります。

重ねて言えば、翻訳原稿のコントロールについては、上に書いたワンストップサービスに限った話ではなく、翻訳料は結果的に手間賃に近いので、複数人によるチェック体制を取ればその分コストが上昇して翻訳料に反映させざるを得なくなります。この辺りは、翻訳会社、特許事務所、企業知財部門それぞれにおいて、コストダウンの方策を持っているわけですが、また一方で、翻訳原稿の質が評価されるのは、現地特許庁からの拒絶理由通知(多くは記載不備を理由とするもの)が来てから、さらには権利活用時における詳細な検討後になることが往々にしてあります。従って、コストダウンを目的として施策を採用してからその妥当性を評価できるまでに一定のタイムラグが生じると思っています。この点は、実は慎重に行うべきではないかと思っています。

私の経験では、翻訳の質は翻訳者個々の資質に依存するところが非常に大きいので、翻訳会社全体として質の維持・向上をシステマチックに行える体制を持っているところなのか、また、翻訳者自身が特許実務を理解する意欲があるか、加えて、言い回しを含めたテクニカルタームを学習する意欲があるか、が判断の基準になると思います。最近は英語文献や日英辞書をインターネットで簡易に検索できますので、この検索結果等に大きく依存して翻訳作業を行っている方がかなりいらっしゃるように推測していますが、文章としての流れを適切に判断できる能力がないと、このような手法では不完全な翻訳原稿になるのではないかと危惧しています。

また、上に書いたように、日本の特許事務所が外国出願の窓口として対応しているやり方に対して、日本の特許事務所は実質的にどのような付加価値を企業に提供しているのかという批判をいただくことがあります。特許事務所の立場からすると、日本出願や複数国への出願を横断的に検討することができ、また、現地代理人や現地特許庁の判断の正当性を、その出願に関する深い理解を根拠に判断できるというメリットがあると思っているのですが、企業側のコストダウンの要求の前に自身の無力さを思い知ることもあります。特に、日本出願から担当している案件については、発明者との面談等を含む当該案件に対する包括的な知識を日本の特許事務所が持っているわけで、書面だけで理解せざるを得ない現地代理人では得られない、引例との対比及び本願の特徴点の把握ができるのだと思っています(これは、外国の出願人から日本国特許庁への出願を依頼された案件では逆の立場に立ちますから、そういったことを痛感します)が、その思いがクライアント様にどこまで伝わっているのか、という面からも無力さを感じます。加えて、各国の特許実務を一番知悉しているのは当該国の現地代理人ですから、いくら日本国弁理士が外国特許実務に通暁したところで、現地代理人の知識を上回ることは非常に困難です。では日本の特許事務所の存在意義は一体何であるのか、毎日自問自答している状態です。

…と言うことで、やはり結論のない話になってしまいました。毎日、少しずつでも改善しようともがいてはいますので、もう少ししたら何か見えてくるのだろうと思いながら日々仕事をしております、はい。

「共に成長する」という視点

このところ、結構業界ネタが続いていて、あまり関心のない方もいらっしゃるかと思いますが、もう少しだけお許し下さいm(_ _)m(業界ネタが面白いと思っていただける方が大勢いらっしゃることを期待していますがhappy01)。

さて、先日、twitterでふと呟いて、そのうちBLOGに書きますというネタが残っていたので、そのことについて簡単にご説明を。内容は、前回及び前々回に引き続き、企業知財部と特許事務所との関係についてです。

企業(知財部)は、特許事務所に対して弁理士を含めた出願代理業務の専門性を評価し、出願に関する代理を依頼するわけですが、とは言え、出願業務全般について特許事務所に優位性があるとは言えない部分がどうしても残ります。どのようなことかと言えば、例えば明細書をどのように記載すべきかについては、通常は特許事務所のほうが延べ件数で言えばかなりの企業よりも経験値が高いと言えます(超大企業だとそうも言えませんが)。しかし、明細書作成業務において、最終的に権利化され、(訴訟提起する/されるまで至らなくとも)権利活用の場において第三者の厳しい目に晒されることで反省点が見つかることもあります。通常、特許事務所は当該権利活用の場に出席せず、また、その場でどのようなことがあったかについて個別にフィードバックを受けることはありません。また、海外での出願を念頭に置くことが多い企業の場合、外国出願の際にできるだけ手直しをせずに済むように、明細書の記載形式をいわゆる「世界共通明細書」にすることを求める場合もあります。このような場合、企業側から明細書作成に関する指示書(マニュアル化されることもあります)が渡されることがあります。その内容は色々ですが、特許事務所の立場からすると「なるほど」と思わせる内容があります。従って、明細書作成業務について特許事務所は企業から代理委任されているのですが、当該明細書作成業務の具体的内容については、委任元たる企業から教わることもないわけではありません。これを屈辱的と感じるのか、はたまた、成長の糧とできるのか、それは特許事務所個々の問題ですから私は何もコメントしませんが、私としては、「共に成長する」という関係を築けるようになりたいと常日頃思っています。

一方、個々の企業知財担当者と特許事務所の担当者(弁理士)とで比較すると、企業知財担当者よりも特許事務所の担当のほうが出願代理業務の経験値が高いことに時々遭遇します。この場合、知財担当者と特許事務所担当者との面談(時に発明者面談と同時の場合もあります)において、特許事務所担当者がその場をリードするようなこともあり得ます。従って、(可能性として)企業知財担当者が特許事務所担当者から「教わる」(代理委任という関係からするとこの言い方は正しくないわけですが)場合も想定できます。これについても、私としては、「共に成長する」という関係を築けるようになりたいと常日頃思っています。

で、少しまとめて言うと、私としては、企業知財部や特許事務所という立場はあるにしても、双方の目的は企業で生まれた発明を価値のある権利にすることで共通する(はず)ですから、「共に成長する」という関係を築くことは可能ですし、お互いにその目的を達成するために自分ができることを追求したいと思っています。とは言え、プライドという厄介なものがあってなかなか実現できないんですけどねぇconfident

企業知財部と特許事務所との業務経験はどう役立つのか(補遺)

昨日書いた記事に、twitter上で結構なコメントをいただきましてありがとうございました。ちと記載不足の部分がありましたので、追記しておきます。

提案型営業については、実は私は大好きな領域でhappy01、隙あらばやっていますhappy02。とは言え、提案型営業が受け入れられるかどうかは、クライアントとの関係によるわけです。昨日の記事でご紹介した例は、発明者原稿の完成度が非常に高いこともあり、基本的に発明者との打ち合わせは行わずに、原稿の記載内容に基づいて明細書を作成することが求められています。このような考え方をされるクライアントは現実に何社もおられ、当然ながらそれはクライアントの知財ポリシーとしてある意味優れている(発明者教育がしっかりしている、権利取得の方針に対する指示がしっかりしている)わけです。この場合、提案型営業はなかなか受け入れていただけないだろうと思います。結局のところ、クライアントと特許事務所との間でコミュニケーションが円滑に行いうるならば、提案型営業にこだわる必要はなく、高品質な明細書作成業務を行いうるわけです。

ただ、自分は、発明者との打ち合わせを行い、企業の知財担当者から当該発明にかかる技術や業界の背景をお聞きし、この出願が当該企業の特許ポートフォリオにおいてどのような位置にあるのかを把握した上で、明細書作成業務をするのが一番得意ですし、さらに許されるならば、発明者ブレストにお邪魔して様々な提案をするところから関与したいと思っています。これ以上の提案型営業(当該企業の知財戦略なり知財管理なりに対してアドバイスをする)については、現状、そこまでの要望を持っておられる企業が少ないので、やりたい意欲はたくさんある(自分なりの自信もちょっとだけある)のですが、難しいですねぇ。

企業知財部と特許事務所との業務経験はどう役立つのか

まだ頭が整理できていない状態で、半分愚痴になることを承知でちょっとだけお話しします。

ご存じの方もそれなりにいらっしゃるかと思いますが、私は、大学卒業から企業研究職→特許事務所→企業知財部→特許事務所(イマココ)という経歴を持っています。で、最近、twitterで企業での研究開発経験が特許事務所で活かされるのかどうかという議論がありました。この議論は、大学(院)から新卒で特許事務所に入所することが、その後の特許事務所を含むキャリア形成にどのような影響があるのか、という議論の延長線でされたものです。その議論については、大体収束したと思っていますので、ここではその議論は蒸し返しません。以下にお話しするのは、では、特許事務所経験が企業知財部での業務に活用されるところはあるのか、逆に、企業知財部経験が特許事務所での業務に活用されるところはあるのか、というvice versaな話です。

まず、特許事務所経験が企業知財部での業務に役立つのか、というお話です。自分の経験の範囲内のことだけでお話しすると、私の場合は、企業知財部での自分の業務遂行には結構役立ったと思っています。

私が特許事務所から企業知財部に転職したのがかれこれ17年ほど前です。その頃は、企業知財部員の中途採用自体が皆無に近い(あっても非公式ルートでの求人なので、求人情報誌を見てもほとんどない、転職サイトなどという重宝なものもなかった)時代でしたので、求人を探すだけで結構な時間がかかりました。今は、企業知財部自体が即戦力としての中途採用に対する抵抗が劇的に低くなったので、特許事務所勤務の弁理士先生が企業知財部に転職する話も普通に聞くようになりました。

その、17年前に入社した会社では、特許事務所の管理も明細書のチェックも、経験値の高い社員が多数を占めているわけではなかったので、正に即戦力状態で実務を行うことになりました。より詳細に言えば、発明者から提案された発明を自分なりに解釈して、この発明ならばこんな明細書で出願したら良いというイメージを事前に持ち、そのための資料を揃え、できるだけ明細書作成作業に不足する情報がないようにして特許事務所に出願を依頼し、出来上がってきた明細書原稿を、自分ならこう書くだろうというイメージ及びレベルに従ってチェックし、最終的に出願代理をお願いしていました。加えて、発明者の提案原稿が未完成であるにもかかわらず出願期限が迫っている時は、私は社内の人間ですから発明者に頻繁にコンタクトすることは可能ですので、自分で明細書+図面を作成し、代理人なしでの自社出願をすることもありました。今考えれば、依頼された特許事務所の側からすると非常に厳しい知財担当者であったのだろうと思います。当時担当された特許事務所の方々にお詫びをしたい気持ちではあります。

このように、企業知財部の業務において、特許事務所での経験は十分活用できるというのが、自分の経験から導き出された結論です。

では、企業知財部の経験は特許事務所において活用されうるのか、さらには有効に活用されうるのか、についてです。実は、企業知財部OBが特許事務所に転職することはかなり昔から行われてきており、その数も、私が推測するに、特許事務所から企業知財部に転職する数を上回っていたのではないかと思います。その理由は…明細書作成能力は特許事務所で鍛錬する必要があるかもしれませんが、少なくとも発明把握能力は企業知財部で長年訓練されてきていますので、この部分の教育を省けるだけでも特許事務所からすると教育は短期間でかつ容易に行いうるとの推測はできるでしょう。なお、企業知財部で管理職を経験されてきた方が特許事務所に転職した場合、特許事務所がその方を受け入れるのは、また別の理由のようです(今回の話とはちと別のことなので割愛しますが)。

自分の場合、企業知財部の前に特許事務所経験があり、企業知財部でもこつこつと自社出願をしていたので、自分の業務遂行能力がいったいいつの経験に基づくのかが混沌としているのですが、行ったり来たりしている経験が少しは役立っているのかも知れません。

とは言え、気を付けないといけないのが、企業の知財部門に所属していると、担当する分野の発明が発明者から提案された場合、知財担当者にはそれなりの権限が委譲されていますので、会社としてのauthorizeは必要であるものの、裁量の範囲が結構広いです。で、その感覚を持ち込んだまま特許事務所の業務を遂行すると、微妙に食い違ってしまうことがあります。

一例として、特許法が要求することもあり、特許出願代理を依頼される際に見せていただける発明者提案原稿または特許出願依頼書類には、当該発明の先行技術に関する文献名が記載されている場合がほとんどになりました。この先行技術は、発明者なり知財担当者が先行技術調査をした結果、適切な先行技術文献を記載しているものと推測されます。で、当該発明にかかる技術の全体像を把握するために、特許事務所の担当者が先行技術調査を行ったところ、発明者提案原稿に記載された先行技術よりも当該発明の先行技術として適切ではないかと推測される先行技術が発見できたとします。この場合、知財体制が整っている企業であると、そもそも出願代理を依頼する際に企業側が想定している業務範囲に先行技術調査は含まれていないことが多い(企業は本来ならば先行技術を一番知りうる立場にあるでしょうから)ので、特許事務所が先行技術調査を行うこと自体、厳しい言い方をすれば越権行為と言われかねません。しかも、万が一さらに適切であろうと客観的に判断される先行技術を特許事務所が発見してしまったならば、知財担当者なり発明者なり、当該発明についての先行技術調査を行った担当者の面子をつぶすことにもなります。企業の知財担当者であれば先行技術調査を行い、それとの対比で発明把握の方向性をimproveすることは要求される業務範囲内ですが、企業の知財担当者の頃の感覚でこのような業務遂行をすると、最悪の場合、企業の心証を損ないかねません。

この辺りが、実は非常にもどかしいところではあるのです。代理人としての分を弁えるべきところなのです。最近、知財経営コンサルティングの議論をする時、提案型営業が推奨されており、上に書いたような事例であるならば、特許事務所側が積極的に先行技術の存在を調査し、それに基づいて発明把握自体を変更すべしと言う論調になりがちです。当然、知財体制が整っていない企業に対しては提案型営業を推し進めることに問題はないと思いますが、クライアントの事情を考慮せずに何でも提案型営業、という議論はしてはいけないと思います(当然ですが、私が知っている弁理士先生でそういった議論をされている人は知りませんが)。

あと、日本の社会は、未だに「この道一筋○○年」という方が尊重される風潮があるように思っています。そうなると、私のように特許事務所と企業知財部とを行ったり来たりしている人間は尻軽に思われてしまうようです(事実、尻軽なんでしょう)。私も、未だに時と場合に応じて特許事務所の立場で会話している時と企業知財部の立場で会話している時とが不断なく入れ替わりますので、よく考えると整合性の取れない議論をしていることがあるかもしれません。一方で、クライアントの担当者に対して説教めいた話をしそうになることもあります。自分の経験からすると、そういった企業知財部の判断はこのような不利な問題を生じると思いつつも、そもそもその判断は当該企業内において相当の議論がなされ、権限のある人がauthorizeしたものである以上、外部である特許事務所の一担当者がそれを指摘したところで何も変わるはずもなく、逆に「余計なお節介」と取られてしまうでしょう。そんな時、クライアントに対して知財経営コンサルティングができたらどんなに楽か、とも思うのです。そんなジレンマを時々抱えながらこつこつと仕事をしておりますsad

池井戸潤「下町ロケット」(補遺)

前の記事で、一気呵成に感想を書いたら、案の定書こうと思っていた話題を幾つか書き漏らしましたcoldsweats02。なので、ちと脈絡がないのですが、補遺を。

まず、佃製作所が金策に詰まるところですが、私も又聞きレベルで申し訳ないですが、金融機関は財務諸表に基づく評価はできるものの、技術に基づく評価はなかなかできない、という話を聞きます。技術評価は外部機関に依頼することも最近では時々行うようですが、外部機関を使って技術評価をした場合、それなりの費用がかかるので、コストをかけたものの否定的な評価が出た場合はその費用は誰が払うんだ?ということになり、金融機関はなかなか重い腰を上げないようです。ただ、小説では金融機関として「銀行」ばかりが出てきた印象がありますが、中小企業の場合、地元密着型の金融機関として信用金庫や信用組合のお世話になっている企業が結構あります。で、信用金庫などは長期間にわたってその地元で地元密着型企業との付き合いがありますし、そんなに新規融資先が現れるわけでもない様子なので、地元密着型企業を大切にする印象があります。私が話を聞いたある信用金庫は、中小企業支援センター(もう終了しましたが)として活動し、その中で知財評価にも積極的に取り組む姿勢を持たれていました。あと、金融支援という側面で言うと、中小企業庁や中小企業基盤整備機構を中心とする中小企業に対する支援策が数多くあり、(条件は色々とあるのですが)緊急的な金融支援策を取り得ます。この辺りは、小説には登場しない中小企業診断士、社会保険労務士、税理士、公認会計士などの専門職の支援を仰ぐ(当然、商工会議所などもありますが)ことで道が切り開けることもあります。ま、小説では、この辺りの支援策も検討したが…ということなんだろうと思います。

もう一つ、小説では比較的善人と悪人とがわかりやすく、カリカチャライズされた形で描かれていました。登場人物の正確や立場を明確にし、読者が感情移入しやすいためのことだとは思いますが、当然ながら、現実は善人と悪人の境目は不明瞭であり、いずれかにカテゴライズするのは困難です。例えば、知財訴訟を得意とする弁護士は、実は事件毎に原告側に経つと思えば被告側に経ち、また、原告/被告代理人として対立することもありますが、次の事件では共同代理人としてタッグを組むこともあり、実に立場が目まぐるしく変わります。小説内のナカシマ工業の代理人弁護士は、多分に顧問契約を締結しているのだろうと推測しますが、とは言え、職業倫理を超えてまで企業側に与することはないので、ちと悪人に描かれすぎかな、と思いました。私が存じ上げる知財関係を得意とされる弁護士先生は、どなたも職務遂行は真摯にかつ公平に行う方ばかりで、尊敬に値する方ばかりでした。

…こんなところで思ったことのほとんどを書きましたので、この項はこれで終わりにしますm(_ _)m。

«池井戸潤「下町ロケット」

2012年1月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
フォト
無料ブログはココログ

お天気ブログパーツ