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MOTとプロジェクトX

本来はipiipiという私が参加している知財系SNSでの話題なので、そこで議論した方がいいのですが、ちょっと炎上しそうな状態なので、ここでこそっと話をします。

議論の内容は、MOT(技術経営)と「プロジェクトX」的プロジェクトの進め方の対比をある方がされていて、MOTは合理的手法により技術開発テーマの選定及び進行を行うのでプロジェクトXのような成功例は望めない、という人がいて、一方、MOTは技術の種を早期に育てるものであり、MOT的発想は日本的経営手法に合致しているという(よく考えると噛み合わないような)人がいて、見た目対立したような形になっています。

そもそもMOTって何?という議論からしないといけないのですが、MOTという用語の定義も結構あって(例えばこれとかこれとか)定説的なものはなさそうです。ただ、少なくともMOTの始まりはMITのSloanスクールからであり、米国ではMOTスクールが多数あること、大体の人が挙げているのは「技術をベースとした企業経営」という内容であること、MOTがこのところ日本で取り上げられているのは、日本が優れた技術を持ち、多額の研究開発費を投資しながら経常利益率は(電機業界を中心として)低迷しており、これを打開するためにはMOT的発想が必要だとの危機感に基づくことは大体共通しているようです。

私の印象では、MOTとは技術を通じて企業経営の最適化を図る手法であり、この中には研究開発マネジメント、技術をベースとした経営戦略論が含まれると思っています。つまり、いかに将来の企業の利益の源泉となるR&Dテーマを選定し、これを継続的に育て、事業化を図るか、そして、技術開発力を通じて事業の延命化を図るか、さらには事業の撤退の判断をするか、ということが大きなテーマになってくると思います。こう書くと、儲けに直結しそうなR&Dテーマのみを選定して、つまり事業の効率化のみを目的にR&Dテーマを選定して長期間にわたり困難な課題を解決しなければならないR&Dテーマを切り捨てる発想になりがち、との批判も出そうですが、逆に言えば、効率化を主目的としてR&Dテーマを選定するのであればこれほど楽な研究開発マネジメントはなく、むしろ、いかに将来大化けする可能性のあるR&Dテーマの目を摘まないか、ということに苦心しているのが今の研究開発マネジメントのテーマであるように思っています。当然、限られたR&D予算をどう配分するかという中でメリハリを付け、さらには一定のテーマへの絞り込みをすることは必要なのですが、そういった制約の中で有望なR&Dテーマを切り捨てない努力が必要とされていると思っています。serendipityを偶然の結果に終わらせず、研究開発マネジメントに取り込み努力が必要なのです。

一方、最初に紹介した人が言うプロジェクトX的な発想は、厳しい言い方をすればプロジェクトマネジメントの失敗例を紹介しているようなものであり、難問とされる技術開発を当事者のたゆまぬ努力と上司の目を盗んででも技術開発を継続した粘り強い意志とで達成した、と言えるように思います。ただ、プロジェクトXに紹介されている具体例を冷静に見ると、実は直属の上司は当該技術開発の将来性を見抜いており、わざと見て見ぬふりをしていた場合や、技術開発のメインストリームにはなかったかもしれないが継続的R&Dテーマとして地道に行った結果の成功例である場合があり、単純な美談として捉えるべきではない例も含まれています。

こう考えると、「プロジェクトX」的発想とは諸手を挙げて賛美するほどのことでもなく、むしろ今後はMOT的発想に基づいて企業の利益に直結する研究開発マネジメント、技術開発を行うべきであるように思います。

…とまあ、書き連ねてきましたが、このあたり自分がinvolveしたくても実際の業務でできないのがちょっと悔しいところ。

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企業経営・技術経営」カテゴリの記事

コメント

倉亜久児夢さん、こんにちは。

特許庁が主張する三位一体の戦略は、個人的には言うは易く行うは難しだと思っています。理由は、ポジティブスパイラルにするための要因は知財だけでは語れないからです。とは言え、経営に資する知財という目標だけは掲げていたいと思っています。

技術開発の方向性及び実現性と事業戦略との乖離という問題は、MOTの側からしても切実な問題で、これをいかに収束させるかで(そして収束させること自体実現可能であるかということも含めて)ずっと議論をしているわけです。

とは言え、未だに根性論に近いプロジェクトX的開発が行われているのも事実であるわけで、これを全否定することはできません。どうするか、悩ましい問題です。

5年ほど前から特許庁が提唱している「三位一体の戦略」と関連付けると面白そうですね。

そもそも、事業戦略は計算尽くで構築するものであるのに対し、研究開発には個人の発想、発明が大きく影響する、計算できない部分があります。そして、それにより、思わぬ方向に大きな展開をすることがあるのが、技術開発の特徴です。

そのような、不安定な側面がある技術開発ですから、イナーシャの大きい事業戦略に活かそうとすると、時には、事業戦略との乖離が発生して、「プロジェクトX」のようにならざるを得ないのも、企業人にはよく理解できます。

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