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「オープンイノベーション」を読んで

買ってはいたんですが、やっと「オープンイノベーション」の本を読むことができました。今までこのBLOGで散々オープンイノベーションのことを議論していながら、本を通読できたのがやっとというのが恥ずかしいです。coldsweats01

で、感想を。オープンイノベーションへの流れが現在起こっていることは非常によく理解できたのですが、なぜオープンイノベーションであるのか、という理論構成はちょっと甘い気がしました。この本、訳がよろしくないとの噂もあるので、もしかしたらこのあたりに理由があるのかもしれません。

オープンイノベーションの対極にある、全ての技術開発を自社内で行うクローズドイノベーションの例としてXeroxのPARC(パロアルト研)が紹介されていました。このPARC、現在のコンピュータで採用されているGUIとかマウスとかを先行して研究開発したのに結果的にXeroxに何ももたらさなかったこと、また、Ethernet技術、Postscript技術に関しては3Com、Adobeという今では大企業となっているベンチャー企業がPARCでの研究開発成果を元に起業していることもあり、この本に限らずなぜPARCはイノベーションのマネジメントに失敗したのだろうという議論はあります。この本では、クローズドイノベーションの限界という例としてPARCが紹介されていますが、私はクローズドイノベーションの問題というよりもコピー機メーカーであるXeroxがコンピュータサイエンスの最先端を研究し、これを市場に投入するという企業のカルチャーそのものを大変革しないといけない事態にありながら、コピー機メーカーの殻をXerox自体が脱することができなかった技術開発マネジメントの問題ではなかろうかと思います。だから、PARCがクローズドイノベーションの限界を示しているというのは今ひとつ納得がゆきませんでした。

また、それまでの企業がクローズドイノベーションに固執していたような記述がありますが、例えば電機メーカーでは自社の技術開発結果を標準化、フォーマットという形で他社にライセンスすることがかなり前(フォーマットという意味では20年以上前から)からありますので、自社の技術開発結果をライセンス料を受け取ることで利益に結びつけていた例は結構前からあります。従って、企業がクローズドイノベーションに固執していたばかりではないと思えます。

そして、オープンイノベーションに至った理由として人材の流動化などが挙げられていますが、私が考えるに、人材の流動化というのは昨今始まった現象ではなく、米国西海岸のシリコンバレーに代表されるように米国においてはここ20年間の現象としてベンチャー企業の企業化の動きが盛んであったわけで、人材の流動化がオープンイノベーションに直接結びつくとは考えにくい面があります。それ以上に、IT産業においてはPCに代表されるように垂直統合から水平分散へとプラットフォームが大きく変化したことが大きいと思えます。PCのプラットフォームはモジュール化が極めて進んでいて、優秀な部品を外部調達すればPCが完成してしまう、という世界になっています。こうなると、全ての技術開発を自社内で行うというまさにクローズドイノベーションは通用しなくなります。外部の優秀な人材なり技術を適宜導入し、自社の得意分野と組み合わせるモデルを採用せざるを得なくなります。

加えて、この本で全く議論されていなかったのが、インターネットにより外部の優秀な発明にアクセスするコストが劇的に低減したことです。むしろ、この点についてはWikinomicsという本のほうが詳細に議論されていて参考になります。オープンイノベーションに向かうインセンティブはインターネットにより大きくもたらされていると言えます。特に、インターネットによる劇的な変化はIT産業のみならず全産業においてオープンイノベーションを誘発する原因となっています。今オープンイノベーションが話題になっているのはこれが一番の理由ではないかと思うのです。

ということで、結構私としては突っ込みどころの多い本でした。ちょっと私はひねくれているのかな?

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