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不景気なときの特許事務所(その2)

不景気話は以前このBLOGでも記事にしました。最近、「大企業の出願縮小、揺れる弁理士」という題の新聞記事がフジサンケイビジネスアイに掲載されているようです。この記事は、結構事実誤認があったり以前から企業では行っていたりしたことがさもこれから検討されるといったような部分があったりして突っ込みどころ満載です。一々検討するのも面白いのですが、なんだか揚げ足取りっぽくなりそうなので、一つの話題に絞ってお話をしてみます。

この記事の中に、「特許事務所筋から流れてくるのは「電気や自動車関連などの大手企業から2009年度の年間出願経費を3分の1、4分の1レベルで削減するという意向を打診された」という話の数々だ。」という話があります。この話の真偽のほどは定かではありません。と言うのも、この話を真に受けるならば、出願経費をそれだけの割合圧縮できるほどの不要不急の特許出願を過去していたということになるからです。

過去、大手電機メーカーを中心として、年間1万件程度あるいはそれ以上の特許出願をする企業が何社もあったほど、日本の大企業が大量出願戦略をとっていた時代がありました。だいたい80年代を中心と思えばいいでしょうか。この頃の特許明細書を公開公報で見ると、出願書類がB5判であったにもかかわらず、全部で10枚を切るような出願が非常に多数ありました。この頃は、今は当たり前になった多項制が導入されていなかったこともあり、1件当たりの発明の広さよりも出願件数の数で勝負することが優先されていたように思います。その後、90年代に入り、日立製作所が率先して出願件数の数を競うのを止め(と日立製作所は主張しています)、少数精鋭主義に徐々に移行することになります。最近の出願件数ランキングを見ると、まだまだ年間で5000件以上の特許出願をしている企業が何社かありますから、外部から見ると俄に信じられないかもしれませんが、全般的には大企業はむやみに特許件数の数を追うことをせず、1件ごとの特許出願の意味を十分に検討して出願の可否を判断しています。

ですから、特に大企業であれば「無駄な」特許出願は極力減らしてスリム化を図っていますので、不景気になったからと言って特許出願件数を格段に減らすことは困難だと思っています。これ以上出願件数を減らすとなれば、企業が行っているR&D活動を十分サポートできる知財活動が阻害される可能性が出てきます。従って、最近特許庁が表向き審査期間の短縮を図る意味で出願件数の絞り込みを企業に要求していますが、話はそう簡単ではないと個人的には思っています。審査請求率が50%程度であるのも、企業の一つのR&Dプロジェクトの成功率から考えると止むなし、と思えますし、登録率が同じく50%程度であるのも、実際の拒絶理由の引例の出願日と出願の出願日とが結構近接していることが多いので、先行調査にも一定の限界があることを考えるとこれも止むなし、と思えます。ここ10年程度、日本の特許出願件数は若干の伸びまたは平衡状態にあることからも、日本企業は無駄を省いた出願活動をしているのではないか、と思えます。

余談ですが、米国と中国は近年ものすごい勢いで出願件数が伸びています。これは、米国と中国に世界中の企業が特許出願をしているからで、その背景には、これら米国と中国のマーケットの大きさがあるのではないかと推測しています。

一方で、上に書いた話は特許出願1件当たりの手数料圧縮を意味しているかもしれません。だとすると辻褄が合わないとも言い切れないです。なぜなら、弁理士に支払われる出願手数料は根拠があるようなないようなものですから、クライアントである企業から手数料圧縮の意向を示された場合、特許事務所として反論することはそう簡単ではないからです。

もし仮に手数料の根拠を示すとなれば、特許技術者1人当たりのタイムチャージを明確にし、出願1件ごとの平均的な所要時間を算出し、さらには特許事務所の間接部門の必要経費を出願1件に割り当てた費用を算出し、これらに基づいて出願明細書毎のあるべき手数料を提示しないといけないわけですが、そこまで合理的な計算ができる特許事務所は少数でしょうし、そもそも特許技術者1人当たりのタイムチャージにどれだけの合理性があるかを証明することが難しいですから、値下げ要求を認めざるを得ない方向に議論が進んでしまう恐れが多々あります。

ちょっと前であれば、特許出願1件当たりの手数料圧縮は出願明細書にかける時間の短縮化につながり、ひいては出願明細書の質の低下を招くから止めた方がいいですとの反論もできたかと思います。その背景には、一定の売上を確保するには特許技術者1人当たりの(例えば1月当たりの)明細書作成件数を多くせざるを得ないという事情があったわけです。しかし、最近は日本全体の特許出願件数が伸び悩んでいますので、作成件数を多くしようにもできる保証はありませんから、手数料圧縮が質の低下に直接的につながるとの議論はしにくくなってきています。

多分、合理的な手数料の根拠は、その特許事務所に雇用されている特許技術者及び間接部門の担当者が一定水準の生活を維持できる人件費を出し、加えて事務所維持のための必要経費を出し、これを、特許技術者が質を低下せずに作成できる出願明細書の件数で割るといったものに落ち着くと思いますが、特許事務所の業務は非常に多岐にわたっていますので、合理的な手数料の算出作業は一特許事務所にとってはものすごい負担になりそうです。

話が少し長くなりましたが、やや強引にまとめると、不景気だからと言って出願経費を切り詰めるのはそんなに簡単な話ではない、ということです。ただ、こういった議論が出る背景として、そもそも出願手数料の合理的な水準を算出することが困難であることがあり、特許事務所としても強気に出にくいところがあるわけです。

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コメント

メーカーによって色々ですね。但し、記事に書いたように、あまり極端な費用削減は後々影響が多いと思うんですが。

某自動車メーカーですが、サンケイの記事は事実です

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