« 不況になると | トップページ | 特許法改正なんでしょうか »

オープンイノベーションを実際に適用するには

ちょっと時間がかかりましたが、「オープンイノベーション 組織を越えたネットワークが成長を加速する」という本を読了しました。この本は、Chesbrough教授が提唱したオープンイノベーションなる概念に呼応して、経営学者がオープンイノベーションに関して記述した多方面の論文を集めた本です。例えば、オープンイノベーションと知的財産、オープンイノベーションとネットワーク理論(理数的な意味ではなく、例えばエコシステムのように複数の企業が連携してイノベーションを実現するという意味です)、オープンイノベーションと国家政策といった内容がちりばめられています。中には、オープンイノベーションとどう言った関係があるのかなぁ、と思うものもありました。

オープンイノベーションについてはこのBLOGでも随分と取り上げて議論をしてきました。垂直統合的R&Dだけに頼っていては、これだけ知識の流動化が激しく、しかもインターネットにより知識そのものがグローバル化、言い換えれば遍在化してきている現代は企業は生き残れないと思い、その意味でオープンイノベーションは時代の必然であると思っています。

しかし、オープンイノベーションを企業のR&D及び知財実務に活かそうと考えると、なかなか一筋縄ではいかないのも事実です。例えば、オープンイノベーションにより社外からイノベーションを導入する場合を考えてみます。従来から研究開発のシーズを外部から導入することは、積極的に行っているかどうかはさておき、ある程度の規模の企業であれば経験があることだと思います。単純に言えば、大学での研究成果に基づいて製品の実用化を行えば、これだってオープンイノベーションなのだと言えなくはありません。今風に言えば産学(官)連携です。

今までこういった研究開発のシーズを外部から導入することが積極的に行われてこなかった理由は幾つかあると思います。私が思いつくままに挙げてみると、①企業が欲する研究開発のシーズを探すのが難しい、②(特に大学の研究において)実用化を前提とした研究の数が少なかった、③社外に存在する研究開発のシーズから実際の製品化へ結びつけるための「死の谷」(最近は「魔の川」「ダーウィンの海」とか細かく分ける人もいるようですが、ここでは総称して)を越える苦労がある、といったところでしょうか。①についてはインターネット環境がこれだけ普及して知識のグローバル化が進みましたので、これは解決しようと思えば解決できそうに思えます。②についても大学や研究所が産学(官)連携に積極的になってきていますので、これも徐々に解決するでしょう。③については、産学連携を推進する際に結構な問題になりますので、簡単には解決できそうにもありません。

企業内においてオープンイノベーションを推進するには様々な問題がありそうです。まずは、社外からイノベーションを導入するに当たって、誰がオープンイノベーションを推進するか、という問題があります。社内の研究者が自身の研究テーマ選定の際に社外からイノベーションを導入するのであれば、これは従来から行われてきていることでしょうし、さしたる問題はなさそうです。一方、製品開発部門が社外からイノベーションを導入する場合、実用化(ここではプロトタイプレベルのことも含めます)に一定の可能性を見いだせるイノベーションでなければ導入を決断することは難しいです。これは、製品を市場に投入するには一定の時間軸内で行う必要があり、いくら優れたイノベーションであっても社内において実用化までに相当の時間がかかるのであれば製品への採用をためらうことがあり得るからです。加えて、製品化が実現できたとしても、その製品を含めたビジネスモデルが確立できるかどうかも判断する必要があるからです。さらに、社外のイノベーションを常時ウォッチングし、適切と思われるイノベーションを社内に紹介し検討する専門の部署を設けることには、費用対効果の観点からまだ企業には抵抗があるように思います。一部の製薬会社のように全く割り切ってしまえばいいのでしょうが。

一方、知財業務から見てオープンイノベーションは、イノベーションを導入する場合は自身が主体となることはそうそうないので、従来から行っているライセンス導入と同様に対応すればいいと思いますが、社内イノベーションを社外に切り離す場合、ちょっとしたジレンマがあります。今までは、社内イノベーションを社外に切り離すときは、例えばスピンオフ企業があればその企業に知的財産をライセンスアウト、あるいは売却すればよかったです。しかし、ここ数年は知的財産の有効活用という観点が強調されていることと、知的財産そのものの流動性が高まってきていることとが相まって、知的財産そのものを(技術とは切り離して)適切な企業に売却することを考える企業が増えてきています。知的財産を買収した企業は、この知的財産を有効活用しないと利益が得られませんから、権利行使によるライセンス料徴収に邁進するわけです。これは、いわゆるパテントトロールを助長するものではないか、という議論も当然あり得ます。事実、Chesbrough教授が「オープンビジネスモデル」で紹介している企業の中にはパテントトロールとして見られている企業も含まれています。当然、売却して権利活用を図るのであれば、それ以前にその企業自身が権利活用をすればいいとの議論はあり得るでしょう。しかし、企業が実業を抱えている限り、権利活用をすれば逆に権利活用をされる危険性を常に孕んでいます。権利活用される危険性を、その知的財産を実業を持たない会社に売却して一定の利益を確保することで切り離す行為は、ある意味で巧妙と言えます。この問題については、トロールの権利活用行為が行き過ぎたものとならないような政策的あるいは法律的な制限を課すといった方法でしか解決できそうもありません。

ちょっと長くなりましたが、簡単にまとめると、オープンイノベーションの流れは必然的とは言え、まだまだ問題を抱えているように思えます。真剣に考えないといけないようです。

« 不況になると | トップページ | 特許法改正なんでしょうか »

企業経営・技術経営」カテゴリの記事

知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

返事がおそくなってすみません。イノベーションのための手段なんですね、知識共有は。

なかなか難しい概念ですね。ご説明ありがとうございました。

誠一さん、こんにちは。

オープンイノベーションとは、Chesbroug教授が自身の言葉で語っているところを引用すると、「知識の流入と流出を自社の目的にかなうように利用して社内イノベーションを加速するとともに、イノベーションの社外活用を促進する市場を拡大すること」です。オープンイノベーションは企業のイノベーションを推進することが目的ですので、単なる知識共有だけでは済まされません。

こんにちは。
オープンイノベーションとは企業の内外に関わらず、開発・研究をおこなう、かつ知識を共有するということでよろしいでしょうか?

初歩すぎてすみません。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 不況になると | トップページ | 特許法改正なんでしょうか »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
フォト
無料ブログはココログ