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2009年2月

インクス倒産!

インクスという会社が民事再生法の適用を申請したそうです。このインクスという会社、ベンチャー業界に少しでも足を突っ込んだことのある人ならば知らない人は絶対いない、有名なベンチャー企業です。私がMOT社会人大学院で学んでいた時に、特別講師としてこのインクスの山田眞二郎社長がおいでになり、山田社長の起業までの経緯とインクスという会社の業務内容のプレゼンを聴いて非常に感銘した覚えがあります。印象に残っているのが、製造業、しかも金型という暗黙知の世界をIT技術により最先端の科学にし、生産性を極限にまで高めることにいち早く取り組み、ローテクと思われている分野にも新事業の余地が残されているのだ、ということでした。

インクスのプレスリリースによると、サブプライムショック以来の自動車産業からの急激な受注減により窮地に陥ったとの印象を受けました。私が講義を聴いた頃は、光造形金型を商品サイクルの早い携帯電話に用いているという話でしたので、それから数年、自社開発の3次元CADを用いて自動車産業に深く入り込んでいく業態に徐々に変化したのでしょう。金型製作であるとか試作品製作はある意味装置産業ですから、いくらIT技術を使っているとは言え、昨今の景気では設備投資が重くのしかかるのは理解できなくはないです。ただ、3次元CADのような分野は設備投資を云々する(ものすごいレベルのコンピュータが必要なのはよくわかっていますが)必要もないので、民事再生法適用の申請の理由になるのかな?という疑問が少し残ります。いずれにしても、一時期コンピューター技術者の一番できる人材が競って入社した会社ですし、人材とその人材が作り上げたシステムは計り知れない財産ですから、一旦債務を整理すればまた順調に成長軌道に乗るものと思っています。

ちなみに、このBLOGですから、お決まりの知財の話を。インクスという会社は特許出願も結構やっているようです。IPDLで検索したら、83件ヒットしました(サカタインクスという別会社がありますので、検索される際にはご注意を)。山田社長が根っからの技術者ですから、新しいことを考えたら特許出願をしていたのでしょう。

発明とのコミュニケーション

本日は2本立てで。

PCの前で仕事を含めて色々作業をしている時間が長いせいもあり、強烈な肩こり持ちです。1回、胸が突然痛くなって医者に行ったら「これは肩こりですねぇ」と笑われて、神経ブロック療法(局所麻酔薬を注射)をされたことがありますcoldsweats01。これ、肩にある神経の近くまで長い注射針を刺すというものすごい怖いことをします。wobbly注射されていて、むしろ緊張感が高まってむしろ肩こりがひどくなってしまいました。ここ数年は、毎月マッサージに通って凝りをほぐしてもらっています。毎回、「肩が固まってますね~」と言われています。一時期は凝りがほぐれた気がするのですが、1週間もすると元の木阿弥です。でも、それでマッサージに通っていたのでは金がかかって仕方ないので、1ヶ月に1回と決めて我慢しています。

今通っているマッサージ屋さんには、10人以上の施術師さんがいます。結構大きいマッサージ屋さんですね。その中でも、私が非常に気に入っている先生がいます。この方のいいところは、毎回マッサージの仕方が微妙に異なり、しかも一番凝っていると思われる部分を集中的にほぐしてくれるので、安心でき、しかも非常に効率的に凝りをほぐしてくれるところです。多分、その先生は、私の体をさすり、もんでいく過程で私の体と様々なコミュニケーションをし、どこが一番凝っているのかを的確に把握し、その把握したことに基づいてマッサージをしているんだろうと思います。気に入っている先生が都合が悪いと他の先生に任すことがありますが、私が「肩と首が凝っています」と訴えても、肩と首をマッサージする時間が中途半端で、他の腰や足も均等にマッサージするので欲求不満なまま終わることがあります。この先生は、多分、患者さんの体とコミュニケーションしてどこが悪いのかを把握する力が今ひとつなのでは、と思います。

弁理士という職業も、発明者から得られる情報を元に、発明の卵とコミュニケーションをして従来技術との対比をし、その中から発明の本質(技術的特徴、と言ったほうが正確かも)を抽出することが求められていると思います。その際には、予備知識等にとらわれずに発明の卵と真摯にかつ虚心坦懐に向かい合い、その言わんとするところを細大漏らさず聴く姿勢が大事なのでは、と思っています。これは、簡単そうでかなり大変な作業です。一番大切なことは発明の本質を把握する力で、これは訓練しても習得できない場合があります。一種のセンスなのかもしれません。ただ、センスがあっても驕った態度を取っていると誤った把握をしてしまうこともあります。発明を的確に把握するのは真面目だけでも到達できないのですが、真面目に取り組まないと絶対に到達できない、難しいところです。

事務所長会議に思う

本日は雑多なお話を。

昨日、会社で産業財産権(ってことは特許だけではないと言うこと)の出願代理をお願いしている先生方をお呼びして、昨年度お世話になった感謝を申し述べるとともに来年度1年間の会社としての方針をご説明する事務所長会議が開催されました。

この中で、代理人としての事例紹介で、請求項の主従関係と対応する図番その他を記載した表を出願の際に納入していただいている特許事務所の所長先生がそのメリットを紹介する講演がありました。また、1年間の会社取り扱い案件の現況をExcelのシートにまとめたものを納入した事務所もあったとの紹介がありました。これらは、いずれも「いい明細書を書く」という姿勢以上の提案型の取り組みと言えます。愚直に「権利行使に強い明細書」を目指すというのも一つの形ですが、こういった様々なアイデアを元にどこにもないサービスを提供するというのも一つの形だなぁ、と感心しました。

次に、1年間の代理案件の質や発明者との打ち合わせの際の姿勢等を考慮して、会社から幾つかの特許事務所及び担当された先生を表彰しました。その中で、担当された先生の表彰理由として、超特急案件であっても迅速に対応していただき、しかも高品質の明細書を記載していただいたことが挙げられていました。確かに、会社からすると、無理難題に答えていただき感謝します、というのはわからないでもないのですが、一方で、様々な事情があるにしても超特急案件(打ち合わせ当日の出願もあったそうです)というのは本来避けるべきものであって、これを理由に表彰したのでは、他の特許事務所にも同じことを期待していますという間違ったメッセージを与えかねないな、と思っていました。確かに、様々な事情により超特急案件は不可避的に出現しますが、超特急案件は事務所にとって、また、担当された先生にとって非常にきつい案件で、ともすると通常案件に比較して品質の低下を招く恐れが高いです。ですから、会社の特許担当者としてはある意味超特急案件は禁じ手であり、これを乱発すると後々自分の首を絞めかねません。このあたりをわかった上での表彰であればいいのですが…。

スペシャリストとしての復活を目指す

風邪をまた引いてしまい、ちょっとBLOGの更新が滞ってしまいました。まだ風邪が治っていませんが、ちょっとだけ思ったことを書き記します。

こんな記事がありました。「スペシャリストに襲いかかった受難の時代!?」この記事では、スペシャリストの細分化とそれに伴う弊害(言葉は悪いですが「専門バカ」ということです)が記されていて、これからは、色々なことを経験した上でのスペシャリストが期待されている、ということが述べられています。

確かに、技術が多様になることでスペシャリストと呼ばれる人々は非常に細分化された技術領域に特化せざるを得ず、これが横の連携を妨げる要因になっているように感じます。また、細分化された技術領域のスペシャリストは、その細分化された技術領域でしか通用せず、激動化した現代においてパラダイムシフトが生じればたちまち行き場を失ってしまいます。このあたり、MOTの必要性でも種々論じられたところです。

振り返って、弁理士はスペシャリストなのだろうか、という疑問が生じました。確かに、弁理士は産業財産権法のスペシャリストたるべきです。しかし、知的財産という分野は技術と法律の交叉する範囲にあることが特色で、その意味で技術と法律の相互を自由に行き来することができる広い見識を持ったスペシャリストであることが求められているように思います。

では、今の自分のことを考えると…ちょっと最近経営学やイノベーション論に偏りすぎてジェネラリスト指向になったきらいがありますね。知財部門の末端にいる自分の身では、いくら企業の行く末をあれこれ考えても経営にも事業にもタッチできないですから、あまり考えても実になりません。貴重な経験はたくさんさせてもらいましたので、上の記事に書いてあるようなスペシャリストに戻ることをこれから考えたいと思います。とは言え、このBLOGでは、今まで通り知財に限らず色々なことを縦横無尽に書き連ねる予定ではいます。

iPodのマルチタッチUI特許は…

本日も、特許担当者がそれを言っちゃおしまいよ、という話を手短に。

AppleがマルチタッチUIに関する特許を取得したというニュースがちょっと前に報道されていました。このニュースに書いてある米国特許番号の特許公報をちらっと見てみたところ、請求項は20、第1クレームは見たところマルチタッチUIの本質部分というよりもあるfeatureをクレームした、という感じがしています。この特許が取れたことに関連してかどうかわかりませんが、Apple社はiPhoneに関する特許の権利行使をにおわせる発言をしているようです(参考記事)。

確かに、マルチタッチUIについてはiPhoneやiPodに搭載してAppleは大成功を収めていると言って過言ではないと思いますが、果たしてマルチタッチUI全体に関する特許を取得できたかどうか、疑問が生じます。自分の記憶では、マルチタッチUIそのものはiPod(あるいは遡ってMacBook)に搭載されたのが初めてではなく、タッチスクリーン技術もかなりの歴史を持っていると思っています。

そう考えると、Appleが市場から排除できるのはせいぜいiPhoneのコピー商品、最大限考えてiPhoneに搭載されているマルチタッチUIをまるごとコピーした商品に限定されるのではないでしょうか。競業他社は、iPhoneのマルチタッチUI及び関連特許を調査した上でタッチパネル搭載携帯電話を販売しているでしょうから、iPhoneとは違ったジェスチャーになることで若干の違和感はある製品になるにしても、簡単に特許権によりこれら商品を市場から排除する、あるいは市場投入を遅らせることは難しそうに思います。加えて、タッチパネル搭載携帯電話を製造しているSamsung(ソニーエリクソンはタッチパネル搭載携帯電話のプロトタイプを発表したようですね)などのメーカーは大手電機メーカーでもあり、仮にAppleが特許権の権利行使をにおわせたら反訴の嵐になるでしょう。また、ノキアの場合は携帯電話の特許で同じように反訴の嵐になる可能性があります。

しかし、この話、一特許担当者としてはちょっと悲しい思いがします。つまり、苦労してマルチタッチUIの特許を取って市場をコントロールしようと思っても簡単には事が進まない、ということです。そうは言っても、特許によりジェスチャーの模倣品の排除はできない相談ではないので、特許が少しでもビジネスの進展を優位に進める道具になりそうだ、とは言えるように思います。それくらいの貢献がないと、特許担当者として浮かばれません。weep

アイデアがありません

時々、知財実務をしていると無力感に襲われることがあります。それは、自分を含めた知財部門が行っている知財実務がどれだけ会社の経営に貢献しているかを考えると、あまり胸を張って言えないな、と思うからです。

まず、苦労して特許権を取得して権利活用をしても、人件費を含めたコストの安い国で大量に製品が製造されることであっという間に製品そのものがコモディティ化してしまう。ライセンス料を上乗せしてもコスト構造に大きな影響が及ぶわけもなく、先行者利益を享受することなく安売り合戦に突入してしまいます。特許権があるからと言って参入障壁にもならず、市場競争力を維持することも難しいです。果ては、国家ぐるみで特許料の踏み倒しをしてくるような事態まで。

上に書いたような話は標準化に係る特許に多く生じます。では、それ以外はどうかと言えば、やはり特許権は参入障壁になりずらく、市場競争力を維持することも難しいです。それは、偏に権利活用の難しさにあります。同業他社を訴えようとしても、かなりの確率で包括クロスライセンスを締結していますから訴えることもならず、また、包括クロスライセンスを締結していない相手に対しても、こちらから訴えれば相手からも当然反訴が来る。完璧な泥仕合状態で結果的に白黒付くまで訴訟を継続するのは金銭的にもヒューマンリソースの観点からも難しいです。こうなると、落ち着くところは結局包括クロスライセンスによる和解になります。では、新規参入者に対してはどうか。新規参入者が最初から特段の技術を持って参入するのは、こと電機業界では結構難しいです。そうなると、新規参入者は枯れた技術を使って価格競争を仕掛けてきますから、こういった新規参入者に対して特許権を持って参入を阻止する、あるいは参入をできるだけ遅らせるのは相当難しい。当然、持てる特許権を総動員して戦いを仕掛けますが。

そうは言っても、では権利形成活動を全くしなければ同業他社の思うつぼかもしれないので、やはり相応のコストを承知の上で権利形成活動は継続しなければなりません。よく、日本は出願件数を追うばかりで質のよい特許権を取得できていないとの論がありますが、実務上はそういった議論はかなり前からしており、出願件数は既に相当絞った状態にあるものと理解しています。また、件数の多少が特許の質につながるかどうか、という根本の議論もあります。特許の質をどういった定義でするかにもよります(大抵の場合、非常に曖昧な定義しかできていないです)。ですから、不況という逆風はあるので絞り込みはある程度あるものの、drasticに権利形成活動を変えるという考えは難しいでしょう。

と言うことで、何だか現状維持的な結論に落ち着いてしまいますが、現状はなかなか知恵が回らずにいる、ということだと思います。

特許事務所は不況知らずか

以前の記事で、不況だと企業から特許事務所に転職する人が増えそうだという話をしました。で、現実にパテントサロンの求人記事や弁理士会の求人情報を見ても、未だに(一部かもしれませんが)特許事務所の求人意欲は衰えていないように見えます。そんな中、期末に仕事がたくさん来て大変だ、という嬉しい悲鳴を上げているBLOGの記事を見ました。これを、ある種の優越感を持った感想と捉えるか、単純に不況下で仕事がたくさん来るなんて嬉しいという感想と捉えるか、記事からでは読み取れないところですが、将来は予測できないので何とも言えない、というのが自分の正直な感想です。

現在人手不足で忙しいという特許事務所の現況を分析すると、幾つかのことが予想されます。一つは、企業の中には未だに発明者に対してノルマ制を課しているところがあり、ノルマは年度単位でカウントしますので、期末にかけてとんでもない数の提案書の波が来ることが往々にしてあります。期末集中と呼ぶことがあります。この、期末集中の影響を受けて忙しいというのが一つの理由。次に、特許事務所を経営するに当たって、どの程度の件数を無理なく処理できるかを考えて人員計画を立てているかによって忙しさが違ってきます。余剰人員を抱えたくないという心理は特許事務所の経営者として納得のゆくところですから、受件数の谷に合わせて弁理士なり補助員を雇用することはあり得るでしょう。少なくとも、受件数の山に合わせて雇用することは考えにくいです。こうなると、期末集中が来れば人手不足で忙しいというという現象は納得できます。もう一つ、これはその特許事務所にとって喜ばしい場合。同じクライアントを持つ他の事務所はそれほど案件を抱えていないけど、その特許事務所は案件をたくさん受件することができたので忙しいということ。クライアントがどの特許事務所に案件を依頼するかというのは、基本的にはその特許事務所を信頼しているかどうかで決まりますが、他にも幾つか要因があります。偶々、あるいは日頃の努力が実って受件数が多いことも考えられます。

さて、期末集中を過ぎて新年度を迎えたら、企業の知財部門はただいま新年度の出願計画を必死に練っている、あるいはもう計画を立て終わったところだろうと思います。年度途中での大幅な費用削減はなかなか難しいですが、新年度になれば大幅な費用削減、そしてそれに伴う出願件数の大幅な削減があり得ます。期末集中は一時期的な現象ですから、年度が替わった途端に一気に受件数が減少することも考えられます。同じクライアントを持つ複数の特許事務所で一律に受件数が減少するのか、あるいは、減少率が異なるのか、厳しい場合は幾つかの特許事務所は新規案件の取り扱いを中止させられるのか(取引事務所の削減というのも結構なコストダウンになるのです)は個々の企業により事情が違うので一律には言えません。ですから、この期末集中を超えたらどうなるか、というのは、何とも言えないという結論になります。

ただ…事務所間の選別というか差別化という議論は、弁理士業界では随分前から話題になり議論をされているのですが、現実に「勝ち組」「負け組」事務所が明確になったかというとそんな感じはしません。ここ数年、日本全体の特許出願件数が横ばい状態にあるのでパイの取り合いで苦労しているわけでもないのでしょうか。ここ1~2年は業界に関係なく出願件数は一気に減少し、これが元の件数にまで復活するにはそれなりの年数がかかりそうですので(もしかしたら元に戻らないかもしれません)、今度こそは事務所間の選別がされるかもしれません。まあ、特許事務所業界は流動の激しいところですので、忙しい事務所に人材が移動する、だけかもしれませんが。

職人か中小企業の社長か

弁理士を志望する人の動機をざくっと大別すると、手に職を付けたいという人と独立したいという人とがいると思います(両方の動機の人も当然います)。手に職を付けたいという人の場合、これも大まかに言えば職人気質の人とも言えます。独立したいという人の場合、中小企業の社長っぽい人だとも言えます。言い換えれば、人の下につくよりは小規模であっても自分らしい生き方を追求する人と言うことです。

職人気質の弁理士の場合、往々にして専門性を追求するあまり他人とのコミュニケーション能力にちょっと疑問符がつくことがあり、クライアントたる企業からすると安心して仕事は任せられるものの、とっつきにくさが見えてしまうことがあります(当然、企業からすれば出願代理能力が高ければ文句ないのですが)。一方、中小企業の社長的弁理士の場合、ある意味弁が立ってクライアントの希望を鋭く見抜いてくれるため、付き合っていて安心感はありますが、さて、実務能力はどうだろう、という場合も出てきます。当然、職人気質で出願代理をしてくれて弁も立つ弁理士がいれば万々歳ですが、なかなかそういった弁理士はいません。

自分が特許事務所に勤めていた頃、クライアント企業の中に全般的に宴会好きな会社があって、発明者との打ち合わせをすると必ず帰りがけに宴席に誘われていました。そんなある時、宴席でクライアントの担当者に「○○さんは先生ぽくもないけど付き合いがいいからいいですね」という趣旨のことを言われました。かみ砕いて言うと、不遜な態度もなく、かといってへりくだることもなく、ということなんだろうと思います。その頃考えていたのは、クライアントの特許担当者も特許事務所の所員も、ある発明を媒介して運命共同体になる、ということで、発明の前ではクライアントが偉いという訳ではなく、当然、弁理士が偉い訳でもない、ということでした。弁理士は産業財産権法及び特許庁に対する手続の専門家であり、知識なり実務能力に優れたところがあるかもしれませんが、それを偉ぶる訳ではなく、発明を権利化する作業にぶつけてナンボ、ということです。難しいことを難しく言うのは専門家ではなく、難しいことを的確に実行することが専門家として大切だと思うのです。

この考えは、クライアントの特許担当者に立場が変わっても同じでした。やはり、平凡なんですが、実務能力に長けた特許事務所は高い評価を得ます。ただ、あまり職人気質に走ると、発明者とのコミュニケーションに問題を生じますので、「外向的な職人」といったところが目指すべき像でしょうか。私も、運命共同体と信じてお願いした弁理士先生にいろいろといい仕事をしてもらい、助けてもらいました。もし、再度特許事務所に戻ることがあったら、やはり運命共同体と思ってもらえるような代理人になりたいと思っています。

不況だと特許業界は

不況です。優良企業と言われた日本の自動車・電機メーカーが軒並み08年度の収支見込みを経常損失○○億円と発表しています。こんなご時世になると、各社は数年前にさんざん行ったであろうリストラを再開しますし、将来を見限って自分で退社という判断をする人も(非常に少数派でしょうが)出てくるでしょう。

以前、私が特許事務所に勤務していた経験からすると、特許事務所はこういった企業から退社したエンジニアの人材の受け皿になることが多いです。私が特許業界に入った20年ほど前も円高不況でエンジニアの方が多数特許業界に入ってきました。実際、不況下でありながら特許事務所の求人記事は未だ多数見ます(例えばパテントサロンの求人記事とか)。しかし、このご時世、出願件数を絞ろうとする企業が結構あるにもかかわらず、特許事務所の求人は強気のように思えます。考えようによっては、今のご時世だから優秀な人材が容易に確保できる千載一遇のチャンスとも言えますので、例え新たに人材を雇用することで一時期的に事務所経営としては苦しい時を迎えますが、後日それ以上の利益をもたらしてくれるであろうとの考え方に基づく行動とも理解できます。ただ単に今仕事がいっぱいあるから求人している、というのだとどうかな?と思いますけど。

長期的に見ると、日本への特許出願件数はここ数年横ばい状態です。弁理士の数も、一頃より増加傾向は鈍っているとは言え、500~600名ずつ毎年増えています。こう考えると、特許事務所に勤務して将来弁理士を目指す、そして弁理士として特許業界で活躍するにも段々とハードルが高くなってきているように思えます。こういった時、差別化できる「売り」として語学を挙げる人が少なからずいますが、日本にいる限り特許事務所が外国案件をハンドルできる範囲は単なるつなぎ役+α程度ですし、クライアントが直接海外代理人とコンタクトし始めたら特許事務所はお役ご免ですから、個人的には語学はあんまり「売り」ではないように思います。むしろ、弁理士の本分である権利形成業務に磨きをかける、つまり、権利行使に強い権利を取得する業務に強みを見つける方がいいように思っています。

当事者だけが知りうること

特許権を初めとする産業財産権に関する訴訟を報道する場合、あるいは第三者が批評する場合、至極当然のことですが、公表された事実(判決文でもプレス発表文でも)に基づいて様々なことが議論されます。しかし、訴訟に至る過程における社内事情であるとか、実は公表された事実を理解するために本来不可欠な情報というのは、よほどのことがない限り公表されることはありません。このため、第三者の報道なり批評が、実は的外れなことを議論しているということも出てきます。実際、前の会社で音楽ゲーム特許の訴訟を担当してきて、マスコミには随分とあさってのことでいじめられました。

判例を勉強する場合も、判決文の全文を読んで事実関係を理解する人が大半で、甲・乙号証という事実関係を認定するための証拠まで取り寄せて(HPで公開してないですからね)全体像を理解する人はごく少数でしょう。時間がないと、○○百選に書いてある内容を読んで理解したつもりになってしまいます。しかし、法律を学んだことがある人であれば理解していただけると思うのですが、判決文の判示事項は時に事実関係に引っ張られて書かれていますので、事実関係(そしてその背後にある当事者間の事情)を加味して判示事項を理解しないといけないと思っています。時に、判示事項のみを極端に一般化して議論する記事を見かけると、ちょっとやりすぎではないかな、と思ってしまいます。

当然、判決文での判示事項は、米英法ほどではないにしても、後の類似事件に対する一つの基準を示すことになり、当該事件にのみ拘束される訳ではありません。裁判官もその点を意識して判決文を書いているはずです。とは言え、判決文の判示事項が一般に適用される範囲がどこまでか、というのは、その事件の事実関係を詳細に吟味しないとわからないものだと思います。

ちょっと話を戻して、訴訟事件に関する報道・批評というのも、報道・批評する人がどこまで事実関係を知りうるかという範囲を考慮して、ある程度自重して欲しいと思うことがあります。そういった反省も含めて、私はこのBLOGではあまり訴訟関係の記事は書かないようにしていますし、書くとしてもできるだけ一方の当事者に加担しないような姿勢にとどめておきたいと思っています。

高機能・高価格路線、それとも低価格路線?(その4)

今日は、あちこち話題が飛びます。最初にお断りを。

今日(2/4)のNHKクローズアップ現代で、超低価格PCを話題にして、日本電機メーカーの高機能、高品質路線の行き詰まりを紹介していました。確かに、超低価格PCは高機能ではないでしょうが、高機能、高品質路線へのアンチテーゼと言うよりは、以前私が記事で書いたように破壊的イノベーションの好例として考えた方がすっきりする気がしています。ただ、番組では、富士通の技術者やマーケティングの責任者の方が「うちではこの価格では作れない」「品質は落とせない」と述べていたので、まあ、大きく言えば高機能、高品質路線の行き詰まりと言っていいのでしょう。番組のコメンテーター(アスキー総研の遠藤諭さん)は、現状打開の方策として突出した機能(ビジネスモデルを含む)を有する商品の開発を提案されていて、例えばAppleのiPodという話をしていました。iPodが成功したのは機能が突出していたばかりではないのだと思いますが(いずれまとめてお話ししたいと思いつつ、結構でかい話題なのでまとめきれていません)、確かに突出した(どこかのCMの言葉を借りれば「ぶっちぎった」)商品の開発は必要でしょう。とは言え、簡単ではないのですよね。

超低価格PCで思い出したのが、ソニーがVAIO type Pってのを今年から発売しています。CPUにAtomを使ったり、ハードディスク容量がそんなに大きくなかったり、何よりかなり小さい(往年の名機C1くらい)ので、超低価格PCのカテゴリーに入れていいと思っています。そうは言っても実売価格が超低価格PCと言えない範囲ではありますが。ただ、世の中はそうは思っていない人がいるようで、買ってすぐに動作がもっさりしているのに激怒して中古市場に売りに来た人がいるそうな。う~ん、もっと調査しておけばよかったんですけどね。このtype Pなんかは、超低価格PCとはいえ独自路線を徹底追求しているので価格競争に巻き込まれる可能性が低そうです。そもそも、開発開始はEEEPcが出る前だそうですから。

あと余談で。昨日紹介した日経産業新聞の薄型テレビに関する記事の続きで、これから薄型テレビが進む方向はネットワーク親和性であるということが書かれていました。やはりそうなるんでしょうね。ただ、記事ではネットワーク親和性を高めることはパソコンとの類似性を高めることであり、マイクロソフトも同じことを考えているのでどうなるか、という論調でした。これって、液晶テレビを作っている会社はほとんどパソコンも作っているので、実は新聞記事で言われるまでもなく十分承知している話のように思います。パソコン専業メーカーもパソコンのAV化を何年も前から進めているわけですし。当然、PC側とテレビ側の進む方向は似てくるでしょう。そうなった時の差異化部分はお互いに考えているものと期待しています。

高機能・高価格路線、それとも低価格路線?(その3)

今日はちょっとショッキングな新聞記事を見ました。本日の日経産業新聞でVizioの躍進が特集されていて、その中で、ここ1~2年の間に日本や韓国の家電メーカーが新規フィーチャーとして搭載してきた4倍速液晶、省エネなどの機能を搭載した液晶テレビをVizioが発売するとのこと(すいません、リンクは見つかりませんでした)。これら機能は、日本・韓国の家電メーカーがそれなりの年月をかけて開発してきたものゆえ、Vizioはどうやってキャッチアップできたのか不思議でなりません。そして、これら機能は、低価格路線を追求しているVizioとの明らかな差異化ポイントとして導入されたでしょうから、これからどうやってVizioを突き放すかという新たな戦略を考えないといけないことになります。日経ビジネスの最新号に書いてあった(と記憶しています)ように、薄型テレビも急速なコモディティ化に突入しているようです。

商品の差異化という観点で考えると、現在考えられるのは、HDDレコーダー等の周辺機器とのリンク、ネットワークとの親和性(IPTVなど)といったところですが、正直言ってこれらの差異化ポイントは一定以上の購買力を有する階層向けのもので、CRTテレビのリプレース需要、及びデジタルテレビへのリプレース需要に対応したものとは言えません。真っ向からVizioと価格勝負を挑む必要性があるように思います。ただ、急激なコモディティ化は、DVDプレーヤーの例に見るように、需要が一巡した時点で安売りメーカーが急速に体力を失うことが往々にして考えられるので、Vizio側も数年後には機能勝負合戦に参加せざるを得ない可能性もあります。

こんな時、知財として何ができるか、前も書きましたが本当に悩みます。DVDプレーヤーを製造していた中国メーカーはDVD関連の特許料を価格に転嫁できずに先細りしてしまいましたが、Vizioが同様の道を歩む保証はどこにもありません。4倍速液晶、省エネ技術は技術標準化されているわけではないので、特許の網にかかる可能性も高くありません。とは言え、差異化技術の権利化は地道に行う必要があります。

まあ、あんまり暗いことを考えても仕方ないので、コストパフォーマンスの良い商品をタイミング良く供給するという王道を歩むしかないのだと思います。知財としては、その方針をサポートできるようにしたいものです。

走りながら考える

会社の社風というものが、別に社是とかで規定されているわけでもなく、あるように思っています。今自分が所属する会社は、外部からは非常に自由闊達と思われているようですが、内部にいる人間としては、会社の規模が半端なくでかいので、やはり大型タンカーに乗っているように安心である一面あちこちに気を配りすぎてのろのろと動いているようにも思えます。私が以前所属した会社は、東証一部上場とはいえ1000人程度の従業員で、創業時のオーナーが依然として社長をしていた関係で、「走りながら考える」という傾向が強かったです。自分も結構考えるよりも行動してしまう傾向にあるので(この間臨床心理士さんに分析してもらったら同じことを言われましたcoldsweats01)、色々と問題はあったものの気持ちよく過ごすことができました。なので、転職して今の会社に勤めてからは、結構ブレーキをかけながら行動する傾向にあります。

知的財産実務というのは、権利形成であれ訴訟であれ、実は一旦進んでしまうと簡単に後戻りできず、取り返しのつかないことになることが多いです。ですから、どちらかというとあちこちに保険をかけながら慎重に対応することになります。走りながら考える自分がよくそういった慎重な対応が必要とされる知財業務に長年従事しているなぁ、と今更ながら思いますが、大きなミスもなく過ごせてきたのは周囲のサポートのおかげかもしれません。

ただ、この激動の時代の中で、あんまりのんびり慎重に対応しているのも時代遅れになってしまう気もしています。この当たり、内部からどう変えるのかというのはなかなか難しい問題です。

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