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「知財経営」という言葉(またまた)

土生さんがこの間の知財戦略コンサルティングシンポジウム2009で話された基調講演の抜粋がWebに掲載されました。これを見て、どうも知財部門に所属されると思われる方がご自分のBLOGでちょっと否定的な記事を書かれていました。

私はシンポジウムの前半は外せない所用があって参加できず、従って、土生さんの基調講演は聴けずじまいだったのですが、日頃の土生さんの発言などから推測するに、「知的財産で経営課題を解決する」という直裁的なことではなく、土生さんの講演の要点は、「経営課題を起点に知財戦略を立案する」ということであって、知的財産で経営課題を全て解決できるとは土生さんは到底思っていないのだと思っています。

この記事にあるように、「知財経営」という言葉に対して若干の抵抗感を持っていられる方はいらっしゃるようです。先のシンポジウムの後のネットワークパーティーで、弁理士の同期合格者で受験仲間である人物が「知財経営って何?そんなの教えてもらってないよね?」と私に聞いてきました。

思うに、そもそも知的財産自体を経営と分離して考えるべきでないし、知的財産を巧みに活用して経営を有利に進めた企業なり経営者というのは結構昔からいるので、個人的には知財経営という言葉は決して新しい概念ではなく、最近脚光を浴びてきているだけだろうと思っているのです。

そもそも、知財経営という言葉が叫ばれてきたのが、日本という国が技術先進国になりながら(特にエレクトロニクス産業で)営業利益率がかなり低くなり、しかも、韓国・台湾(最近は中国を入れるべきですね)の追い上げを許して市場占有率も一気に下落傾向にあり(その理由を全て知財のせいにするのは非常にずるい話ですし、個別の市場毎に市場占有率が下落した理由も違うので、これを一緒くたにして議論するのもよくないんですが)、日本の産業競争力の低下が見過ごせない状態になっている、ならば、先端技術を知的財産で保護して産業競争力の向上を図ろう、だから知財立国だ、という議論をベースにしています。しかし、私が思うに、日本の産業競争力の低下傾向は、市場のグローバル化、韓国・台湾が国を挙げた産業振興策を取ることで急激にキャッチアップしてきたこと(これに、EMS等の製造業のアウトソーシング、オフショアリングを入れておきます)、加えて、製品のデジタル化、ネットワーク化の結果生じたモジュール化による急激なコモディティ化などを原因とする産業構造そのものの大変革(パラダイム・シフトという言葉がはやりましたね)が理由だと思っています。

知的財産を大切にする会社は、その時その時の産業構造に応じて知的財産戦略を変え、事業に貢献してきました。この貢献の度合いというのはなかなか外から見えづらいので認識されることが少ないのですが。確かに、常に成功してきたわけではないので、後から考えると「こうすればよかった」ということはあります。産業の最先端にある企業は、常に課題を認識し、不備な点を修正して知的財産でどうやって事業課題に対応できるかを考えて戦略を練っています。従って、かなりの会社は過去から不断に知財経営を実践してきたと言えるのです。

不幸なのが、知的財産戦略本部が策定した知的財産計画により知財経営が声高に叫ばれるようになったことをきっかけに、知財経営の本質が理解されずに「知財経営」という言葉だけが脚光を浴びてきていることだと思うのです。経営者にとって、自身の事業の継続・発展を真剣に考えるならば、知財経営の意味するところは十分理解できるものだと思います。しかし、過去数年の傾向を考えると、知的財産の存在だけがクローズアップされてあたかも知財バブル的な取り扱いをされていたように思えます。知財経営という言葉も、知的財産が魔法の杖かのように言われ、知的財産で経営課題をうまく解決できるかの印象があったように思えます。しかし、上に書いたように、そうではなく、どんな場合でも事業課題が先にありきで、知的財産はそれをどのように解決できるかということを考えながら取得→保護→活用を考えなければいけない、ということなのです。

…と書くと、やはり文章だけで説明するのは難しいのだなぁ、としみじみ思ってしまいました。

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

アマサイさんご本人からコメントをいただけるとはありがたいです。

土生さんもコメントされているように、マスコミは時に煽動的かつ直裁的な書き方をして、発言者の意図と異なることを書いてしまいます。このあたりは、土生さんがきちんとコメントで真意を書かれていますし、ブログというごく小さな言論ではあってもきちんと声を上げていく必要があるかと思っています。

知財経営という言葉が先行することで一番苦労しているのが現場の知財部門だと思っています。経営者は時に甘言に踊らされて部下である知財部門に無理難題をふっかけがちです。最近、やっと知財経営という言葉がバブリーである、メッキがはげかけていることが判明してきているのだと思うのですが…。

土生さん、徒然知財時々日記家主さん、こんにちは。

抜粋記事で批判的に書いてごめんなさい。
私は、知財経営という言葉ばかり一人歩きしていることに危惧をいただいています。
企業の知財活動とは、技術者(社員)とのブレーンストーミング、調査、出願の際の特許事務所との打ち合わせ、権利運用など(特許、意匠、商標限定になっていますが、例えばです)それぞれの地道な事で成り立っています。それをあたかも、「経営」とか「戦略」とか魔法の言葉で一気に効率化に結びつくように言われているように思うのです。

『知的財産で経営課題を全て解決できるとは土生さんは到底思っていないのだと思っています。』
もちろん、そういうお話ではないとは思っています。でも、報道側は、それに近いニュアンスで書きたがるでしょうね。

実務家の立場としては、あのような記事を、素晴らしい、と書くわけにはいきません。知財経営を短絡的に考えている人に、アンチテーゼとして、書いているつもりです。

もっとも、本気で経営を考えている人は、土生さんの意図を正確に読み取り実践し、言葉に流される人は、何事もうわつっらしかみないので、私みたいな小者が意見を発しても対してかわらないとは思いますが。

『結局は最後の二文が言いたいことのようなので・』
ははは。。。失礼なのは承知ですが、私のブログのカラーなので勘弁してやってください。

当ブログでは、コメント覧は閉じていますが、掲示板を併設しています。「勝手に誤読して意見をまき散らすな」というご意見も受け止めますので、宜しかったら、書き込んでください(必要であれば、ブログ本体にも反映します)。

土生さん、こんにちは。

土生さんが言われていることを外さずに述べられたようで良かったです。記事に書いたように、実際には聞いていない講演なので、的外れのことを書いたらどうしようと思っていたので。

知財活動という言葉はまさにそのままの言葉(確かにちょっとベタかも(苦笑))ですね。私も知財経営という言葉を自分の考えを述べるときにあまり使わないのですが、注意をしたいと思います。

ある弁理士さん、こんにちは。

知財経営という言葉、知財のことを知らない人ほどその甘い響きに虜になって使いたがるように思っています。知的財産戦略本部の知財戦略計画が結構バラ色のことを述べたように見えるからでしょうか。

事業を離れて知的財産を考えると時に外れたことを考えてしまいがちだと思っています。事業にどう貢献できるのか、自戒の念をこめて活動をしていきたいと思っています。

不良社員さん、
こんばんは。適切な解説をいただき、有難うございます。まさに書いていただいたとおり、講演の趣旨は「『知財の課題』(=出願を増やす、強い権利をとる、知財マインドを高めるetc.)を解決することだけに囚われず、『経営課題』を意識して知財活動をやらないと、経営が期待する成果はあげられない」というものです。知財Awarenessの記事は、あの長さだと本来の趣旨が伝わらないのは、まぁやむを得ないところです。ご指摘のブログは、私も発見して「それは誤解だ」と一言いいたくなりましたが、結局は最後の二文が言いたいことのようなので・・・こういう人種差別系の批判は結構あるんですよね(笑)。
「知財経営」の言葉は、知財活動の効果をちょっと過大評価したようにも受け取られかねないので、私もここのところ殆ど使っていません(因みに、この講演のレジュメには一度も出てこないし、一言も言っていないはずです)。最近よく使うのが「知財活動」の語で(∵この語のほうがベタベタの日常業務と結び付きやすい)、「知財活動でどうやって事業(or経営)に成果を上げるか」というのが専らのテーマです。

仰りたいこと、よく分かります。「知財経営」という言葉が「知財を中心にした経営」という誤った解釈で使われた弊害なのだと思います。本来は「事業(経営)に即した知財活動」を意味しているにすぎないのあって、言葉としては『経営サポート知財活動』とした方がスッキリするような気がします。

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