« 「特許の壁を壊せ」?? | トップページ | 明細書作成能力→発明創出→知財コンサル? »

「日本の電機産業に未来はあるのか」

日本の電機産業に未来はあるのか」という本を読みました。著者は長年シンクタンクで電機業界のアナリストを務め、現在はファンドを立ち上げているとともに東京理科大のMOTで非常勤講師としてエレクトロニクス産業論について講義をしているそうです。

さて、感想としては…日頃からシンクタンクなり証券会社のアナリストレポートを見てぷんぷん腹を立てている私としては、あまり気持ちの良いものではありませんでした。企業の中にいると、自分が所属している会社に関する外部測定可能な情報を駆使して書かれたアナリストレポートは、どうも会社の実態を正確に表していないな、と思えてきます。企業という実体は、多数の生身の人間が日々膨大な情報に接しながら時々刻々と変化する状況に対応すべく判断を重ね、その結果が経営活動として外部に計測可能な状態になるので、外部からは合理的でないと思われる判断であっても、実は内部の人間のみ知ることの可能な情報等を勘案するとそれ相応の合理性があり、中期的観点からすると遠回りに見えても正しかったということが結構あります。

例えば、PC事業について、これだけコモディティ化、モジュール化が進むと自社製造(子会社も含みます)のメリットは全くないとの議論が結構あります。しかし、自社製造には商品企画→商品開発→製造に至る過程を非常に短時間に行え、また、在庫調整もEMSを使うよりも素早く対応できるというメリットがあります。何よりも自社製造で十分な利益が出るのであればEMS等を使う必要はありません。こういったことは、アナリストに説明する場合は事業単位の収益をせいぜい説明できるだけでしょうし、質問があった場合にも「自社製造で十分な競争力があると考えています」と回答するに止まるでしょう。

それから、産業論を説明する際に産業全体の変化を正確に捉え切れていない気がしました。デジタル化がキーワードとして挙げられているのですが、デジタル化で何が起こっているのかの考察がちょっと浅いな、と思えました。このあたりは、イノベーション論の知識が足らないのかな(破壊的イノベーションであるとかモジュール化とか)と思えてきます。電機業界で何が起こっているのかを知るためには必須の知識だと思うのですが。

いずれにせよ、アナリストという人種はこういった思考回路をしているのだということがよく理解できました。まぁ、情報の非対称性という議論をするまでもなく、会社の実情を株主を始めとする市場関係者に正確に理解していただくために、できるだけ担当者は情報提供に努めているのだと(私が担当者の活動を脇で見ている限りは)思っていますが、それにも限界があるのでなかなか難しいです。

余談で2つほど。特許戦略の巧拙を米国特許登録件数の多寡で判断しているような記載があったのはいただけません。件数で評価するのは分かり易いのですが、当たり前ですが特許戦略は登録件数だけではありません。それから、R&D力を研究開発費と研究開発人数で見ていますが、これも何となく上辺だけを見ている気がします。確かに、イノベーション論の研究者の中でも長年にわたってR&Dの定量的評価を研究していて、なかなか決め手となる手法がなさそうなのですが、人数が多ければR&D力が強いのかというと、これも当たり前ですがそんなことはありません。しかも、研究開発人数を過去の新卒エンジニア採用数の積み上げで推測している部分があるようで、ご存じの方はよくおわかりの通り、エンジニアが会社内のキャリアでずっと研究開発に携わるとは限らないですから、積み上げれば積み上げるほど誤差が生じるのではないかな、と思ってしまいました。

« 「特許の壁を壊せ」?? | トップページ | 明細書作成能力→発明創出→知財コンサル? »

企業経営・技術経営」カテゴリの記事

知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 「特許の壁を壊せ」?? | トップページ | 明細書作成能力→発明創出→知財コンサル? »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
フォト
無料ブログはココログ