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未来の特許制度に向けて

今日ももう遅いので短めに。

日経新聞関連のサイトに、経済産業省産業組織課長の奈須野氏が政策大学院大学で講演した際の内容が記載されています(第1回目の記事はこちら、全5回です)。この講演、未来の特許制度に向けて野心的な提言がされています。詳細は記事を読んでいただきたいのですが、私が以前このBLOGで議論した内容(Soft-IP制度とか)も含まれています。で、この内容、知財関連の一部のBLOG(例えばこちら)では不評です。私の知り合いがtwitterでツィートしている範囲でも、あまり好意的に受け入れられていません。

この奈須野課長、以前は知財戦略推進事務局に勤められており、きちんとした知識も経験もあります。また、5回目に記載されているように、今回の提言は有識者委員会での議論を踏まえたもので、それなりに産業界、大学のニーズに基づいたものだと言えます(この委員の方が力説したからこの内容が入ったんだな、と推測できるものもありますが)。

多分、一番不評を買っているところは、特許権=独占排他権という金科玉条的概念をかなり修正しているところだろうと思います。確かに、特許法には特許権は独占排他権である(文言は違いますよ)と堂々と記載されています。しかし、独占排他権であるがために、例えば多数の特許権が複雑に絡み合う状況(特許の藪とか非共有地の悲劇とか言います)において、1つの特許権の侵害により製品全体の出荷に対して差止請求がされ、確かに侵害していれば実際に差し止められてしまう状況になっています。また、特許権者が実際に特許権に係る製品を製造していることが差止請求の要件にはなっていませんから、パテントトロールのように特許権を高額なロイヤリティ取得の手段としか思っていない団体が出現してもこれを法律上食い止める手段を持ち合わせていません。eBay判決は、こういった乱訴とも言える状況を少しでも改善する手段を提供しようとしたものです。また、米国特許法改正で検討されている事項として、Entire Market Ruleの適用を緩和することで、部品に係る特許により製品全体に対するロイヤリティ率が算出されることによるロイヤリティの高額化を防ぐ目的があります。こういった議論の延長線として、特許権は利用して始めて産業に寄与するのであるから、利用促進を目的として特許権の効力を制限する方向に進むべきではないか、知財推進計画的に言えばプロイノベーション時代の特許権は保護から利用へと大きく舵を切るべきではないか、ということです。

当然、このあたりの議論は、主にエレクトロニクス産業が直面している課題であり、医薬品業界、自動車業界では顕在化しておらず、しかも、医薬品業界にとっては、こういった議論そのものが特許権の効力の弱体化を招くとしてかなり嫌悪感を持って受け入れられています。産業全体、国家全体を牽引する先端的業界であってもこういった対立軸を持つ以上、簡単に議論が収束するとは思えません。また、大学をはじめとしたアカデミーや中小企業にとっては特許こそが依って立つべき標であり、特許権の効力の制限は受け入れる余地は少ないでしょう。

だからこそ、奈須野課長の提言は当然産業界全体の賛同を得ることは当初からないでしょうし、奈須野課長もそれを重々承知の上で、議論の端緒として提言をしたのだと言えます。従って、文言の詳細に拘泥し、一々議論をすることは将来あるべき特許制度を議論する態度としては好ましくないと言えます。大局的に立つことは難しいのですが、「木を見て森を見ない」議論をすることは避けるべきです。これから1~2年間をかけて議論することでしょう。ただ、特許庁の特許制度研究会の議論を特許庁HPから見ている限りは、全体的傾向はかなりconservativeなので、そんなに大規模な制度改革はなさそうにも思います。それはそれで、エレクトロニクス産業に身を置く自分としては困りもんなんですが。

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コメント

産業財産権法の最終目的は産業発達にありますので、制度自体はこれに沿って改善すべきことは言うまでもありません。産業財産権が独占排他権であるという制度が数百年にわたって維持され、ついこの間まで制度が円滑に運用されてきた以上、ここ数十年の変化を以て産業財産権制度の根幹を変化させることに抵抗があることは予想されます。しかも、独占排他権であって何の問題もない業界もあります。同床異夢状態は暫くの間続くでしょう。簡単に制度変更することも難しいかと思います。

産業財産権の本質が独占排他権にあるのかどうかというのは単なる制度設計の問題なので、本質であるかどうかの議論はしません。

私は、知的財産権の本質を独占排他権であると把握するよりも、知的パイプラインシステムであると把握した方が現実に適合しているし、発展性も生まれると思っています。詳しくは、下記サイトに詳述しています。

http://www.patentisland.com/memo169.html
http://www.patentisland.com/memo231.html

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