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書籍「死蔵特許」を読んで

本日は、ちょっと過激な表現になることをお許し下さい(いつもそうだという突っ込みはさておいてcoldsweats01)。

知財業界の一部でちょっとだけ話題になっている書籍「死蔵特許」を読みました。この本は、数年前にJPEG規格に必須と思われる特許が規格に含まれておらず、その後、特許の(その時点での)所有企業がデジカメ製造会社に警告状を多数送った問題(パテントサロンではJPEG特許問題というトピックでまとめられています、当時の企業の名称を使ってForgent特許問題とも言われます)を取り上げた書籍です。この問題は、時々日経エレクトロニクスで取り上げられたのですが、この問題だけを取り上げて書籍化したものはなく、その意味で貴重とも言えます。

著者は、書籍の紹介文を読むと大手電機メーカー入社と書かれていますが、Googleで検索したり、また、発明者として特許出願もされていますのでIPDL等で検索すると、多分大手光学機器製造メーカーに今でも勤務されているのだろうと推測されます。光学機器製造メーカーとJPEGとどう関係があるのか?と思って調べてみると、このメーカーはアメリカのTV会議システム会社の日本代理店のようなことをやっていて、著者はこのTV会議システム関係の技術者として勤務されている関係で、Forgent特許が生まれた頃の背景を熟知されているようです。しかし、エンジニア一筋+東工大MOT博士という経歴を見る限りでは、知的財産に関する知識はエンジニアに要求されているもの以上のものを持たれていないように推測されます。

内容は、このForgent特許問題を、公開されている情報(新聞・雑誌記事、Web記事、関係会社の有価証券報告書など)及び、エンジニアとしてForgent特許が生まれた頃の背景(著者ご自身が展示会、及び関係会社を訪問した際の情報など)に基づいてなぞり、最後に、著者ご自身のこのForgent特許問題に対する感想を7点に絞って書かれたものです。そもそも、Forgent特許は、当時Compression Labという名前のTV会議システム会社に所属していた発明者が発明したものですから、著者にとっては、当時の事情を熟知されており、自家薬籠の中、という感で蕩々と述べられています。

しかし、私が読んだ感想としては、当時の背景は事情を知る著者ご自身の体験に基づくものですから、貴重と言えば貴重であるものの、当時のTV会議システム会社の栄枯盛衰を語ってもForgent特許問題の核心に迫ることはできないように思えます。加えて、Forgent特許問題の詳細も、当たり前と言えば当たり前ですが、公開されている情報以上に当事者にインタビューした等深掘りした形跡はなく、備忘録以上の価値はないと思えます。最後に、著者ご自身のForgent特許問題に対する感想も、申し訳ないのですが知的財産を少しでも知っていると思っている私にとっては、既知の内容であるか、あるいは若干の誤解/短絡的な結論づけに終わっており、この感想を知財に関する知識をあまり持たない人々が読んだ時に与える影響はあまりよろしくないのでは、と思えます。

細かく批判するのは本旨ではないのですが、少しだけ披露すると、今回の問題として「標準化機関における特許調査の不備」が挙げられています。この問題は、いわゆるHold-up問題として標準化担当者の中では十分認識されているものの、標準化により恩恵を受けるメーカーが特許保有者でない限り標準化に当たって必須特許の存在を宣言するかどうかはモラル的な問題に止まり、なかなか有効な手立てが見つけられずにいます。従って、指摘されるまでもなく当事者はこの問題を十分知っているわけです。また、「発明者が職務発明対価を要求しない」ことを原因に挙げていますが、ご存じの方はご存じのように、米国において日本特許法35条のような強行的発明報奨規定は存在せず、全て勤務当時の給料であるとか時に一時金的な報奨で解決しており、遡って職務発明対価を要求することは難しいと思われます。筆者の考えは、日本の職務発明制度を単純に米国に適用したに過ぎず、かなり論旨に無理があると言えます。

従って、この書籍は、Forgent特許問題を一例とするパテントトロール問題に関してあまり知識のない経営陣、企業のマネージャーには、問題の所在をalertする意味においてある程度の存在意義はある(当然、上に書いたように誤解を生じる危険性は高いです)ものの、知的財産を少しでも知っている読者層には不満が残るものになると思います。

余談ながら、Forgent社の当時の経営陣が"Rembrandts in the attic"を読んで自社特許の棚卸の必要性に気付き、これが今回のForgent特許問題の端緒になったように書かれていますが、ご存じの方はご存じのように、この本は、自社特許の棚卸→パテントポートフォリオ構築の重要性(→おまけで特定システムの大宣伝までありましたけど)を説いている本で、パテントトロールへの変身を示唆するものではないです。筆者もその点は何となく気付いているようですが、レンブラント本の著者の意図はそんなところにないと私は理解しているので、書籍というのは著者の手を離れると様々な理解がされてしまうのだと、何となく悲しい気がしました(私が書いているこの書評も、もしかしたら著者の意図とは違うのかもしれませんが)。


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コメント

JPEG2000さん、こんにちは。貴重な情報をありがとうございました。標準化・規格技術に関する特許問題は古くて新しいもので、なかなか決定的な解決策と言えるものがないようです。

Forgentの日本出願は拒絶になっていたと思います。
実は、ヨーロッパの企業が日本でJPEGを技術的範囲
に含む権利を取得され、権利行使を着実にされている
ようです。かなり閲覧請求がされていました。

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