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書籍「発明の保護と市場優位」を読んで

本日ご紹介する本の著者は、元日本弁理士会会長で、会長就任の頃に知的財産推進本部の民間有識委員として参加され、その後もずっと知的財産推進本部の下部委員会に参加されている(と記憶しています)、弁理士の中でも知名度の高い論者です。しかも、今回の本の略歴を見て驚いたのが、会長就任の前あたりに早稲田大学大学院アジア太平洋研究科に所属され、昨年論文博士を取られていること。なぜアジア太平洋研究科かというと、その頃は早稲田MOTはこちらの研究科に付設されていました。今は、MOTプログラムは商学研究科付属のビジネススクールに移設されていますし、あとがきで謝辞を述べられている対象の指導教授である松田修一先生はビジネススクールに所属されていますから、博士課程を修得された時にはビジネススクール所属だったかもしれません。

これだけ書くと、本の内容もさすがかと思うところですが、そうはいかないところが難しい(苦笑)。まず、体裁の問題を少し(形式的なところで申し訳ないんですが)。この本は法律書にカテゴライズするのはちと難しい(法律論を展開しているわけでもないので)ので、横組みでも良かった気がするのですが、結構詰まった行間で縦組みになっているのでかなり読みにくい印象を受けました。最近は島並良先生が編纂された知財研の「岐路に立つ特許制度」が横組みで新鮮ながら非常に読みやすかった(参考文献が英文のものも多かったので横組みでないと大変だったかもしれませんが)のと対照的でした。あと、章や節によって記載分量が大幅に違うので、ページ単位で見ると章や節の見出しばかりが書いてあるページもある一方で文章だけが並んでいるページもあり、リズムをつけて読むのに苦労しました。

この本、多分、上述した博士論文に手を加えて出版したのではないかと推測されます。それは、脚注の異様なまでの多さに表れています。この脚注、折角なので本文と逐次対比して見たところ、多分普通の論文では本文に書いてもよさそうな事項や専門家だったら十分知っている事項(何年に法改正がなされたとか)が多く、論文のReferだったり補注的な事項がごくわずかだったので、逐次対比するたびに何となく「見なきゃよかった」的な後悔がしました。論文を書き慣れないとこうなるのかな、という感じです。

さて、ようやく内容についてのご紹介を(前振りが長くて申し訳ありません)。ざっと言うと、7割方が知的財産推進計画に代表される最近の政府の知的財産政策の概要及びそこに至るまでの経緯の紹介に関するもの、2割方が企業の知的財産に対する態度及び政府の知的財産政策の業務上の影響について企業にアンケートをした結果の紹介、1割が知的財産政策に対する提言、というものです。つまり、7割方はある意味で覚書的な内容でした。当然、ほとんど読み飛ばさせていただきました(笑)。

アンケートは、2002年に知財研が行ったものと同様のものを2007年、2008年に著者が独自で行った模様で(設問が公開されていないのでよくわからないのですが)、価値のあるものだと思いますが、あまり詳細な分析がされていないので評価をするのが難しいです。普通、アンケートの集計結果は関連項目をまとめて相関を取る等の処理をするんだと思うんですが、した形跡が見えません。ちょっと学術的な評価は難しいかもしれません。そもそもアンケートによる実態調査というのは、回答者がどれだけ本当のことを答えるかというバイアスがかかりますので、実態にきちんと迫れているのか難しいところがあります。統計には政府が指定したものがあり、これは企業がきちんと回答する義務を負っていますので、概数ではあっても正確に回答するのですが、それ以外の統計については(特に定性的な質問については)信憑性を疑いたくなることもままあります。そんなこともあって、アンケートでしか迫れない事項は多々あるのは承知の上で、アンケートに基づく実態調査の結果はかなり割り引いて考えるようにしています。

最後の提言は、弁理士という実務家が行ったものですのでそれなりに裏付けのあるものだと思いますが、やはり知的財産の担い手としての企業の存在は大きく、企業の知的財産実務経験がないとその実態に迫ることは難しいことも多いので、実態を踏まえた提言ができていないのが惜しいところです(例えば、パテントトロールについては他の報告書の結論を引き写す形でしか提言できてないところとか)。

あと、余談ですが、脚注に引用されていた文献の中で、最近私として出色だと思っていた幾つかの本が引用されていなかったのが残念です。1つは、上に書いた「岐路に立つ特許制度」。特許制度の将来を占う上では必読だと思うんですが。それから、このBLOGでも以前紹介した"Patent Failure"。未だに邦訳が出ていないので紹介するにも困るのですが、ここでの問題提起は極めて現代的なものだと思います。さらに、同様にこのBLOGで紹介した、特許経済学を要領よくまとめた「知財創出」。現状の解決策を提示してはいないんですが、特許の経済的効果に関する論文が数多く紹介されていて、備忘録的には役に立ちます。

とまぁ、厳しい見方をしてきましたが、これだけまとめられた労力には敬意を表したいと思います。問題は、弁理士ならではの知的財産政策に対する提言が今後できるかどうか、なんだろうと思います。できる立場にいらっしゃると思うので、陰ながら応援したいと思っています。


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