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改めて、弁理士業界の将来について

時々、日本弁理士会として公に言えなさそうな事項をズバッと指摘する日本弁理士政治連盟(弁政連)の最新号で、会長と副会長がまたかなり大胆な発言をされているようです。

具体的には、昨今弁理士試験合格者数が急増していることが弁理士業界の過当競争を生み、弁理士制度自体の疲弊、収入減、果ては技術が抜群でも経営に劣る特許事務所は消え、技術はないが経営に長けた特許事務所が生き残る、という事態が現に起きているという主張をされています。

この主張の是非についてはこのBLOGで詳細に議論をしませんが(本当はしたいんですが、きっと百家争鳴状態になるのでしません)、最近の弁理士業界を取り巻く現状について、このBLOGでも折に触れ取り上げていますが、再度整理してみたいと思います。

まず、弁理士試験合格者数が増えていることについて。知的財産推進計画が知財人材の倍増を打ち出したことに(多分)呼応して、弁理士試験の最終合格者数は伸びを見せています(参考資料)。正確にいえば、平成12年に確か弁理士試験制度の改正がありましたから、これ以降、最終合格者数が増加したという言い方のほうがいいかもしれません。

一方、弁理士の専権事項である産業財産権の出願件数は漸減傾向にあります(この資料の該当部分を適宜ご覧ください)。以上の事実だけを単純に突き合わせてみると、弁理士1人当たりの出願代理件数は確実に減少しています。弁理士試験の最終合格者が、確実に弁理士登録者の単純減少数(死亡抹消+申請抹消数はだいたい130名程度です)をかなり上回っている現状を考えると、弁理士登録者数はかなりの勢いで増加しますから、今後も弁理士1人当たりの出願代理件数は減少傾向にあるのだ、という結論付けになります。

しかし、ここで若干の問題が。それは、「非弁」と呼ばれる無資格者(明細書作成補助者)の存在です。事務所に所属する弁理士は、単独で明細書作成業務に携わるほかに、明細書作成補助者が下書きした(このあたり、事情を知る人からの突っ込みはご遠慮を(笑))明細書等のチェックを行い、事務所の代表者あるいは自らの名前で出願代理業務を行います。昭和40年代の、特許+実用新案登録出願が急増していた頃は、当時登録していた弁理士数に比較して出願件数が圧倒的に多い(明細書作成業務を必死に行っても1人の弁理士が行える業務には自ずと限界があります)ので、ある意味止むを得ない体制であったとも言えますが、弁理士登録者数がその頃とは比較にならないくらい多くなった現状で、この体制がどこまで必要であるか、見直す時期に来ているのは確かです。当然、明細書作成補助者の方にも優秀な方がたくさんおられることもありますし、他にも存在意義はあると思うので、私は不要論を唱えるつもりは全くありません。

そうは言っても、弁理士と明細書作成補助者との割合が変化するのは時代の流れとも言えます。ですが、最近は特許事務所を外部から見ているので当てずっぽうな部分があることを承知の上で、特許出願数が漸次減少している事態があるにもかかわらず、この割合が変化したという感じはしません。1人の弁理士がどれだけの明細書作成業務を行うのが適正なのかということに関する議論は尽きない(そもそも、クライアントからの要求レベルがまちまちなので、工数の標準化はかなり難しい)のですが、大局的にいえば出願代理業務全体における弁理士が単独で関与する割合は増加してもおかしくありません。しかし、実務上どうなのか。確かに、最近開業した事務所の中には、「弁理士が書きます」と明言している事務所もいらっしゃるように記憶しています。しかし、それは未だに少数派です。そして、事務所として、弁理士会全体として、どのように対処すべきかということに関する方針は明確になっていません。打ち出されたのは、新規業務への進出(知財コンサルも入ります)、そして、今年の弁理士会会長が打ち出した最終合格者数増加傾向への歯止め(結局実現しませんでしたが)、です。

そうこうしているうちに、外圧としてのリーマンショックに端を発した世界同時不況による特許出願件数の大幅減により、一部の特許事務所にはリストラの嵐が吹き荒れたようです。とは言え、弁理士業界を見ていると、いずれ企業の業績も回復するし、そもそも技術開発に直結する特許出願の件数(そうであるかどうかは、当然議論もいっぱいありますが)が一気に減少することは考えにくい、いずれ出願件数も回復するだろう、という見方があるように思えます。では、果たしてどうか。

正確な統計が出ていないので確定的なことは言えませんが、ここ数年の傾向を見てみると大企業の特許出願件数は減少しており、その分を中小企業・大学の特許出願件数の微増があったので全体では漸減に止まっていたのではないか、との論があります(参考文献が探せないのですいません)。個別企業の出願件数を見てみると、何となく納得できる論ではあります。中小企業の出願件数の全体に占める割合は、出願人を大企業と中小企業とに分類するのが簡単ではない(識別コードで分類できればいいんですが)ので、特許庁も把握しきれていないようですが、だいたい全体の10%程度のようです。このところの知財推進計画のサポートもあり、中小企業の出願件数が大きく増減したということはない様子です。このことから、既に大企業の出願に依存した特許事務所の経営体質は、あまり明るい未来がないのではないか、と思えます。だからと言って中小企業には、当然のことながら増加した弁理士登録者数が満足できるほどの仕事が新規に転がっているわけはありません。早晩、現在の特許事務所の経営体質は見直しを迫られていたわけです。

では、例えば米国の法曹社会に見るような弱肉強食の競争社会に突入すればいいのか。何でも規制緩和という単純思考の方が時におり、競争=絶対善という議論になってしまうのですが、米国の法曹社会では過剰ともいえる数の弁護士がいるがために、成功報酬型の弁護士が案件を引き受けてしまい、これが訴訟件数の増加にもつながっている(パテントトロールの代理人は成功報酬型の弁護士であることが多いようです、当然、成功報酬型の弁護士が全てよろしくないなどとは言いません)ようにも思えます。行き過ぎた競争は時に悪弊をもたらす可能性があります。

結局のところ、弁理士は出願代理業務に関するスキルの向上を図り、生き残れる技術分野を探すことになるんだろうと思います。新規業務に携われる弁理士の数は、全体からみればごく少数でしょう。ここに活路を見出すのはあまりに危険です。加えて、特許事務所の事務部門の合理化は考えても良い事項だと思います。総務部門のアウトソーシング、複数事務所での総務・人事業務の共通化などは、あまり考えている事務所がなさそうです。海外代理人とのレター及び文書のペーパーレス化は、セキュリティの問題で手をつけにくいところなのですが、やれば必ず効果が出ます。

…とまぁ、書き散らしたんですが、まだまだ考えるべき事項が多いことは事実です。ご参考になれば幸いです。

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

関野さま、はじめまして。匿名で記事を書いているため、名前が少しふざけたものになっていますこと、お許しください。

このような拙い記事を楽しみにされているとのこと、ありがとうございます。かなり言いたい放題のことを日頃記事で書いていますので、そのうち弁理士会や業界団体から何かしら苦情が来るのではないかと少しだけびくびくしていますが、もう少しこのまま引き続き同じ姿勢であれこれと書き綴っていこうかと考えています。

特許データベース業界も、アイデアのある会社が急激に売上を伸ばしたりしていて、なかなか活気のあるところだと認識しています。関野さまの会社のますますのご発展を祈念いたします。

米系の投資銀行業界を引退して、友人経営する特許データベース会社の役員として、最近、この業界に入った者ですが、貴兄のコメントが、有為かつ面白く、大変楽しみにしております。 引続きのご活躍をお祈りしております。

多くの方にアクセスしていただいたようで、ありがとうございました。本当は、もっと早くにコメントのお返事を書きたかったのですが、会社からBLOGのコメントを書くのはシステム的に拒否されてしまうので、帰宅してからの返答になってすいません。あと、個別にコメントを書くと長くなりますので、まとめて。

本当は、この記事は非弁に限らず弁理士業界が現在抱えている問題をあれこれと取り上げようとして書き始めたのですが、非弁の件が思った以上に長くなり、時間切れになったのと、これ以上長いと読んでいただくのに苦労だろうと思い、最後はちょっと端折って書いてしまいました。そのうち、何かの機会に他の事についても書きます。

非弁の問題は、弁理士事務所が抱える構造的問題として随分前から認識されていたわけですが、ある弁理士さんが言われるように、昭和40年代頃に始まったこのビジネスモデルを変革するにはかなりの努力が必要で、なかなか慣性力(イナーシャ)が効いているので変えにくいのは事実です。今回のリーマンショックに端を発した出願件数の激減(PCTの国内移行を除くと09年は30万件に達したかどうか微妙)が外圧になればいいのですが、本文に書いたように、単に身を低くして我慢していればいい、という考えをする事務所が多いような気がしています。

ただ、非弁の存在自体を私は否定しません(存在意義についてはノーコメント、というところがミソ)。弁理士が非弁との間に給料という形での格差を求めるのであれば、弁理士と非弁の仕事との間に厳然とした実力差が求められるわけです。弁理士試験を合格すれば、本来は差が付いてもいいわけなんですが、なかなかそうは見えないところに問題があります。

あと、合格者数の増加は今後どうなるのか、法曹人口や公認会計士のように一定の制限について議論されるのか、正直何とも言えません。果たして、弁理士は過剰なのかどうか、これについての確定的な見解はなかなか見当たりません。産業財産権の1年間の出願件数がざっくり50~60万件、弁理士数が7000人、そのうち企業勤務等で出願代理に関与していないのが約1/3なので5000人が出願代理を業としているとすると、1人当たり100件も代理していることになります。この数字を多いと考えるのかどうか。それ以外に中間処理もありますから…どうなんでしょうね。本文に書いたように弁理士会は抑制を希望していますが、簡単に実現するかどうか。

弁護士や会計士の世界でも同様の話(合格者増加→質の低下、収入の低下)を聞きますが、何でこうなってしまったんでしょう?外圧でも掛かったんでしょうか?(外資を日本市場に参入させるため?)

特許技術者を減らして弁理士を増やすという考えは間違っていないと思います。
しかし、仮にも難関と言われている資格を取得した者が、現在の特許技術者並みの給与で満足するのか?という疑問はあります。
私が雇用側の立場であれば、高コストの弁理士よりも特許技術者を雇用するでしょう。

私も、特許技術者(非弁)の問題は避けて通れない緊急の課題だと思っています。ただこの問題を「敢えて」避けているのは、弁理士会の上層部の方々が旧来のビジネスモデルを保持したいと思っているからだと思います。しかし、先は見えていますが…。

なお、多事務所間の総務部門の統合の話は、弁理士会内でも議論されいるみたいで、事務センターみたいなもの?を作るべきとの意見が出ていたと思います。

以前おっしゃっていたように、この業界は「イナーシャ」が重いので、すぐに活性化することは難しいでしょうね。まず身近なところで、「先生」と呼び合うのを止めるべきかなと、最近は思います。

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