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ところで、弁理士一人当たりの年商っていくら?

ちょっと気になったので、果たして今弁理士一人当たりの年商っていくらくらいになるのか、ものすごいラフな値でいいので求めてみることにしました。以下の計算は、本当にラフな数値ですので、単なる目安にしていただきたく思います。

基礎数値です。現在、2008年の出願統計しか特許庁から公開されていない(データは2009年特許行政年次報告書です)ので、2009年はかなり出願件数が減少していることが予想されますが、とりあえずの数値として使いました。弁理士が関与している(つまり代理人がいる)出願が、特許が約35万件、実用新案が約6千件、意匠が約2万件、商標が約7万件です。次に、意外と収入の基礎になっている中間処理(拒絶理由に対する意見書、手続補正書作成)の件数ですが、そのものずばりは出ていませんので、特許庁が公開しているファーストアクション件数でみると、特許が約34万件、意匠が約3.5万件、商標が約14万件です。次に、件数はそれほど多くないのですが、拒絶査定不服審判の数が、特許で約3万件、意匠が約7百件、商標が約千件です。中間処理と拒絶査定不服審判は代理人がいないと対応しきれないとおもうので、これについては代理人率100%で考えます。なお、商標の更新登録申請件数が特許庁から独立して公表されていないので、今回は計算の対象外とします。

次に、各案件毎の代理人費用です。独禁法の問題があり、現在では日本弁理士会として標準報酬額を発表していませんので、個別の弁理士毎に料金体系は異なります。加えて、特に特許出願の書類については、その発明毎に特許請求の範囲の体系(正確に言えば、どれだけの数の請求項、独立発明数)が異なり、これにより料金が加算されますし、明細書のページ数に比例しても料金が加算されます。ページ数による加算は、弁理士がその明細書をどれだけの時間かけて作成したかという、ある種の時間給に近い性格を持っていますので、この部分をなしにすると弁理士としては手間に応じた料金請求ができなくなり、非常に困ることになります。そんなことで、実は一律に幾らと言った計算ができません。ただ、それでは計算ができなくなりますので、日本弁理士会が一部の会員に対して行った弁理士報酬に関するアンケート結果が公開されていますので、これを参考にえいやっと設定してみました。なお、具体的な数字は、この数字が一人歩きすることが非常に怖い(私が数字を書いたばっかりに、「この金額でできないのはおかしい」と特許事務所に交渉に行く人がいないとも言えません)ので、ここでは公表しません。なお、料金体系をご存じでない方が一番びっくりする成功謝金と呼ばれる代理人費用は、敢えて考慮に入れませんでした。謝金の捉え方や実際の謝金の金額にもばらつきがあるように思えるので、ここをカウントすることの是非を議論していると尽きないですから。

さて、ざっくり計算すると、トータルの弁理士報酬額は1,600億円という数字になりました。これを、産業財産権の出願に関与している弁理士数で割れば、一人当たりの年商が出ます。現在、弁理士の登録者数がざっくり8,000名で、そのうち1/3程度が企業勤務と言われています(正確な数字は、日本弁理士会が会員には公表しているはずなんですが、会社に資料を置いてきてしまったので、ざっくりとでお許しを)ので、5,000名と考えると、一人当たり3,200万円という数字が出ました。

…高い!と思われた方はもう少しお待ちを。この数字は、弁理士報酬額を弁理士数で単純に割ったものです。弁理士の背後には、事務方の職員がかなりの数います。出願代理業務は単に書類作成だけで済みません。クライアントとの書類の授受、特許庁への実際の出願等の手続(現在はPCでできますが、それでも結構な作業と時間がかかります)、期限管理、クライアント用の書類準備(コピー作業など)などなど、事務方の職員なしでは特許事務所の円滑な運営は難しいです。それ以外にも、人事・労務、会計業務など、通常の会社でも必要とされる業務があります。上に書いた一人当たりの年商には、こういった事務方の職員の給与も含まれていますし、当然、オフィスの賃借料、OA機器のリース料なども含まれます。ですから、この数字は、年商を単純に社員数、しかも表立って活動している弁理士の数で割っただけですから、弁理士本人の給与ではありません。

あと、特許事務所は各種調査業務や発明相談、鑑定、訴訟案件も抱えていますので、上に書いたものが年商の全てでもありません(これらは特許庁の統計からは見えません)。加えて、海外出願の代理人費用も特許庁の統計からは直接的に把握できませんので、考慮の対象外にしてあります。

さて、今後、この年商がどのような変遷を遂げるのか、なかなか予想が付きにくいところなんですが、このあたりの話は長くなるので、またの機会に(笑)。

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コメント

ある弁理士さんのおっしゃるとおり、年商が2,400万円程度だと年収は7~800万円になると思います。特許事務所にいる頃、自分の稼ぎの3倍の請求書を切れるように頑張れ、と言われた記憶があります。

で、1人事務所や所長(共同経営者も含む)については、基本的に固定費、変動費を除いた部分は、若干の内部留保を控除して全て収入にしていいと思っています(それだけの責任とリスクを負っている代償ですから)。従って、収入が大きいことに何ら問題はないと思っています。

現状、特許事務所の収入構造は出願関係に大きく依存しています(商標事務所の場合、意外と更新登録申請手数料が効いてきますが)。収入構造を変えるのか、それとも人的構成を変えるのか、会として何らかの方針なりビジョンが必要であると思っています。当然、個々の弁理士も真剣に考える必要があります。この記事がそのための問題提起の端緒となれば幸いです。

すばらしい計算ですね。

年商2400万の場合、人件費率を60%ぐらいにして、間接部門経費を考えると、勤務弁理士は700から800万ぐらいの年収が適切となります。
(技術者がいたらもっと下がるでしょうが、)

一人事務所や、所長は、経営者なので2000万ぐらいはもらっても良いと思います。
補償が全くありませんし、年収が低いと銀行から融資を受けられません。
サラリーマンと比較するよりは、中小企業経営者と比較した方が良いのでは?

いずれにしろ、今後も出願件数を減少させる政策が続くと、さらに、出願関係の売上が減るでしょう。食べれなくなって、トロール化する弁理士も出てくると予想しています。

どうなることやら。

休み前の夜中にこんな刺激的な記事を公表したので、もしかしたら明日はもっと話題になるかもcoldsweats01などと思っています。

今回の目的は、ほぼ公表されているデータからここまでは計算できますよ、ということをお知らせしたかったのです。この計算自体は1件当たりの弁理士報酬額の見込み(アンケートの平均額で大体の当たりは付くんですが)がちょっと難しいだけで、あとは淡々と計算すれば結果が出ます。知る限り、誰もこんな計算値を公表していません。今回は、ある弁理士さんが指摘されたとおり、1人当たりの売上高ですから、ここから固定費、変動費を差し引かないと収入が出てきません。hideharusさんが正確な数値を教えていただいたので(ありがとうございました)、だいたい売上高が2,400万円になりそうですから、これを高いと見るか、安いと見るか、これは人それぞれでしょう。

問題は、この売上高構造がこれからどのように変化するか、です。前の記事にも書いたように、1年間で登録抹消される弁理士数が130名程度ですから、これを差し引いても弁理士数は毎年500名ほど増加するんだと思っています。そうすると、あと4年で弁理士登録者は大台の1万人に到達します。弁理士登録者1万人時代にどんな収入構造を描くのか…難しいですね。

弁理士の就業形態等の統計↓で公開されています。
http://www.jpaa.or.jp/about_us/information/pdf/kaiinbunpu.pdf
2009/12/31時点の弁理士8,183名から、企業勤務1,484名、非営利団体勤務69名(いずれも主たる事務所)を引いて、1,600億円÷6,630名で一人当たりの年商はざっくり2400万円となりますか。

すごいですね。ザットの計算でもここまでの計算をされるとは…。
3200万は、一人当たりの売上高ですね。
これに変動費と固定費がかかってきますが、固定費の大きなウエイトを占めているのが賃料だけ(一人事務所を前提)だとすると、利益は2000万は堅いでしょうね。内部留保を確保しておくとしても、一般企業のサラリーマンよりは高給取りな気がします。
但し…これはあくまで「特許技術者」という影武者を無視した場合の平均であって、この影武者を実体として分母に組み込んだ場合には、3200万は大きく下回りますね。仮に弁理士の数と同数とした場合には1600万、2倍とした場合には1066万、4倍とした場合には640万、となってしまいます。

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