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AIPPIシンポジウム「主要国におけるコンピュータソフトウェア及びビジネス方法関連発明の特許保護の現状」に参加しました

本日もあれやこれやと用事を片付けているうちに夜も更けて参りました。さっさと寝ないといけないので、本日も短めに(といいつつ長くなるのが悪い癖)。

この金曜日、AIPPI JAPANが主催する『主要国におけるコンピュータソフトウェア及びビジネス方法関連発明の特許保護の現状』という国際知的財産シンポジウムに参加してきました。このシンポジウム、特許庁からの委託事業に基づいて1年間研究調査した成果を報告するもので、計5名の研究員(特許事務所、法律事務所及び大学所属)の方がそれぞれ自身の研究成果を発表したものでした。内容は、各人に与えられた時間が30分と比較的に短いこともあり、駆け足に発表される方や、時間を考えて要点のみをさらっと発表された方など、若干物足りない感があるものの、久しぶりにコンピュータソフトウェア関連発明やビジネス方法関連発明に関する知識をupdateできて有益でした。

惜しむらくは、なぜこの時期にこのような研究調査が行われたのかという歴史的観点に立った俯瞰的な説明が足らなかったように思います。ビジネス方法関連発明については、ご存じ米国においてin re Bilskiの最高裁判決が今年春にも出るとの予測があり、既にin re BilskiのCAFC判決を受けてUSPTOは審査実務を変更していますし、また、コンピュータソフトウェア関連発明については、欧州特許庁長官からEPOの拡大審判部に対してコンピュータソフトウェア関連発明に関する質問が付託されるなど、特に欧州においてコンピュータソフトウェア関連発明の特許性を認めるかどうかについての議論が(久しぶりに)盛んになっていますから、各発表者の方も「なぜこの時期に」という論点を踏まえて発表していただくとより聴講者の理解が深まったんではないか、と思います。

それから、今回のシンポジウムの題名がコンピュータソフトウェア関連発明とビジネス方法関連発明とを並列で書いており、独立した問題のように思われがちなのですが、実は両者はちょっとだけ複雑に絡み合っており、この辺りのそもそも論を同様に俯瞰的に説明する発表があっても良いのでは、と思いました。

歴史的経緯を見ると、コンピュータソフトウェア関連発明の特許性については、コンピュータソフトウェアを特定のハードウェアにインプリした形での装置発明の特許性(よく例に挙げられるのがマイコン内蔵炊飯器ですね)についてはかなり古くから認められており、この点については既に過去の議論になっています。次いで、ハードウェアとソフトウェアとの比率が、ソフトウェアのほうが高まるにつれて、汎用ハードウェアにおいて稼働されて有用な結果をもたらす特定ソフトウェアの特許性に話が移ってきました。この場合でも装置発明の特許性はそれほど問題にされませんでしたが、特定ソフトウェアをプログラムのステップの形で表現した方法発明の特許性については長く議論されてきています。つまり、ステップにおいて特定のハードウェアに関する言及を必要とするのか、有用な結果が出ればそれで足りるとするのか、などです。ここについては現時点でも各国毎に判断基準が異なっています。時代が進んで、装置発明あるいは方法発明の特許性が認められたとしてもその特許の効力の有効性に疑問が出てくるようになりました。つまり、汎用ハードウェアと特定ソフトウェアとの組み合わせにより発明が構成されるのであれば、ソフトウェアそのものを発明として認めた方が実効性が高いわけです。このため、米国が先導する形で、コンピュータプログラムを格納した媒体(当時はフロッピーを念頭に置いていたんですね)についての特許性を認め、次いで、日本ではコンピュータプログラムそのものに特許性を認めるようになりました。EPOは、審決においてコンピュータプログラムの特許性を認めたようですが、EPC52条の特許適格性の条文を変更することについては、現時点でも慎重な態度を取っています。今回の研究発表では、主にコンピュータソフトウェア関連発明のうち方法発明の特許性についてスポットを当てて発表されていたわけですが、個人的には方法発明の特許性が認められたとしてもその有効性には疑問なしとしない(方法発明が実施されているのはシステム全体なので一部でも国外に出されたら権利侵害の議論が難しい)です。

次に、ビジネス方法関連発明についてですが、コンピュータにインプリされることのない純粋なビジネス方法関連発明については、さすがにどの国でも特許の主題としての適格性が否定されています。ビジネス方法関連発明が脚光を浴びた2000年頃は、主に米国において個別の審査官レベルでの混乱もあって、コンピュータにインプリされることのない純粋なビジネス方法関連発明(例えばゴルフのパターの握り方など)が見受けられましたが、現在では厳格な運用がされているものと思っています。問題は、汎用ハードウェアにより実現されるビジネス方法関連発明であって、明細書全体を見ても汎用ハードウェアとの関連性が判然としないものの特許性をどう考えるかに問題が移ってきました。有名なState Street Bank判決においてCAFCはUseful, Concrete and Tangible resultという判断基準により汎用ハードウェアとの関連性に関する記述が薄い発明に対しても特許性を認めましたが、今回のin re BilskiのCAFC判決では、それまでの判断基準を否定してMachine or Transformation Testという新たな判断基準を採用するに至りました。このMOT Testの適格性を含めて(主に)汎用ハードウェアとの関連性に関する記述が薄い発明の特許性が米国最高裁で争われているわけです。

ここで注意しないといけないのが、議論の対象はあくまでも「ビジネス方法」関連発明であって、本来はビジネス方法を汎用ハードウェアにインプリしてこの汎用ハードウェアから有用な結果を得るプロセスを明確に記述した装置発明についての特許性は、日米ではあまり議論になっていないということです。in re Bilskiの最高裁判決の結果が、こういった装置発明にまで影響を及ぼすのだとすると、実務上はかなり影響を及ぼす可能性が出てきます。同様に、「ビジネス方法」ではない通常の(言い方が難しいですが)コンピュータソフトウェア関連発明についても影響が出ないとは言えません。

研究者の方はお若い方が(自分は十分おじさんってことですね)多かったので、コンピュータソフトウェア関連発明の特許性に関する議論の経緯、そしてビジネス方法関連発明の特許性に関する議論の経緯をリアルタイムで経験されていないのだと思います。なかなか文献レベルでepoch makingな判決文を見ても時代背景や当事者、関係者の想いはわかりにくいかもしれません。データ構造や搬送波のクレームについても、何を考えて明細書作成者がこのようなある種突拍子もないクレームを作ったのかは、なかなか伝わらないかもしれません。コンピュータソフトウェア関連発明の特許性に関する議論は30年程度の歴史しかありませんが、その間の目まぐるしい判決の変遷や、さらには実務の変化を経験した人間にとっては、何が解決済みで何が未解決の問題なのかという歴史観、全体感をもって研究して欲しいと思うのです。

余談ながら、最後の質疑応答では実務的な質問(中国ではコンピュータソフトウェア関連発明についてどのようなクレームを書けばいいか、など)ばかり出てきたのですが、今回のシンポジウムは研究調査発表なのであり、実務研修ではないのですから、もっと研究調査内容の詳細について質問された方がいいのでは、と思ってしまいました。

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コメント

ご指摘、ありがとうございました。表現を若干修正いたしました。

「このため、米国が先導する形で、最初にコンピュータプログラムを格納した媒体(当時はフロッピーを念頭に置いていたんですね)についての特許性を認め、次いで、コンピュータプログラムそのものに特許性を認めるようになりました。」

いつからアメリカはプログラムそのものに特許性を認めるようになったのですか?

「EPOは現時点でも慎重な態度を取っています(個別の審査官レベルでは何とも言えませんが)。」

2つのIBM審決で「コンピュータプログラムそのものに特許性を認める」ようになっているのでは?

「コンピュータにインプリされることのない純粋なビジネス方法関連発明(例えばゴルフのパターの握り方など)が見受けられました」

こんなのはただの審査エラーでしょう?日本の「婚礼引き出物」もそうですが。

「欧州の場合、「技術的特徴(technical character)」という独自の判断基準がありますので、このハードルがあるが故に装置発明でも特許適格性が認められない可能性が高いです。」

Pension Benefitをみても「装置」ならば「特許適格性」はほとんど認められるはずですよ。特許になるかどうかは別ですが。

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