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2010年3月

現代の技術マネジメントは大変です

相変わらず青息吐息状態なので、短めに(と言いながら長くなるのは突っ込まないでねhappy01)。

つい最近、「されど、愛しきソニー」という本を読みました(何故この本?という詮索はしないでおいて下さいcoldsweats01)。著者は、つい最近までソニーの役員(SVPとかEVPって言いますね)を務めておられた蓑宮武夫さん。1960年代にソニーに入社されてますので、ファウンダーである井深さん、盛田さん、そして大賀さん、出井さんなど歴代の社長、会長を全てご存じの世代になります。従って、ソニーが急成長を遂げて世界的企業となっていく過程を体験した方です。

内容は、自分がソニー内で経験してきたもの作り、人材育成、マネジメントなどについて実例を挙げて何が良かったかを蓑宮さんなりに解明し、現在のソニーとのズレを説き明かそう、というものです。今までありがちだったソニーの将来像を否定的に捉えている類似本と違い、題名にもあるように、ソニーに対する熱烈とも言える愛社精神に基づき、こうすればソニーは復活するという蓑宮さんなりの処方箋でまとめているところからもわかるように、決して否定的なトーンでまとめられたものではありません。幾つかの資料はソニーから提供されているようです。

蓑宮さんはソニーの会社時代を徹頭徹尾エンジニア及びエンジニアのマネジメントとして過ごされているので、エンジニアに対する応援メッセージが非常に色濃く出ており、昨今の業績不振を会長、社長が二人とも文系出身であることに理由付け、ソニーのトップマネジメントは理系出身でなければいけない、といった、愛社精神故の暴論とも言える発言(とは言え、出井さんそのものを批判しているわけではありません)もあり、全面的に賛成することはできませんが、エンジニアが元気な会社は業績がいいであろうことは大体推測できることであるので、私としてもエンジニアを応援したい気持ちでは一致します。ただ、「ハードがソフトを変える」といった、ネット時代ではなかなか受け入れにくい発言もあり、若干時代遅れの部分もなきにしもあらず、と思っていました。

ソニーが様々なハードウェアのイノベーションを発表していた時代から比較すると、現代は、コンペティターの数も比較にならないほど多く、また、ついこの間までは異分野だと思っていた企業が、ネットワーク+デジタルという追い風に乗って種々新規参入してきているので、誰をコンペティターと考えればいいのか複雑になっていることもあり、多方面で様々な企業と競い合う必要が出てきます。例えば、AppleはiPod(iTunesの方が先ですが)参入までデジタルミュージックプレイヤー分野とは縁遠いPCメーカー専業であったわけですが、iPodの成功により一気にCE分野に参入し、更に、iPhoneにより通信機器分野でも確固たる地位を確保するに至っています(全世界的シェアはまだまだですが)。Amazonにしても、ついこの間まではネット通販の世界的最大手という捉え方(あと、クラウディングコンピュータ分野でも世界的な地位がありますが)をすればよかったのですが、Kindleの登場により電子書籍端末での大きな地位を確保し、これを基盤にネットワークビジネスを拡大しようとしています。日本では販売していませんが、ソニーは米国でReaderという電子書籍端末を販売し、いい位置につけています。

このような時代、ソニーのみが独創的なイノベーションを創出することは簡単ではありません。例えば、VHS時代には重要特許を保有している企業は数社であったのに対して、DVD時代は10社程度、Blu-rayでは数十社になるとの話もあります。当然、1つの製品を作るために必要な特許数も飛躍的に増加します。世界的な大競争の中で、蓑宮さんが経験してきたある種牧歌的とも言える(その頃の当事者が必死であったことは全く否定しません。ただ、競争環境が全然違う、ということです)環境とはがらっと違う、ということです。

従って、経営トップが文系だ理系だという議論ではなく、トップが誰であっても技術イノベーションに基づいて効率的な経営をしないといけない、ということです。そのために何をすべきか。イノベーションを効率的に生む方法論については随分と議論がされてきていますが、私自身の中で決定打と思えるものを発見するに至っていません。今言えることは、エンジニアの自由な発想を妨げない環境が大事であること、新規技術に対する目利き力が技術企画・管理を行う人間に求められていて、簡単に技術開発テーマを諦めてはいけない、そのためにはテーマ選定時に徹底的な調査が必要であるとともに、技術トレンドの潮目の変化があれば潔く撤退・変更することも大事、そして、全社を挙げて技術を育て、標準化・知的財産も含めたビジネスモデル構築を全社の知恵を使って行い、そして時に他社や国家を巻き込んで産業の育成を図る必要がある、という、極めて抽象的なことです。

イノベーションは時に一企業の何気ない製品発表によりパラダイム・シフトが生じます。古くは、VHSのデジタルサーボを1ICで実現し、これが外販されることでVHSの低価格化が一気に進んだこと、最近では、台湾のメーカーが携帯電話のほぼ全機能を1チップに集約したものを外販し、中国の中小企業がこれを使って超低価格の携帯電話を大量に製造することで、携帯電話メーカー立ち上げの閾値が一気に下がったことが挙げられます。現在、中国の携帯電話メーカーの大半は山寨機と言われて模倣品扱いされていますが、最近の中国のイノベーションは、そういった数多くの模倣品メーカーが立ち上げられ、多くが淘汰されていく中で、ごくわずかのメーカーが生き残り、海外進出をするに至るまでの競争力を獲得して大企業への道を短期間に辿る、という一種独特な進化をしますので、山寨機と称して下に見ていると大変なことになる可能性があります。既に、上に述べた1チップの実現により、中国ではある種のプラットフォーム化が実現され、性能よりも機能的差異が競争力の差になっているようです。つまり、中身の差は大した問題ではない、ということです。こんな時代に技術マネジメントを行うのは大変なことですが、競争に勝たないと明日はないわけで、その競争に勝てるよう、自分ができることをきちんとやらねば、と思うわけです。

最近の知財関係の政府の動き

最近、仕事が多忙で家に帰るとぐったり状態なので、全然BLOGを書く暇がありません。本日は情報提供、ということで。

このところ、日本の産業競争力ががた落ちであることを政府自体がやっと認識し、日本の産業競争力をどのようにしてV字回復させるかという議論が起こり始めました。また一方で、日本の特許制度自体が制度疲労を起こしていて、民間の産業界が求めるものとの不一致が目立つ一方、これも日本の産業競争力を回復させる観点から、知的財産の側面から何かできないだろうか、という議論が同様に起こっています。当然、これらは上位-下位関係にある(産業競争力の回復のために特許制度をどうしたらいいのかという、ある意味で一方的な思考の流れ)ものでありながら、双方の関係が密接であると思われるために、特許制度の設計が日本の産業競争力に影響を少なからず与える、という関係でもあります。

現在、政府が行っている審議会、委員会関係で、産業競争力と知的財産に関するものとして次の3つがあります。いずれも、今年に入って新設されたもの、あるいは久しぶりに動きがあったものです。

1.産業構造審議会 産業競争力部会…主管:経済産業省、目的:日本の産業競争力の回復の手段を考える
2.知的財産戦略本部 知的財産による競争力強化・国際標準化専門調査会…主管:内閣官房(知的財産戦略本部)、目的:知的財産による日本の産業競争力の回復の道筋を考える
3.産業構造審議会 知的財産政策部会…主管:特許庁、目的:知的財産制度全般の方向性を考える

目的については、私がそれまで公開されている資料から推測したものですが、多分合っていると思っています。

これら3つの審議会及び委員会は、上に書いたように実は密接な関係がありますので、私としては全ての議事を追いかけたいところなのですが、正直言って時間がありません。2.については毎週または隔週で委員会が開催されており、1.についても5月までに結論を出すと言っていますから、かなりのスピードで審議会が開催されると思います。さらに、3.については、公開されている情報によると、特許制度小委員会を久しぶりに再開させて知的財産制度について集中的な議論をする様子ですから、これもかなりのスピードで議論が進むと思われます。3.については特に特許庁長官の私的研究会であった特許制度研究会の報告書が俎上に上がっていますので、この特許制度研究会で議論の対象となった幾つかの事項が審議されることは間違いありません(配付資料に何を議論するかが書いてあります)。

とにもかくにも、ようやく政府が日本の産業競争力の回復に向けて本腰を上げたことは喜ばしいことだと思います。きちんとした議論が進むことを期待したいです。

「知財戦略コンサルティングシンポジウム2010」に参加してきました

今年も3月恒例の「知財戦略コンサルティングシンポジウム2010~中小企業における知財経営の定着に向けて~」に参加してまいりました。このシンポジウムももう3年目になり、完璧に皆勤賞で参加していて、それだけコンサルティング活動が好きだったら自分でやったら、という状態に突入していますが、ま、食い扶持と興味とは別次元ということでcoldsweats01

今回は、「知財経営の「定着」に焦点を当て、中小企業において事業貢献型の知財活動が継続するための課題を考えます」ということで、紹介された4社の事例のうち、最後の1例が正にこのテーマに合致したもので、昨年度の対象企業が再度エントリーして知財活動の定着を図ろう、というものでした。

残念ながら、午前中で切り上げようとした子供との遊びが思いの外長引き、会場に1時間以上遅刻するという体たらくで、楽しみにしていた的場さんの基調講演と最初の1事例を聞き逃してしまったのですが、他の3事例はたっぷり聞かせていただきました。今回、全ての事例に共通していたのが、経営と知財との関連について従来より深掘りしている点でした。つまり、経営コンサルティング活動+知財コンサルティング活動という観点でのコンサル活動を丁寧に実行されていました。従って、クライアント企業の従業員が自らの課題として経営課題+知財課題に気付き、これを如何に改善するかというレベルにまで達していた、ということです。

これは、知財コンサルティング活動を(徹底的に)行うのであれば、経営課題として知財の問題を捉える必要があると常日頃思っている私としては、ごく当たり前の問題なのですが、弁理士、中小企業診断士、技術士という士業が単独でカバーしうる範囲を大幅に超えている事項であるので、なかなか実現するのは難しい(時に士業は排他的な視点に立つことがあり、全てを一人で行おうとする傾向があるので)のです。しかし、今回の事例は、ようやく複数の士業からなるチームが単一の課題に向かって自らが持つ専門性を投入してそれを実現しており、チームの担当者は並大抵の努力ではなかっただろうと頭が下がる思いがしました。

また、今回のまとめ役である的場さんは、チームで何をしているかを個別に全て把握し、パネルディスカッションにおいて的確な情報提供及びまとめを行っておられました。的場さん本人に聞いたところ、かなり大変な作業(3ヶ月くらいかかったそうです)を行われたようで、今回のシンポジウムが私が感じるに非常に有意義に思えたのは的場さんのご努力が大きいな、と思いました。

最後の事例は、実は私が聞いている範囲では、これは知財コンサル活動ではなく業務改善活動そのものであると思えました。つまり、会社全体の経営活動の刷新作業の中に知財のfactorが比較的大きく取り上げられている、ということです。この事例のパネルディスカッションのまとめ役であった鮫島さん(長い知り合いなので先生をつけるのがこそばゆいのでこれで失礼します)も、当初はこの事例の全体像を理解するのが大変だったようです。まとめ役の大塚さんという中小企業診断士の方にお聞きしたところ、「確かに業務改善活動です、それでいいんですかということを事務局にも鮫島さんにも確認したんですが、『いいんです』ということだったんでやりました」と言われていました。私は、今の会社で知財部門の業務改善活動をやった経験があるので、なるほどこんなことをしたのね、という心当たりがあるのですが(QC活動でおなじみのフィッシュボーン図やパレート図も出ていましたが、QCで終わっているわけではないでしょう、多分シックスシグマ的な発想も盛り込んでいるはずです、VOCとか書いてありましたし)、業務改善活動に関する経験なり知識がないとこの事例のようなコンサルティング活動はできません。その意味でも傑出した事例なのですが、フォローすることは至難の業かもしれません。

と、今回はもはや事例的には知財コンサル活動ではなく経営コンサル活動と呼んだほうが事例を正確に表現しているように思えます。当然、全ての場合にこういった深掘りが必要とは言えませんから、一概には断ずることはできないのですが、上にも書いたように一人の士業が行える範囲をもはや超えているように思えます。この点は、これから知財コンサル活動を行うことを考えておられる方がいるならば、念頭に置いておいたほうがいいように思います。

さて、今回も、的場さん、鮫島さんを始めとして様々な方と久しぶりにお会いでき、あれやこれやとお話しすることができました。鮫島さんとは、特許庁・経産省(各地方経済産業局)が主催するプロジェクトの今後についてお話をさせていただきました。現在、プロジェクトは3期目(3年単位)で、3期目で終わりかと思っていたのだが、民主党が中小企業振興策を積極的に推進する方向にあるので、もしかしたらまだまだ続くかも、ただ、このプロジェクトが続いているのも、政府がそれなりの資金提供をしているからであって、実際にプロジェクトで育成された人材が自らの力で(つまりそれなりの対価を請求して)知財コンサル活動を行うというのは難しいだろう、ただ、日本各地に育成された人材が多数蓄積されることで、個々の人材がビジネスモデルを考えていただくのはいいのではないか、という話になりました。事業化という観点では、鮫島さんも難しいということは考えている(以前からずっとそんな話をしてたんですが)わけですが、もしかしたらシンポジウムを単に聴講しただけの方が、政府の肝入れで推進しているんだから事業性ありと誤解しているのであれば、注意された方がいいように思います。

あと、最近twitterであれこれと情報交換させていただいている方が会場に5~6人いらっしゃって、一部の方は顔と名前が一致していたのですが、何人かの方とは初対面で、ようやく顔と名前が一致する状態になりました。ただ、日頃からお話はさせていただいているわけで、初対面とは思えない(たいていネット関係の知人はそうなります)会話になりました。本日お会いした方、楽しかったですので、今後ともよろしくお願いいたします。ま、知財業界はものすごく狭いので、あの人の知り合いは他の人の知り合い、という感じでどんどん広がっていくんだろうと思います。

AIPPIシンポジウム「主要国におけるコンピュータソフトウェア及びビジネス方法関連発明の特許保護の現状」に参加しました

本日もあれやこれやと用事を片付けているうちに夜も更けて参りました。さっさと寝ないといけないので、本日も短めに(といいつつ長くなるのが悪い癖)。

この金曜日、AIPPI JAPANが主催する『主要国におけるコンピュータソフトウェア及びビジネス方法関連発明の特許保護の現状』という国際知的財産シンポジウムに参加してきました。このシンポジウム、特許庁からの委託事業に基づいて1年間研究調査した成果を報告するもので、計5名の研究員(特許事務所、法律事務所及び大学所属)の方がそれぞれ自身の研究成果を発表したものでした。内容は、各人に与えられた時間が30分と比較的に短いこともあり、駆け足に発表される方や、時間を考えて要点のみをさらっと発表された方など、若干物足りない感があるものの、久しぶりにコンピュータソフトウェア関連発明やビジネス方法関連発明に関する知識をupdateできて有益でした。

惜しむらくは、なぜこの時期にこのような研究調査が行われたのかという歴史的観点に立った俯瞰的な説明が足らなかったように思います。ビジネス方法関連発明については、ご存じ米国においてin re Bilskiの最高裁判決が今年春にも出るとの予測があり、既にin re BilskiのCAFC判決を受けてUSPTOは審査実務を変更していますし、また、コンピュータソフトウェア関連発明については、欧州特許庁長官からEPOの拡大審判部に対してコンピュータソフトウェア関連発明に関する質問が付託されるなど、特に欧州においてコンピュータソフトウェア関連発明の特許性を認めるかどうかについての議論が(久しぶりに)盛んになっていますから、各発表者の方も「なぜこの時期に」という論点を踏まえて発表していただくとより聴講者の理解が深まったんではないか、と思います。

それから、今回のシンポジウムの題名がコンピュータソフトウェア関連発明とビジネス方法関連発明とを並列で書いており、独立した問題のように思われがちなのですが、実は両者はちょっとだけ複雑に絡み合っており、この辺りのそもそも論を同様に俯瞰的に説明する発表があっても良いのでは、と思いました。

歴史的経緯を見ると、コンピュータソフトウェア関連発明の特許性については、コンピュータソフトウェアを特定のハードウェアにインプリした形での装置発明の特許性(よく例に挙げられるのがマイコン内蔵炊飯器ですね)についてはかなり古くから認められており、この点については既に過去の議論になっています。次いで、ハードウェアとソフトウェアとの比率が、ソフトウェアのほうが高まるにつれて、汎用ハードウェアにおいて稼働されて有用な結果をもたらす特定ソフトウェアの特許性に話が移ってきました。この場合でも装置発明の特許性はそれほど問題にされませんでしたが、特定ソフトウェアをプログラムのステップの形で表現した方法発明の特許性については長く議論されてきています。つまり、ステップにおいて特定のハードウェアに関する言及を必要とするのか、有用な結果が出ればそれで足りるとするのか、などです。ここについては現時点でも各国毎に判断基準が異なっています。時代が進んで、装置発明あるいは方法発明の特許性が認められたとしてもその特許の効力の有効性に疑問が出てくるようになりました。つまり、汎用ハードウェアと特定ソフトウェアとの組み合わせにより発明が構成されるのであれば、ソフトウェアそのものを発明として認めた方が実効性が高いわけです。このため、米国が先導する形で、コンピュータプログラムを格納した媒体(当時はフロッピーを念頭に置いていたんですね)についての特許性を認め、次いで、日本ではコンピュータプログラムそのものに特許性を認めるようになりました。EPOは、審決においてコンピュータプログラムの特許性を認めたようですが、EPC52条の特許適格性の条文を変更することについては、現時点でも慎重な態度を取っています。今回の研究発表では、主にコンピュータソフトウェア関連発明のうち方法発明の特許性についてスポットを当てて発表されていたわけですが、個人的には方法発明の特許性が認められたとしてもその有効性には疑問なしとしない(方法発明が実施されているのはシステム全体なので一部でも国外に出されたら権利侵害の議論が難しい)です。

次に、ビジネス方法関連発明についてですが、コンピュータにインプリされることのない純粋なビジネス方法関連発明については、さすがにどの国でも特許の主題としての適格性が否定されています。ビジネス方法関連発明が脚光を浴びた2000年頃は、主に米国において個別の審査官レベルでの混乱もあって、コンピュータにインプリされることのない純粋なビジネス方法関連発明(例えばゴルフのパターの握り方など)が見受けられましたが、現在では厳格な運用がされているものと思っています。問題は、汎用ハードウェアにより実現されるビジネス方法関連発明であって、明細書全体を見ても汎用ハードウェアとの関連性が判然としないものの特許性をどう考えるかに問題が移ってきました。有名なState Street Bank判決においてCAFCはUseful, Concrete and Tangible resultという判断基準により汎用ハードウェアとの関連性に関する記述が薄い発明に対しても特許性を認めましたが、今回のin re BilskiのCAFC判決では、それまでの判断基準を否定してMachine or Transformation Testという新たな判断基準を採用するに至りました。このMOT Testの適格性を含めて(主に)汎用ハードウェアとの関連性に関する記述が薄い発明の特許性が米国最高裁で争われているわけです。

ここで注意しないといけないのが、議論の対象はあくまでも「ビジネス方法」関連発明であって、本来はビジネス方法を汎用ハードウェアにインプリしてこの汎用ハードウェアから有用な結果を得るプロセスを明確に記述した装置発明についての特許性は、日米ではあまり議論になっていないということです。in re Bilskiの最高裁判決の結果が、こういった装置発明にまで影響を及ぼすのだとすると、実務上はかなり影響を及ぼす可能性が出てきます。同様に、「ビジネス方法」ではない通常の(言い方が難しいですが)コンピュータソフトウェア関連発明についても影響が出ないとは言えません。

研究者の方はお若い方が(自分は十分おじさんってことですね)多かったので、コンピュータソフトウェア関連発明の特許性に関する議論の経緯、そしてビジネス方法関連発明の特許性に関する議論の経緯をリアルタイムで経験されていないのだと思います。なかなか文献レベルでepoch makingな判決文を見ても時代背景や当事者、関係者の想いはわかりにくいかもしれません。データ構造や搬送波のクレームについても、何を考えて明細書作成者がこのようなある種突拍子もないクレームを作ったのかは、なかなか伝わらないかもしれません。コンピュータソフトウェア関連発明の特許性に関する議論は30年程度の歴史しかありませんが、その間の目まぐるしい判決の変遷や、さらには実務の変化を経験した人間にとっては、何が解決済みで何が未解決の問題なのかという歴史観、全体感をもって研究して欲しいと思うのです。

余談ながら、最後の質疑応答では実務的な質問(中国ではコンピュータソフトウェア関連発明についてどのようなクレームを書けばいいか、など)ばかり出てきたのですが、今回のシンポジウムは研究調査発表なのであり、実務研修ではないのですから、もっと研究調査内容の詳細について質問された方がいいのでは、と思ってしまいました。

西口泰夫「技術を活かす経営」を読んで

最近、MOT関係や知財関係の新刊書籍をめった切りしているこの書評、本日も比較的めった切り状態でご紹介しますcoldsweats01そのうち夜道を歩けなくなるかも(んなわけないか)bleah

本日は「技術を活かす経営-「情報化時代」に適した技術経営の探求」という書籍です。著者は、なんと天下の京セラの会長兼CEOを務められた後、学究心に燃えて同志社大学のMOT大学院に進学され、最終的に技術経営博士の学位を取得されたという、非常に面白い経歴を持たれた方です。京セラ時代から技術経営の必要性を痛感され、これがMOT大学院に進学された動機になっているようです。同志社大学のMOT大学院というと山口栄一教授という、確かNTTの半導体レーザーの研究をされた後にMOTの道に進まれた(その経歴から青色半導体レーザーの職務発明訴訟の時には幾つか論文を出されていました)有名な方がいらっしゃるんですが、指導教授は違う方のようです。

内容は、日本電気機器産業の収益率低下と低迷を幾つかの客観的データに基づいて示した後、戦後の電気機器産業にどのようなパラダイムシフトが生じたのかを先行研究及び統計データに基づいて明らかにし、さらに、情報化時代に適した技術経営に必要なものは5つの構成要素、つまり①経営戦略と技術戦略の一体化、②オープン・イノベーション、③市場ニーズの的確な把握、④知識経営(人・組織のもつ知識の共有化と活用)、⑤人・組織の有機的活用であることを先行研究から明らかにし、この新しい技術経営のコンセプトをOIBMS(Open Integrated Business Management System)と名付け、このコンセプトの妥当性を事例研究及び統計データから明らかにしようとしたものです。

この本の最初に挙げられた日本電気機器産業の収益率低下と低迷、そして戦後の電気機器産業にどのようなパラダイムシフトが生じたかについては、ご存じ東京大学知的資産経営統括寄付講座特任教授の小川紘一氏のデータを大幅に引用しています。余談ながら、小川教授の説はMOT業界のみならず幅広く影響を及ぼしているようで、経産省や特許庁の役人も注目をしているようです。小川教授の著書については、また日を改めてご紹介するつもりでいますが、その時もちょっとだけめった切り状態になりそうです。

著者が提唱しているOIBMS、組み合わせが斬新なのかもしれませんが、個々の構成要素は先行研究で十分明らかになっているもので、特許的には進歩性なしという言い方になるように思えます。学術研究だといいのかなぁ。逆に言うと、京セラ時代はこういった技術経営ができていなかったのでしょうか。ご存じ、京セラはアメーバ経営で知られるように経営手法には独特のものがあると思うので、そんなに反省することもないんでは、と思わなくもないです。

で、OIBMSの仮説の妥当性を検証するための事例研究は、パナソニックとシャープの経営手法から構成されています。パナソニックの場合、ご存じ中村社長(当時)が就任して劇的なV字回復をしました。この辺りの事情と、そして、ご存じの方も多いと思いますが、パナソニックが開発したAV機器を中心としたデジタル機器における統合プラットフォームであるUniphierの生みの親である古池副社長(当時)へのインタビューからOIBMSの仮説検証を行おうとしています。Uniphierは、日経エレクトロニクスでも誕生までの経緯をドキュメンタリーで特集したほど画期的なもので、デジタル機器の開発コスト低減及び筐体そのものの狭小化にまで貢献したものだと思うのですが、この点は著者があまり技術的に不案内なせいか、パナソニックが提供した情報をそのまま使っていて、ちと切り込み方が足らないように思いました。あと、技術経営の問題としてUniphierを取り上げるのがいいのかどうか、ちと迷うところです。発想は優れているんですが、それはMOT云々を議論するまでもなく技術的に必要だから開発したように思えてなりません。

続いてシャープの場合。何と言ってもシャープは液晶技術を今日あるまでに磨き上げた功労者ですし、単機能から高機能商品へと進化させた(シャープはこれをスパイラル展開とよく言っています、私の恩師はトリクルアップと言っています)手法は、技術経営の成功例として長く語り続けられるのだと思っています。しかし、残念ながらこの部分の切り込み方も今一つでした。

最後に、統計データに基づく検証です。ここでは、売上高、営業利益、研究開発費、特許登録件数と、そしてここが面白いのですが、登録特許の累積消滅率(つまり権利放棄された件数の累積の率)との関係を見ています。この、登録特許の累積消滅率は、その企業が。どれだけ市場有用性のある技術を生み出しているか(市場有用性があれば権利維持する、市場有用性がなければ権利放棄する)を示す指標として取り扱っています。なかなか面白いのが、エレクトロニクス企業の登録特許消滅率の年別推移を見ると、幾つかの群に分かれるのだそうです。つまり、ここ20年間、登録特許消滅率が低いまま推移している企業、20年というスパンで見ると登録特許消滅率が低下している企業、そして、20年というスパンで見ると登録特許消滅率が上昇している企業、です。何故かと言うことについて、各社のCTO等にヒアリングをしていますが、本当のところはよくわからないように思います。特許戦略という観点からは量から質への変化はあったものの、登録特許消滅率との関係は何とも言えません。低いのが理想的であるようにも思いますが、一方で技術の陳腐化により一定の特許については必然的に放棄せざるを得ないわけで、低い=善とも言えません。また、相関分析により、登録特許消滅率の上昇が営業利益率に対して負に働くことが明らかにされていますが、これも因果関係が複雑なので、この事実だけで何か言えるかどうか何とも言えません。

と言うことで、あまりインパクトもなく、コンセプトに新味もなく、どうも読了感の薄い本でした。博士論文をほぼそのまま書籍化されたそうですので、次回に期待したいと思っています。


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