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西口泰夫「技術を活かす経営」を読んで

最近、MOT関係や知財関係の新刊書籍をめった切りしているこの書評、本日も比較的めった切り状態でご紹介しますcoldsweats01そのうち夜道を歩けなくなるかも(んなわけないか)bleah

本日は「技術を活かす経営-「情報化時代」に適した技術経営の探求」という書籍です。著者は、なんと天下の京セラの会長兼CEOを務められた後、学究心に燃えて同志社大学のMOT大学院に進学され、最終的に技術経営博士の学位を取得されたという、非常に面白い経歴を持たれた方です。京セラ時代から技術経営の必要性を痛感され、これがMOT大学院に進学された動機になっているようです。同志社大学のMOT大学院というと山口栄一教授という、確かNTTの半導体レーザーの研究をされた後にMOTの道に進まれた(その経歴から青色半導体レーザーの職務発明訴訟の時には幾つか論文を出されていました)有名な方がいらっしゃるんですが、指導教授は違う方のようです。

内容は、日本電気機器産業の収益率低下と低迷を幾つかの客観的データに基づいて示した後、戦後の電気機器産業にどのようなパラダイムシフトが生じたのかを先行研究及び統計データに基づいて明らかにし、さらに、情報化時代に適した技術経営に必要なものは5つの構成要素、つまり①経営戦略と技術戦略の一体化、②オープン・イノベーション、③市場ニーズの的確な把握、④知識経営(人・組織のもつ知識の共有化と活用)、⑤人・組織の有機的活用であることを先行研究から明らかにし、この新しい技術経営のコンセプトをOIBMS(Open Integrated Business Management System)と名付け、このコンセプトの妥当性を事例研究及び統計データから明らかにしようとしたものです。

この本の最初に挙げられた日本電気機器産業の収益率低下と低迷、そして戦後の電気機器産業にどのようなパラダイムシフトが生じたかについては、ご存じ東京大学知的資産経営統括寄付講座特任教授の小川紘一氏のデータを大幅に引用しています。余談ながら、小川教授の説はMOT業界のみならず幅広く影響を及ぼしているようで、経産省や特許庁の役人も注目をしているようです。小川教授の著書については、また日を改めてご紹介するつもりでいますが、その時もちょっとだけめった切り状態になりそうです。

著者が提唱しているOIBMS、組み合わせが斬新なのかもしれませんが、個々の構成要素は先行研究で十分明らかになっているもので、特許的には進歩性なしという言い方になるように思えます。学術研究だといいのかなぁ。逆に言うと、京セラ時代はこういった技術経営ができていなかったのでしょうか。ご存じ、京セラはアメーバ経営で知られるように経営手法には独特のものがあると思うので、そんなに反省することもないんでは、と思わなくもないです。

で、OIBMSの仮説の妥当性を検証するための事例研究は、パナソニックとシャープの経営手法から構成されています。パナソニックの場合、ご存じ中村社長(当時)が就任して劇的なV字回復をしました。この辺りの事情と、そして、ご存じの方も多いと思いますが、パナソニックが開発したAV機器を中心としたデジタル機器における統合プラットフォームであるUniphierの生みの親である古池副社長(当時)へのインタビューからOIBMSの仮説検証を行おうとしています。Uniphierは、日経エレクトロニクスでも誕生までの経緯をドキュメンタリーで特集したほど画期的なもので、デジタル機器の開発コスト低減及び筐体そのものの狭小化にまで貢献したものだと思うのですが、この点は著者があまり技術的に不案内なせいか、パナソニックが提供した情報をそのまま使っていて、ちと切り込み方が足らないように思いました。あと、技術経営の問題としてUniphierを取り上げるのがいいのかどうか、ちと迷うところです。発想は優れているんですが、それはMOT云々を議論するまでもなく技術的に必要だから開発したように思えてなりません。

続いてシャープの場合。何と言ってもシャープは液晶技術を今日あるまでに磨き上げた功労者ですし、単機能から高機能商品へと進化させた(シャープはこれをスパイラル展開とよく言っています、私の恩師はトリクルアップと言っています)手法は、技術経営の成功例として長く語り続けられるのだと思っています。しかし、残念ながらこの部分の切り込み方も今一つでした。

最後に、統計データに基づく検証です。ここでは、売上高、営業利益、研究開発費、特許登録件数と、そしてここが面白いのですが、登録特許の累積消滅率(つまり権利放棄された件数の累積の率)との関係を見ています。この、登録特許の累積消滅率は、その企業が。どれだけ市場有用性のある技術を生み出しているか(市場有用性があれば権利維持する、市場有用性がなければ権利放棄する)を示す指標として取り扱っています。なかなか面白いのが、エレクトロニクス企業の登録特許消滅率の年別推移を見ると、幾つかの群に分かれるのだそうです。つまり、ここ20年間、登録特許消滅率が低いまま推移している企業、20年というスパンで見ると登録特許消滅率が低下している企業、そして、20年というスパンで見ると登録特許消滅率が上昇している企業、です。何故かと言うことについて、各社のCTO等にヒアリングをしていますが、本当のところはよくわからないように思います。特許戦略という観点からは量から質への変化はあったものの、登録特許消滅率との関係は何とも言えません。低いのが理想的であるようにも思いますが、一方で技術の陳腐化により一定の特許については必然的に放棄せざるを得ないわけで、低い=善とも言えません。また、相関分析により、登録特許消滅率の上昇が営業利益率に対して負に働くことが明らかにされていますが、これも因果関係が複雑なので、この事実だけで何か言えるかどうか何とも言えません。

と言うことで、あまりインパクトもなく、コンセプトに新味もなく、どうも読了感の薄い本でした。博士論文をほぼそのまま書籍化されたそうですので、次回に期待したいと思っています。


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