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2010年4月

長谷川曉司「御社の特許戦略がダメな理由」を読んで

ゴールデンウィーク直前に記事を更新すると、きっと誰の目にも触れることなく記事が埋もれていきそうなんですが、ま、それもいいかとhappy01

本日は、一部の知財関係者で話題になっている書籍「御社の特許戦略がダメな理由」をようやく読み終えましたので、その感想をば。

著者は、東大知的資産経営統括講座の小川教授が、記録式光ディスクの色素化合物に関する事業+特許戦略を取り上げて好意的に評している(このページの小川教授の論文をご覧下さい←PDFなので直リンクしません)三菱化学の元知的財産部長でおられた長谷川曉司氏です。残念ながらお会いしたことはない(私は一平社員ですので当たり前ですが)ので、色素系記録式光ディスクの特許戦略に長谷川さんがどこまで関与されたかは存じ上げないのですが、時期的にはきちんと重なるので、多分相当関与されたのだろうと推測します。

この著書の内容を一言で言えば、「特許戦略は事業、研究、知的財産の三部門一体で考えるべき」ということになります。ん?当たり前では、と思われた方も多いでしょう。しかし、それが、実は当たり前のことではなく、かなりの企業においても特許戦略を種々検討して実行していても、結果的に特許戦略自体に抜け穴があって、当該事業に資することができていない、という実例を紹介し、どうすれば事業に資する特許戦略が実行できるのかということを、ご自身の経験を交えて平易に説明されています。

何が当たり前でないのかと言うことは、例えば、新規事業に係る基本発明を自社で創出し、この基本発明についてどのような視点で特許出願を行うべきか、ということを例に出しています。筆者は化学系企業に勤務されていますので、化学系企業で行われているであろう開発手順に基づいて考えると、発明者=研究者は自身の発明の範囲を確定すべく、様々な条件を変化させて実験例を積み上げ、最適な条件を探索し、これに基づいて特許請求の範囲を決定しようとします。しかし、問題となるのは、それでは競合企業がこの基本発明を回避すべくプロセスを変化させ、あるいは添加物を変化させ、あるいは実験の条件を変化させて、その結果、実用に足る(基本発明に基づく製品ほどの画期的な効果がなくとも)成果物が得られるのであれば、研究者が自身の実験例に基づいて画定した特許請求の範囲に抵触しない実施が可能となるかもしれません。従って、出願をするに当たって、自社実施の観点からのみ特許請求の範囲及び実施形態、実施例を記載するのではなく、他社が回避しようとしても回避しきれない特許請求の範囲を検討すべきではないか、ということです。ただ、これをあまり追求するがあまり実施形態、実施例でのサポートが不十分であると、当然特許法36条6項に言うサポート要件の問題が出てきますので、一定の限界はあります。

自社実施の確保のみならず他社実施の排除、そして回避努力の結果他社参入の遅延(望ましくは撤退)をもたらすような特許戦略というのは、概念的には知財担当者は誰も理解しているのだろうと思っています。そして、事業部門、研究部門と連動せずに特許戦略を策定することは、さすがに現在の企業であれば(特に知的財産実務を長年行っている部署を持つ企業であれば)行っていないとも思っています。しかし、実際に目の前にある発明を見た時に、果たしてどこまで知財部門が知恵を巡らせて権利形成業務を行っているか、あるいは知恵を巡らせた結果が至らなかった、ということになっていないか、実務的には難しいところかもしれません。

特に、この本は極めて平易に書いてありますから、知財部門の責任者ではなく日々権利形成業務を行っている知財担当者、そして事業統括者の方々が読んでいただき、それを日々の業務に反映していただくのがよいのではないか、と思うのです。この本は、パテントポートフォリオを作れとか先進的な検索ツールを使ってパテントマップを作れとか、見たところ前衛的で興味をそそられるようなことを要求していません。日々の実務においてどのような心構えでいるべきか、ということを書いています。その意味で実に真っ当なことだけしか書いていないのですが、その真っ当なことを愚直に追求しているかどうか、知財担当者であればご自身の日々の実務について振り返っていただきたいのです。

あと、おまけで私見を。筆者は単一企業にずっと勤務されているご様子で、従って、その企業の部門分けを前提にして、いわゆる三位一体の行動を事業部門、研究部門、知的財産部門と捉えておられますが、会社によっては当該事業に研究部門(研究所と言い換えてもいいかもしれません)が関与しないこともあり得ますので、研究部門の代わりに営業部門(好ましくはマーケティング部門)との協議を加えるべきではないか、と思います。また、基礎研究については事業部門が関与しないこともあり得ます(この点については著書内で言及されていますが)ので、この場合は研究部門+知的財産部門による協議で足りると思われます。要は、ビジネスを念頭に置いて特許戦略を立案しないと、抜け穴があるのではないですか、ということです。

と言うことで、私にしては非常に好意的な書評でした。ちゃんちゃんhappy02


このところの特許事務所業界を伝聞するに(その2)

週一のご無沙汰です。本日は、前回のBLOG記事の続きを。と言っても、そんなに大した内容ではありませんので、あまり期待されないように。

前回は、現在の特許事務所業界の構造について考え始めてみました。特許事務所業界と一言で括るのは大変なんですが、ざっくり分けてみるとこんな感じかと思います。①大企業からの大量の案件を主に担当する大規模事務所、②歴史が古く、海外企業からの案件(よく「外内案件」と言います)が占める割合が大きい事務所(結構大規模事務所が多いです)、③出願関係書類の質の高さで企業から定評の高い事務所(大抵は中小規模の事務所です)、④中小企業からの案件が多数を占める事務所(地方を中心に多いです、流行りの知財コンサル的な業態に近づいている事務所もあります)。①と③は大企業からの受件が主です。②も海外の大企業が中心の場合が多いです。前回の記事で取り上げた「一人事務所」は③の場合が多いです。歴史の古い事務所は①か②に分類されると思いますが、①の中には創業20~30年程度の、所長一代で築き上げた、ある意味立身出世伝的な事務所もかなりあります。ちなみに、「大規模」とはどの辺りかというと、私の考えでは大体所員100名が一つの区切りかな、と思っています。①の事務所の中には、「粗製乱造」と陰口を叩かれている事務所も含まれているように思います。

ちょっと古い資料ですが、数年前に特許庁が各年の出願件数上位50事務所の実名を公開したことがあります。一番新しいのが2004年で、この資料自体はWebの波に飲まれてしまい、どこかに散逸しているようですが、その資料を引き写したと思われるページが有りますのでご紹介します。それ以前の資料はこちらです(PDFですのでご注意を)。それ以降、こういった統計は公表されていませんが、ある会社が似たような資料を作っています(特許事務所年鑑)。①にいう大規模事務所、及び②にいう外内案件中心の事務所がずらっと並んでいます。ただ、前回の記事で述べたように、大企業からの受件件数が2008年、2009年とがた減りした関係で、もし同じような統計をとるとランキングはがらっと変わっているはずです。

今後の特許事務所業界を考えると、①の事務所は経営的に安定していると思われていましたが、大企業が出願件数を一気に控えると、①の事務所は多数の事務所員を抱えていますので、固定費の中に占める人件費の割合が非常に大きいですから、ここが経営上のネックになり得ます。事実、①の事務所の副所長待遇の知人に聞いても、なかなか状況は厳しいとボヤいていました。今後、日本の大企業が国内出願件数を増加させることは考えにくいので、①の事務所については適正規模にどうやって企業形態を変化させるかが課題になると思います。加えて、企業はある程度の案件を依頼する代わりにボリュームディスカウントを要求することがあります。特許事務所において規模の経済や範囲の経済が適合するかについては議論があるかと思いますが、安定的な受件を可能にするためにはやむを得ないものとして受諾する特許事務所もあると思われます。こうなると、企業全体の出願件数が減少する中で、ボリュームディスカウントに応じる事務所のみが受件件数を減らさずに継続的な取引が可能になる一方、収支的には決して楽ではない状況が待っています。

②の事務所については、日本市場が海外企業にとって魅力的であり続けるならば、元々海外企業は大量出願をしない体質ですので、安定的な経営が可能のようにも思えます。しかし、これも、「日本市場が魅力的である」という際どい条件下において成立するものですから、今後安泰であり続けるかどうか、なんとも言えません。

③については、そもそも書類の質(手続全体の質と言い換えた方がいいかもしれません)を理由に企業から選別されているのですから、①の事務所のような急激な受件数の変動に見舞われることはなさそうです。このような事務所の場合、大規模化はなかなかに困難です。つまり、所員の仕事の質をコントロールするには手間がかかるので、一気に人材を雇用するとOJTが間に合わなくなり、質の低下を招き兼ねないこともあり、徐々にしか所員を増やせません。ただ、それは本質的な問題ではなく、そもそも大規模化を目指す必要があるのかという根本的とも言える疑問がありますので、それほど気にする必要はないかと思います。③については、前回指摘した一人事務所の問題がありますので、ここについては注意が必要だと思います。

④は、ここに来て脚光を浴びているように見えるのですが、実は中小企業は1社当たりの特許出願件数はそれほど多くないので、事務所の安定経営という観点からは結構難しい課題を抱えています。加えて、クライアントたる中小企業の経営自体も不安定なところが相当割合を占めていますので、手数料の未収が結構な確率で起こり得ます。事務所がある程度大きくなれば貸し倒れ引当金的な対応も可能でしょうが、事務所が小規模な場合はそれも難しいと思います。加えて、知的財産制度全般への理解が至っていない企業、担当者が中小企業の場合大企業よりも割合が大きいと思われ、それが原因で事務所との間でコミュニケーション不足による誤解が生じ得ます。当然、代理人たる弁理士は相当の説明義務を負いますが、コミュニケーションとは相手方がどのように受容するかによっても変わりますので、なかなか難しい問題です。こんなこともあって、弁理士業界全体として中小企業をクライアントとすることに対して若干腰の引けるところがあったように思っていたのですが、昨今の風潮はそういった事情を全く語らずに中小企業振興という観点のみから知的財産コンサルティングを推奨するように見えます。ですから、④の事務所はハイリスクハイリターンと成り得る可能性があることを念頭に置かないといけないと思っています。

…ああ、また時間切れです。続きはそのうち。

このところの特許事務所業界を伝聞するに

本日も短めに。

弁理士業界が、国内特許出願の大幅減少に伴って一部事務所が経営的に厳しい状況になっている様子ですが、さて、この現象はどれだけの事務所に当てはまるのか、色々な事務所に聞いているわけではないのですが、厳しいところは厳しいと(当たり前か)言えそうです。

どういうことかと言うと、リーマンショック以降の世界不況の影響で国内特許出願件数を大幅に減少させているのは、いわゆる大企業が多いと思われ、この影響を受けて、大企業からの国内特許出願に基づく代理手数料を経営の中心に置いている特許事務所は、経営的に厳しい状況にあるように聞いています。当然、中小企業は大企業以上に一般的には経営が厳しいのだと思いますが、中小企業の国内特許出願件数が日本国特許庁への特許出願件数に占める割合はそれほど大きくなく(大体10%程度だと言われています←特許庁も正確な統計数字を持っていないようです)、従って、大企業の国内特許出願件数如何で日本国特許庁への特許出願件数が大きく変動し、これが弁理士業界全体に与える影響も大きくなるわけです。

とは言え、大企業からの受任件数の割合が大きい特許事務所が一律に経営が厳しくなったのかと言われると、実はそうでもなさそうです。このご時世に特許出願代理件数がまだまだ増加していると豪語している特許事務所はあまり聞きませんが、経営的に横這い状態にあると思われる特許事務所は存在するようです(あくまでも伝聞ですが)。何が秘訣なのか、そういった特許事務所の方に直接聞く機会がないので推測の域を出ませんが、多分、今まで言われていた個別の特許事務所の独自性がより問われることになり、何らかの形で差別化ができた特許事務所は世界不況による大打撃を大きく被ることがなかったのだろうと思われます。この辺り、企業がどの特許事務所を選定するかというのは企業毎に固有のポリシーを持っており、しかも、案件毎に担当者が特許事務所を選定する余地がある企業もあり得るでしょうから、「何が」を特定することは非常に困難な作業であり、従って、ごく一般的な言い方しかできずに申し訳ありません。

特許事務所の独自性については随分前から指摘されていた事項であり、当然、殆どの特許事務所は自身の独自性について個別に考察し、追求してきたところではあるのですが、それが見える形で発揮されているのか、また、企業のニーズとマッチしているのか、という観点で選別の対象になっていると思えます。例えば、これも随分前から話題になっていたこととして、当該特許事務所に所属する弁理士が1名しかいない(俗に「一人事務所」と言います)特許事務所の場合、当該弁理士に不測の事態が生じた際に案件を継続して対応していただけるのかという不安が生じ得ますので、一人事務所には案件を依頼する割合を徐々に減少するという対応を企業が取ることも考えられます。しかし、現時点でこの一人事務所は日本に存在する特許事務所の70%近く存在し、所属する弁理士の割合も30%程度いらっしゃいます(参考資料←PDFです)。弁理士資格を取得される方は独立志向が高く、しかも、ご自分の意思を明確に持たれていますから、一人事務所が多いのも納得の行くところなのですが、事務所の継続性という観点からすると難しいことも多々あるかと思います。当然、独立志向の高い弁理士が複数人集まって事務所を運営する難しさもありますので、一人事務所である理由も理解できる(そもそも、事務所設立当初から複数人の弁理士が集まっているケースは、どちらかというと少数派でしょうから←最近増えてきていますが)のですが、一人事務所からの脱却は時代的に求められているようにも思います。

…あ、もうこんな時間だ。まだ続きがありますので、そのうち書きます。

直近の特許出願件数の動向を見て

本日は情報提供、ということで。

2009年は知財業界にとってリーマンショック後ということで激動の時代でした。米国では聞くところによるとレイオフの嵐が吹き荒れ、伝統のある特許事務所も解散を余儀なくされました(記事参照)。米国の特許出願件数も2009年(10/1で締めた数字なのでご注意)は2008年から比較して1万件弱減少しています(資料)し、日本の特許出願も2009年は30万件をようやく超えたのではないか、との噂です。

そんな中、中国知識産権局から2009年の特許(発明専利)件数の統計が発表されました(資料)。この資料によると、2009年の中国の特許出願件数は、2008年の289,838件から8.5%伸びて314,573件になったとのことです。日本の特許出願件数の発表(速報値)がもうすぐですが、もしかしたら日本の特許出願件数は中国にも追い抜かれた可能性があります。

この資料の中で注目すべきは、(国内・海外出願人で分けて発表していて見にくいんですが)特許出願人ランキングにおいてここ何年かトップに君臨していたHuaweiに取って代わって、ライバル企業のZTEが5,427件でトップになり、Huaweiは2,813件で2位に転落しています。また、ここ数年中国においても大量の特許出願をしていたSamsungが1,063件と出願件数を急激に減少させています。日本企業だと、それまでトップであったパナソニックが海外出願人ランキングで2位となり、件数を若干減らしています。

この事実を聞いて思い出したのが、先日BLOGでも紹介した、Samsung及びHuaweiの特許担当者の講演内容でした。確かに、Samsungの担当者は「出願件数を減らしています」と述べていましたし、Huaweiの担当者は「海外出願の件数はまだまだです」と述べていました。つまり、これら2つの企業は、出願件数を競う段階から戦略的な出願を行う段階に移行した、ということです。図らずもこの傾向が出願件数(Samsungは外国出願、Huaweiは国内出願)の減少という形で表れたわけです。

さて、この事実をどう考えるか。色々解釈があると思うのでここでは皆さんのお考えに任せたいと思いますが、知財業界もグローバル化が更に進展し、出願のメインとなる戦場が刻々と変化している、と言うことは事実です。弁理士業界は何を考えなければいけないのか、企業の知財部門は何を考えなければいけないのか、熟考が必要だと思います。

KSR判決とハイテク・スタートアップ(笑)

昨日は昼間から夜まで多忙な生活を送り、そのことをBLOGに書こうとも思ったんですが、あまりに夜遅くて力尽きてしまいましたbearing。やっと、少し余裕ができたので、忘れないうちに書くことにします。

昼間は、弁理士会の研修でした。題名は米国判例セミナーということで、ご存じKSR最高裁判決(参考記事)により米国103条に言う非自明性(non-obviousness)の判断基準に修正が加えられましたので、そのKSR判決後においてCAFCがどのような判断をしているのかについての解説がありました。

KSR判決前までは、ご存じの方も多いと思いますが、CAFCを中心としてTSM(Teaching, Suggestion, Motivation)テストと呼ばれる厳格な基準により非自明性が判断されており、これがために日本の審査慣行では進歩性なしと思われる案件でも非自明性が認定される案件が見られていました。今回、KSR判決では、TSMテストの厳格な適用を排除し(TSMテストを否定してはいません)、より柔軟なアプローチが必要であるとの判断がされました。

で、KSR判決後どうなったかというと、CAFCの注目判決を並べてみた限りでは、日本の進歩性の判断基準にかなり近くなり、ある意味で妥当性のある結論が得られているという感があります。つまり、非自明性の判断基準が厳しくなったということで、このせいか、機械・電気分野を中心に特許査定率がKSR判決を境にかなり低下したとの数字が紹介されていました。

…とまぁ、これはこの話だけで終わりそうなんですが、研修を聴講していて考えていたのが、進歩性、あるいは非自明性の判断というのは、詰まるところ当業者であるエンジニアなり研究者がどんな思考経路を辿り、普通の当業者だったらここまでは考え付くだろうから、その先を行く発明だったら特許性を認めてもいいよ、という、ある種のエンジニアの思考トレース実験みたいなものだと、改めて思いました。様々な判断基準が過去出てきており、その妥当性が数多くのケースで吟味されてきたわけですが、どうやったらエンジニアの思考経路をきちんとトレースできるか、ということが最大のポイントだと言うことです。加えて言えば、エンジニアはどの範囲までの技術知識を知りうるのか、ということを試されているわけであり、進歩性の判断基準は、出願検討の際の先行技術調査の技術範囲も画定する機能を持っています。こう考えると、無効審判で出される引例は、どこから探してきたんだろと思うほどかけ離れた文献であることがままありますので、出願時にどこまで手当てすればいいのか、と悩むところでもあります。

続いて、夕方は、法政大学イノベーション・マネジメント研究センター主催の第13回講演会「ハイテク・スタートアップの国際比較」に参加してきました。今回の講演会、『ハイテク・スタートアップの経営戦略』という書籍の発刊記念で、この書籍を執筆された5人の著者が講演される、というものです。その中のお二方を以前から存じ上げていること、しかも、私が芝浦工大MOTに通っていた頃の所属研究室が、このハイテク・スタートアップを研究しているところで、私も、ハイテク・スタートアップの知的財産戦略について修論を書いたこともあり、是非行かねば、と行ってきたところです。

さて、この「ハイテク・スタートアップ」という用語、馴染みのない方も多いかもしれません。通常、日本だと「ベンチャー企業」という言い方がよくされるのですが、ベンチャー企業について定義をすると、小規模で立ち上げた飲食店や小売業もベンチャー企業と呼べなくもないです。では、「技術ベンチャー企業」と呼べばいいのかというと、今度は中小企業との差が出てきません。厳密に定義するのは難しいですが、例えば創業から発展段階にあるMicrosoftやGoogle(バイオベンチャーはあまり名前を聞いても「?」の方が多いでしょうから省略します)を指して「ハイテク・スタートアップ」という言い方をしています。自分にとっても、このハイテク・スタートアップは身近な存在であり、また、日本の今後の産業競争力の回復のためにも、ハイテク・スタートアップの成功は欠かせないものではないか、と思っています。

書籍及び講演では、米国(シリコンバレー地域)、英国(ケンブリッジ地域)、台湾(新竹地域)、そして日本のアカデミック・スタートアップ及び民間スピンアウトについて、概括と個別企業の研究を行っていました。詳細は書籍に譲るとして、かなり広範にハイテク・スタートアップについて調査をした日本語の文献は数少ないので、大変参考になりました。と同時に、日本は何をすべきなのか、ちと考え込んでしまいました。

よく言われるのはインフラ面の不足と人材不足です。インフラ面の不足とは、多様な出資形態、政府の積極的な援助、ハイテク・スタートアップを援助する弁護士、会計士、弁理士の不足を指します。人材不足とは、ハイテク・スタートアップを運営するに当たって、その発展フェーズに合わせた人材、例えば、創業当時は優秀なエンジニアと経営に長けた人材、規模拡大に伴って営業面や管理面を担当する人材、IPOするならばそれに先立ってファイナンス面をサポートする人材などの不足、そして、根本的に、起業精神を持った人材そのものの不足を指します。ただ、こればかりは、鶏が先か卵が先か、という議論に近いものがあり、そもそもハイテク・スタートアップの成功例というかロールモデルがここ数十年日本に存在しないと言っても過言ではない(先日このBLOGで紹介した元京セラの谷口社長の本によると、京セラ以降電機関連ではハイテク・スタートアップで大企業になった企業はいないと断言されていました)状況で、日本のハイテク・スタートアップ企業は非常に苦しんでいるのであるし、起業精神を持たねば、と激励されている若者を中心とした世代にとっても、失われた10年(15年かな)で父親世代が苦労している姿を見ている中で、安定志向に走るのはむべなるかな、とも言えます。とは言うものの、このままでいいわけではないので、できるところから変えていかないといけないのも事実です。

その後懇親会がありましたので、以前から存じ上げていた講師の方のお一方とお話をさせていただきました。その方は、大手銀行のVCで長年投資案件の審査をされていて、その後、MBAに行かれたことを契機に大学教授の職を得られた方です。その方が嘆いておられたのが、5年前に任官した頃と比べてどんどん起業精神を持っている学生の数が減っていて、全般的に安定志向になっている、とのことでした。私は、上に書いたような理由もあるので仕方ないとは思いつつ、しかし、(これは私の知財部門の部門長が言ったことでもありますが)安定志向で選んだ企業が10年後、20年後どうなっているのかわからないんだから、安定志向だけで企業を選んでも後々悔やむこともあり得るだろう、先を見て考える必要があると思うんですけどね、という話をしました。また、その方が言うには、日本人は起業精神がないと言われるが、以前は起業精神がある人間はその起業精神を持ちながら企業に就職し、その中で自己実現を図っていたのではないか、ということでした。確かに、かつては企業に勤務するということはやりたい事をやる、楽しいことをやるためのものであったと思います。ソニーの盛田ファウンダーは、入社式において「ソニーのことを気に入らなければお互いに不幸だから辞めていただいた方がいい」という、ある種ショッキングなことを発言されたそうですが、実はこの発言、至極当たり前のことを言っているのだと思うのです。無理して働いてもいいことはその人にとっても会社にとってもありません。入社がゴールではなくスタートなんですから、そこで何ができるか、を考える必要があります。当然、やることが見つからないと言って転々と転職していたのでは、結局何も身につきませんから、真剣に考えないといけないわけですが。

ハイテク・スタートアップの話は、自分にとってはMOT大学院で終わった話ではなく、大きな言い方をすればこれからの日本の将来をどうするかという観点でずっと考えるべき事項だと思っていますし、知財コンサル活動との関連も非常に深いので、まだまだ宿題にしておきたいと思っています。と言うことで、早速書籍を買ってしまいました。読まなきゃ。


知財情報が持つポテンシャル

このところ業務多忙なこともあり、全然BLOGの更新ができていませんcoldsweats02。パテントサロンの知財系ブログの記事公開が停止されてしまったので、このサイトに直接おいでいただかないと更新の有無がわからない(iptopsを毎日チェックしていただくのも手なんですが)わけで、毎日更新されているかどうかおいでいただいている方には、更新が滞っているのが申し訳ないです。短めでもいいから、とにかく更新を続けますので、今後ともよろしくお願いいたしますm(_ _)m。

と言うことで、本日の記事はエッセンスだけで。

少々古くなりましたが、日本知財学会誌の最新号が届きました。今号の特集は知財情報が持つポテンシャルということで、知財情報から何が読み解けるかということにスポットを当てた論文が並んでいます。知財情報は、アンケート集計と異なり、企業の知財活動、そしてその背後にある研究開発活動がストレートに反映されていますので、企業の姿を曲解することなく把握できるのではないかとの期待で、知財学を専攻している学者のみならず、イノベーション論や計量経済学を専攻する学者、さらには企業経営論(特に企業内の組織論)を専攻する学者の中にも注目されている方が出てきており、ある意味トレンドとも言えます。ただ、知財情報を何らかの形で企業経営に資する数字に変換するのはなかなか難しく、各社とも試行錯誤しているのが現実です。余談ですが、知財管理の2010年3月号に、「経営戦略に活かすための特許解析手法の研究」として、様々な指標が紹介されています。なかなか参考になる文献ですので、ご覧になってはいかがでしょうか。

企業が知財情報から知財戦略を立案する、あるいは研究開発戦略、事業戦略を立案する際に、色々なフェーズを考えることができます。まず、研究テーマを立案する際には、候補となる研究テーマに関する競業他社の出願・権利状況を調査し、可能であれば当該研究テーマの将来性を競業他社の出願・権利状況から推測します。この場合は、技術単位の調査・検索になりますので、書籍「実践 知的財産戦略経営」の言い方を借りるとセミマクロ分析になります。次いで、研究・開発テーマに沿って自社特許ポートフォリオを構築する段階になると、同様に競業他社の出願・権利状況をアップデートしながら進めますので、セミマクロ分析が必要になります。製品開発に際して注意すべき競業他社の権利があった場合、当該権利に関する評価が必要になります。この場合はミクロ分析をすることになります。そして、自社出願の権利形成活動、そして権利取得後の権利維持要否検討活動に際しては、これも個別の案件になりますので、ミクロ分析が必要です。最後に、企業体としての知財戦略、そして事業戦略、経営戦略を立案する際には、企業単位での検討が必要ですので、マクロ分析を行うことになります。

さて、上述の日本知財学会誌では、特許の(被)引用数を用いた知財情報分析手法が幾つか紹介されています。注意すべきは、特許の(被)引用数情報というのは権利成立時、あるいは成立後でないと測定することができず、しかも、被引用数については、後日続々と権利が成立していきますので、定期的なupdateが必要だ、ということです。(被)引用数を用いた分析は、上述の企業が実際に行う知財情報分析手法の中で利用することはできるのですが、あくまでもその時点での過去の実績を表しているに過ぎず、時々刻々と変化する事象に対応することは難しいですし、ましてや将来を予測することはできません。日本知財学会誌に掲載された論文はあくまでも学術的観点に立ったものですから、企業での応用は個別企業にお任せします、というスタンスなのだろうと思うのですが、逆に、そのギャップをアカデミー側が埋める努力をするとそこにビジネスチャンスがある気がしてなりません。ま、私が考えたらその分は自分の儲けになるんでしょうがねbleah

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