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このところの特許事務所業界を伝聞するに(その2)

週一のご無沙汰です。本日は、前回のBLOG記事の続きを。と言っても、そんなに大した内容ではありませんので、あまり期待されないように。

前回は、現在の特許事務所業界の構造について考え始めてみました。特許事務所業界と一言で括るのは大変なんですが、ざっくり分けてみるとこんな感じかと思います。①大企業からの大量の案件を主に担当する大規模事務所、②歴史が古く、海外企業からの案件(よく「外内案件」と言います)が占める割合が大きい事務所(結構大規模事務所が多いです)、③出願関係書類の質の高さで企業から定評の高い事務所(大抵は中小規模の事務所です)、④中小企業からの案件が多数を占める事務所(地方を中心に多いです、流行りの知財コンサル的な業態に近づいている事務所もあります)。①と③は大企業からの受件が主です。②も海外の大企業が中心の場合が多いです。前回の記事で取り上げた「一人事務所」は③の場合が多いです。歴史の古い事務所は①か②に分類されると思いますが、①の中には創業20~30年程度の、所長一代で築き上げた、ある意味立身出世伝的な事務所もかなりあります。ちなみに、「大規模」とはどの辺りかというと、私の考えでは大体所員100名が一つの区切りかな、と思っています。①の事務所の中には、「粗製乱造」と陰口を叩かれている事務所も含まれているように思います。

ちょっと古い資料ですが、数年前に特許庁が各年の出願件数上位50事務所の実名を公開したことがあります。一番新しいのが2004年で、この資料自体はWebの波に飲まれてしまい、どこかに散逸しているようですが、その資料を引き写したと思われるページが有りますのでご紹介します。それ以前の資料はこちらです(PDFですのでご注意を)。それ以降、こういった統計は公表されていませんが、ある会社が似たような資料を作っています(特許事務所年鑑)。①にいう大規模事務所、及び②にいう外内案件中心の事務所がずらっと並んでいます。ただ、前回の記事で述べたように、大企業からの受件件数が2008年、2009年とがた減りした関係で、もし同じような統計をとるとランキングはがらっと変わっているはずです。

今後の特許事務所業界を考えると、①の事務所は経営的に安定していると思われていましたが、大企業が出願件数を一気に控えると、①の事務所は多数の事務所員を抱えていますので、固定費の中に占める人件費の割合が非常に大きいですから、ここが経営上のネックになり得ます。事実、①の事務所の副所長待遇の知人に聞いても、なかなか状況は厳しいとボヤいていました。今後、日本の大企業が国内出願件数を増加させることは考えにくいので、①の事務所については適正規模にどうやって企業形態を変化させるかが課題になると思います。加えて、企業はある程度の案件を依頼する代わりにボリュームディスカウントを要求することがあります。特許事務所において規模の経済や範囲の経済が適合するかについては議論があるかと思いますが、安定的な受件を可能にするためにはやむを得ないものとして受諾する特許事務所もあると思われます。こうなると、企業全体の出願件数が減少する中で、ボリュームディスカウントに応じる事務所のみが受件件数を減らさずに継続的な取引が可能になる一方、収支的には決して楽ではない状況が待っています。

②の事務所については、日本市場が海外企業にとって魅力的であり続けるならば、元々海外企業は大量出願をしない体質ですので、安定的な経営が可能のようにも思えます。しかし、これも、「日本市場が魅力的である」という際どい条件下において成立するものですから、今後安泰であり続けるかどうか、なんとも言えません。

③については、そもそも書類の質(手続全体の質と言い換えた方がいいかもしれません)を理由に企業から選別されているのですから、①の事務所のような急激な受件数の変動に見舞われることはなさそうです。このような事務所の場合、大規模化はなかなかに困難です。つまり、所員の仕事の質をコントロールするには手間がかかるので、一気に人材を雇用するとOJTが間に合わなくなり、質の低下を招き兼ねないこともあり、徐々にしか所員を増やせません。ただ、それは本質的な問題ではなく、そもそも大規模化を目指す必要があるのかという根本的とも言える疑問がありますので、それほど気にする必要はないかと思います。③については、前回指摘した一人事務所の問題がありますので、ここについては注意が必要だと思います。

④は、ここに来て脚光を浴びているように見えるのですが、実は中小企業は1社当たりの特許出願件数はそれほど多くないので、事務所の安定経営という観点からは結構難しい課題を抱えています。加えて、クライアントたる中小企業の経営自体も不安定なところが相当割合を占めていますので、手数料の未収が結構な確率で起こり得ます。事務所がある程度大きくなれば貸し倒れ引当金的な対応も可能でしょうが、事務所が小規模な場合はそれも難しいと思います。加えて、知的財産制度全般への理解が至っていない企業、担当者が中小企業の場合大企業よりも割合が大きいと思われ、それが原因で事務所との間でコミュニケーション不足による誤解が生じ得ます。当然、代理人たる弁理士は相当の説明義務を負いますが、コミュニケーションとは相手方がどのように受容するかによっても変わりますので、なかなか難しい問題です。こんなこともあって、弁理士業界全体として中小企業をクライアントとすることに対して若干腰の引けるところがあったように思っていたのですが、昨今の風潮はそういった事情を全く語らずに中小企業振興という観点のみから知的財産コンサルティングを推奨するように見えます。ですから、④の事務所はハイリスクハイリターンと成り得る可能性があることを念頭に置かないといけないと思っています。

…ああ、また時間切れです。続きはそのうち。

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

1年ぶりのコメントありがとうございました。最近は外内案件の翻訳の品質は全般的に向上していると思ってますし、特許庁も結構積極的に記載不備に基づく拒絶理由通知を発してると思ってます。

外内案件については、推測ですが、英語から日本語への翻訳だから、多分できるだろう的な感じで訳しているとしか思えないような内容のものが余りにも多い。

だいぶ前の記事にコメントをいただきましたようで。いわゆる外内案件について依頼者側がどのように評価しているかというのは、我々から見ると現地代理人のことですので、なかなかわからないところがあります。特許事務所が売上を優先しているかどうかについては、証拠もないのでイエスともノーとも言えませんね。チェック体制は…あるかもしれませんしないかもしれませんし、日本弁理士としては自分が頑張るとしか言えませんね。

外内案件のことですが、特許事務所が種々の外内案件を処理しているようですが、見渡してみると、概して、殆どの案件の内容を依頼者側が本当に満足しているとは思えません、または依頼者側がチェックしていないとしか思われません。これは、特許事務所側が売り上げを優先し、内容をおろそかにしている、といったところでしょうか。これをチェックする体制を作らないといけないですね。

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