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2010年6月

中小企業と知的財産と弁理士(おまけ)

本日は中小企業白書2009をゆっくり眺める時間があったので、昨日の記事の追加で面白そうな図表を幾つかご紹介します。

今回の中小企業白書2009では中小企業におけるイノベーションの必要性を強く説いています。イノベーションの必要性を裏付けるデータとして、第2-1-2図において、中小製造業において研究開発費が売上高比で高い企業とそうでない企業とでは売上高営業利益率にかなりの差異があり、研究開発費の売上高比が高い企業ほど売上高営業利益率が高いという結果を示しています。これなどは、中小企業の経営者に対してイノベーションの必要性、そしてイノベーションを知的財産で保護する必要性を説く際に参考になるかもしれません。

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同様に、第2-1-3図においては、イノベーションの結果である新製品の売上高が全体に占める比率が高い企業ほど売上高が増収傾向にあることが示されています。

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次に、第2-1-4図において、中小企業におけるイノベーションの特徴として、経営者がリーダーシップを発揮してイノベーションの実現を目指していることが示されています。従って、弁理士なり知財コンサルタントがイノベーションの必要性及び知的財産による保護の必要性を説く相手としては経営者が好ましいと言えます。トップに対する営業の必要性ですね。

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次に、中小企業白書2009では中小企業が研究開発活動を行うに当たって社外との連携の必要性を説いており、この社外との連携の相手先として、顧客・クライアント及び大学、公的研究機関が多いことが紹介されています。裏返して考えると、弁理士等の専門家との連携は現実的問題として行われていないということです。

これを裏付ける調査結果として、付注2-2-12において、外部連携を行った実績のある中小企業において、弁護士・弁理士またはその他専門サービス業との連携を希望する中小企業はごくわずか(数%程度)であることが示されています。コンサルタントは8%程度です。これをどう考えるか(知名度の低さを嘆くか、まだチャンスはあると考えるか)はお任せしたいところです。

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続いて、中小企業における知的財産戦略の現状を調査したアンケート結果の中から幾つかご紹介を。第2-3-5図においては、特許出願を最小限にとどめ、できるだけ営業秘密として保護すると回答した企業にその理由を聞いた結果が示されています。中小企業に特有の理由として「コスト負担が大きい」というものがあります。これは中小企業に対する知的財産権の権利取得活動に対する金銭的援助がまだまだであるという理由だとも考えられるでしょう。

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また、今回の中小企業白書2009では中小企業におけるイノベーションが結果的に収益向上につながることを再三述べています。その一つの証拠として、第2-3-12図において、特許保有企業のほうがそうでない企業に比較して従業員1人当たりの営業利益が高く、しかも、海外特許保有企業のほうが国内特許保有企業よりも高いことが示されています。これなどは中小企業に対する営業ツールになりそうです。

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最後に、付注2-3-8において、中小企業が知的財産戦略上重視する項目が紹介されています。この中で、特許取得経験のある企業は知的財産取得につながる研究開発の促進及び研究開発戦略・事業戦略との一体的推進を挙げる一方、特許取得経験のない企業は知的財産に明るい社内人材の育成・確保及び外部からの積極的な技術導入が挙げられています。弁護士や弁理士などの専門人材の活用は特許取得経験のある企業は高く評価しているものの、特許取得経験のない企業の評価は低いです。これも、知名度の低さを嘆くのか、それともチャンスと考えるのか、考えどころです。

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ちょっと雑多な紹介になりましたが、ご参考になれば幸いです。ただ、考えてみると、これって中小企業に対する知財コンサルの企画書とかに使ったらおいしいコンテンツかもしれませんね。私は単に適当に切り貼りしただけですので、編集著作物だの何だのと言う気もありませんし、言えるはずもないので、ご活用いただければ、と。

中小企業と知的財産と弁理士

弁理士会の機関誌である「パテント」誌の最新号(2010年6月号←まだPDF公開されていないのでリンクは貼りません)の巻頭言で、稲岡耕作副会長が、ここ1~2年の特許出願件数が日本の産業競争力の低下に繋がる可能性を指摘し、政府が補助金等の政策を取ることで特許出願件数の増加を支援すべきとの見解を述べられるとともに(これについては言いたいことはないわけでもありませんが、本日は華麗にスルーwink)、弁理士が今後中小企業に対して積極的な支援をすべきとの見解を述べられています。

中小企業に対しては、知的財産推進計画の第1期(2003~2005)においても既に知的財産の側面からの支援の必要性が述べられており、「知的財産推進計画2010」においても、「戦略3 知的財産の産業横断的な強化策」において様々な支援策が述べられています。特許庁においても様々な支援策が取られています。かなり色々ありますので、まとめのページがあります(中小企業・個人向け支援情報)。現在検討されている事業については、産業構造審議会知的財産政策部会で紹介されています(第14回配付資料をご覧下さい)。経済産業省としての支援は、知的財産推進計画の第1期において地域の経済産業局等に「地域知財戦略本部」を整備することが述べられており、これに基づいて様々な支援策が取られています。私は関東圏にいますので、ここでは広域関東圏知的財産戦略本部のHPをご紹介しておきます。

こう考えると、弁理士が今になって中小企業支援を力説するのは何故か、という素朴な疑問が湧いてきます。色々予測することは簡単ですが、私自身は弁理士会の執行部でもなく、また、執行部にあれこれ聞ける知り合いもいないので(2年前の執行部だといたんですが)、あまり推測するのはここでは避けておきます。ただ、私が感じるところでは、中小企業を積極的に支援していこうという特許事務所は以前より増えているようにも感じますし、特に、ここ数年(10年以内というスパンで)起業された特許事務所の中で中小企業支援を標榜して実行する(ここが大事)事務所の割合は増えているように感じています。

さて、ここからが本題で(前振りが長くてすいません)、中小企業支援に関して言われることとして「中小企業は自身のコアとなる知的財産(知的資産、コアコンピタンスと広げていく人もいますが)に気付いていない」「中小企業は知的財産の権利化手続に関して人材的にも金銭的にも不利である」ということがあります。しかし、一方で官は手厚い保護をし、支援をしているのですから、こういった見解は徐々に解消されるべきとも考えられます。当然、支援策が結果的に中小企業にとって使いづらいものであってはなりませんし、そうであるなら早急に是正すべきとも言えます。

中小企業と一言で言ってもそのカバーする範囲は非常に広く、中小企業基本法の定義を出すまでもなく、製造業のみならず小売業、流通業、サービス業にまで広く中小企業は存在しますし、仮に製造業に属する中小企業(業種はちゃんと定義があります)が知的財産にfamiliarであるとしても、製造業に属する中小企業も下請企業と被下請企業とがあり、下請企業の場合、親企業の(それこそ)知的財産に依存している下請企業に関しては、独自の知的財産云々という話をした途端に拒否反応を示してしまうでしょう。つまり、官であれ弁理士であれ支援対象とする中小企業は全体のどれだけなのか、ということを考えなければいけませんし、知的財産を活用した中小企業は当然のことながらかなりの数に上ります(例えば、一部は「知財で元気な企業」として紹介されています)。つまり、支援すべき中小企業は、独自の知的財産を持ちながら、何らかの事情により知的財産の権利化手続に割く経済的、人材的余裕がなく、従って権利化手続に対して手つかずの状態、あるいは十分でない状態にある企業に限られる、ということです(実は、この企業は知財コンサルの対象企業としても考え得るのです)。

ここで、中小企業白書2009において、中小企業と知的財産に関する記述(第2章第3節「中小企業における知的財産の保護・活用」)があるので少しご紹介します。最近は中小企業白書がPDF形式で公開されるようになってしまい、図表単位でのご紹介が大変難しいので、適宜PDFから図表を切り出してきました。
この節では、2008年に行った「市場戦略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」を大幅に引用して紹介しています。第2-3-3図において、大企業と中小企業における特許出願・営業秘密に対する戦略が紹介されており、大企業では積極的に特許出願をしていると回答した割合が50%であるのに対して、中小企業では20%程度であり、中小企業で一番多い回答は特に方針なし(49%)、また、中小企業では業務上あまり重要ではないと回答した企業が18%も存在しました。

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次に、第2-3-9図において、大企業と中小企業における特許取得の状況が紹介されており、大企業が77%も取得していると回答したのに対して、中小企業は33%が取得していると回答し、取得したことがないと回答した中小企業は55%にも上ります。下請/被下請の区別では、下請企業が32%、被下請企業が38%と若干の差があります。

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次に、第2-3-11図では、保有権利(特許)の利用状況が紹介されており、大企業では利用しているとの割合が42%であるのに対して、中小企業では57%が利用していると回答しています。

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最後に、第2-3-27図では、中小企業における知的財産戦略上の課題が紹介されており、一番回答が多かったのが知的財産にかかる知識の不足、二番目に回答が多かったのが人材や資金不足でした。

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さて、この数字からだけ見ると、先ほど述べた「中小企業は自身のコアとなる知的財産に気付いていない」「中小企業は知的財産の権利化手続に関して人材的にも金銭的にも不利である」との話は大体裏付けられたように思います(一番目については、重要だと思ってない割合が多かったり、方針がないということから)。一方で、中小企業における権利活用の割合が大きい(つまり虎の子の権利ということ)ことから、中小企業が知的財産権を取得した場合はこの権利を経営のツールとして活用する意識は高いと言えそうです。

こう考えると、中小企業を知財の側面から支援する意義はあると言えますが、問題は、支援して効果のある(つまり、保護すべき有力な知的財産を保有していながら未だに権利取得活動を行えていない)中小企業がどの程度あるのか、だと思います。ここの統計は取りにくい(内部に入り込まないとわからない)ので、ちと難しい問題です。

一方、弁理士が未だ権利取得活動を行っていない、あるいは不十分である中小企業を金の鉱脈のように考えているとしたならば、上に書いた現状を踏まえて考えるならば、大企業中心に受件してきた弁理士業界がそのまま中小企業支援に回った場合、問題を起こす可能性があります。まず、発明報告書なり提案書がない状態から出願手続をする、しかも、時期的余裕がない場合も往々にしてあり得る(親会社に納品する期限が迫っている、展示会に出展するなど)、仮に出願手続をしても、その出願が権利化されることを中小企業は心待ちに待っているので権利化は必須の要件となりかねない、しかも大幅減縮で権利化したのでは後日権利活用も必須なので意味がない、これだけのハードルを超えないと中小企業の信頼は獲得できないわけです。個々の弁理士がどれだけの覚悟ができるのか、そこが問われていると言えます。

<補遺>
30MBもあるデータをダウンロードさせるのは申し訳ないと思い直し、適宜図を切り取って貼り付けることにしました。ちと面倒かと思いますが、ご覧いただけると幸いです。

特許事務所のHPってどうすればいい?

6月になって初めての書き込みです。しばらくこんな状態が続くかと思いますが、時々おいでになって見て下さい。書いている本人は放ったらかしにするつもりはなく、ただただ書く元気がないだけですのでcoldsweats01

さて、本日も短めに(と言いつつ長くなるのは良くない癖)。先日、私の知人で知財コンサル業の大先輩である弁理士先生が書いているBLOGに、特許事務所のHPは誰を対象にしたらいいのかというが掲載されていました。以前から私は、世の中にあまたある特許事務所のHPはほとんどどこも似たり寄ったりで、あまり訴えるところがないと思っていたので、少しこの点について掘り下げて考えてみることにしました。

特許事務所のHPは何のために開設しているのか、また、誰を対象としているのかという点が、このことを考えるのに適していると思うので分解してみます。

<何のために>
① 新規クライアント確保のために
② リクルート活動のために
③ 既存クライアントに対する情報提供

<対象は誰か>
a.新規案件を依頼しようとして検索をしている企業(含む、既に取引のある特許事務所はあるものの、新規分野案件依頼/取引事務所に不満のために事務所開拓をする企業)
b.事務所に入所を希望する人
c.既存クライアント

③とc.については、既に日常的チャンネルがありますから、実はHPで何かしらの形で情報提供をするよりも、事務所だよりといった既存の媒体を用いた方が能率的ですし、密度の高い情報提供をすることができます(one-to-oneマーケティングですからね)。
①とa.及び②とb.は1対1で対応しています。①×aに必要な情報としては、特許事務所の得意取扱分野及びその分野における実績(登録率がそのまま有意義な情報かどうか疑問はあるんですが、一応の情報としてはいいでしょう)、取扱案件に対する事務所の方針、ポリシーといったものだと思います。重要な観点として、新規クライアントが、その事務所に依頼することでどのようなメリットがあるか容易に理解できるのか、信頼に足る事務所としての印象を持てるかどうか、があると思います。実はこのあたりは、HPに掲載する範囲では抽象的にならざるを得ない(客観的な指標が明確でない)ので、ここが「似たり寄ったり」のHPになる原因だと思っています。講演会や論文発表の実績は一つの目安になりますので、ここを積極的にアピールしている事務所も見受けられます。当然、その実績と事務所としてのreputationとが一致するかどうかは、事務所の努力次第ですね。
②×bについては、求人情報がメインであることは当然ですが、事務所のポリシー、社是(所是?)、事務所経歴、所員へのインタビューなどが含まれます。ポリシーについては新規クライアントに対しても重要な情報ではあるんですが、あまり抽象的な内容を(例えば品質第一とか)新規クライアントに提示しても、やはり「似たり寄ったり」な内容になりがちですので、新規クライアントに対してはもう少しブレークダウンした情報を提供するのが好ましいと思います。
こう考えると、特許事務所のHPは大きく2本の柱があるので、これに沿ってコンテンツを整理すると見やすくなりそうですし、力点を置くべきところも明確になりますので、情報提供がし易くなりそうです。
あと、「所長からのメッセージ」というページが結構ありますが、通常の企業ではここのコンテンツはステークホルダー向けのメッセージになっています。では、特許事務所のステークホルダーって誰?と考えると迷路に入りそうですので、クライアントに対するメッセージと割り切って考えるべきかと思います(それが二次的にはリクルート対応になります)。
最後に、多分HPを検索して新規案件が舞い込んでくる確率は非常に低いと思います。入り口は設けるものの、営業活動は別途よく検討した方がいいと思います。ただ、他の特許事務所のHPと比較して、自分の特許事務所の差異化部分はどこなんだろうと検討する作業にもなると思いますし、更新が全然されていないHPは見る人にマイナス印象をもたらしますので、ルーチンワークとしてコンテンツを見直し、営業ツールとして磨いておく必要はあると思います。

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