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中小企業と知的財産と弁理士

弁理士会の機関誌である「パテント」誌の最新号(2010年6月号←まだPDF公開されていないのでリンクは貼りません)の巻頭言で、稲岡耕作副会長が、ここ1~2年の特許出願件数が日本の産業競争力の低下に繋がる可能性を指摘し、政府が補助金等の政策を取ることで特許出願件数の増加を支援すべきとの見解を述べられるとともに(これについては言いたいことはないわけでもありませんが、本日は華麗にスルーwink)、弁理士が今後中小企業に対して積極的な支援をすべきとの見解を述べられています。

中小企業に対しては、知的財産推進計画の第1期(2003~2005)においても既に知的財産の側面からの支援の必要性が述べられており、「知的財産推進計画2010」においても、「戦略3 知的財産の産業横断的な強化策」において様々な支援策が述べられています。特許庁においても様々な支援策が取られています。かなり色々ありますので、まとめのページがあります(中小企業・個人向け支援情報)。現在検討されている事業については、産業構造審議会知的財産政策部会で紹介されています(第14回配付資料をご覧下さい)。経済産業省としての支援は、知的財産推進計画の第1期において地域の経済産業局等に「地域知財戦略本部」を整備することが述べられており、これに基づいて様々な支援策が取られています。私は関東圏にいますので、ここでは広域関東圏知的財産戦略本部のHPをご紹介しておきます。

こう考えると、弁理士が今になって中小企業支援を力説するのは何故か、という素朴な疑問が湧いてきます。色々予測することは簡単ですが、私自身は弁理士会の執行部でもなく、また、執行部にあれこれ聞ける知り合いもいないので(2年前の執行部だといたんですが)、あまり推測するのはここでは避けておきます。ただ、私が感じるところでは、中小企業を積極的に支援していこうという特許事務所は以前より増えているようにも感じますし、特に、ここ数年(10年以内というスパンで)起業された特許事務所の中で中小企業支援を標榜して実行する(ここが大事)事務所の割合は増えているように感じています。

さて、ここからが本題で(前振りが長くてすいません)、中小企業支援に関して言われることとして「中小企業は自身のコアとなる知的財産(知的資産、コアコンピタンスと広げていく人もいますが)に気付いていない」「中小企業は知的財産の権利化手続に関して人材的にも金銭的にも不利である」ということがあります。しかし、一方で官は手厚い保護をし、支援をしているのですから、こういった見解は徐々に解消されるべきとも考えられます。当然、支援策が結果的に中小企業にとって使いづらいものであってはなりませんし、そうであるなら早急に是正すべきとも言えます。

中小企業と一言で言ってもそのカバーする範囲は非常に広く、中小企業基本法の定義を出すまでもなく、製造業のみならず小売業、流通業、サービス業にまで広く中小企業は存在しますし、仮に製造業に属する中小企業(業種はちゃんと定義があります)が知的財産にfamiliarであるとしても、製造業に属する中小企業も下請企業と被下請企業とがあり、下請企業の場合、親企業の(それこそ)知的財産に依存している下請企業に関しては、独自の知的財産云々という話をした途端に拒否反応を示してしまうでしょう。つまり、官であれ弁理士であれ支援対象とする中小企業は全体のどれだけなのか、ということを考えなければいけませんし、知的財産を活用した中小企業は当然のことながらかなりの数に上ります(例えば、一部は「知財で元気な企業」として紹介されています)。つまり、支援すべき中小企業は、独自の知的財産を持ちながら、何らかの事情により知的財産の権利化手続に割く経済的、人材的余裕がなく、従って権利化手続に対して手つかずの状態、あるいは十分でない状態にある企業に限られる、ということです(実は、この企業は知財コンサルの対象企業としても考え得るのです)。

ここで、中小企業白書2009において、中小企業と知的財産に関する記述(第2章第3節「中小企業における知的財産の保護・活用」)があるので少しご紹介します。最近は中小企業白書がPDF形式で公開されるようになってしまい、図表単位でのご紹介が大変難しいので、適宜PDFから図表を切り出してきました。
この節では、2008年に行った「市場戦略と知的財産戦略にかかるアンケート調査」を大幅に引用して紹介しています。第2-3-3図において、大企業と中小企業における特許出願・営業秘密に対する戦略が紹介されており、大企業では積極的に特許出願をしていると回答した割合が50%であるのに対して、中小企業では20%程度であり、中小企業で一番多い回答は特に方針なし(49%)、また、中小企業では業務上あまり重要ではないと回答した企業が18%も存在しました。

233_2

次に、第2-3-9図において、大企業と中小企業における特許取得の状況が紹介されており、大企業が77%も取得していると回答したのに対して、中小企業は33%が取得していると回答し、取得したことがないと回答した中小企業は55%にも上ります。下請/被下請の区別では、下請企業が32%、被下請企業が38%と若干の差があります。

239_2

次に、第2-3-11図では、保有権利(特許)の利用状況が紹介されており、大企業では利用しているとの割合が42%であるのに対して、中小企業では57%が利用していると回答しています。

2311_2

最後に、第2-3-27図では、中小企業における知的財産戦略上の課題が紹介されており、一番回答が多かったのが知的財産にかかる知識の不足、二番目に回答が多かったのが人材や資金不足でした。

2327_2

さて、この数字からだけ見ると、先ほど述べた「中小企業は自身のコアとなる知的財産に気付いていない」「中小企業は知的財産の権利化手続に関して人材的にも金銭的にも不利である」との話は大体裏付けられたように思います(一番目については、重要だと思ってない割合が多かったり、方針がないということから)。一方で、中小企業における権利活用の割合が大きい(つまり虎の子の権利ということ)ことから、中小企業が知的財産権を取得した場合はこの権利を経営のツールとして活用する意識は高いと言えそうです。

こう考えると、中小企業を知財の側面から支援する意義はあると言えますが、問題は、支援して効果のある(つまり、保護すべき有力な知的財産を保有していながら未だに権利取得活動を行えていない)中小企業がどの程度あるのか、だと思います。ここの統計は取りにくい(内部に入り込まないとわからない)ので、ちと難しい問題です。

一方、弁理士が未だ権利取得活動を行っていない、あるいは不十分である中小企業を金の鉱脈のように考えているとしたならば、上に書いた現状を踏まえて考えるならば、大企業中心に受件してきた弁理士業界がそのまま中小企業支援に回った場合、問題を起こす可能性があります。まず、発明報告書なり提案書がない状態から出願手続をする、しかも、時期的余裕がない場合も往々にしてあり得る(親会社に納品する期限が迫っている、展示会に出展するなど)、仮に出願手続をしても、その出願が権利化されることを中小企業は心待ちに待っているので権利化は必須の要件となりかねない、しかも大幅減縮で権利化したのでは後日権利活用も必須なので意味がない、これだけのハードルを超えないと中小企業の信頼は獲得できないわけです。個々の弁理士がどれだけの覚悟ができるのか、そこが問われていると言えます。

<補遺>
30MBもあるデータをダウンロードさせるのは申し訳ないと思い直し、適宜図を切り取って貼り付けることにしました。ちと面倒かと思いますが、ご覧いただけると幸いです。

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

Travelling Lawyerさん、こんにちは。どうもspam判定されていて埋もれかかっていたので返答が遅れてすいません。

中小企業に対して弁理士が権利形成代理業務を行うならば、海外を視野に置かない活動はよろしくないと思っています。今回の議論が「中小企業白書」での数字をベースにしているので、中小企業に対する権利形成代理業務全般の議論ができていませんから、説明不足の部分があります。

一方で、海外への進出に伴い、海外の競業他社との間で知財紛争を経験し、その結果としてしたたかな知財戦略を実行している中小企業もありますので、この成功例をどうやって拡散するかが今後の課題だと思っています。

ご無沙汰しております。

今日のテーマは、私自身の問題でもあるので、一言申し上げたいと思います。

「大企業中心に受件してきた弁理士業界がそのまま中小企業支援に回った場合、問題を起こす可能性があります」とご指摘がありましたが、弁理士の先生の視点が日本に止まってしまっていることが気になります。確かに大企業には知財部がしっかりあって、戦略を立てて行動しているので、外部の事務所は受任した仕事をしっかりこなすことに徹しているというのが現実なのかもしれません。しかし、中小になかなかそうした体制を持っている会社はありません。

もう一方で、日本は人口減少局面に入っている現実を考えると、韓国が20年以上前からそうしているように、そしてサムソンの成功を見るまでもなく、成功している企業は、中小企業レベルでも海外に市場を求めている企業であるという現実を見つめて、企業戦略を考え、知財戦略に関してアドバイスをする立場の弁理士の先生方に、経営コンサルタントの目線からのアドバイスをお願いしたいと思います。

折角日本で特許出願をしても、2-3年放って置かれて、商材として目が出てきたろには、海外の特許をどうすることも出来ない状況になってしまったなどという例を見ていると、大企業の知財担当者の方なら知っていることを中小企業の方は知らないのかも。。。という前提で、そして、企業戦略の中にどのような可能性があるのか?を常に意識してアドバイスしていないのでは?と思われる局面に残念ながら何度も出くわしました。

そんなアドバイスは、お金にならないし、その時点では、確かに感謝もされないのですが、時間を使って、クライアント教育をしていく意識なしには日本の中小企業は変わっていかないのではないでしょうか?

ご無沙汰しております。

今日のテーマは、私自身の問題でもあるので、一言申し上げたいと思います。

「大企業中心に受件してきた弁理士業界がそのまま中小企業支援に回った場合、問題を起こす可能性があります」とご指摘がありましたが、弁理士の先生の視点が日本に止まってしまっていることが気になります。確かに大企業には知財部がしっかりあって、戦略を立てて行動しているので、外部の事務所は受任した仕事をしっかりこなすことに徹しているというのが現実なのかもしれません。しかし、中小になかなかそうした体制を持っている会社はありません。

もう一方で、日本は人口減少局面に入っている現実を考えると、韓国が20年以上前からそうしているように、そしてサムソンの成功を見るまでもなく、成功している企業は、中小企業レベルでも海外に市場を求めている企業であるという現実を見つめて、企業戦略を考え、知財戦略に関してアドバイスをする立場の弁理士の先生方に、経営コンサルタントの目線からのアドバイスをお願いしたいと思います。

折角日本で特許出願をしても、2-3年放って置かれて、商材として目が出てきたろには、海外の特許をどうすることも出来ない状況になってしまったなどという例を見ていると、大企業の知財担当者の方なら知っていることを中小企業の方は知らないのかも。。。という前提で、そして、企業戦略の中にどのような可能性があるのか?を常に意識してアドバイスしていないのでは?と思われる局面に残念ながら何度も出くわしました。

そんなアドバイスは、お金にならないし、その時点では、確かに感謝もされないのですが、時間を使って、クライアント教育をしていく意識なしには日本の中小企業は変わっていかないのではないでしょうか?

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