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弁理士とは?

7月1日は「弁理士の日」です。この日は、弁理士制度の始まりである「特許代理業者登録規則」が明治32年7月1日に施行されたことを記念して、平成9年に制定されました。毎年、日本弁理士会は弁理士の日を記念してイベントを開催しています(今年のイベントはこちらを参照)。

さて、本日は、「弁理士と弁理士試験のブログ-弁理士試験の勉強法-」で有名なドクガクさんからの呼びかけ(この記事にもあります)に応えて、「弁理士とは?」というお題で書かせていただきます。とは言え、私が弁理士登録をしてから20年以上経過しているので、ちとお古の話題になるかもしれませんし、そもそもこのBLOG、知的財産権関連の話題でもかなりニッチかつマイナーな話題ばかりディープに追及しているところなので、弁理士制度の知名度向上にどれだけ貢献できるのか、ちと不安ではあります。

「弁理士」とは何であるか、については、例えばWikipedia)等を見ていただくと非常に詳細な説明が提供されるようになりました。とは言え、Wikipediaの日本版が提供された当初は弁理士という項目すらなく(「特許」の記載も非常に貧弱でした)、弁理士の知名度もこの程度かな、という気がしていました。もっと振り返ってみると、私が弁理士登録をした平成元年の頃は、弁理士という国家資格の知名度は非常に低いし、産業財産権制度自体の知名度も、エンジニアにはそれなりにあったもののそれ以外の一般的な知名度も非常に低かったと記憶しています。つい10年くらい前まで、政治や行政の世界では「チザイ」=地方財政の略という認識のほうが高かったようです。

私が特許業界に入るまでの経過を思い出してみると、理系大学生のころは「特許」という言葉は知っていても産業財産権制度全体を説明する授業はほとんどなく(機械、電気系学科では選択科目であったらしいんですが、私は物理屋という変わり者なので)、企業に入社して新人研修の時に結構詳細に説明されたことが始まりとなります。私が最初に入った企業は知的財産を非常に重視しており(入社当時から業界内で大型訴訟があり、私が入社した企業が被告でした)、小さい特許部ながら当時から社内弁理士が2人も所属していました。また、配属先の上司が発明提案マニアで、月に1件は提案書を書くことを自ら課していて、「君もどうだね」と誘われるままに私も提案書を何件か書きました。その中で弁理士という資格に興味を持ち、特許業界に足を踏み入れることになったわけです。

弁理士という資格の知名度がいまひとつである理由は、産業財産権制度の利用者は企業に偏っており、しかも、産業財産権制度における出願件数の過半数を占める特許制度を利用する人=発明者はエンジニアがほとんどですから、エンジニアでない会社員であるとやはり産業財産権制度に馴染みのないことが多いことなのだろうと思っています。つまり、国民全体で考えると、弁理士という資格を持った人に直接対面した人はかなりの少数派に属するわけです。他の士業であると国民一般との接点が何らかの形であるのですが、弁理士は産業財産権の客体である発明、考案、意匠、商標を介して国民一般との接点を持つべきところ、これら客体を生み出す人々(商標だけは「生み出す」のではなく「選択する」わけですが)は国民一般の中の少数派なのです。当然、それがいけないわけではありません。

ただ、弁理士という存在が昔からそうだったのかと言うと、多分そうではないだろうと思います。ご紹介するデータは、100年ほど前からの特許出願件数、実用新案登録出願件数と弁理士登録数、及び弁理士数と弁理士一人当たりの特許+実用新案登録出願件数のグラフです。特許出願件数及び実用新案登録件数はWIPOの統計データです。但し、実用新案登録出願件数については1977年からという比較的最近のデータになっています。旧実用新案と新実用新案については、どうも足し合わせた数字になっているようです。これ以前のデータについては、「工業所有権制度百年史」に掲載されているデータで補充しました。また、弁理士登録数は、弁理士制度100周年記念誌及び110周年記念誌にデータがありましたので、これを引用しています。

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このグラフを見て、戦前にかなりの弁理士数がいたことがお分かりかと思いますが、このあたりの事情は、弁理士試験の難易度やら何やらがあると思うので、ここでは深く追求せずにいます(正確には私も「これ」と判断できる資料がないので…)。戦後は、だいたい1960年頃をスタートとして特許出願件数及び弁理士登録数は右肩上がりになり、特許出願件数は2002年をピークに減少傾向にあるものの、弁理士登録数は右肩上がりを続けていることがわかります。

で、私がポイントとしたいのは、特許+実用新案登録出願総数を弁理士登録数で除した、つまり弁理士1人当たりの特許+実案取扱件数(本来は代理なし案件を除外したいんですが、そこまでは調べきれていないのでご勘弁を)を見ると、1960年以降のいわゆる高度経済成長時代にはこの数字が100を超え(正確には1955年あたりには100を超えています)、1985年頃が最高の数値(170くらいになります)をマークしたものの、その後激減し、現在は50程度の値になっていることです。これは何を意味するのか。

1960年頃からの特許+実案出願件数の激増は、日本の各種産業が目覚ましい発展を遂げつつあった中での研究開発成果の権利化、という説明がつくと思います。自動車産業、電機産業を中心に、国内企業間のある意味での過当競争が国際競争力を生むという図式が成立した時期であり、国内企業間の競争の一環として膨大な数の特許+実用新案登録出願がされたという理解を私はしています。しかし、例えば1960年で見てみると特許+実案出願数が10万件程度で弁理士登録数が1,000人強であるところ、1985年では特許+実案出願数が50万件程度で弁理士登録数が2,900人の伸びに留まっていることから、弁理士登録数は出願件数増に対応した分増加していません。

弁理士の総数をどうするかというのは高度な行政判断が加わっているので、このこと自体を議論する意味はあまりないと思っていますが、弁理士1人当たりの取扱件数の激増は、出願件数の激増をもたらした主に大企業からの案件に特許事務所が経営的に大きく依存する構造と、また、大規模特許事務所を中心に、特許事務所内に明細書作成補助者を大規模に雇用する構造とを生み出したと思っています。そして、この構造は、出願件数が減少した現在でもかなり温存されており、これが一部の特許事務所の経営に大きく影響していると思っています。また、数十年前からあった、一部の大企業に見られる件数主義と、それに対応して大量に出願案件を受件して能率よく出願代理を行った、これも一部の特許事務所とが相俟って、厳しい言い方ですが「代書屋」としての弁理士像が一部に形成されたように思います。

一般には知名度が低く、大企業を中心として「代書屋」的な見方をされている弁理士は、ではどうしたらいいのか。ものすごい難問であり、私も明確な答えを見つけ出すに至っていないのですが、取っ掛かりは愚直に出願代理→中間処理(特許庁との手続)の専門性を高め、質の高い権利形成活動を行うことに尽きると思います。弁理士業界全体でみると、以前とは比べ物にならないくらい権利形成活動において「質」を追求する方々が増加したように思いますので、この流れは絶やしてはいけないと思います。加えて、企業側も、質の高い権利形成活動を弁理士と一体になって追求する活動が必要だと思います。企業は知財戦略を立て、この戦略に基づいて個々の権利形成活動を行うわけですが、往々にして企業の知財戦略と当該権利形成活動との間の相関について弁理士に十分な情報が伝わっていないことがあるように見ています。企業の知財担当者が自社の知財戦略を理解し、これを代理人たる弁理士に伝えた上で、当該権利形成活動がその知的財産戦略にどのように寄与してくれることを企業が期待しているかについての情報も伝える必要があります。双方の活動が相俟って、企業と弁理士とが運命共同体的な連帯感を持って権利形成活動をしてこそ質の高い権利形成活動が実現できるのだと思っています。

加えて、以前のこのBLOGで紹介した、大企業の特許出願数が減っているからこれからは中小企業だ、という論調にも注意したいと思います。上に書いたような一部の特許事務所が未だに抱えている体質のままで中小企業にアプローチしても、それは中小企業が抱えているニーズにマッチした解決策を提示することは難しいでしょう。

…とまとめには至りませんが、個々の弁理士が弁理士とは社会にとってどんな存在であるべきかを深く考察することが求められているように思います。自戒を込めて。

(追伸)ようやく、この間特許庁図書館で「工業所有権制度百年史」を閲覧し、古い時代の実用新案登録出願件数データを入手してきました。そのため、弁理士数と弁理士一人当たりの出願件数のデータも追加できました。こんなデータ、日本弁理士会も公開してないはず。参考になれば幸いです。

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コメント

なかなか議論のポイントが絞り切れていないのですが、私が首尾一貫して考えていることは、弁理士には与えられた職務があり、これをどのように全うするかを真剣に考えるべき、というスタンスです。そこから先のrouteについては、弁理士各人が切磋琢磨する領域だろうなぁ、と思っています。

私自身、仕事の関係で何度も外国に出かけて、むこうの弁理士と話をしたりしますが、「弁理士であることが全て」の人は先ずいません。ドクターでありそれぞれの技術分野の専門誌にどれだけ論文を投稿したか、判例をどれだけ諳んじているかが能力だと思っている連中です。ドイツの知財関係者向けのトレーニングコースに参加しましたが、こちらも同じで、一つの概念をEPO, USPTO, JPOでどう解釈されているかをパネルディスカッションできるだけの能力を持っています。法律一つわかっているといっても、比較法の世界が当たり前です。その上、EP(特にドイツ)の普通レベル以上の弁理士なら、口頭審理に備えて、英語・フランス語を難なく使いこなします。全然ワークロードが日本の弁理士と比較しても違います。そういう外の風を知らない弁理士が日本には多いわけです。

Ristenpartさん、コメントありがとうございました。

弁理士の質向上は、弁理士業界全体が危惧しているところだと思っています。この問題自体は以前から存在していたわけですが、弁理士の大量合格により未経験者に対してどのように実務経験を積ませるかというポイントがクローズアップされてきたように思います。

当然、明細書作成能力の優れた弁理士先生を私自身も数多く存じ上げていますし、弁理士業界全体で見ると明細書作成能力の優れた先生方が多数派であろうことを私は信じています。

とは言え、弁理士の新規業務がクローズアップされる昨今の風潮の中、パイ拡大に邁進するあまり明細書作成能力を軽んじているのではないかという論調も時に見かけるように思います。特許業務に従事する弁理士であれば、明細書作成能力があるのは当たり前、その上でどのようなサービスをクライアントに提供できるのかという視点を考えるべきであると思っています。

最大手から中小まで特許事務所を25年近くわたり歩いてきた者です。昨今の弁理士は明細書を一から書ける人が少ないことに危惧しています。行政法をアタマに叩き込んで資格を取得したところで、それ以前の明細書書きとしてのトレーニングを積んでいない書生上がりの先生が多いのは困ったものです。そういう人でも弁理士としてやっていけるのは、明細書を書かなくて済む外内(外国から日本への特許出願)業務が主体の特許事務所がまだはばをきかせているからでしょう。こういう事務所で売り上げに最も貢献しているのは、弁理士ではなく、翻訳者です。弁理士は語学のトレーニングも受けていませんので、明細書の翻訳やコレポンの作成などを苦手にします。日本語になった上であれこれといじるだけです。だから、いつまでたっても外内主体の事務所は国内と内外業務主体の事務所に業態を変えることができません。翻訳業務も、機械翻訳の精度が上がってきたこともあり、単価がどんどん下がっています。EPOまで日本語を含めた翻訳サービスをグーグルと提携して始める状況にあって、いよいよ外内主体の特許事務所の経営は危うくなりつつあります。弁理士の質を向上させるのであれば、法文の隅っこをいじくりまわすことよりも、技術そのものを文章で記述でき、且つコミュニケーションを海外と自在にできるだけの言語力を身につけなければ、資格が泣くことになります。それだけ厳しい時代になったことを自覚しなければなりません。

ドクガクさん、こんにちは。呼びかけに応えた作がこんなもんです。お役に立てば幸いです。

企業が明細書の質を評価できないと、実は自身の業務に影響が生じてきます。つまり、評価しないままでいると、明細書の質を一定以上に維持できないので、いざ権利活用しようとすると、運悪く質の悪い明細書=権利だとしたら使い道に困るからです。かなりの大企業は明細書の質評価ができるようになっていますが、これを料金に反映しているところはほとんどないと思います。結局これは「代書屋」という認識が変わっていないことになります。

企業が出願する発明を厳選するのならば、それまでの予算を安易に削減するのではなく、傾斜分配するなりしていい仕事をした弁理士に報いる必要があると思います。そのためには、特許事務所が請求する料金の透明性を高め、納得の行く料金請求ができるような仕組みも大事です。

大作ですね。
一気読みさせて頂きました。
量→質への転換はおっしゃる通りだと思います。
問題は、質の向上≒時間の増加という関係にあることです。
かかった時間をきちんと料金に反映させることができないと、企業にとっても弁理士にとっても良い未来はやってこないと思います。

弁理士は質を向上させる。
企業は向上した質を正当に評価する。
こういう関係を築いていきたいです。

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