« お知らせ | トップページ | Bilski最高裁判決を学ぶ »

産業財産権制度の経済的効果ねぇ

ご無沙汰しています。最近暑いですね~。私も既に夏バテ気味で、家に帰って風呂に入ってメールチェックをすると既に夢の中状態にあり、BLOGを書く元気がないままでいます。今日は少し涼しいのでちょっとだけ書くことにしましょう。

特許庁では毎年産業財産権に関する様々な事項について調査報告書を発行しています。実際には入札により決定された外部調査機関が調査報告書の作成を委託され、年度末にだいたい各種報告書が出揃うことになっています。最近は調査報告書がPDFで特許庁HPに公開されるようになりました。このような調査報告書の中で、ちょっと異色なのが、毎年特許庁が一定以上の出願を行っている企業に対してアンケート調査を行っている「知的財産活動調査」に関連して、その妥当性や調査項目の見直し等を行うことに加えて、特許庁が行う産業財産権政策の妥当性を探る意味で産業財産権制度の経済的効果を検討する報告書が毎年発行されています。報告書の名称は毎年変更になるのでフォローするのがなかなか難しいのですが、今年度は「我が国の持続的な経済成長にむけた企業等の出願行動等に関する調査報告」という名称だそうです。

産業財産権制度の経済的効果の調査自体が世間にどれだけの知名度があるか何とも言えませんが、例えば大学でこのような研究を行っている研究室は極めて少ないです。私が知っている範囲で有名な方というと、例えば一橋大学イノベーション研究センターの長岡貞男教授、専修大学経済学部の山田節夫教授、東京理科大学知的財産戦略専攻(MIP)の石井康之教授、青山学院大学法学部の菊池純一教授、東京大学大学院技術経営戦略学専攻の元橋一之教授くらいでしょうか。しかも、これらの先生方の大半はイノベーション論や計量経済学が専門で、その一環として産業財産権制度の経済的効果についても研究されている方ばかりです。ちなみに、上に書いた報告書が継続的に行われていることが一つのモチベーションになってきているのか、あるいは知名度が高まっているのかは定かではありませんが、若手研究家は最近増えてきているので期待はしています。

産業財産権制度の経済的効果については、米国ではかなり以前から経済学者を中心として検討が行われてきたようです。例えば、「特許制度の存在は産業発展に寄与するのか、それとも阻害するのか」といった命題を(計量)経済学的観点から検討するものです。このあたりの研究のまとめは、「知財創出―イノベーションとインセンティブ」という書籍に記載されています。ちなみに、上の命題についてはどちらの結果も出ているようです。

ここで考えるべき事は、計量経済学であれイノベーション論であれ、一つの命題に対する真偽を検証するためには、何らかの仮説を立て、この仮説に基づいて実証研究を行った結果、この仮説が立証された/されないことを元に命題が証明されたか、ということを検討するわけです(社会科学系の研究のみならず、自然科学系の研究だって同じアプローチですね)が、その際の仮説の立て方、また、仮説を検証する際のモデルの設定と現実との間に相当の乖離があるために、どのような結果が得られたとしても(例えば上の命題で言えば特許制度の存在が産業発展を阻害するという衝撃的な結果が立証されたとしても)その結果を素直に信じることがしにくい、ということです。

例えば、ちょっと乱暴な言い方ですが、昭和63年法改正で改善多項制が導入されたわけですが、この改善多項制は、それまでの1発明1出願の原則下では発明の多面的保護が図りにくいとの指摘があったために導入されたと言われています。そこで、改善多項制導入により発明の多面的保護が図られたのであれば、特許発明の利用率も上昇するはずであるとの仮説を立て、これを、権利者に対して特許発明の利用率が改善多項制導入の前後で変化したかどうかアンケートを取り、その結果から仮説を検証しようといった議論をするわけです。実務家の感覚からすると、そもそも改善多項制が導入されたからといって特許発明の利用率が上昇するとの仮説自体がかなり荒唐無稽なものに近いわけですから、そもそも仮説自体が信用が置けないことになり、従ってどのような結論が出たとしてもその結論を鵜呑みにすることができないのです。この事例はあくまで仮想的なものですが、様々な産業財産権制度の経済的効果を検証する事例を見ていても(個別の事例について批判するのはここでは避けておきます)かなりの確率で仮説の立て方や検証の仕方に対して実務家として違和感を感じることがあります。

この「違和感」の理由を、研究者が産業財産権制度の実務を知らないことに求めるのは簡単です。しかし、一方で、研究者は実務と仮説等との間に乖離があることを承知で、しかし、現在存在している検証手法では実務との間に乖離のある仮説しか検証可能ではないので「仕方なく」不備のある仮説や検証方法を使って検証をしており、実務にどれだけ近接できるかというのは将来的課題として残さざるを得ないことも考えられます。そもそも、産業財産権制度の実際的運用は単純ではなく、しかも、例えば産業財産権制度がもたらすものが企業の収益、ひいては国家全体の産業にどのように影響するかについては、他のfacotorが多すぎて単純モデルでは説明がつかないのですから、どのような精緻なモデルを作り上げたとしても完璧なものは現時点では作り上げることが不可能です。

考えるべきは、研究者が産業財産権制度の現状をどれだけ理解し、自身が行っている研究と実務との乖離がどれほどあるのかを認識しているのかどうか、そして、それをどのようにして改善しようとするのかにあると思います。加えて、研究報告を我々が読む際に、結論だけを見て研究報告自体の価値を安易に評価しないこと、さらに結論「だけ」に対して過剰反応しないことが必要だと思います。より良い研究報告がされないのであれば、その研究自体が税金の無駄遣い(特許庁からの委託研究ですから元は税金ですね)との指弾を受けるわけです。

« お知らせ | トップページ | Bilski最高裁判決を学ぶ »

知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« お知らせ | トップページ | Bilski最高裁判決を学ぶ »

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
フォト
無料ブログはココログ