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書籍「事業戦略と知的財産マネジメント」

今回ご紹介する「事業戦略と知的財産マネジメント」、編集委員に知り合いが複数おり、しかも、そのうちの一人と本日話をしていたので、あまりぼろかすには書けないなぁ、と。とは言え、考えたことについてはきちんと述べることにします。

この書籍、妹尾堅一郎大先生のベストセラー書(何冊売れたか正確には知りませんが)である「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」の理論を、「大学の経営系学部で学ぶ学生の皆さん向けに作成した教材」(本書「はじめに」より引用)という位置付けができます。つまり、「技術力~」の記載内容を平易にかつ基礎的なところから説き起こした教材です。

特筆すべきは、各企業が得意とすべきビジネスモデル毎に知的財産戦略はどうあるべきかを詳細に議論しているところで、これは「技術力~」では詳細に論じていない箇所でした。こう考えると、確かに大学の経営系学部の学生向けにも好適だと思いますし、それ以上に、自社の知的財産マネジメントに悩みを持たれている企業の経営陣や知的財産部門のマネージャー向けにも非常に参考になるのでは、と思いました。これは、編集委員に実際に企業知財部門で実務を担当されている現役の方が相当参加しており、これらの方の実体験に基づく記載が理論に深みと細分化を与えているとともに、理論が実務に裏付けされたと言えます。ですから、「技術力~」を読まれて感銘を覚えた方も、また、なかなか理解できなかったと思われた方も、本書を一読されることをお勧めします。

…とは言え、やはりこの内容は、正直なところ大学の経営系学部の学生にとってはかなり難解であるように思えます。その理由は、本書の内容を理解するためには企業人としての体験が前提となるように思え、企業人体験がない状態で読了しても、知識として理解できたにせよいわゆる「腑に落ちる」までには至らないのではないか、と思えるからです。

実は、私が本書を読み進めるに当たって、自分がこの教材を使って実際に経営系学部の学生に講義をするならばどのように話を進めるか、ということをずっと考えていました。その、ある意味での擬似的な講義の中で、大学生に理解してもらうには記載不足ではないか、と思える箇所が1~2カ所ありました。例えば、妹尾先生がよく取り上げるIntelの成功例についての記載は、私はパソコン黎明期からの発展をリアルタイムで見てきているので、Intelと競業他社の熾烈な競争と、その中で勝ち抜くためにIntelが優れた戦略を採用したことで現在の地位を築くことができたことがすんなり理解できますし、何がKFS(Key Factor for Success)であったのかも理解できるのですが、本書のようにIntelの戦略ありきで説明され、「何故」Intelがその戦略を思いつくに至ったかの背景の記載が不足していると、次のIntelを生み出すための思考につなげるのが難しいと思うのです。従って、講義の際にはIntelと競業他社、例えば当初はMotorolaの68000シリーズとの激闘、その後はAMDとの互換性を巡る(訴訟合戦を含めた)果てしない競争についての言及を補充しないとIntelのプラットフォーム戦略(この言葉は妹尾先生は意図的に使用されていませんが、私は「プラットフォーム・リーダーシップ」で使用されている意味で敢えて使用します)の優秀さを説明したことにならないと思っています。

また、本書内で説明されているシステム論については、近年は、生物学でいうエコシステム理論のアナロジーによる説明がされており、私としては本書内で説明されているシステム論よりも現実をより正確に記述できると思っていますので(例えば、エコシステム理論であれば複数企業の力関係及び依存関係の説明がすんなりできますが、システム論ではある意味全ての企業の力関係は平等とも言えるので)、システム論に代えてエコシステム理論の説明をしたくなります。

で、そんなことを考えると、実はこの本は13章に分かれており、従って各章を大学の授業の一コマに割り当てると半期分の講義内容になるわけですが、私が仮に講義をしたら各章の内容を90分で説明しきる自信は到底なく、かと言って年間の講義にしたら多分学生からするとどーでもいい内容を延々と説明していると言われそうで、なかなか悩ましい結果になりそうです。しかも、知的財産権制度に関する基礎知識がないと講義の当初からつまづきかねないです。

ですから、欧米の大学のように教科書は細大漏らさず記載し、講義はあっさり紹介して残りの部分は独学に任せる、という形式のほうがよかったようにも思いました。なかなか日本的な教授方法だと学生がAdvancedな部分まで自習することを期待しても裏切られることが多そうですし。

あと、余談ですが、編集委員の一人と以前お話しした時に、私のBLOGの記載内容をちょっとだけ拝借しました、と言っておられました。大した内容ではないので私はいいですよ、と返答しておきました。で、確かにそれらしきことが書いてありました。ちょっとお役に立ててよかったように思います。


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