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企業知財部門のキャリアプラン(未定稿)

今日の話は自分の頭の中でまだ生煮え状態なので、ご批判が多々あるかと思いますが、自分の思考経路のメモみたいなものとしてご了解をいただけると幸いです。

何かというと、このところずっと考えている企業知財部門のキャリアプランに関することです。最近は、企業知財部門の重要性、特に企業内での人材育成の重要性が企業に認識された結果だと思うのですが、いわゆる新卒採用生が企業知財部門に直接配属されることが増えてきています。かつては、企業知財部門に新卒採用生が直接配属される企業はごく少数派で、特に、現在と違って業種別採用という手段がほとんどなかったので、特許部としての採用をする企業は、私が知る限りは日立製作所くらいしかありませんでした。ちなみに、私は、就職相談をしに行った教授が特許マニアだったせいか、私の一人前で就職相談をしている同級生が日立製作所の特許部の内定を受けていました。私と彼との順番が違えば、もしかしたら私は日立製作所の特許部勤務、になっていたかもしれません。余談ですが、内定を貰った彼は、やはり大学院進学の希望を忘れられずに、大学院の入試試験を受けて進学してしまったので、勿体なかったなぁ、と。

で、新卒採用生が知財部門に配属され、定年までの30年以上の企業生活の中で、人材の有効活用を図るためにはキャリアプランを人事担当が考える必要が出てきます。企業知財部門のキャリアプランは、通常のエンジニアのキャリアプラン、あるいは事務系社員のキャリアプランと若干違うところがあると思っています。それは、知財実務に相当の専門性があり、専門性の涵養に日々精進する必要があり、しかも、一人前の知財実務担当者と認められるためには最低5年程度の研修期間が必要であることから、他部門とのジョブローテーションを頻繁に行うのは難しいことが理由だと思っています。このためか、新卒採用生で企業知財部門に配属されてからキャリアを終えるまで企業知財部門から殆ど離れたことのない方がそれなりにいらっしゃいます。企業知財部門の蛸壺化を嘆く論調があるのは、背景にこういったある種の人材停滞とも言える現象があるからとも言えます。

これを前提に、企業知財部門の新卒採用生のキャリアプランを考えると、大体入社10年~15年くらいまでは配属先の業務の専門家(権利形成、ライセンス、権利活用に大別できるかと)としての研鑽を行い、その後はマネジメントとしてのキャリアプランを選ぶか、もしくは部門内のジョブローテーションを行うキャリアプランを選ぶか、はたまた専門家の道を究めるキャリアプランを選ぶか、といった感じになるかと思います。つまり、企業内の他の事務系社員と異なり、ジェネラリストとしてのキャリアプランはあまり考えられていません。マネジメントかスペシャリストか、という選択肢になります。

しかし、知財部門の業務を子細に眺めてみると、例えば権利形成業務は、実はライセンス業務や権利活用業務、さらには企画管理業務の観点を加えることにより、更なる深化を極めることができると思っています。このことを考えると、実は、企業知財部門のスペシャリストは、様々な業務を経験することで真のスペシャリストになり得るのだと思えるのです。逆に言えば、企業知財部門内の特定の業務に特化してその道を究めるキャリアプランを選択した場合、つまり○○職人としての道を選択した場合、キャリアプランとしては不完全なものになるのだと思います。この点が、実は特許事務所勤務の弁理士のキャリアプランと決定的に異なるのです。

一方で、知財部門のマネジメントのキャリアプランを選択した場合、人に指導できる程度の知財実務能力がないと部下が抱える問題点を的確に指摘できないですし、何より部下が信用してくれないでしょうから、マネジメント能力だけで企業知財部門のマネジメントを務めるのはなかなか困難です。とは言え、知財実務能力は後天的に獲得することが可能ですから、若干の時間的余裕があれば大丈夫とも言えます。逆に、マネジメント能力は後天的に獲得することがかなりできるものの、マネジメントには人間力が必要で(例えば、この人に付いていきたいと思わせる魅力とか)、この人間力は短期獲得がなかなか困難ですから、現実的には人を選ぶことになります。で、上に書いたキャリアプランを見ると、入社10年~15年くらいまでは専門家としての育成がメインになりますから、マネジメント能力をこの期間で育てるのは結構難しいです。マネジメント適性を見るにしても、当たり外れは結構あります。そもそも、専門家になることを希望して企業知財部門への配属を希望してきた新卒採用生が大半でしょうから、マネジメントになれと言われても困惑する人もいるかもしれません。

こんなことで、企業知財部門の新卒採用生のキャリアプランには様々な困難性が横たわっているように思います。しかも、最近の企業が希望する知財人材は、知財の専門家ではなく企業人としての的確な判断能力+知財の専門家としての見識を備えた人材だろうと思うので、更に困難性が高くなっているように思います。

それでは、幾つかの大学(院)に用意されている、社会人知的財産大学院は適切なのかというと、学部生が通学して企業知財部門の新卒採用生として入社するならばいいのだろうと思うのですが、社会人が通学して企業知財部門にフィードバックできるのかというと、それは残念ながら不十分だと思っています。それは、知財戦略を語るのであれば企業がどのようなスキームに従って経営戦略なり事業戦略を立案しているかという知識が前提となるはずだと思うのですが、社会人知的財産大学院はその点について明確なカリキュラムを用意できていないからです。知的財産権法に関する講義+知財戦略に関する講義だけで修了単位が与えられる現状では、企業の事業部門なり経営陣なりに対して説得力のある知財戦略を立案し、逆に、事業部門や経営陣の要求事項を満足させる施策を実行できるとは思えません。

…というわけで、自分なりの回答がない状態で行き詰まっていますが、業界全体の懸念事項としての認識は十分ありますから、各企業なりの解決策を模索しながら適切な人材育成を行うんだろうと思っています。なお、今回の議論は、エンジニアのセカンドキャリアとしての企業知財部門のキャリアプランについては、話が面倒になるのでばっさり省略しています。あしからず。

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コメント

pecanさん、こんにちは。ちと長旅をしていたために返答が遅れてすいません。

この記事は、日頃pecanさんがtwitter上でお話しをされていることも少し下敷きにしています。

マネジメント能力の件ですが、確かに、後天的に獲得することは可能だと思っています。ただ、やはり向き不向きがある業種なので、pecanさんがおっしゃられるように適性を見てマネジメント候補生として育てる必要はあると思っています。とは言え、なかなか候補生になれる人材も少ないのですが…。

こんばんは。コメントが遅くなってしまいました。

以前、自分のところで知財部門にマネジメント適性のある人が少ない、と愚痴を書きましたが、不良社員さんが体系的に整理された記事を読んで納得しました。

自分の乏しい経験から思っていることを少し。

うちの場合は、人材に余裕がないため、新入社員でも入社5年後にはほぼ一人前として扱っており、早い人は10年で課長昇進という感じです。マネジメント適性ですが、おっしゃるとおり、人に指導できる程度の知財実務能力がないと部下が抱える問題点を的確に指摘できないということは言えますが、人によっては、部署の中の弁理士や米国留学帰り(パテントエージェント)を右腕にして、複雑な問題を解決している人もいますし(案件を見たときに問題がありそうだということを発見する能力は必要ですが)、全て自分で抱え込む必要はないかなという気はしています。

なお、マネジメント能力はある程度は訓練で身につけられるのではないかと思っています。入社してから3年ほど様子を見ていると、将来マネージャとして可能性があるかどうかは、だいたいわかってきます。知財実務能力が順調に伸びていることは必須ですが、事業部相手にうまくコミュニケーションを取り、信頼を得られているかどうかなど、本人の資質が現れてきます。いきなりマネージャになれ、というのではなく、知財実務能力の習得と並行して、将来マネージャとして必要な業務(例えば、経費管理、若手指導・・)を手伝わせたりしながら、会社の業務に対する視野を広げ、マネージメントも悪くないな(人を結集してより大きなことができる)という気持ちを持つ人をマネージャ予備軍として増やすことができれば良いと思っています。

確かに大学院に行ったからと言って「企業の事業部門なり経営陣なりに対して説得力のある知財戦略を立案し、逆に、事業部門や経営陣の要求事項を満足させる施策を実行」できるようになるとは思えません。事業部門と相談しながら、自分で学ぶとともに試行錯誤を繰り返していくうちに正しい方向に近づいていくのではないかと感じています。事業部門に対しては、正しいと思うことを言い続けることが重要だと感じています。最初は異なる考えを持っていた相手が、知らぬうちに自分の考えと同じ考えを持つようになっていることに気付いて驚いたことが何度もありました。

取りとめのない話になりましたが・・。

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