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APEC知的財産シンポジウムに参加してきました

昨日は、会社を休んで(ずる休みじゃないですよ、有休を取りました)、APEC知的財産権シンポジウム「知財活用の革新」(英語の題名は"Innovating IP Exploitation"です)を聴講してきました。もう自分の業務には直接関係ないのですが、前の会社では知財渉外業務に携わっており、3月のAPECのIPEG(知的財産権実務者グループ)と企業実務家とのミーティングに前の会社の知財部門長が出席した際には、若干お手伝いめいたこともしたので、何となく世界的な知財制度の方向性については依然関心を持っているので、勉強のつもりで参加しました。

今回のシンポジウムには3つのセッションがありました。順に、「知財活用に向けたインフラ整備」"Infrastracture for IP Exploitatin"、「知的財産権の最大活用」"Full Utilization of IP Rights"、「知的財産権の商業化」"Commercialization of IP"です。各セッションについて、簡単に感想と共にご紹介します。

APECは、日米中韓及びオセアニア、中米、アジア(タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポールなど)の各国が一堂に会する、結構貴重な場であり、これら各国が集うことから、知的財産権という共通の議題で議論をしても、南北問題や各国の考え方の差が結構如実に出てきており、それを踏まえてシンポジウムを聴講することでより興味深く内容について思索を巡らせることができました。以下の話も、こういった各国の立場の差に基づくところが結構多いです。

まず、第1セッション「知財活用に向けたインフラ整備」です。ここでは、ロシア特許庁の担当者がイノベーションに関する国家戦略と最近設立されたイノベーション拠点"SKOLKOVO"について紹介しました。国家戦略では、5つの技術分野(宇宙、原子力、医療、エネルギー、コンピュータ及び通信)について強化を行うとのことでした。宇宙と原子力が入っているのが、旧ソ連の優位性を活かそうという意図が見えてなかなか面白かったです。ただ、イノベーションに関するインフラ整備についての話はあっても、私が聞いている限りでは知財のインフラ整備に関する話はほとんどなく、イノベーション強化には知的財産が必要というお決まりのフレーズがあっただけのように思い、ちょっと残念でした。本当は質問をしたかったのですが、会場の関心はそこにはなさそうだったので、遠慮しました。次に、中国知識産権局の担当者が、ここ30年弱の知的財産権法の整備及び発明利用促進に関する様々な取り組みについて紹介しました。ただ、ある意味中国政府のお決まりの「制度は立派でしょ」というプレゼンに聞こえ、具体的な成果はどうなんだろう(当然、出願件数の増加は立派な成果だとは思いますが)との疑問が残りました。また、中国知識産権局のパネラーが英語の能力が今一つのようで、パネルディスカッションの際にモデレータからの質問に全然答えられず、困ってしまいました。最後に、発明協会のアジア太平洋工業所有権センター(APICとよく言いますね)長の扇谷氏から、発明協会及びAPICでの人材育成の取り組みに関するプレゼンがありました。
後のパネルディスカッションでも議論になったのですが、APEC域内における知的財産法制度のインフラは各国かなり整備されており、法律上の問題はあまり顕在化しなくなってきている(当然、細部では色々と問題がありますが)のですが、権利活用、特に法律に基づく司法・行政の執行力についてはまだまだ問題があると思います。これは、もう少し時間がかかるように思いました。

第2セッション「知的財産権の最大活用」では、知財流通にかなり話題を絞った議論がされました。日本にいると休眠特許というのはある意味で知財戦略の一環でもあり、単純に休眠特許=企業or政府の懈怠という捉え方はしないのですが、発展途上国からすると、宝の山とも言える休眠特許を活用しないのは勿体ない(特に、使わないんだったら発展途上国の企業に安く使わせてよ、という意味で)し、そもそも活用しない特許は取らなければいいという発想があるようで、日本や米国で考えられている知財流通とは微妙に違った考え方になるようです。
まず、アメリカの法律事務所(以前、アジア開発銀行のGeneral Councilを務めておられたそうです)所属の米国弁護士から、環境技術に関して発展途上国企業と先進国企業との間でJVを設立し、その保証をアジア開発銀行が行い、更にその発展途上国の政府が再保険的な保証を行うことで、リスクを減らした技術移転が行えるのではないかというスキームを紹介していました。次に、マレーシアの大学で技術移転に関するマネージャーを務めておられる教授から、この大学における技術移転の現状についてプレゼンがありました。8年ほど前からの取り組みだそうですが、特許も数多く取り、優れた製品も開発し、スピンアウト企業もあるということです。学内の研究者に対して実用化されない研究はよくない、利用されてこそ価値があるとハッパをかけているようです。この話だけ聞くと、いわゆる大学TLOの成功例と思えるのですが、そもそも大学発の発明は農業、機械といったマレーシアの国情に沿った(つまりニーズがある)ものが大半を占めており、世界的に最先端の技術を生み出すまでには至っていないように思います。マレーシアは比較的成功している発展途上国だと思いますが、とは言え技術輸出の段階までには至らず内需拡大経済の段階にあると思われるので、技術の発展に伴い、日本の大学が直面している各種課題(基礎研究と応用研究のバランス、知的財産関連の予算に比べてライセンス料が微々たるものである、など)に直面するのではないか、と思えます。現時点では、パネリストは至って楽観的な気がしました。最後に、INPIT(工業所有権情報・研修館)の亀ヶ谷流通部長から、INPITが行っている特許流通事業に関する紹介がありました。ただ、これって仕分け対象で来年度からなくなるような?気がしていたんですが、私の思い違いでしょうか。
後のパネルディスカッションでも議論になったのですが、発展途上国は時に休眠特許に対してCompulsory Licenseの強制発動をかけることがあり、日本において休眠特許がたくさんあるのならばCompulsory License(英語的には強制実施権なのですが、日本の制度だと裁定通常実施権制度という言い方になりますね)の設定はないのかという質問が出ていました。産業財産権制度の運用は国策的な観点が時に出ることがあり、不実施特許に対するCompulsory License制度の強制発動が時に議論になるわけですが、日本は(そして米国も)まずは民間同士のライセンス交渉を前提としており、その後、公共の観点からの要請があるならば裁定通常実施権の検討をする可能性がある(かも)というスタンスであるわけです。そして、それでは補いきれない部分をINPITの特許流通事業が担っている、という理屈になります。このあたりは国毎の実情等で変わってくることで、どちらがいいという議論はしにくいです。

最後に、第3セッション「知的財産権の商業化」です。まずは、シンガポール科学技術研究庁に設けられた技術ライセンシング機関のライセンシング担当ディレクターから、この技術ライセンシング機関の概要について説明がありました。この方の説明は、マレーシアの担当者の説明とは打って変わって、技術移転に関する各国の実情を熟知し、より良い方策を取ろうという姿勢が見て取れ、reasonableな説明がされていました。考えてみると、シンガポールの場合、産業、企業及び投資を世界中から引きつけることで国家の繁栄を図ることを主眼としていると思え、ある意味、シンガポールという国家自体が一つの企業であるとも言えます。従って、政府と民間の垣根がなく、民間的(private sectors)な考えで国家が運営されていることが感じられました。何せ、スピード感が民間並みです。ライセンス交渉に半年もかかったらより良い技術が出てきてしまうかもしれない、という発言を政府関係者から聞くとは思いませんでした(笑)。次に、知財協の副理事長という肩書きで、日本IBMの上野知財本部長からプレゼンがありました。プレゼンのほぼ8割方は、ここ10年間で日本に起こった知財政策の大転換及び日本の産業財産権制度に関する数字から見た概括で、残り2割で、先日の知財管理誌で紹介された知財活用に関する座談会の内容が紹介されました。最後は、韓国特許庁の多者協力チームという、よくわからない部署の担当者から、韓国特許庁が実施している知財面からの中小企業支援(どうも、日本国特許庁が最近力を入れている中小企業向け知的財産コンサル事業を韓国特許庁が自ら行っているようです)の話がありました。
日本の場合、知財推進計画2010においてプロ・パテント時代からプロ・イノベーション時代への変革が謳われ、また、電機業界を中心にオープン・イノベーションへの対応が叫ばれているので、知的財産権の商業化と言った場合、権利活用の積極化と多様化というcontextで語られるようになっていると思います。つまり、排他権の効力に基づく自社技術の保護及び権利侵害に対する積極的な訴訟対応といった流れではなく、他社との間で積極的なかつ緩やかな同盟関係を構築する(エコシステム理論ですね)中で、他社と技術及び知財のパッケージのやり取りを行うことでコミュニティ全体での利益を享受する流れなのだろうと思います。当然、医薬品業界は、パイプラインの多様化というcontextでバイオベンチャー等からの技術導入(License-in)を行うという点ではオープン・イノベーションではあるものの、知財的側面からは物質特許等による堅固な自社技術保護というやり方は十分有効であり、かつ、業界の特色に叶ったやり方ですから、電機業界とは違った形でのCommercializationが存在すると思います。
一方、韓国の場合、グローバル企業にまで成長した数社の企業が存在するものの、それ以外の企業、特に中小企業の育成に関しては脆弱なところがあると推測され、韓国産業全体の成長という観点からすると、中小企業に対する知的財産の側面からの支援は焦眉の急とも言えるでしょう。だからこそ、韓国特許庁(つまり政府)が自ら知財コンサル事業を行って支援をするのだと言えます。日本特許庁が発明協会や弁理士会等を介して中小企業支援を行っているのとは違うと思います。

…とまぁ、非常に長文になりましたが、APEC、さらには世界的観点から知的財産制度が直面する課題を再認識することができました。

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