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2010年9月

特許事務所とマーケティング??

書くってtwitter上で宣言してしまったので、自分で自分の首を絞めている状態ですが、ぼつぼつ書くことにします。

…何を書くかというと、「特許事務所とマーケティング」についてです。ものすごく大それた題ですが、幾つかの話題についてお話しします。マーケティングという学問は幅も広く奥も深い学問なので、全ての議論はできませんから、私が適当に関係性を見いだしたところだけで、ね。

先日、弁理士の同期合格者に新司法試験合格者が出たので、祝賀会を開きました。その席で、理科大MOTのマーケティングゼミ出身者(当然同期合格弁理士)が、その合格者に対して「これからは自分を一言で表現できるようにならないといけないですね」という話になり、そこから特許事務所とマーケティングの話が始まりました。

思うに、今までの特許事務所業界は、全体的に見るとマーケティングという観点をあまり考慮せずに活動をしてきた傾向があります。それは、過去、国内企業が特許出願を大量に特許事務所に代理依頼することを行ってきたこともあり、マーケティングという観点を考慮せずとも出願代理案件を受任できたことが理由だと思っています。しかし、このBLOGでも散々話題にしてきたとおり、国内企業の国内特許出願のshrinkの傾向は非常に急激であり、しかもその傾向が止むことは簡単ではないと思われます。だからこそ、今、特許事務所にもマーケティングの発想が必要だと思うのです。

では、なぜ特許事務所にマーケティングの発想が必要なのか。それは、マーケティングという概念が出てきた背景を辿るとわかると思っています。マーケティングという言葉が生まれたのは、米国において今から100年ほど前だと言われています。その背景として、全米大陸をまたぐ巨大市場の成立、そしてその後の供給過剰市場があったと言われています。つまり、マーケティングという概念が出現する以前の企業の販売方式は、いわゆるプロダクト志向とでもいうもので、いい製品が生まれれば自然に商品は売れてゆくものという、ある意味で牧歌的とも言えるものでした。その後、供給過剰市場のために販売実績が振るわなくなると、今度は、顧客に「買ってもらう」必要が生じてきます。ここに至って、企業は、顧客志向の販売形態を考える必要性に迫られてきました。これが、マーケティングという概念の誕生です。つまり、マーケティングとは、顧客志向の販売方式だと(非常に端的に言えば)いうことです。ドラッカー曰く、「マーケティングの究極目的はセリングを不要にすることである」、ここにいうセリングとは押し売りとでも言うべきものです。

今まで、特許事務所は、顧客=クライアントのことをどれだけ考えてきたでしょうか。質の良い権利形成業務を行うことがクライアントのためである、と考えて行動してきた特許事務所は多数存在すると思います。当然、クライアントは(最低限のこととして)弁理士の専門性を発揮した権利形成業務の実行を期待しています。しかし、それが全てでしょうか。質はいいんだけど代理人費用が高価なので困っている、あるいは、業務の質と代理人費用とが見合ったものになっていない、さらには、究極の高品質でなくていいから、代理人費用を低額に抑えたい、こういったニーズをクライアントは抱えているかもしれません。ニーズは、殆どの場合、クライアント側の様々な要望という顕在化した形でクライアント側から提示されるだけで、特許事務所が積極的に(個別の)クライアントのニーズを調査し、発掘することは稀だと思います。加えて、クライアントすら把握し切れていない漠然としたニーズ(特許的に言えば課題ですね)は、何らかの形で顕在化しなければ解決されません。今の段階では、殆どの特許事務所は、例えばクライアントから代理人費用のコストダウンを提示された場合、それを承諾するか、あるいはコスト面から見て折り合わなければ断念するかのどちらかだと思います。では、それでいいのか。

上に書いた祝賀会での議論で、特許事務所の代理人費用についての議論がありました。往々にして、特許事務所側から提示する代理人費用は、必要とされる業務に対するコストを積み上げたものになりがちです。マーケティング理論においても、この問題は価格戦略という言い方で取り上げられており、マーケティング理論の中でも重要な位置を占めています。コスト積み上げ方式を、コスト・プラス法とも言います。このやり方も価格設定の一手法ですが、企業は他にも様々な手法を用いて価格設定を行います。一つの手法として、どちらかというと主流とも言えるものが、需要に応じた価格設定手法があります。これは、売り手側のコストではなく、価値に対する買い手側の知覚に応じて価格を設定するものです。つまり、

①コスト重視:コスト→価格→価値→顧客
②価値重視:顧客→価値→価格→コスト

という順に決定されるわけです。①の場合、企業が提示する価格に対して顧客がそれ相応の価値を認めれば受容されるわけですが、そうでない場合は、その商品は顧客から受容されません。①、②どちらの手法を採用してもいいのですが、結果的には、顧客がその商品に化体する価値を受容するかどうかで商品を購買するかどうかが決まります。従って、企業はその商品に対して価格相応の価値が化体するように努力しなければいけませんし、時に顧客に対して説明する義務が生じます。

こんな話をしていたら、祝賀会の参加者の中から、「それは結果的に価格競争になって業界全体の首を絞めるのではないか」という意見がありました。参加者が危惧する理由もわかります。と言うのも、特許事務所が提供するサービスの付加価値を、全てのクライアントが理解できるかというとなかなか理解できない場合もあるからです。特に、商標登録出願については、表面的には代理人なくして出願できてしまう(特にIPDLで類似商標検索が容易にできるようになった以降は)わけで、それでは特許事務所に敢えて商標登録出願の代理を依頼するだけの価値は奈辺にあるか、をクライアントに説明するのは容易ではありません。とは言え、ここで説明努力を怠れば、結果的に業界全体が価格競争に巻き込まれてしまい、業界全体の首を絞めることになります。弁理士は付加価値の存在及び程度を十分に承知しているわけですが、これをクライアントに明確に説明できるかが勝負になるわけです。

少し話を戻して、マーケティングが顧客重視の考え方に基づく、ということを敷衍して、今後特許事務所が何をすべきかについて考えてみます。特許事務所が提供する知財サービスは、果たしてどの程度クライアントの顧客満足をもたらしているのでしょうか。そして、それを知る努力を特許事務所は今までどの程度してきたのでしょうか。こんな話をすると、では個別の案件に対して、あるいは、年間単位でまとめてクライアントにアンケートを取ればいいという話が出てきます。しかし、上でちらっと説明したように、クライアントがどの程度の顧客満足を得ているのか、また、クライアントがどのようなニーズを抱えているのかというのは往々にして顕在化していませんし、アンケートでそれが顕在化するとも限りません(取らないよりましという議論もありますが)。この辺りは、市場分析というマーケティング理論でも非常に重要な領域になるのですが、こと特許事務所に関して言えば、自分の経験に基づいて考えると、クライアントの担当者(実務担当者+責任者)に対して地道にヒアリングをすることと、さらには知財業界のトレンドを掴むことの両方から一定の仮説を導き、それに基づいて様々な提案を行う必要があるのでは、と思っています。このような作業は、一部の特許事務所は行っていたことでしょうが、なかなかそういった行動を起こしている特許事務所は少ないと思います。

…ちと長くなりましたので、本日はこの辺りで区切ります。他に、マーケティング理論の中で最近トピックになっているソーシャル・マーケティングや関係性マーケティングの考え方を特許事務所に活かすと面白いと思っているのですが、まだ思考がそこまで詰め切れていないので、考えがまとまったらお話しを続けるかもしれません。

<参考文献>有斐閣アルマ マーケティング戦略(第3版)

今年の特許業界で起きているであろうこと

本日は、世の中色々と騒がしいようですが、それとは全く関係のない(元々このBLOGは政治、社会の動きを直近的に追いかけることはしてないので)お話しを。

つい数日前、弁理士会が会長名で日本国における特許出願件数の激減を憂い、国際競争力強化のためには出願件数増加を政策的に推進すべしという声明を出しました。これについては、twitterのTL上でも随分と議論がありましたが、この前の記事でも申し上げたとおり、この声明について私から直接コメントをすることはしません。代わりに、今年度の日本国特許出願の傾向について、今時点でわかっていることを簡単にお話しします。

今年度の企業の出願意欲について、年度始まりの時点では、かなりの企業がリーマンショックから若干の立ち直りを見せ、まあまあの立ち上がりを見せたようです。しかし、その後の急激な円高傾向に合わせるように企業の出願意欲がかなり減退した様子で(多分様子見状態だったのだろうと思います)、この夏はかなり特許事務所への案件依頼が減少した模様です。従って、現時点での出願番号を直線的に外挿した今年の出願件数は25万件程度になるのではないかという話があります。当然、企業の業績如何、あるいは今後の為替状況如何でどうなるかは不透明な部分がたくさんありますが。

では、さらに特許事務所への案件依頼が減少した中で、一律に案件依頼が減少したのかというと、どうもそのようではない、つまり、案件依頼の過程で企業が特許事務所の選別に大きく動いていることが推測されます。

企業と特許事務所との関係は、一見、特許事務所が下請的な立場にあるように見えるのですが、一旦案件を代理すると、当該出願を権利化する手続は最終的には特許事務所(の代理人)が行うわけで、大胆な言い方をすれば特許事務所側に生殺与奪権があるとも言えます。また、代理人費用に対して大幅なコストカットを行うにしても、特許事務所側がそれを承諾しない限りコストカット策を実現することはできません(最悪、代理をしてくれる特許事務所が一つもなくなってしまうことがあり得ます)。このように、企業と特許事務所との関係は、かなり持ちつ持たれつな部分があります。また、特定技術について特定の事務所に長年代理を依頼すると、確かに阿吽の呼吸的なものが生まれ、案件依頼の際の手間が(双方で)減少するわけですが、逆に、他の特許事務所にその技術の代理を依頼することに対するenertiaが生まれてしまうので、ダイナミックな依頼ができなくなる傾向にあります。こんなわけで、企業と特許事務所との関係は、かなり固定的なものになりがちで、よほどのことがなければ、依頼事務所数のダイナミックな削減や技術と特許事務所との対応関係を見直すことにはなりません。

しかし、ここ数年の業績不振で、企業は今まで以上のコストカット策が求められ、その結果、慣習的に行われてきた特許事務所への案件依頼の手順に対しても大幅な見直しがされた様子です。結果、リーマンショック以降、今まで安泰だと思われてきた大規模特許事務所に依頼する案件も激減し、結果、幾つかの大規模特許事務所にもかなりのリストラの嵐が吹き荒れた様子です。リーマンショック直後の出願件数激減は、大体の特許事務所に対してほぼ一律に影響したようですが、今年の依頼案件の変動は一律に起こっている様子がありません。パテントサロンの求人ページには特許事務所の求人情報が多数掲載され、一見すると特許事務所業界は息を吹き返したかのように見えますが、それは表面的なことだと思っています。

では、どのような判断基準で依頼案件が大幅減となった事務所がある一方、それほどの影響を受けていないと思われる事務所が選定されているのか、これについては、企業個々の事情があるので、私も実のところはよく把握できていません。しかし、企業からの依頼案件減少傾向は多分に恒常的なものであり、しかも、その影響は一律でないとするならば、弁理士会全体で対処すべき問題ではなく、個々の事務所が自身の置かれている状況を冷静に分析し、個別の解決策を模索すべきであるように思えます。言えるのは、高品質の権利形成手続を行うことのみでは勝ち残れる絶対条件にはならないのだろうということです。それは、最低限の要件でしかないわけです。高品質+コストダウン(単純な代理人費用ダウンではなく、企業の知財関連費用をトータルで削減できるということ)、あるいは高品質+企業担当者の手間削減、こういった事項を特許事務所が企業に提案できるのかどうか、この辺りが分かれ目になると思っています。

いずれにしても、従来の特許事務所のビジネスモデルは崩壊の一途を辿っていると思います。次に何が来るべきか、皆で考えないといけないでしょう。

書籍「経営に効く7つの知財力」

相変わらず書評サイト状態ですが…読もうと思っている本が数珠つなぎ状態なので、当分この状態は続きそうです。

本日は、いよいよ土生さんの「経営に効く7つの知財力」です。この本、前文でかの鮫島大先生の推薦の辞があり、馬場錬成氏もご自身のBLOGで絶賛推薦中の本であり、私ごとき若輩があれこれ感想を述べることすら畏れ多いのですが、とりあえずの感想を。

結論から言えば、非常にいい本です。何がいいのかというと、知的財産と経営について種々論じた書籍はそれなりにあると思うのですが、土生さんのこの本は、土生さんが合格されてからこの方10年間の経験、特に最近5年間の特許庁や関東経済産業局が主催した知的財産コンサルティング事業で得た貴重な経験に裏付けされたものなので、ある意味、土生さんが苦労されてきた経験の中から成功例を中心に神髄をまとめたものですので、机上の空論に陥ることなく実務上重要な点を非常にコンパクトにまとめてある点です。特に、「7つの知財力」の分類は非常に参考になると思います(具体的な内容は書籍をご覧下さい)。

この本を読了してすぐの時に、土生さんをよく存じ上げている的場さん(この方も知財コンサル界では超有名人ですね)に、土生さんの本を読みましたというお話しをしたら、「あの本はさらっと読めるんですが、実は非常に深いので含蓄のある本ですね」と評されていました。事実、この本に記載されていることは、理屈から考えれば非常に真っ当な内容が書かれており、企業経営者が企業経営をするに当たって知財をどう考えるべきかについて、経営感覚に優れた経営者なら確かにそう考えるだろうということが書いてあります。

では、真っ当な内容が書いてあるのならば、世の中の企業は何故それを実践できないのか…この質問に対して、自分自身も実は明確な回答を得るに至っていません。大企業では、多分、知的財産実務をあまりに細分化したために、個々の担当者が経営戦略なり事業戦略なりの課題と自身の業務との関係をリアルに認識することが難しく、ために知財部門内での課題解決に追われて、俗に言う蛸壺状態に陥っているからでしょう。中小・ベンチャー企業の場合、企業内部の人間が知的財産の重要性を認識することはなかなか難しい(訴訟等に直面すると重要性を俄然認識するのですが)ので、外部専門家(ほとんどは弁理士)が企業の「ためになる」=「経営に資する」知的財産マネジメントを提示できていないのが理由だろうと思います。弁理士は発明者のアイデア発想、つまり源流管理の発想はあるのですが、その結果物たる知的財産権を経営活動に活用することについてあまりに無力で、また、勉強を怠ってきたように思います。

つまり、土生さんのこの本は、実に真っ当な内容を書かれているのですが、では、これを企業内で実践するには個々の企業での相当な努力を必要とするのです。これは土生さんの責任でも何でもありません。個々の企業での努力は相当に個別論に過ぎ、書籍としてまとめるには不適当でしょう。加えて、個別ケースを記述するには対象企業が有する企業秘密を相当程度開示しないと納得の行く記載はできないだろうと思います。故に、上述した関東経済産業局主催の知財コンサル事業の結果をまとめた書籍は、実は肝心の部分についての記載が薄くなってしまい(努力されているのは重々承知しています)、書籍を読んだだけでは、誤解を恐れずに言えば「綺麗事」が大半を占めることになります。懇親会に行くと結構な裏話を教えていただけるんですけどね。逆に言えば、一般論を個別論にブレークダウンするのは知財専門家、あるいは知財コンサル事業を行う者の責任であり、そこからが知恵の絞りどころなのです。

あと、余談で。最近の知的財産に関する動向を見ていると、知的財産は保護重視から活用重視に潮流が微妙に変化していると思っています。土生さんも、オープン・イノベーションに関する議論を最後で軽くされていますが、私が同じような内容の書籍を書くとしたら、「中小企業こそ知的財産権の活用を積極的に行うべき」という主張を前面に押し出していると思います。つまり、中小企業はインフラが弱いですから協力企業の存在無くして成立が難しいと思っています。この、協力企業とのコラボレーションの際に、中小企業自身が有する知的財産権がコラボレーションの円滑化につながるだろうと思っています。囲い込みではなく、他社による自社知的財産権の積極的活用を図るわけです。そのためのビジネスモデル作りを積極的に推進すべきだろうと思うのです。

と言うわけで、中小企業を中心とした知的財産コンサルティング活動を行おうと考えている方、そして、中小企業の経営者で知的財産に関する重要性を認識し切れていないが、何となく重要であるだろうと推測している方には、土生さんのこの本を熟読玩味していただくことをお薦めします。そうそう、御本人のBLOGで誤植訂正があると言われてますので、こちらも参照されて下さい。

追伸:弁理士会会長が最近なにか声明を出されたようですが、私として公式に申し上げることは何もありませんので、このBLOGでは批評も何もしません。私のスタンスは、このBLOGの読者の方であれば十分ご理解いただいていると思いますので。wink


営業をせっせとしております

あまり書かないと忘れ去られてしまいそうな気がしますので、本日はほんの短い記事を(本当ですよ)。

特許事務所に転職して、色々な企業(クライアント様)の知財部門の担当者の方にお会いすることができています。お時間をいただいた方々に心からお礼申し上げます。その際に、企業知財部門が抱えていらっしゃる課題についてお聞きすることにしています。幾つかのクライアント様の知財部門が抱えていらっしゃる課題は、共通するところと個々のクライアント様の事情に基づく個別のところとがあり、興味深く拝聴しています。特に、私自身が企業知財部門に在籍した年数が結構なものになり、しかも、知財部門の中でも企画管理という知財部門全体の課題を把握し、これを改善すべき部署にいた時期がかなり長かったので、担当者の方が悩まれている課題が他人事と思えないところが相当あり、ふと一緒に悩んでしまうことが多いです。これでは営業にならないですね。

考えてみると、特許事務所の営業というと取扱業務に対する技術的及び特許的スキルが高いことの宣伝が多く、つまり特許事務所自身の得意な部分の宣伝ばかりで、クライアント様がどのような課題を抱えているかをお聞きし、これに対して解決策に繋がるような提案を行う営業をする特許事務所はほとんどないように思います。それは、特許事務所自体が、企業から受件した案件に対して高品質の出願手続及び中間処理手続を提供することが自らの任務であると長年考えていて、クライアント様の知財オペレーション上の課題を解決することに対してあまり考えを巡らせてきていなかったことと、企業(知財部門)側も、案件代理を依頼している事務所に対して一律に協力(大抵の場合コストダウン)をお願いするに止まっていることがあるように思います。

私は、高品質の出願手続及び中間処理手続をご提供することは弁理士業務の本分ですからこの点はおろそかにせず、加えて、自分の事務所に業務をご依頼いただくことで、クライアント様が抱えている課題を解決できないかというご提案をするようにしています。結局のところ、それは知財業務のアウトソーシングの意味はどこにあるかを突き詰めて考えることになります。品質、納期、コストの面で社内で業務を行うことと特許事務所が行うこととでどちらにメリットがあるのかを問い、特許事務所が行うことでクライアント様に何かしらのメリットをご提供できるように所内の仕組みを工夫するわけです。

現時点では数多くのソリューションを提供できているわけではありませんが、日々考えを巡らせている毎日です。

このことは、特許事務所のマーケティングという視点から考えれば当然の帰結のように思います。つまり、初期のマーケティング(その頃はマーケティングという考えすらありませんでした)は、良質の商品を生産すれば消費者は黙ってそれを購入するという前提で様々な生産活動を行い、競業他社との間で消費者に提供する商品に特段の差異が無くなった時点で価格競争に走るしか手段がありませんでした。マーケティングの考えは、顧客重視から始まっており、顧客ニーズに応じた商品を提供することで顧客満足を得るというやり方に大きく転換したわけです。ある意味で、これを知財コンサルと言いうるかもしれませんが、そんな大それた言い方ではなく、虚心坦懐にクライアント様のニーズをお聞きし、これに対して解決策を提案させていただくわけで、弁理士が従来から行っている業務の範囲内であってもご提案できることは幾つかあると思っています。

と言うことで、引き続き御用聞きにお伺いしますので、クライアントの皆様、どうぞよろしくお願いしますm(__)m

APEC知的財産シンポジウムに参加してきました

昨日は、会社を休んで(ずる休みじゃないですよ、有休を取りました)、APEC知的財産権シンポジウム「知財活用の革新」(英語の題名は"Innovating IP Exploitation"です)を聴講してきました。もう自分の業務には直接関係ないのですが、前の会社では知財渉外業務に携わっており、3月のAPECのIPEG(知的財産権実務者グループ)と企業実務家とのミーティングに前の会社の知財部門長が出席した際には、若干お手伝いめいたこともしたので、何となく世界的な知財制度の方向性については依然関心を持っているので、勉強のつもりで参加しました。

今回のシンポジウムには3つのセッションがありました。順に、「知財活用に向けたインフラ整備」"Infrastracture for IP Exploitatin"、「知的財産権の最大活用」"Full Utilization of IP Rights"、「知的財産権の商業化」"Commercialization of IP"です。各セッションについて、簡単に感想と共にご紹介します。

APECは、日米中韓及びオセアニア、中米、アジア(タイ、ベトナム、マレーシア、シンガポールなど)の各国が一堂に会する、結構貴重な場であり、これら各国が集うことから、知的財産権という共通の議題で議論をしても、南北問題や各国の考え方の差が結構如実に出てきており、それを踏まえてシンポジウムを聴講することでより興味深く内容について思索を巡らせることができました。以下の話も、こういった各国の立場の差に基づくところが結構多いです。

まず、第1セッション「知財活用に向けたインフラ整備」です。ここでは、ロシア特許庁の担当者がイノベーションに関する国家戦略と最近設立されたイノベーション拠点"SKOLKOVO"について紹介しました。国家戦略では、5つの技術分野(宇宙、原子力、医療、エネルギー、コンピュータ及び通信)について強化を行うとのことでした。宇宙と原子力が入っているのが、旧ソ連の優位性を活かそうという意図が見えてなかなか面白かったです。ただ、イノベーションに関するインフラ整備についての話はあっても、私が聞いている限りでは知財のインフラ整備に関する話はほとんどなく、イノベーション強化には知的財産が必要というお決まりのフレーズがあっただけのように思い、ちょっと残念でした。本当は質問をしたかったのですが、会場の関心はそこにはなさそうだったので、遠慮しました。次に、中国知識産権局の担当者が、ここ30年弱の知的財産権法の整備及び発明利用促進に関する様々な取り組みについて紹介しました。ただ、ある意味中国政府のお決まりの「制度は立派でしょ」というプレゼンに聞こえ、具体的な成果はどうなんだろう(当然、出願件数の増加は立派な成果だとは思いますが)との疑問が残りました。また、中国知識産権局のパネラーが英語の能力が今一つのようで、パネルディスカッションの際にモデレータからの質問に全然答えられず、困ってしまいました。最後に、発明協会のアジア太平洋工業所有権センター(APICとよく言いますね)長の扇谷氏から、発明協会及びAPICでの人材育成の取り組みに関するプレゼンがありました。
後のパネルディスカッションでも議論になったのですが、APEC域内における知的財産法制度のインフラは各国かなり整備されており、法律上の問題はあまり顕在化しなくなってきている(当然、細部では色々と問題がありますが)のですが、権利活用、特に法律に基づく司法・行政の執行力についてはまだまだ問題があると思います。これは、もう少し時間がかかるように思いました。

第2セッション「知的財産権の最大活用」では、知財流通にかなり話題を絞った議論がされました。日本にいると休眠特許というのはある意味で知財戦略の一環でもあり、単純に休眠特許=企業or政府の懈怠という捉え方はしないのですが、発展途上国からすると、宝の山とも言える休眠特許を活用しないのは勿体ない(特に、使わないんだったら発展途上国の企業に安く使わせてよ、という意味で)し、そもそも活用しない特許は取らなければいいという発想があるようで、日本や米国で考えられている知財流通とは微妙に違った考え方になるようです。
まず、アメリカの法律事務所(以前、アジア開発銀行のGeneral Councilを務めておられたそうです)所属の米国弁護士から、環境技術に関して発展途上国企業と先進国企業との間でJVを設立し、その保証をアジア開発銀行が行い、更にその発展途上国の政府が再保険的な保証を行うことで、リスクを減らした技術移転が行えるのではないかというスキームを紹介していました。次に、マレーシアの大学で技術移転に関するマネージャーを務めておられる教授から、この大学における技術移転の現状についてプレゼンがありました。8年ほど前からの取り組みだそうですが、特許も数多く取り、優れた製品も開発し、スピンアウト企業もあるということです。学内の研究者に対して実用化されない研究はよくない、利用されてこそ価値があるとハッパをかけているようです。この話だけ聞くと、いわゆる大学TLOの成功例と思えるのですが、そもそも大学発の発明は農業、機械といったマレーシアの国情に沿った(つまりニーズがある)ものが大半を占めており、世界的に最先端の技術を生み出すまでには至っていないように思います。マレーシアは比較的成功している発展途上国だと思いますが、とは言え技術輸出の段階までには至らず内需拡大経済の段階にあると思われるので、技術の発展に伴い、日本の大学が直面している各種課題(基礎研究と応用研究のバランス、知的財産関連の予算に比べてライセンス料が微々たるものである、など)に直面するのではないか、と思えます。現時点では、パネリストは至って楽観的な気がしました。最後に、INPIT(工業所有権情報・研修館)の亀ヶ谷流通部長から、INPITが行っている特許流通事業に関する紹介がありました。ただ、これって仕分け対象で来年度からなくなるような?気がしていたんですが、私の思い違いでしょうか。
後のパネルディスカッションでも議論になったのですが、発展途上国は時に休眠特許に対してCompulsory Licenseの強制発動をかけることがあり、日本において休眠特許がたくさんあるのならばCompulsory License(英語的には強制実施権なのですが、日本の制度だと裁定通常実施権制度という言い方になりますね)の設定はないのかという質問が出ていました。産業財産権制度の運用は国策的な観点が時に出ることがあり、不実施特許に対するCompulsory License制度の強制発動が時に議論になるわけですが、日本は(そして米国も)まずは民間同士のライセンス交渉を前提としており、その後、公共の観点からの要請があるならば裁定通常実施権の検討をする可能性がある(かも)というスタンスであるわけです。そして、それでは補いきれない部分をINPITの特許流通事業が担っている、という理屈になります。このあたりは国毎の実情等で変わってくることで、どちらがいいという議論はしにくいです。

最後に、第3セッション「知的財産権の商業化」です。まずは、シンガポール科学技術研究庁に設けられた技術ライセンシング機関のライセンシング担当ディレクターから、この技術ライセンシング機関の概要について説明がありました。この方の説明は、マレーシアの担当者の説明とは打って変わって、技術移転に関する各国の実情を熟知し、より良い方策を取ろうという姿勢が見て取れ、reasonableな説明がされていました。考えてみると、シンガポールの場合、産業、企業及び投資を世界中から引きつけることで国家の繁栄を図ることを主眼としていると思え、ある意味、シンガポールという国家自体が一つの企業であるとも言えます。従って、政府と民間の垣根がなく、民間的(private sectors)な考えで国家が運営されていることが感じられました。何せ、スピード感が民間並みです。ライセンス交渉に半年もかかったらより良い技術が出てきてしまうかもしれない、という発言を政府関係者から聞くとは思いませんでした(笑)。次に、知財協の副理事長という肩書きで、日本IBMの上野知財本部長からプレゼンがありました。プレゼンのほぼ8割方は、ここ10年間で日本に起こった知財政策の大転換及び日本の産業財産権制度に関する数字から見た概括で、残り2割で、先日の知財管理誌で紹介された知財活用に関する座談会の内容が紹介されました。最後は、韓国特許庁の多者協力チームという、よくわからない部署の担当者から、韓国特許庁が実施している知財面からの中小企業支援(どうも、日本国特許庁が最近力を入れている中小企業向け知的財産コンサル事業を韓国特許庁が自ら行っているようです)の話がありました。
日本の場合、知財推進計画2010においてプロ・パテント時代からプロ・イノベーション時代への変革が謳われ、また、電機業界を中心にオープン・イノベーションへの対応が叫ばれているので、知的財産権の商業化と言った場合、権利活用の積極化と多様化というcontextで語られるようになっていると思います。つまり、排他権の効力に基づく自社技術の保護及び権利侵害に対する積極的な訴訟対応といった流れではなく、他社との間で積極的なかつ緩やかな同盟関係を構築する(エコシステム理論ですね)中で、他社と技術及び知財のパッケージのやり取りを行うことでコミュニティ全体での利益を享受する流れなのだろうと思います。当然、医薬品業界は、パイプラインの多様化というcontextでバイオベンチャー等からの技術導入(License-in)を行うという点ではオープン・イノベーションではあるものの、知財的側面からは物質特許等による堅固な自社技術保護というやり方は十分有効であり、かつ、業界の特色に叶ったやり方ですから、電機業界とは違った形でのCommercializationが存在すると思います。
一方、韓国の場合、グローバル企業にまで成長した数社の企業が存在するものの、それ以外の企業、特に中小企業の育成に関しては脆弱なところがあると推測され、韓国産業全体の成長という観点からすると、中小企業に対する知的財産の側面からの支援は焦眉の急とも言えるでしょう。だからこそ、韓国特許庁(つまり政府)が自ら知財コンサル事業を行って支援をするのだと言えます。日本特許庁が発明協会や弁理士会等を介して中小企業支援を行っているのとは違うと思います。

…とまぁ、非常に長文になりましたが、APEC、さらには世界的観点から知的財産制度が直面する課題を再認識することができました。

書籍「企業発展に必要な特許戦略」

最近何だか書評サイトと化しておりますが…まぁ、それだけ知財関係の書籍の新刊が多いと言うことだと思っています。多分、この状態は後何回か続くと思っています。かなり読まないといけないと思っている本が山積み状態なので(^_^;)。

本日は、宇佐見弘文氏が書かれた「企業発展に必要な特許戦略」という本の書評です。著者は、この本の奥付に書かれた略歴を見ると、武田薬品工業の知財部のGM(多分General Managerの略でしょうから、部長格ということでしょう)及び知財協の業種別部会の要職を歴任され、現在は大阪工業大学のMIP教授をされているとのことです。私は知財業界に知り合いが少ないので(本当ですよ)、当然のことながら宇佐見氏も存じ上げていません。逆に、知らない方が色々と書けていいと思っています。この点、あと何回か後に取り上げる予定の土生先生の新刊は、先生をよく存じ上げているが故に、もしかしたら書きにくいかもなぁ、と(べた褒めできればいいと期待してますが)。

この書籍は、一言で言えば、医薬品業界における著者の経験及び大学における研究内容を反映した、主に医薬品業界においてどのような考えに基づいて知財実務(特許実務にほぼ等しいですが)を実践すべきかを説明した書籍です。医薬品業界の知財実務に関する書籍は、医薬品業界が産業に占める重要度に比してそれほど数多く出版されているわけではありません。私が記憶している範囲では、知財業界で結構反響を呼んでいる「御社の知財戦略がダメな理由」を記した長谷川曉司氏が、三菱化学の知財部門長を経験されているので、かなり化学品業界の実情をベースにしているくらいで、医薬品業界の知財実務を記した書籍は記憶がありません。一方、かつては大量の特許出願をしていた電機業界の知財実務を記した書籍は、古くは日立、富士通のそれを紹介した書籍(もう30年くらい前の書籍です)から始まり、電機業界の出願件数が多いこともあってか、取り上げられるチャンスが多いように思います。医薬品業界の場合、基本的に一物一特許が該当する業界なので、業界の売上なり産業への貢献度という観点から見ると出願件数自体が少なく、従って、弁理士で医薬品(広く化学・バイオと言ってもいいでしょう)をメインに取り扱っている先生の絶対数も少ないです。この辺りが、医薬品業界の知財実務を取り扱った書籍がごく少数であることに反映しているのかもしれません。当然、知財協といった業界団体における医薬品業界のプレゼンスは結構大きいです。会員数は知財協の40%程度を占めるそうです。

私は知財業界に籍を置いて随分になりますが、電機業界に身を置いた年月がかなり長くなりましたので、電機業界の知財実務は人並みに通暁していると思っていますが、医薬品業界の知財実務は発想が全く違うので、この書籍を読んでいてその差異を改めて感じてしまいました。上に述べたように、医薬品業界では原則的に一物一特許が通用しますが、電機業界では一つの製品に数多くの特許が化体してます(「特許の藪」と呼ばれます)。また、医薬品業界、広くは化学業界の場合、物質がそこにあったからと言ってその製法までが公知だとは言えませんが、電機業界の場合、装置を販売すれば大抵の場合リバースエンジニアリングで相当なところまで判明してしまいます。この辺りが知財実務の差異を生んでいる気がします。

例えば、ある新規化合物が生成され、従来にない顕著な効果が判明した時点で物質発明の出願準備にかかるわけですが、医薬品業界の場合、それだけではなく、製造方法発明、用途発明、製剤発明、時には化合物の結晶に関する発明についても検討をするとの話が書かれています。そして、これらは全てを同時期に出願する必要はなく、一つの新規化合物に関する保護期間をできるだけ長期に行う観点から、販売時期や競合他社の状況を見て適切な時期に出願するとのことです。当然、外国出願も、全ての種類の発明について一律に対象国に出願するのではなく、マーケットの性質を見て考えるそうです。

電機業界の場合、一つの新技術が創出された場合、大抵は発明のカテゴリー上装置、方法、製法のいずれか一つにのみ該当する場合が結構な確率であります。当然、多面的な保護を図る意味で、装置及び方法の両面で請求の範囲を記載できるかどうかの検討は怠らずにやりますが、全ての発明で複数カテゴリーでの請求の範囲を記載できるわけではありません。なお、コンピューター関連発明であれば、いわゆる記録媒体クレーム及びプログラムクレームの記載を付加することは検討します。とは言え、物+製法をパッケージにして考えることができるのは、化学業界の知財業務の特色であると言えます。また、上に書いたように、出願時期を微調整する発想は電機業界ではなかなか実現しにくいです。つまり、電機業界における装置発明と方法発明は実質的同一発明ですから、同時出願(正確には一出願での記載)をするのが当たり前です。従って、出願時期を調整するという発想にはなかなか思い至りません。

上に書いた差異から派生して、いわゆる知財戦略も相当な差異が生じてくると思います。電機業界の場合、現状からすると他社特許との関係が全くない製品を製造することは実質的に不可能ですから、ほぼ全部の場合において、他社との交渉を避けることはできません。これがために、有力企業間において包括的なクロスライセンスを締結し、個々の交渉の必要性を減少する取り組みをしているわけです。一方、医薬品業界において、クロスライセンスをすれば、自社の医薬品を競合他社がそのまま製造できる理屈になるため、クロスライセンスはそれほど一般的なことではないようです。当然、販路拡大の観点から、競合他社に部分的なライセンスを締結することは結構行われているようです。

著者は医薬品業界に籍を置いた年月が長いこともあり、本書で紹介されている知財実務はほぼ医薬品業界についてのものが中心となり、他の業界でも通用するかどうかについては難しいところが多いと思いますが、医薬品業界の知財実務に携われている方にとっては貴重な書籍だと思います。惜しむらくは、医薬品業界では非常に厳密な技術調査、特許調査を行っていると推測する(他社権利との関係があれば製品化は非常に難しく、ライセンス交渉も簡単ではないと思うので)のですが、これに関する記述は結構薄く、しかも、それは主に研究者の責務であるとしている点が若干残念でした。

さて、次は何を読もうかな…。

ガイアの夜明け-膨張する中国ニセモノ-を視聴しました

本日はさらっと。

録画しておいた「ガイアの夜明け」-膨張する中国ニセモノ-をようやく視聴することができました。私は、前の会社では模倣品対策チームに参加していたわけではなく、また、前の前のゲーム会社では、特許権+意匠権侵害のゲーム機の調査のために韓国に乗り込んでいったことはありますが、それ以上の経験もなく、知識もごく一般的なものですので、突っ込んだ議論はあまりできません。とは言え、簡単に感想を。

紹介されている内容は、私としては特に目新しいことはなかったのですが、中国の模倣品・海賊版ビジネスの実情を広く紹介した意義はあると思っています。TVという公共メディアによって報道されることで、模倣品・海賊版ビジネスがどの程度の広がりを持っているのかという認識が国民に少しでも高まり(少し上から目線の言い方ですいません)、自らの生活を振り返ってもらえるといいと思うのです。

例えば、番組で紹介された、インターネットオークションサイトで模倣品を購入した人が、正規品販売会社のお客様相談室に苦情を言ったところ、模倣品だから対応できませんと返答された事例は、国内でしか買い物をしないので中国ニセモノは関係ありませんと思っている人にとっても模倣品・海賊版問題は他人事ではないことのいい事例になると思います。インターネットオークションサイトも当然のことながら模倣品・海賊版問題に対して対策を取っているようですが(詳細は当然教えてもらえませんので)、模倣品・海賊版の出品を撲滅するにまでは至っていないようです。また、模倣品・海賊版が出品されていたからと言って、そのインターネットオークションサイトがどこまでの責任を負うのかについても議論があると思います。

また、中国やガーナにおいて、貧困を模倣品・海賊版商品を購入する理由にする(貧乏人は正規品は高くて購入できないから模倣品・海賊版商品を購入するんだ、という)のは、実は回り回って自分の不利益になり得ることを考えると、長い目で見れば得策ではありません。例えば、食品の「ニセモノ」は往々にして低品質で健康に害を与えることもあります。薬品の「ニセモノ」は、かなりの確率で、目的の物質の含有率が低かったり、不純物(時には毒)が含有されていたりして、目的の薬効を得られないどころか健康に著しい害を与えることが多いです。家電製品や電気通信機器(携帯電話など)の場合、使用者の生命を脅かすような事態はあまりあり得ず、また、基本的性能については、例えば山寨機だと部品は正規品みたいなもんですから、通常の使用において問題は生じないとも言えるので、正規品製造/販売会社がBOPビジネスに対して有効な市場開拓を行っていなかった間隙を縫って安価な模倣品・海賊版商品が売れていることに対して正規品製造/販売会社が「模倣品」という視点だけで排除するのはなかなか難しいのですが。

では、一体世界中でどの程度の模倣品・海賊版商品ビジネスがあり、その影響はいかほどかということについて、国際商業会議所(International Chamber of Commerce)に付設されたBASCAP(Business Action to Stop Counterfeiting and Piracy)のHPには、OECDのレポートが次のように引用されています。

"The OECD has reported that “international trade in counterfeit and pirated products could be up to US$ 200 billion”. Taken together with the value of domestically produced and consumed counterfeits, the significant volume of digital and fake products being distributed via the Internet, and the loss of economic development, harm to heath & safety, reduced technology transfer, and innovation, the total magnitude of counterfeiting and piracy worldwide is well over US$ 600 billion."

模倣品・海賊版商品の貿易だけで200億ドル=1.6兆円という額になるのが大変な驚きですね。

模倣品・海賊版問題に関しては、いわゆる医薬品の南北問題や、発展途上国における雇用確保(それなりの労働市場は提供してしまっている)、模倣品・海賊版商品を所持する個人に対する刑事責任の可否、さらにはデジタルコンテンツのビジネスモデルの変化など、単純に善悪の問題や知的財産権侵害という観点だけで議論できないのですが、経済的損失は確実に起きているわけで、これをどのように解決するかが頭のひねりどころだと思います(とは言え、ここで解決策を詳細に議論できるほど私は専門家ではないので…)。

書籍「マイクロソフトを変革した知財戦略」

この書籍を持っている方がtwitterで感想を聞いておられたので、「近々書評を書きます」とtwitter上で宣言してしまった関係上、必死に読みました。ま、鞄の中に入れて読もうと思っていたところなので、いいタイミングでしたが。

さて、本書は、IBM知的財産部でのライセンスビジネスを立ち上げ、さらにMicrosoftに招聘されて同社の知財戦略の変化を主導されたMarshal Phelps氏が、ご存じ"Rembrandts in the Attic"の共著者であるDavid Kline氏と共に著作された書籍です。後で細かくご紹介しますが、ざっと言うとMicrosoftがだいたい2000年以降に大きく知財戦略を変化させたその経過と今後の方向性について説明した書籍です。

私が前にいた会社では、ある大学でMicrosoftと共同で寄付講座を運営している関係で、Microsoftが現在どのようなことを考えて知財戦略を立案、運用しているかを、資料レベルではありますが垣間見る機会があり、また、ある講演会で前の会社の知財担当役員とPhelps氏とが講師を務めた時に鞄持ちで同行し、その際にPhelps氏と名刺交換をしたことがあるので、何となく近しい気持ちで読むことができました。

ご存じの方も多いと思いますが、ここ数年Microsoftは、それまでのある意味唯我独尊的な態度を改め、特許的には関連企業との特許クロスライセンスを積極的に締結する一方、それまでは著作権重視の姿勢から特許出願も積極的に行う方向に大きく舵を切り、実際、米国特許登録件数は最近ではベスト10に入るようになりました。しかし一方で、オープンソース運動の推進者側からはレガシー的な扱いをされ、しかも、オープンソース運動に対して特許権を振りかざすことでブレーキをかけている(本書を読むと実はそうではないと述べられていますが)と糾弾されることも多いように思います。

私が考えるに、最近のMicrosoftを語るキーワードとして、本書にも頻繁に出現する「相互運用性(Interoperability)」と他社との協業(本書ではずばり「オープンイノベーション」と言っていますが、Chesbrough教授の概念とはちと違う気が)が挙げられると思っています。相互運用性とは、ずばり、Proprietary SoftwareとOpen Source Softwareとの間のInteroperabilityを指していると思います。MicrosoftはそれまでLinuxや他のUNIX系ソフトウェアが提供するシステムと全く同等のシステムを、Microsoft提供ソフト(つまりはProprietary Software)のみで閉じた世界で提供してきたわけですが、Linux関連商品を商用で提供する企業が増えてきた(IBMだってそうですね)ことで、否応なくOpen Source Softwareとのガチンコ勝負を挑まれることになり、ある意味でOpen Source Softwareとの互換性を提供しなければビジネスチャンスを失うことにもなり、また、顧客からもInteroperabilityを要求されるsituationが増えてきたのだと思います。ただ、Interoperabilityという言葉は、私が感じる範囲で言うと、未だにProprietary vs. Open Sourceという二元論を前提としている気がしないでもありません。また、オープンイノベーションという言葉にしても、結局のところMicrosoftを中心とするエコシステム構築をオープンイノベーションと称している気がします。

とは言え、それまでの(2000年頃以前の)Microsoftの姿勢である、不争条項でPCメーカー等を縛り付け、一方で特許権による自社技術の保護が不十分であったことに起因する特許侵害訴訟の被告席に座り続けなければいけなかった状態から比べれば、不争条項を撤廃して積極的に特許クロスライセンス契約を他社と締結し、一方で自社イノベーションを積極的に権利化する姿勢は、以前のそれから180°変化した好ましいものであるとして評価できると思います。加えて、オープンソース運動に対して対決姿勢を強めるのではなく、ある地点で折り合いをつけようとする姿勢(本書では象徴的なものとしてNovell社との契約が挙げられています)は、到達度の度合いはさておき評価すべきものだと言えます。ある意味、世界の先端を行く知財戦略として評価できるのではないかと思います。それは、特許はビジネスのためにあるのであり、しかも、権利取得が目的ではなく、他社との協業を促進するために権利活用を行うという考えです。

本書は、このようなMicrosoftの知財戦略の変貌を当事者の観点から(しかし秘密保持契約があるようなのでその範囲で)生々しく捉えた書籍です。特に、当事者がその時にどのような思考経路の元に結論に至ったのかという点について記載されているので、同意するかどうかはさておき、納得の行く理解ができると思います。

考えてみれば、Microsoftは、その一挙手一投足が独禁法の観点から見てどのように評価されるかを常に考えなければならないほど巨人になってしまい、それがためにオープンソース運動などからは常に糾弾の対象となっているわけで、同情すべき点もないわけではありません。これからはMicrosoftは「良き市民」たることを求められるわけで、その点についてはMicrosoft自身がよく認識していると思います。

と言うことで、オープンソース運動との関係をどうするのか、また、他社協業を念頭に置いた権利活用はどうあるべきなのかについて悩まれている方は勿論、企業の知財戦略は今後どうあるべきかについて考えておられる方には非常に参考になると思います。

余談ですが、本書は一般向けに記載されているとは言え、アメリカの企業組織に関する知識やソフトウェア業界における一般知識(知財関係も含めて)は前提としていると思うので、その辺りの知識がないと理解が進まないかもしれません。例えば、General Councilという役職はどのようなものか(簡単に言えば法務本部長みたいなものですが、アメリカ企業においてLegal Matterの全責任を負う人ですから、非常に責務が重い一方、企業内では重用される役職です)など、脚注を適宜つけた方がよかったように思います。

それから、本日(もう昨日ですね)twitte上でかなり私が不規則発言をしたように、翻訳にはもう一工夫必要だった気がしています。よろしければ原著で読まれた方がストレスは少ないかも(笑)。


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