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書籍「マイクロソフトを変革した知財戦略」

この書籍を持っている方がtwitterで感想を聞いておられたので、「近々書評を書きます」とtwitter上で宣言してしまった関係上、必死に読みました。ま、鞄の中に入れて読もうと思っていたところなので、いいタイミングでしたが。

さて、本書は、IBM知的財産部でのライセンスビジネスを立ち上げ、さらにMicrosoftに招聘されて同社の知財戦略の変化を主導されたMarshal Phelps氏が、ご存じ"Rembrandts in the Attic"の共著者であるDavid Kline氏と共に著作された書籍です。後で細かくご紹介しますが、ざっと言うとMicrosoftがだいたい2000年以降に大きく知財戦略を変化させたその経過と今後の方向性について説明した書籍です。

私が前にいた会社では、ある大学でMicrosoftと共同で寄付講座を運営している関係で、Microsoftが現在どのようなことを考えて知財戦略を立案、運用しているかを、資料レベルではありますが垣間見る機会があり、また、ある講演会で前の会社の知財担当役員とPhelps氏とが講師を務めた時に鞄持ちで同行し、その際にPhelps氏と名刺交換をしたことがあるので、何となく近しい気持ちで読むことができました。

ご存じの方も多いと思いますが、ここ数年Microsoftは、それまでのある意味唯我独尊的な態度を改め、特許的には関連企業との特許クロスライセンスを積極的に締結する一方、それまでは著作権重視の姿勢から特許出願も積極的に行う方向に大きく舵を切り、実際、米国特許登録件数は最近ではベスト10に入るようになりました。しかし一方で、オープンソース運動の推進者側からはレガシー的な扱いをされ、しかも、オープンソース運動に対して特許権を振りかざすことでブレーキをかけている(本書を読むと実はそうではないと述べられていますが)と糾弾されることも多いように思います。

私が考えるに、最近のMicrosoftを語るキーワードとして、本書にも頻繁に出現する「相互運用性(Interoperability)」と他社との協業(本書ではずばり「オープンイノベーション」と言っていますが、Chesbrough教授の概念とはちと違う気が)が挙げられると思っています。相互運用性とは、ずばり、Proprietary SoftwareとOpen Source Softwareとの間のInteroperabilityを指していると思います。MicrosoftはそれまでLinuxや他のUNIX系ソフトウェアが提供するシステムと全く同等のシステムを、Microsoft提供ソフト(つまりはProprietary Software)のみで閉じた世界で提供してきたわけですが、Linux関連商品を商用で提供する企業が増えてきた(IBMだってそうですね)ことで、否応なくOpen Source Softwareとのガチンコ勝負を挑まれることになり、ある意味でOpen Source Softwareとの互換性を提供しなければビジネスチャンスを失うことにもなり、また、顧客からもInteroperabilityを要求されるsituationが増えてきたのだと思います。ただ、Interoperabilityという言葉は、私が感じる範囲で言うと、未だにProprietary vs. Open Sourceという二元論を前提としている気がしないでもありません。また、オープンイノベーションという言葉にしても、結局のところMicrosoftを中心とするエコシステム構築をオープンイノベーションと称している気がします。

とは言え、それまでの(2000年頃以前の)Microsoftの姿勢である、不争条項でPCメーカー等を縛り付け、一方で特許権による自社技術の保護が不十分であったことに起因する特許侵害訴訟の被告席に座り続けなければいけなかった状態から比べれば、不争条項を撤廃して積極的に特許クロスライセンス契約を他社と締結し、一方で自社イノベーションを積極的に権利化する姿勢は、以前のそれから180°変化した好ましいものであるとして評価できると思います。加えて、オープンソース運動に対して対決姿勢を強めるのではなく、ある地点で折り合いをつけようとする姿勢(本書では象徴的なものとしてNovell社との契約が挙げられています)は、到達度の度合いはさておき評価すべきものだと言えます。ある意味、世界の先端を行く知財戦略として評価できるのではないかと思います。それは、特許はビジネスのためにあるのであり、しかも、権利取得が目的ではなく、他社との協業を促進するために権利活用を行うという考えです。

本書は、このようなMicrosoftの知財戦略の変貌を当事者の観点から(しかし秘密保持契約があるようなのでその範囲で)生々しく捉えた書籍です。特に、当事者がその時にどのような思考経路の元に結論に至ったのかという点について記載されているので、同意するかどうかはさておき、納得の行く理解ができると思います。

考えてみれば、Microsoftは、その一挙手一投足が独禁法の観点から見てどのように評価されるかを常に考えなければならないほど巨人になってしまい、それがためにオープンソース運動などからは常に糾弾の対象となっているわけで、同情すべき点もないわけではありません。これからはMicrosoftは「良き市民」たることを求められるわけで、その点についてはMicrosoft自身がよく認識していると思います。

と言うことで、オープンソース運動との関係をどうするのか、また、他社協業を念頭に置いた権利活用はどうあるべきなのかについて悩まれている方は勿論、企業の知財戦略は今後どうあるべきかについて考えておられる方には非常に参考になると思います。

余談ですが、本書は一般向けに記載されているとは言え、アメリカの企業組織に関する知識やソフトウェア業界における一般知識(知財関係も含めて)は前提としていると思うので、その辺りの知識がないと理解が進まないかもしれません。例えば、General Councilという役職はどのようなものか(簡単に言えば法務本部長みたいなものですが、アメリカ企業においてLegal Matterの全責任を負う人ですから、非常に責務が重い一方、企業内では重用される役職です)など、脚注を適宜つけた方がよかったように思います。

それから、本日(もう昨日ですね)twitte上でかなり私が不規則発言をしたように、翻訳にはもう一工夫必要だった気がしています。よろしければ原著で読まれた方がストレスは少ないかも(笑)。


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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

あくつさん、こんにちは。先日はありがとうございました。

最近のIT企業がどのような課題に直面し、これをどうやって解決しようと考えているかを知れる、面白い書籍だと思います。よかったら原書でbleah

書評有り難うございました。
読んでみようかな。

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