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特許事務所とマーケティング??

書くってtwitter上で宣言してしまったので、自分で自分の首を絞めている状態ですが、ぼつぼつ書くことにします。

…何を書くかというと、「特許事務所とマーケティング」についてです。ものすごく大それた題ですが、幾つかの話題についてお話しします。マーケティングという学問は幅も広く奥も深い学問なので、全ての議論はできませんから、私が適当に関係性を見いだしたところだけで、ね。

先日、弁理士の同期合格者に新司法試験合格者が出たので、祝賀会を開きました。その席で、理科大MOTのマーケティングゼミ出身者(当然同期合格弁理士)が、その合格者に対して「これからは自分を一言で表現できるようにならないといけないですね」という話になり、そこから特許事務所とマーケティングの話が始まりました。

思うに、今までの特許事務所業界は、全体的に見るとマーケティングという観点をあまり考慮せずに活動をしてきた傾向があります。それは、過去、国内企業が特許出願を大量に特許事務所に代理依頼することを行ってきたこともあり、マーケティングという観点を考慮せずとも出願代理案件を受任できたことが理由だと思っています。しかし、このBLOGでも散々話題にしてきたとおり、国内企業の国内特許出願のshrinkの傾向は非常に急激であり、しかもその傾向が止むことは簡単ではないと思われます。だからこそ、今、特許事務所にもマーケティングの発想が必要だと思うのです。

では、なぜ特許事務所にマーケティングの発想が必要なのか。それは、マーケティングという概念が出てきた背景を辿るとわかると思っています。マーケティングという言葉が生まれたのは、米国において今から100年ほど前だと言われています。その背景として、全米大陸をまたぐ巨大市場の成立、そしてその後の供給過剰市場があったと言われています。つまり、マーケティングという概念が出現する以前の企業の販売方式は、いわゆるプロダクト志向とでもいうもので、いい製品が生まれれば自然に商品は売れてゆくものという、ある意味で牧歌的とも言えるものでした。その後、供給過剰市場のために販売実績が振るわなくなると、今度は、顧客に「買ってもらう」必要が生じてきます。ここに至って、企業は、顧客志向の販売形態を考える必要性に迫られてきました。これが、マーケティングという概念の誕生です。つまり、マーケティングとは、顧客志向の販売方式だと(非常に端的に言えば)いうことです。ドラッカー曰く、「マーケティングの究極目的はセリングを不要にすることである」、ここにいうセリングとは押し売りとでも言うべきものです。

今まで、特許事務所は、顧客=クライアントのことをどれだけ考えてきたでしょうか。質の良い権利形成業務を行うことがクライアントのためである、と考えて行動してきた特許事務所は多数存在すると思います。当然、クライアントは(最低限のこととして)弁理士の専門性を発揮した権利形成業務の実行を期待しています。しかし、それが全てでしょうか。質はいいんだけど代理人費用が高価なので困っている、あるいは、業務の質と代理人費用とが見合ったものになっていない、さらには、究極の高品質でなくていいから、代理人費用を低額に抑えたい、こういったニーズをクライアントは抱えているかもしれません。ニーズは、殆どの場合、クライアント側の様々な要望という顕在化した形でクライアント側から提示されるだけで、特許事務所が積極的に(個別の)クライアントのニーズを調査し、発掘することは稀だと思います。加えて、クライアントすら把握し切れていない漠然としたニーズ(特許的に言えば課題ですね)は、何らかの形で顕在化しなければ解決されません。今の段階では、殆どの特許事務所は、例えばクライアントから代理人費用のコストダウンを提示された場合、それを承諾するか、あるいはコスト面から見て折り合わなければ断念するかのどちらかだと思います。では、それでいいのか。

上に書いた祝賀会での議論で、特許事務所の代理人費用についての議論がありました。往々にして、特許事務所側から提示する代理人費用は、必要とされる業務に対するコストを積み上げたものになりがちです。マーケティング理論においても、この問題は価格戦略という言い方で取り上げられており、マーケティング理論の中でも重要な位置を占めています。コスト積み上げ方式を、コスト・プラス法とも言います。このやり方も価格設定の一手法ですが、企業は他にも様々な手法を用いて価格設定を行います。一つの手法として、どちらかというと主流とも言えるものが、需要に応じた価格設定手法があります。これは、売り手側のコストではなく、価値に対する買い手側の知覚に応じて価格を設定するものです。つまり、

①コスト重視:コスト→価格→価値→顧客
②価値重視:顧客→価値→価格→コスト

という順に決定されるわけです。①の場合、企業が提示する価格に対して顧客がそれ相応の価値を認めれば受容されるわけですが、そうでない場合は、その商品は顧客から受容されません。①、②どちらの手法を採用してもいいのですが、結果的には、顧客がその商品に化体する価値を受容するかどうかで商品を購買するかどうかが決まります。従って、企業はその商品に対して価格相応の価値が化体するように努力しなければいけませんし、時に顧客に対して説明する義務が生じます。

こんな話をしていたら、祝賀会の参加者の中から、「それは結果的に価格競争になって業界全体の首を絞めるのではないか」という意見がありました。参加者が危惧する理由もわかります。と言うのも、特許事務所が提供するサービスの付加価値を、全てのクライアントが理解できるかというとなかなか理解できない場合もあるからです。特に、商標登録出願については、表面的には代理人なくして出願できてしまう(特にIPDLで類似商標検索が容易にできるようになった以降は)わけで、それでは特許事務所に敢えて商標登録出願の代理を依頼するだけの価値は奈辺にあるか、をクライアントに説明するのは容易ではありません。とは言え、ここで説明努力を怠れば、結果的に業界全体が価格競争に巻き込まれてしまい、業界全体の首を絞めることになります。弁理士は付加価値の存在及び程度を十分に承知しているわけですが、これをクライアントに明確に説明できるかが勝負になるわけです。

少し話を戻して、マーケティングが顧客重視の考え方に基づく、ということを敷衍して、今後特許事務所が何をすべきかについて考えてみます。特許事務所が提供する知財サービスは、果たしてどの程度クライアントの顧客満足をもたらしているのでしょうか。そして、それを知る努力を特許事務所は今までどの程度してきたのでしょうか。こんな話をすると、では個別の案件に対して、あるいは、年間単位でまとめてクライアントにアンケートを取ればいいという話が出てきます。しかし、上でちらっと説明したように、クライアントがどの程度の顧客満足を得ているのか、また、クライアントがどのようなニーズを抱えているのかというのは往々にして顕在化していませんし、アンケートでそれが顕在化するとも限りません(取らないよりましという議論もありますが)。この辺りは、市場分析というマーケティング理論でも非常に重要な領域になるのですが、こと特許事務所に関して言えば、自分の経験に基づいて考えると、クライアントの担当者(実務担当者+責任者)に対して地道にヒアリングをすることと、さらには知財業界のトレンドを掴むことの両方から一定の仮説を導き、それに基づいて様々な提案を行う必要があるのでは、と思っています。このような作業は、一部の特許事務所は行っていたことでしょうが、なかなかそういった行動を起こしている特許事務所は少ないと思います。

…ちと長くなりましたので、本日はこの辺りで区切ります。他に、マーケティング理論の中で最近トピックになっているソーシャル・マーケティングや関係性マーケティングの考え方を特許事務所に活かすと面白いと思っているのですが、まだ思考がそこまで詰め切れていないので、考えがまとまったらお話しを続けるかもしれません。

<参考文献>有斐閣アルマ マーケティング戦略(第3版)

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コメント

市丸風呂屋さん、こんにちは。コメント、感謝です。昼間は会社にいるから返答ができずに、遅れてすんません。

マーケティングなどという偉そうな言葉や理論を駆使するまでもなく、クライアントあっての商売なんですから、実は、小難しい話ではなく当たり前の話であるように思っています。以前、企業知財部の付加価値って何だろうと考えていて、それって案件を単に受け渡すことではなく、当たり前のことですが、企業の知財戦略を練ってそれを実行することだろうという結論に思い至ったわけです。今度は、弁理士の付加価値って何だろうと考えていた時に、マーケティング理論を使うと説明しやすいな、と思ったわけです。

実は、マーケティング理論の大家であるコトラーはサービスに関するマーケティングやプロフェッショナルのマーケティングに関する書籍を記しています。その辺りはちと勉強不足なので、今回は触れずにいましたが、次があるとすればその辺りから議論を始めたいと思っています。

弁理士の付加価値に関しては、決定的な解答があるわけではなく、個々人の弁理士の資質やら何やらを活かしてその人にしか出せない付加価値を追求すればいいと思っています。とは言え、理想型に至るまでにはある程度の事務所規模が必要かもしれません。なかなか難しいもんです。

(ちょっと追加)

料金が競争要因になってきたきっかけを考えてみると、小泉内閣時代でしたっけか・・・標準料金表を撤廃したことに端を発しているように思います。そして、その当時にそれほど影響が見えなかったのは、料金は事務所と顧客との間の継続的な契約が効いていたからのように思います。
その後時間が経過して、産業構造・経済環境が微妙に変化していくうちに、価格決定要素の重み付けに変化が生じてきたと見るべきなんでしょうね。

 あぁ、これは凄いヒントになるなぁ。

賛成です。このテーマについて、自分は、ヘーゲル弁証法とカント認識論とを我流で援用して(をいをい・・・)分析をしたことがあります。

その際、

http://www.jpo.go.jp/torikumi/hiroba/pdf/web_tokkyo/16_6.pdf

こういうのがありますでしょ。とうとう特許まで・・・という感じもするんですが、自己責任の制限はあるものの、今まで以上に本人出願という選択肢を採りやすくしたわけですね。
 この場合の得られる利益とう(以下秘密)。そうやって考えると、「クライアントの担当者(実務担当者+責任者)に対して地道にヒアリングをすることと、さらには知財業界のトレンドを掴むことの両方から一定の仮説を導き、それに基づいて様々な提案」というのが、具体的にどのような内容・性質・程度・態様となるのか見えてくるんですよね。

 これをやるとコストが合うのか・・・疑問なんですが・・・。

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