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今年の特許業界で起きているであろうこと

本日は、世の中色々と騒がしいようですが、それとは全く関係のない(元々このBLOGは政治、社会の動きを直近的に追いかけることはしてないので)お話しを。

つい数日前、弁理士会が会長名で日本国における特許出願件数の激減を憂い、国際競争力強化のためには出願件数増加を政策的に推進すべしという声明を出しました。これについては、twitterのTL上でも随分と議論がありましたが、この前の記事でも申し上げたとおり、この声明について私から直接コメントをすることはしません。代わりに、今年度の日本国特許出願の傾向について、今時点でわかっていることを簡単にお話しします。

今年度の企業の出願意欲について、年度始まりの時点では、かなりの企業がリーマンショックから若干の立ち直りを見せ、まあまあの立ち上がりを見せたようです。しかし、その後の急激な円高傾向に合わせるように企業の出願意欲がかなり減退した様子で(多分様子見状態だったのだろうと思います)、この夏はかなり特許事務所への案件依頼が減少した模様です。従って、現時点での出願番号を直線的に外挿した今年の出願件数は25万件程度になるのではないかという話があります。当然、企業の業績如何、あるいは今後の為替状況如何でどうなるかは不透明な部分がたくさんありますが。

では、さらに特許事務所への案件依頼が減少した中で、一律に案件依頼が減少したのかというと、どうもそのようではない、つまり、案件依頼の過程で企業が特許事務所の選別に大きく動いていることが推測されます。

企業と特許事務所との関係は、一見、特許事務所が下請的な立場にあるように見えるのですが、一旦案件を代理すると、当該出願を権利化する手続は最終的には特許事務所(の代理人)が行うわけで、大胆な言い方をすれば特許事務所側に生殺与奪権があるとも言えます。また、代理人費用に対して大幅なコストカットを行うにしても、特許事務所側がそれを承諾しない限りコストカット策を実現することはできません(最悪、代理をしてくれる特許事務所が一つもなくなってしまうことがあり得ます)。このように、企業と特許事務所との関係は、かなり持ちつ持たれつな部分があります。また、特定技術について特定の事務所に長年代理を依頼すると、確かに阿吽の呼吸的なものが生まれ、案件依頼の際の手間が(双方で)減少するわけですが、逆に、他の特許事務所にその技術の代理を依頼することに対するenertiaが生まれてしまうので、ダイナミックな依頼ができなくなる傾向にあります。こんなわけで、企業と特許事務所との関係は、かなり固定的なものになりがちで、よほどのことがなければ、依頼事務所数のダイナミックな削減や技術と特許事務所との対応関係を見直すことにはなりません。

しかし、ここ数年の業績不振で、企業は今まで以上のコストカット策が求められ、その結果、慣習的に行われてきた特許事務所への案件依頼の手順に対しても大幅な見直しがされた様子です。結果、リーマンショック以降、今まで安泰だと思われてきた大規模特許事務所に依頼する案件も激減し、結果、幾つかの大規模特許事務所にもかなりのリストラの嵐が吹き荒れた様子です。リーマンショック直後の出願件数激減は、大体の特許事務所に対してほぼ一律に影響したようですが、今年の依頼案件の変動は一律に起こっている様子がありません。パテントサロンの求人ページには特許事務所の求人情報が多数掲載され、一見すると特許事務所業界は息を吹き返したかのように見えますが、それは表面的なことだと思っています。

では、どのような判断基準で依頼案件が大幅減となった事務所がある一方、それほどの影響を受けていないと思われる事務所が選定されているのか、これについては、企業個々の事情があるので、私も実のところはよく把握できていません。しかし、企業からの依頼案件減少傾向は多分に恒常的なものであり、しかも、その影響は一律でないとするならば、弁理士会全体で対処すべき問題ではなく、個々の事務所が自身の置かれている状況を冷静に分析し、個別の解決策を模索すべきであるように思えます。言えるのは、高品質の権利形成手続を行うことのみでは勝ち残れる絶対条件にはならないのだろうということです。それは、最低限の要件でしかないわけです。高品質+コストダウン(単純な代理人費用ダウンではなく、企業の知財関連費用をトータルで削減できるということ)、あるいは高品質+企業担当者の手間削減、こういった事項を特許事務所が企業に提案できるのかどうか、この辺りが分かれ目になると思っています。

いずれにしても、従来の特許事務所のビジネスモデルは崩壊の一途を辿っていると思います。次に何が来るべきか、皆で考えないといけないでしょう。

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

ほぼ毎日拝読させて頂きました。

私は経営・事業の経験のある実務者ですが、
経営的視点から客観的かつ的確な意見や予測をされているなぁ、と感じていました。

こうした意見や予測の中には、過去に私が実際に経験した事実と同じ内容のものも、数多く含まれていました。

このような価値ある意見が聞けなくなるのは、とても残念でたまりません。

落ち着かれましたら、是非、再開をして頂きたいと思っています。

ありがとうございました。

色々とご教示有難うございます。

事業部は予算を知財部に提示しますが、その予算の詳細な用途・内訳は知財部の所掌なのであまり分かりませんでした。ご指摘の通り、色々と手続き上の課題もあるのでしょうね。

そうはいっても、会社(メーカ)の最大の目的は「利益(ROS)確保」ですので、研究費や固定資産等に比べて、固定費の中でそれ程目立たない「知財費用」についても、仕分けの対象となる方向にあると思います。私は知財部と連携して、会社内の知財有効活用モデルを構築していければと考えています。

また、色々とご指導頂ければ幸いと存じます。

筒坊さん、はじめまして。BLOGは拝見しています。

私も、知財部門内で予算策定、進捗管理を行う部署に長年いた関係で、企業がどのような観点で知財関連費用の予算策定及び進捗管理を行っているかについての知識は一通り持っているつもりです。

特許事務所は、確かに知識がないこともあるのだろうと思いますが、企業の予算策定や進捗管理、あるいは知財担当者の手間削減という観点から提案をすることはなかなかなく、依頼案件が減少するとあたふたするだけ、あるいは、知財部門の責任者に直訴するに止まっていたように思います。

一方で、特許事務所側から何らかの提案をした場合、かなりの確率で企業側の知財実務の手順なり考え方を相当変更しないとその提案を受け入れる体制にならないので、提案が自社に有利だと考えても、それを受け入れるに対してhesitateしてしまうことも多いように思います。つまり、企業側からすれば、取引のある複数の特許事務所のうち一つのみの事務所からの提案を受けると、知財実務の手順がその事務所だけ異なった取扱になるわけですし、逆に、その提案を全社的に取り上げた場合は他の事務所を巻き込んでの取り組みになるわけです。この点、企業側も勇気を持って対応できるかどうか、だと思います。

 はじめまして。メーカの企画部で知財戦略(知財費用を決めたり事業戦略から知財戦略を立案したり)等の仕事をしている者です(私も一応弁理士です)。

 興味深く記事を拝見しました。私も先日の弁理士会の出願数激減の声明文はビックリしました。「行政の皆さん助けて~」or「特許庁さん合格者数増やさないで~」というメッセージかなとも思いました。

 また、特許事務所のビジネスモデルの再構築のご提案は大賛成です。我々事業経営に関連する者は、利益優先なので、知財や固定資産、研究費などの固定費はなるべく下げるように考えており、特許出願数の低減も経営の視点からは当然の方向かもしれません。しかし、メーカは不要なお金を節約したいですが、必要なところへ(重要な知財等)はしっかりと投資したいと考えています。

 従って、今後は、上記ニーズを満足する新ビジネスモデルを構築していく特許事務所さんが勝ち組になるのではと思っています。また、同様な記事を楽しみにしております。長文、失礼しました。


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