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書籍「経営に効く7つの知財力」

相変わらず書評サイト状態ですが…読もうと思っている本が数珠つなぎ状態なので、当分この状態は続きそうです。

本日は、いよいよ土生さんの「経営に効く7つの知財力」です。この本、前文でかの鮫島大先生の推薦の辞があり、馬場錬成氏もご自身のBLOGで絶賛推薦中の本であり、私ごとき若輩があれこれ感想を述べることすら畏れ多いのですが、とりあえずの感想を。

結論から言えば、非常にいい本です。何がいいのかというと、知的財産と経営について種々論じた書籍はそれなりにあると思うのですが、土生さんのこの本は、土生さんが合格されてからこの方10年間の経験、特に最近5年間の特許庁や関東経済産業局が主催した知的財産コンサルティング事業で得た貴重な経験に裏付けされたものなので、ある意味、土生さんが苦労されてきた経験の中から成功例を中心に神髄をまとめたものですので、机上の空論に陥ることなく実務上重要な点を非常にコンパクトにまとめてある点です。特に、「7つの知財力」の分類は非常に参考になると思います(具体的な内容は書籍をご覧下さい)。

この本を読了してすぐの時に、土生さんをよく存じ上げている的場さん(この方も知財コンサル界では超有名人ですね)に、土生さんの本を読みましたというお話しをしたら、「あの本はさらっと読めるんですが、実は非常に深いので含蓄のある本ですね」と評されていました。事実、この本に記載されていることは、理屈から考えれば非常に真っ当な内容が書かれており、企業経営者が企業経営をするに当たって知財をどう考えるべきかについて、経営感覚に優れた経営者なら確かにそう考えるだろうということが書いてあります。

では、真っ当な内容が書いてあるのならば、世の中の企業は何故それを実践できないのか…この質問に対して、自分自身も実は明確な回答を得るに至っていません。大企業では、多分、知的財産実務をあまりに細分化したために、個々の担当者が経営戦略なり事業戦略なりの課題と自身の業務との関係をリアルに認識することが難しく、ために知財部門内での課題解決に追われて、俗に言う蛸壺状態に陥っているからでしょう。中小・ベンチャー企業の場合、企業内部の人間が知的財産の重要性を認識することはなかなか難しい(訴訟等に直面すると重要性を俄然認識するのですが)ので、外部専門家(ほとんどは弁理士)が企業の「ためになる」=「経営に資する」知的財産マネジメントを提示できていないのが理由だろうと思います。弁理士は発明者のアイデア発想、つまり源流管理の発想はあるのですが、その結果物たる知的財産権を経営活動に活用することについてあまりに無力で、また、勉強を怠ってきたように思います。

つまり、土生さんのこの本は、実に真っ当な内容を書かれているのですが、では、これを企業内で実践するには個々の企業での相当な努力を必要とするのです。これは土生さんの責任でも何でもありません。個々の企業での努力は相当に個別論に過ぎ、書籍としてまとめるには不適当でしょう。加えて、個別ケースを記述するには対象企業が有する企業秘密を相当程度開示しないと納得の行く記載はできないだろうと思います。故に、上述した関東経済産業局主催の知財コンサル事業の結果をまとめた書籍は、実は肝心の部分についての記載が薄くなってしまい(努力されているのは重々承知しています)、書籍を読んだだけでは、誤解を恐れずに言えば「綺麗事」が大半を占めることになります。懇親会に行くと結構な裏話を教えていただけるんですけどね。逆に言えば、一般論を個別論にブレークダウンするのは知財専門家、あるいは知財コンサル事業を行う者の責任であり、そこからが知恵の絞りどころなのです。

あと、余談で。最近の知的財産に関する動向を見ていると、知的財産は保護重視から活用重視に潮流が微妙に変化していると思っています。土生さんも、オープン・イノベーションに関する議論を最後で軽くされていますが、私が同じような内容の書籍を書くとしたら、「中小企業こそ知的財産権の活用を積極的に行うべき」という主張を前面に押し出していると思います。つまり、中小企業はインフラが弱いですから協力企業の存在無くして成立が難しいと思っています。この、協力企業とのコラボレーションの際に、中小企業自身が有する知的財産権がコラボレーションの円滑化につながるだろうと思っています。囲い込みではなく、他社による自社知的財産権の積極的活用を図るわけです。そのためのビジネスモデル作りを積極的に推進すべきだろうと思うのです。

と言うわけで、中小企業を中心とした知的財産コンサルティング活動を行おうと考えている方、そして、中小企業の経営者で知的財産に関する重要性を認識し切れていないが、何となく重要であるだろうと推測している方には、土生さんのこの本を熟読玩味していただくことをお薦めします。そうそう、御本人のBLOGで誤植訂正があると言われてますので、こちらも参照されて下さい。

追伸:弁理士会会長が最近なにか声明を出されたようですが、私として公式に申し上げることは何もありませんので、このBLOGでは批評も何もしません。私のスタンスは、このBLOGの読者の方であれば十分ご理解いただいていると思いますので。wink


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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

土生さん、こんにちはhappy01

著者の方からコメントをいただけて光栄です。権利の積極活用については、かなり電機メーカー的発想が強いので、全ての業種に当てはまるのか難しいところもあるのですが、これからの知的財産業界の流れを見ると、こちらが主流になるだろうと思っています。とは言え、仰るように企業は単独で生きるのは時代遅れで、様々なネットワーク(エコシステムでもバリューチェーンでもいいですが)あってこそ生き残れるのだと思っています。

追伸については、そのうち全く別方向の話をして何となくのまとめをします。まともに話をするとよくないと思ってますので。

不良社員さん

こんばんは。早速に拙著のご講評をいただき、誠に有難うございます。
余談の部分でコメントいただいた積極活用(「権利行使」という狭義ではなく「利用促進」という意味ですね)については、私もここ1~2年で大きく考え方が変わってきた部分です。特に中小・ベンチャーの場合、囲い込む前に市場が広がってナンボですから。市場を囲い込むのではなく、協業者(ときには‘競業’者も含めて)とともに市場を拡大しながら、知的財産権というのはそのグループの中で自社がなるべくよいポジショニングをとるために活かしていく、そういった発想のほうが事業戦略としても適切であるケースが多いでしょう。
また、これは最終章とあとがきの部分に書いたのですが、オープンかクローズかというのは結局選択肢の問題であって、その上位にあるミッションは「顧客との結びつきを強める」ということであると思います。そこをはっきりさせておくことが、知財活動が実ビジネスから遊離してしまうことを防ぐとともに、経済社会における知財人のアイデンティティにもなるものではないか、なんて思う今日この頃です。

※ 追伸の件、なかなか凄い声明ですね。以前にグロービスで学んだクリティカルシンキングの「論理展開」で留意すべき事項をいろいろ思い出してしまいました。

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