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「戦わずして勝つ」

久しぶりにこのBLOGを開くことになったのは、twitter上で「戦わずして勝つ」という特許権活用の要諦についてお話しをしたところ、数人の方に興味を持っていただいた様子なので、お答えしようと思ったものの、140字制限では伝えきれない(発言の連鎖をすると、一部だけRTされることもあり得、そうなると部分的発言があちこちに出回って収拾がつかなくなりそうなので)ので、それでは、一時期的にBLOGを開いてここでご説明しようと思ったわけです。従って、この記事でBLOG再開ということではないので、ご了解を。

さて、「戦わずして勝つ」というお話しは、ある知財系サイトに特許権活用において訴訟を積極的に利用すべきという論調であったことに対して、むしろ「戦わずして勝つ」戦法が重要ではないか、ということです。

以下の説明は、主に日本において特許権を取得した場合の権利活用を念頭に置いています。@tamai1961 先生がご指摘されたように、米国においては、権利活用戦術において特許権侵害訴訟を選択する重要性はかなり高いです。と言うのも、米国特許権侵害訴訟において、最終的に判決に至る%はかなり低く、それまでに原告・被告間で和解が成立する等の理由で訴訟取下になってしまうのが大半(正確な数字は忘れたのですが、確か80%程度だと記憶しています)です。つまり、米国においては、訴訟提起が原告側にとって交渉を早期にかつ原告有利な条件で進めるための有効な手段であり、訴訟提起そのものが非常に有効な交渉戦術と言えるからです。とは言え、米国特許権侵害訴訟において、早期の和解成立等がなし得ず、双方が全く引かない状態でDiscovery(今回は、訴訟手続の詳細については割愛しますので、適宜他の情報入手手段により補充願います)以降の手続に突入してしまうと、原告・被告双方の手間、関係者が費やす時間、ひいては弁護士費用を含めての訴訟費用は格段に上昇しますので、訴訟提起が常にbestな選択肢とも言えませんのでご注意を。

また、知的財産権に関する意識が低い諸国(敢えて具体的国名は言いません)においては、ある意味、特許権を無視した行動を取ることが多々ありますので、こういった場合は、特許権の効力の、ある意味伝家の宝刀的な差止請求訴訟が重要視されるわけです。とにかく侵害行為を止めないと取り返しのつかない損害になりますので。

さて、私が「戦わずして勝つ」が権利活用の要諦であると述べたのは、簡単に言えば次の通りです。

つまり、特許権侵害行為があると権利者側が認識したとしても、訴訟を提起して原告勝訴に持ち込めるかどうかについてはかなりの不確定要素があるからです。その理由としては、① 特許権に瑕疵があることが往々にしてある、つまり、無効理由を含むことが往々にしてあり、侵害訴訟の中で無効性に関する議論がされて権利無効との判断がされてしまうと、その後、その特許権による権利活用は実質的にできないことになる、② 種々の理由により特許権が限定解釈される可能性は往々にしてあるので、訴訟の結果、非侵害との結論に至る可能性も結構ある、というものです。当然、権利者側は、訴訟を提起する前に万全の調査等の準備を行い、原告側勝訴という心証を得た上で訴訟提起するわけですが、実際の訴訟手続では何が起こるかわかりませんから、予想外の理由で敗訴することもままあり得ます。私も実際に、訴訟提起前は100%勝訴だと思って訴訟提起したものの、無効+非侵害の両面で被告側から徹底的に反論され、これは敗訴かと覚悟したことがあります。この件は、幸いに判決前に当事者間で(確か訴訟外)和解が成立し、大事に至らなかったのですが。

当事者間の交渉による解決、あるいは、当事者間の交渉を経るまでもなく第三者が権利を尊重するのであれば、訴訟費用0で事態を解決することができる、これが、「戦わずして勝つ」ことのメリットだと思っています。とは言え、非常に難しい戦術でもあります。

まず、「戦わずして勝つ」ためには、他社が容易に参入できない特許網(最近はパテントポートフォリオという格好のいい言葉がありますね)を構築することを考えます。このことは、どんな方でも言及されるわけですが、実は、この一言を実現するためには並大抵の苦労では叶いません。まず、幾ら特許網を構築したとしても、他社が実施をしないという保証は一つもないということ。特に、権利解釈には一定の幅があることは否めませんので、第三者がいくら特許調査等をして慎重に検討をしたとしても、権利者側からすると権利侵害行為と思えることをする可能性は排除できません。次に、(特に電機産業において)競業他社が保有する特許権が相互に複雑に入り組むことが起きているので、「参入障壁」を築けるだけの特許網を構築することは相当に難しいです。この場合、下手に訴訟を提起すると相手方から別の特許権侵害訴訟を(反訴として)提起されてしまい、訴訟合戦で泥沼化します。更に、自社が複数の事業を展開していた場合、仮に一つの事業で特許網が構築できたとしても、他の事業では他社が同様に特許網を構築しており、一つの事業に関する特許権侵害訴訟を提起したら、やはり反訴として他の事業に関して相手方から特許権侵害訴訟が提起されることもあり得ます。これと同様の話で、上に書いた他の事業に関して、相手方から部品、材料等を仕入れている場合が結構あり得、この場合、全くのビジネスマターとして割り切って部品等を納入できればいいんですが、取引停止という可能性もあります。ですから、特許網構築→参入障壁構築→自社実施確保という図式はそう簡単には成立しません。

次に、交渉による解決を考えることになります。通常、訴訟提起するのであればまず先方に対して交渉を持ちかけることを先に実施します。交渉抜きでいきなり訴訟提起するのは、上に書いた米国流であればあり得ない話ではない(いきなり訴訟提起すれば、当初は相当原告有利なペースで交渉を進めることができますので)のですが、日本の場合は、かなり穏便に話を進めますので、交渉を持ちかけることが先に来ます。ちなみに、交渉開始は「警告状送付」という書き方をする(弁理士試験だとそんな書き方をしている資料を見かけますね)ことがありますが、実際には、ライセンスのお伺いとか、権利実施状況のご確認といった言い方の文章を出すことが多いと思います。あまり居丈高な態度の文章は出さないですね。

交渉を進めてゆくと、双方の所有する特許の提示、特許権と製品との対比といったごくごく普通のことを行い、段々と着地点が見えてくるわけです。着地点は、大抵の場合ライセンスの授受になるわけですが、一方の当事者に他方の当事者に対してライセンスできるようなめぼしい特許権が見当たらない場合、一方的なライセンス供与という形になります。ライセンス供与の場合、金銭的な補償ばかりでなく、将来有望と思える技術分野に関する(無償の)ライセンス被供与でバーター取引する場合もあります。意外とこのやり方は後日じわじわと効いてくるやり方です。ライセンス供与で話がまとまるならば、供与する側としたら相当有利な着地点であると言えます。また、仮に、いわゆるクロスライセンスという形で着地点を見いだす場合でも、双方の特許権の数や効力の強弱によって、単純にいうと当事者間で特許力の強弱(力関係とでも言うべきでしょうか)が出てきますので、これに基づくライセンス料の供与があり得ます。無償のクロスライセンスでまとめた場合でも、双方の当事者の全分野、全特許に関するクロスライセンスというのはなかなか成立しないので、分野の限定やクロスライセンス対象の特許の選定によっても、上に書いた意味での力関係を付けることができます。

こんなことで、交渉を進めることで、目に見える(ライセンス料の受領)形でも、あるいは目に見えない形でも実質的に勝ったと言える状態を形成することができます。また、勝ったと言える状況を作り出せなかったとしても、相手先との間で無用な争い事を避けることにより節約できる費用は結構ありますので、広い意味で言えば「勝った」と言えることがあり得ます。

これ以上詳細な話は、権利活用の詳細内容に入ってしまうので、簡単に書けません。ご容赦を。

ちなみに、かの丸島儀一先生は「戦わずして勝つ」をモットーとされていると聞いたことがあります。先生の著書にそのあたりのエッセンスが書かれているかと。


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