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2011年3月

明細書の質revolutions

昨日書いた明細書の質について、ちょっとだけ書き忘れたことがありましたので、補充をします。

昨日記事をアップしたら、早速twitter上で数多くの方に反応していただきました。感謝致します。その中で、企業が求める明細書の質(これは顧客評価や顧客ニーズという言葉で説明しました)は、私が書いた顧客満足ほど高いものではないというご指摘もありました。

自分は企業知財部門で随分長いこと(16年も)知財担当者として働いていましたので、このご指摘はその通りであると思っています。そもそも、企業側にも色々な都合がありますので、毎回100点満点の明細書作成を代理人側に求めるとは限りません。一例を挙げれば、代理人側が独自に先行技術調査を行い、企業側が出願時に記載を希望している権利範囲(正確には出願時ですから特許請求の範囲です)とは大幅に異なる権利範囲の明細書を書く場合があります。企業が希望する権利範囲は、実は様々な要因の元に成立していることがあります。他社に対する牽制力を強く希望する場合は、実際に成立しうる権利範囲以上の請求の範囲を書くこともあり得ます。この辺りの事情が代理人側に伝わっているならばいいのですが、時に代理人の思い込みで、言葉は悪いですが「余計なお世話」をしてしまう場合があり、このような努力を企業側はあまり評価しません。

しかし、自分が顧客満足について縷々説明していたのは、実は、自分が企業知財部門で担当者として働いていた際、発明者からヒアリングした時点でその発明及び従来技術との対比の中で大体この程度の明細書を自分なら書くだろうという一応の見込みがあり、実際にできあがってきた明細書原稿をチェックすると、かなりの確率で裏切られることがあったので、多分に自分が設けているハードルがかなりシビアなものであると思う一方、自分自身はこのハードルを自分で勝手に下げるべきではないという思いがあるからです。結局、ぶれない軸と柔軟な対応、ということだと思っています。

明細書の質reloaded

またぞろ明細書の品質に関する話をちょっとだけ。

ここ数日、明細書の品質と顧客の評価ということについて考えていました。よく、特許事務所に勤務する技術者の評価を「この人が書く明細書は顧客から高い評価を得ていますからね」という話を聞きます。それはそれで大変結構なことですし、顧客から評価を得てこそ一流の技術者でもある、と思います。

しかし、それが全てなのでしょうか。

最近考えていることは、弁理士は顧客に対して顧客満足を与えられる仕事をすべきであると思います。ここで注意したいのは、「顧客満足」であって「顧客評価」ではないのです。この違いは何なのか。

顧客満足という言葉を自分なりに少し分解してみましょう。顧客満足とは、当該発明に対して適切な(適度に広い権利範囲を確保できる)権利化を図り、更に、その権利を他社に対して活用した際に顧客の有利な方向に結論を進めることができる権利化活動だと私は考えています。このためには、発明者が発想した発明に対して従来技術との対比を行い、従来技術に対して進歩性を主張しうる発明に仕上げることは勿論、従来技術に対して製品に適用された場合にも競争力を持ちうる発明にbrush upし、さらに、特許庁の審査官(時に審判官)に対してその優位性を説明して権利化にまで持ち込み、そして、第三者からの無効主張(進歩性のみならず記載不備についても)を封じ込めるだけの記載内容を持つ明細書を書く必要があります。こう考えると、発明の捉え方から明細書の書き方にまで至る広範囲な作業を行ってこそ顧客満足が得られるのだと言えます(この議論では、以前このBLOGで明細書の品質について議論した時のように、敢えて発明の質と明細書の質とを同列に記載しています。私は、これらをあまり区別して議論するとかえって本質が見えなくなると思っています)。

一方、顧客評価とは、実は顧客の担当者なり評価者が、その発明を把握している範囲で、評価する時の判断基準に従って行うものです。通常、顧客評価は明細書完成時(あるいは明細書作成後1年以内の定期的に)に行われます。顧客は、他社の従来技術との対比の中でその発明の価値をある程度推測しており、その発明の価値に基づいて明細書の評価を行います。

従って、顧客満足を究極まで追求するならば、実は顧客評価以上の明細書作成業務を行わなければなりません。しかし、顧客が評価しうるのは上に書いた顧客評価の評価時において顧客が知りうる範囲の情報です。つまり、権利化後に他社との交渉において明細書のある記載に助けられる事もありうることですし、それ以前に、権利化作業中(特に中間処理)において、出願当時はさほど重要視していなかった記載の存在により、他社との差別化が明確になる権利形成作業ができたこともあり得ます。そういった後日の事情は、実は明細書作成の時点での顧客評価には反映されにくい性格があります。

一方で、発明の性格上、他社の権利化阻止のみを目的として出願をすることもあり得ます。この場合、顧客満足を究極まで追求する明細書作成業務は、特許事務所にとってもコストパフォーマンスが大変よろしくありませんし、そもそも、顧客はそれを望んでいません。従って、オーバースペックであるが故に顧客評価が低くなってしまう可能性があります。

結局のところ、顧客満足を追求することは理想なのですが、顧客ニーズが奈辺にあるかという把握作業を抜きにした顧客満足追求は無駄を生みがちな作業です。一方で、顧客評価が(特に明細書作成の時点での)高いことが、最終的に顧客満足を得られる仕事であるのかというと、これも必ずしもそうとは言えません。この辺りは、実は顧客とのコミュニケーションにより補い、最低限顧客評価を得た上で、どれだけ顧客満足を追求する方向に業務を進めるかを行うことになります。顧客ニーズに応えるだけがプロではありません。顧客ニーズ+αがあってこそプロの仕事だと言えるわけです。

…なかなか文章にすると難しいですね。おわかりいただけたでしょうか?

「誰も書かなかった知的財産論22のヒント ~未来の知財のために」

え~、このような書評を書いている暇は本来ないんですが、酔っ払った勢いで…。

最近、とんと知財関係の本を読めずにおりました。一番は、仕事に集中していると、通勤時間に読書をする気力が萎えてしまったことにあります。とは言え、あまり読書をしていないと頭が鈍ってきますし、知財関係の書籍はどんどん出版されるので、「あの本読みました?」と聞かれて「いいえ」と答えるのも癪なので(変に意地っ張り)、老骨に鞭打って読書を再開することにしました。

で、比較的軽めの本から。この書籍、著者は神戸製鋼の関連会社の現役の知財部長様です。微かな記憶を辿ると、この会社、私がゲーム会社にいた時の知財部長が前に勤めていた会社のような…と言うことは、この著者とゲーム会社の元知財部長とは知人である可能性があります。何だか、知財業界の狭さを痛感します。

内容は、現役の知財責任者が、昨今の知財にまつわる話題について、自らの立場を通して企業における知財とは何かを語った本です。こう書くと堅苦しそうに思えるのですが、語り口は至って平明で、実務に精通した人ならば腹にすとんと座るところが多いと思える本です。重ねて言えば、企業における知的財産実務にあまりfamiliarでない方々には、「企業はこのようなことを考えて知財実務をしているのか」という気付きが結構ある本ではないかと思います。

私としては、ここで語られていることに特段異議はなく、その通りだと思う一方、もう一歩進んだ議論が最近されてるのも事実なのです。その辺りは、参考文献とかを付して補論を書きたくなってしまう気持ちがむらむらとあるのですが、それをすると仕事に大きく支障が生じるのでぐっと我慢ではあります(ま、そのうち、ちと違った側面から何かしらの本は書こうと思ってますが)。

と言うことで、内容は平明ながらいい本だと思いますよ。


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