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2011年7月

知財業界のコモンセンス(?)

前回、事務所を移ったことをお知らせして以来、1ヶ月ほどこのBLOGを放置しておりました。ま、新しい事務所に馴染むまでバタバタしていたことと、結構精神的にテンパっていたこととがあり、なかなかBLOGネタを反芻して文章化するまでには至らなかったわけですが。忙しさは相変わらずですが、ぼつぼつ復活していきたいと思います。

さて、本日はちと散逸したお話を。ここ1週間ほどの中で、twitterの知財系の方々の間で、半導体エネルギー研究所で勤務された経験のある方が、その社長との間でのやり取りの体験談を記した記事と、中小企業における特許紛争を題材に織り込んだ池井戸潤氏の小説「下町ロケット」に関する話題で盛り上がっていました。その中で私が気になったのが、

① 半導体エネルギー研究所の存在、及び半導体エネルギー研究所がどのような会社であるかについてご存じでない方が結構いらっしゃった

② 「下町ロケット」は、名前が示すように中小企業の奮闘を描いているのだけど、この小説を読んで中小企業の特許対策(敢えて「戦略」とは言いません)の難しさがわかったという方がそれなりにいた

という点です。私としては、これらは今現在の知的財産業界において結構Front Edgeの話題なので、ご存じの方も多いのではと推測していたのですが(①については自分の身の回りにそれなりに元関係者がいらっしゃる)、どうもそうではない、と。当然、①も②もご存じの方は華麗にスルーしてらっしゃって、特段発言されていない可能性が高いのだろうと思うのですが…。

まず、半導体エネルギー研究所についてですが、私が縷々説明するよりも、HPなどを参照していただいたほうが正確な情報が得られると思います。一言で言えば、「研究開発型ベンチャーで特許戦略を重視している企業」だと思います。電機系メーカーの知財部門に勤務している方ならば、ほとんどの方が存じ上げているのだろうと思っています。とは言え、電機系メーカーと比較すると研究開発の分野自体は狭いので、例えば輸送機器メーカー、精密機器メーカー、さらには総合科学、製薬メーカーに所属する方々にはそれほど知名度がないのかもしれません。また、特許戦略を重視する研究開発型ベンチャーという存在も、電機系を含めて日本では結構特殊な存在であるように思います。

確かに、最近のバイオベンチャーは研究開発に特化し、臨床試験、許認可を含めた実用化の前段階でその研究開発成果を製薬大企業に売り払ってしまうことが多いのですが、この場合、non-exclusiveなライセンスを製薬大企業に与えて研究開発プロジェクト自体は存続する、という形態は取りません。一方、半導体エネルギー研究所は、他社に対するnon-exclusiveなライセンスを供与しつつ、自社ではその研究開発プロジェクトを更に深化することを行っているように見受けられます。このため、上述の記事にあるように、特許戦略も他社による使用、他社に与えるライセンスを前提としたものになっているようです。つまり、特許を取得する目的が、実際に事業を行っている企業とは大きく異なり、また、exitとして企業への研究開発プロジェクト毎の売却を考えているバイオベンチャーとも違うわけです。

このような企業の存在、及び企業の姿勢は、現行の特許法を前提としてもあり得るものであり、特段非難されるべきこともないわけですが、時に企業に対してライセンス取得を慫慂することもあり得るでしょうから、パテントトロール的な見方をされかねない(私は、半導体エネルギー研究所がパテントトロールだとは思っていません)わけです。現に、半導体エネルギー研究所の姿勢に対して道義的に疑問を呈するBLOG記事も見かけましたし、大きく捉えれば特許法の法目的である「産業の発達に寄与」しないのではないか、との見方もあり得るでしょう(重ねて言えば、私はそこまでは思っていません)。

このあたり、パテントトロールでの議論でも同様なのですが、法的に許容される範囲と道義上許されないと思われる範囲との混同が往々にして生じます。しかし、半導体エネルギー研究所の姿勢を糾弾するならば、では、大学や公的機関における研究活動から生まれる特許についてはどうなるのか、彼らも同様に事業は持たない研究開発活動に特化しているではないか、という点についての回答が求められると思います。このあたりの線引きが難しいからこそ、ここ数年行われていた特許法改正の議論において、差止請求権(特許法100条)の部分的制限の導入が見送られたのだと理解しています。

次に、「下町ロケット」です。私は未読なので偉そうなことは言えないのですが…。

色々な方のお話を聞いた範囲で判断すると、この小説、大田区(なんと私の自宅がある場所)の町工場と大企業とを舞台にした、特許紛争(とまでは言えないか)にまつわるお話のようです。で、色々な方の感想をお聞きすると、「中小企業の特許対策の難しさがわかった」といったあたりの感想が結構ありました。

このBLOGでも何度かお話しした記憶があるのですが、自分の経験でも、大企業における知財実務と中小企業における知財実務と(正確に言えば、零細企業の知財実務とも)は大幅に異なります。まず、経営陣を含むマネージメント層が知財の重要性をどれだけ理解しているか、ということ、次に、知財の重要性を理解したとしても、知財実務に割り当てられる予算及び人的資源はどの程度になるかということ、さらに、知財を担当する専門職がassignされるかどうかということ、などなど。知財カルチャー(こんな言い方をします)をその企業内に根付かせるには、担当者の膨大なエネルギーと時間を要しますし、徒労に終わる部分も多々あります。

自分自身は、(自分が先頭を切って立ち上げたわけではないのですが)、中途で入社した企業において、私が入社してすぐに知財部門が立ち上がり、その時点では年間数十件の特許出願であったのを、6年後には年間200件の特許出願ができるまでになった経験があります。知財部門立ち上げ当初は、開発者に会わせてもらうことすらままならず、ましてや、開発中のプロジェクトの内容を教えてもらうまでに相当の時間がかかりました。しかし、実績を一つ一つ積み上げ、社内での認知度を徐々に上げることで、社内での活動範囲も大きく広げることができました。

とは言え、中小企業の実務を経験した(社内だけでなく社外でもいいのですが)弁理士であれ知財担当者は、やはり数的には少数派であり、また、知財協をはじめとする業界団体でもなかなか発言力が小さい(主に人数の問題だと思っています)ので、取り上げられることも少ないのが事実です。

私は、現在、中小企業ではないですが規模のあまり大きくない企業の知財業務の代理を細々と行っており、上述した経験を活かそうと苦心しているのですが、上述した企業の後に規模の大きい企業で知財実務を行っており、規模の大きくない企業の実情を弁えているつもりでも、ふと規模の大きい企業での経験を前提として話をすることが多々あり、申し訳なく思うことがあります。

規模の大きくない企業の特許実務は、上に書いたように規模の大きい企業のそれとはかなり事情が違います。そして、そういった事情を弁えている専門家、関係者はやはり現時点では少数派になります(単純に考えれば多数派にはならないでしょう)。しかし、今後の日本の発展の方向性を考えると、規模の大きくない企業の特許実務に精通している専門家、関係者がもっと増えるべきではないのだろうか、とも思います。

…で、今回のことで改めて痛感したのが、知財業界と一言で言っても、産業が違えば事情が違うし、企業規模が違えば前提となる条件が違うので実際の業務はかなり違う、ということです。知財業界を大きくくくるならば、知的財産法を共通言語とする業界であるわけですが、知的財産法自身が深遠な内容を持ち、極めるのが困難である一方、知的財産法の運用という捉え方では企業や特許事務所における知財実務を語ることは難しい(それ以外の要素が多くある)ので、そのようなくくりかたも難しいです。学際的であるとも思いますが、知財業界全体に通暁した人材も実は少ないと思います。加えて、企業における知財実務や特許事務所における知財実務の実情は、企業秘密や弁理士自体が有する秘匿義務の壁があり、なかなかオープンにできません。しかも、知財業界のFront Edgeはものすごいスピードで進展しているので、企業における知財実務を長期間経験してきた方でも、ともするとその体験が通用する範囲もそれほど広くない場合があります。

従って、最初の話に戻って、知財業界のコモンセンスって何だろう?と思ってしまったわけです。ま、その都度確認すればいいんでしょうけどね。

弁理士にできること

さて、本日7月1日は「弁理士の日」です。昨年は、ドクガクさんの呼びかけに応じて「弁理士とは」というお題で過去100年ほどの特許/実用新案出願件数及び弁理士登録数のグラフを作成し、弁理士1人当たりの出願件数はどうなってるのという、ある種ショッキングな記事をアップしたわけです。

で、今年は「弁理士にできること」というお題が(記事はこちら)。ドクガクさんとしたら、震災復興を狙ってのお題だと思いますが、私は相変わらずひねくれ者なのでcoldsweats01、ちと違った観点からの記事にしたいと思います。

昨日、弁理士会関東支部の研修で、日本ライセンス協会の元会長の方で、現在は医薬会社のアドバイザーを務められている方を講師にお招きしてお話を聞く機会がありました。講師の方は、弁理士も戦略的知財マネジメントを行うべきであるし、積極的に企業に提案してはどうかというお話をされていました。さて、弁理士は(戦略的であるかどうかはさておき)知財マネジメント業務ができるのか…。

当然、この話をするためには、「知財マネジメント」とは何であるかという定義の議論から始めないといけないわけです。とは言え、この用語自体が非常に曖昧であり、しかも、企業の知財部門において「知財マネジメント」を行っていると自負されている方々が、では実際にどのような業務を行っているかを子細にお聞きすると、企業のカラーやら伝統的な経緯やらが絡み合い、随分と違うという経験があります。余談ですが、企業知財部門で構成される日本知的財産協会の委員会に、正に「知的財産マネジメント委員会」(正確には第1、第2と分かれていますが)という名前の委員会があり、様々な活動をされています。私は残念ながら委員にはなれませんでしたが、同じ部署で委員として活動されている先輩がいたり、また、以前の直属の上司がこの委員会の委員長を務められたこともあり、どのような議論がされているのかについては何年かフォローしていたことがあります。

とは言え、企業の知財部門においても、実は知財マネジメントに従事している人員は少数派で、権利形成業務やライセンス業務に従事されている方が多数派を占めます。これは、実に当たり前のことではあります。

で、(ここからが本題です)知財マネジメント業務の経験がある弁理士の数はいかほどかというと、企業の知財部門において部長職以上の経験がある方は、広い意味で「知財マネジメント業務」に従事したと言えると思いますが、このような方を含めても、上述したようにそもそも企業の知財部門において従事されている方が少数派ですから(しかも、法律的知識があることがこの業務遂行に当たって圧倒的優位であるとも言えない)、残念ながらやはり少数派にならざるを得ません。

私が企業における経験の有無を議論しているのは、私の乏しい経験から思うに、知財マネジメント業務については経験の有無が業務遂行に相当の影響を及ぼすのだろうと思っているからです。例えば、企業の知財部門において、事業所が複数の場所にある企業があった場合、知財部門は各事業所に近い場所に分散すべきなのか、あるいは、企業の知財部門は本社部門であるから本社所在地に集中すべきなのかという議論があります。この議論については実は正解と言えるものがありません。企業毎にpros/consを検討し、試行錯誤を重ねていくしかないと思います。ただ、このpros/consを把握し、何が最適であるかを決定するためには、想像できる範囲のpros/consだけでなく、幾ばくかであっても企業の知財部門において検討をした経験が大きなadvantageになると思うのです。

とは言え、弁理士が企業に対してトータルな知財サービスを提供することを目的とするならば、知財マネジメント業務を提供せずして知財サービス提供を謳うことは画竜点睛を欠くと言わざるを得ません。では、どうするか。

今までの弁理士の考え方は、どちらかというと弁理士業務の拡大を目的としたものであり、「弁理士」が全てのサービスを提供するという視点に偏っていたように思います。知財サービスを提供するのは弁理士だけではなく、様々な人々が自身の専門性に基づいて知財サービスを提供しています。これらの方々との対等なcollaborationが、これからの弁理士には求められていると思っています。具体的には、企業の知財部門において知財マネジメント業務に従事され、現在は企業を退職された方(企業知財部長経験者の集合に等しいでしょうか)との共同事業が考え得るのではないか、と思っています。

今から10年近く前に、私自身は近い事業構想を考えていて、実現できないかどうかを考えていたのですが、諸般の事情で実現するに至っていません。最近、企業知財部長経験者+弁理士によるコンサルチームを標榜する会社が出現していますし、私も、今年の頭に、企業知財部長経験者の方で知財コンサルをされている人々のDB作成を検討したこともありますので、実現の可能性はあると思っています。

と言うことで、「弁理士ができること」として、企業知財部長経験者とのcollaborationによる知財マネジメント業務はどうかな、という提案をしてみます。どうでしょうか?

お知らせ

本日もあまり時間がないので短めに。

昨年7月15日に、企業を退職して特許事務所に転職致しましたが、大人の事情によりcoldsweats01、本年6月30日付で今の特許事務所を退職し、別の特許事務所に7月1日から勤務することになりました。新しい特許事務所では、パートナーではなく一所員として働くことになります。場所は東京ですので、定時外は今まで通りあちこちに顔を出す予定でおります。業界としては同じところですので、これまでと同様ご愛顧いただければと思います。

付言すると、知財系某有名twitter-erのお二方は、今まで通り同じ調査会社におられますので、私だけ諸事情により抜けることになります。

7月以降に私にお会いする方には、新しい事務所の名刺をもれなく(ご希望がなくても)お渡ししますので、よろしくお願いいたしますwink。それでは。

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