弁理士にできること
さて、本日7月1日は「弁理士の日」です。昨年は、ドクガクさんの呼びかけに応じて「弁理士とは」というお題で過去100年ほどの特許/実用新案出願件数及び弁理士登録数のグラフを作成し、弁理士1人当たりの出願件数はどうなってるのという、ある種ショッキングな記事をアップしたわけです。
で、今年は「弁理士にできること」というお題が(記事はこちら)。ドクガクさんとしたら、震災復興を狙ってのお題だと思いますが、私は相変わらずひねくれ者なので、ちと違った観点からの記事にしたいと思います。
昨日、弁理士会関東支部の研修で、日本ライセンス協会の元会長の方で、現在は医薬会社のアドバイザーを務められている方を講師にお招きしてお話を聞く機会がありました。講師の方は、弁理士も戦略的知財マネジメントを行うべきであるし、積極的に企業に提案してはどうかというお話をされていました。さて、弁理士は(戦略的であるかどうかはさておき)知財マネジメント業務ができるのか…。
当然、この話をするためには、「知財マネジメント」とは何であるかという定義の議論から始めないといけないわけです。とは言え、この用語自体が非常に曖昧であり、しかも、企業の知財部門において「知財マネジメント」を行っていると自負されている方々が、では実際にどのような業務を行っているかを子細にお聞きすると、企業のカラーやら伝統的な経緯やらが絡み合い、随分と違うという経験があります。余談ですが、企業知財部門で構成される日本知的財産協会の委員会に、正に「知的財産マネジメント委員会」(正確には第1、第2と分かれていますが)という名前の委員会があり、様々な活動をされています。私は残念ながら委員にはなれませんでしたが、同じ部署で委員として活動されている先輩がいたり、また、以前の直属の上司がこの委員会の委員長を務められたこともあり、どのような議論がされているのかについては何年かフォローしていたことがあります。
とは言え、企業の知財部門においても、実は知財マネジメントに従事している人員は少数派で、権利形成業務やライセンス業務に従事されている方が多数派を占めます。これは、実に当たり前のことではあります。
で、(ここからが本題です)知財マネジメント業務の経験がある弁理士の数はいかほどかというと、企業の知財部門において部長職以上の経験がある方は、広い意味で「知財マネジメント業務」に従事したと言えると思いますが、このような方を含めても、上述したようにそもそも企業の知財部門において従事されている方が少数派ですから(しかも、法律的知識があることがこの業務遂行に当たって圧倒的優位であるとも言えない)、残念ながらやはり少数派にならざるを得ません。
私が企業における経験の有無を議論しているのは、私の乏しい経験から思うに、知財マネジメント業務については経験の有無が業務遂行に相当の影響を及ぼすのだろうと思っているからです。例えば、企業の知財部門において、事業所が複数の場所にある企業があった場合、知財部門は各事業所に近い場所に分散すべきなのか、あるいは、企業の知財部門は本社部門であるから本社所在地に集中すべきなのかという議論があります。この議論については実は正解と言えるものがありません。企業毎にpros/consを検討し、試行錯誤を重ねていくしかないと思います。ただ、このpros/consを把握し、何が最適であるかを決定するためには、想像できる範囲のpros/consだけでなく、幾ばくかであっても企業の知財部門において検討をした経験が大きなadvantageになると思うのです。
とは言え、弁理士が企業に対してトータルな知財サービスを提供することを目的とするならば、知財マネジメント業務を提供せずして知財サービス提供を謳うことは画竜点睛を欠くと言わざるを得ません。では、どうするか。
今までの弁理士の考え方は、どちらかというと弁理士業務の拡大を目的としたものであり、「弁理士」が全てのサービスを提供するという視点に偏っていたように思います。知財サービスを提供するのは弁理士だけではなく、様々な人々が自身の専門性に基づいて知財サービスを提供しています。これらの方々との対等なcollaborationが、これからの弁理士には求められていると思っています。具体的には、企業の知財部門において知財マネジメント業務に従事され、現在は企業を退職された方(企業知財部長経験者の集合に等しいでしょうか)との共同事業が考え得るのではないか、と思っています。
今から10年近く前に、私自身は近い事業構想を考えていて、実現できないかどうかを考えていたのですが、諸般の事情で実現するに至っていません。最近、企業知財部長経験者+弁理士によるコンサルチームを標榜する会社が出現していますし、私も、今年の頭に、企業知財部長経験者の方で知財コンサルをされている人々のDB作成を検討したこともありますので、実現の可能性はあると思っています。
と言うことで、「弁理士ができること」として、企業知財部長経験者とのcollaborationによる知財マネジメント業務はどうかな、という提案をしてみます。どうでしょうか?
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コメント
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その点、もう少し敷衍すべきでしたね。ご指摘、ありがとうございます。
企業の知財マネジメント経験者と言っても、実は知財マネジメントの習熟度は企業により千差万別であり、有り体に言えば進度に大きな差があると思っています。上述した知財協の委員会でも様々な情報交換をしているはずであるのに、端から見れば昔通った道の手順を踏み、昔通った過ちを犯しているように思えます。
つまり、企業知財部長経験者+弁理士とひとくくりで言うのは不十分で、先進的な知財マネジメントを経験した企業知財部長経験者+弁理士というチーム構成が生み出すoutputは大きな果実をもたらすだろうと思うのです。
投稿: 不良社員@管理人 | 2011/07/01 22:24
何だか本当にお忙しい所ご参加いただいたようでありがとうございます。
ところで、企業知財部長経験者+弁理士のコラボを考えた場合、その相乗効果の部分がちょっと想像できておりません。
手続き面を弁理士が担い、マネジメント面を知財部長経験者が担うという形だと分かり易いのですが、こういうイメージではないように感じました。
またの機会に、ご教示いただけると幸いです。
投稿: ドクガク | 2011/07/01 15:00