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企業知財部と特許事務所との業務経験はどう役立つのか

まだ頭が整理できていない状態で、半分愚痴になることを承知でちょっとだけお話しします。

ご存じの方もそれなりにいらっしゃるかと思いますが、私は、大学卒業から企業研究職→特許事務所→企業知財部→特許事務所(イマココ)という経歴を持っています。で、最近、twitterで企業での研究開発経験が特許事務所で活かされるのかどうかという議論がありました。この議論は、大学(院)から新卒で特許事務所に入所することが、その後の特許事務所を含むキャリア形成にどのような影響があるのか、という議論の延長線でされたものです。その議論については、大体収束したと思っていますので、ここではその議論は蒸し返しません。以下にお話しするのは、では、特許事務所経験が企業知財部での業務に活用されるところはあるのか、逆に、企業知財部経験が特許事務所での業務に活用されるところはあるのか、というvice versaな話です。

まず、特許事務所経験が企業知財部での業務に役立つのか、というお話です。自分の経験の範囲内のことだけでお話しすると、私の場合は、企業知財部での自分の業務遂行には結構役立ったと思っています。

私が特許事務所から企業知財部に転職したのがかれこれ17年ほど前です。その頃は、企業知財部員の中途採用自体が皆無に近い(あっても非公式ルートでの求人なので、求人情報誌を見てもほとんどない、転職サイトなどという重宝なものもなかった)時代でしたので、求人を探すだけで結構な時間がかかりました。今は、企業知財部自体が即戦力としての中途採用に対する抵抗が劇的に低くなったので、特許事務所勤務の弁理士先生が企業知財部に転職する話も普通に聞くようになりました。

その、17年前に入社した会社では、特許事務所の管理も明細書のチェックも、経験値の高い社員が多数を占めているわけではなかったので、正に即戦力状態で実務を行うことになりました。より詳細に言えば、発明者から提案された発明を自分なりに解釈して、この発明ならばこんな明細書で出願したら良いというイメージを事前に持ち、そのための資料を揃え、できるだけ明細書作成作業に不足する情報がないようにして特許事務所に出願を依頼し、出来上がってきた明細書原稿を、自分ならこう書くだろうというイメージ及びレベルに従ってチェックし、最終的に出願代理をお願いしていました。加えて、発明者の提案原稿が未完成であるにもかかわらず出願期限が迫っている時は、私は社内の人間ですから発明者に頻繁にコンタクトすることは可能ですので、自分で明細書+図面を作成し、代理人なしでの自社出願をすることもありました。今考えれば、依頼された特許事務所の側からすると非常に厳しい知財担当者であったのだろうと思います。当時担当された特許事務所の方々にお詫びをしたい気持ちではあります。

このように、企業知財部の業務において、特許事務所での経験は十分活用できるというのが、自分の経験から導き出された結論です。

では、企業知財部の経験は特許事務所において活用されうるのか、さらには有効に活用されうるのか、についてです。実は、企業知財部OBが特許事務所に転職することはかなり昔から行われてきており、その数も、私が推測するに、特許事務所から企業知財部に転職する数を上回っていたのではないかと思います。その理由は…明細書作成能力は特許事務所で鍛錬する必要があるかもしれませんが、少なくとも発明把握能力は企業知財部で長年訓練されてきていますので、この部分の教育を省けるだけでも特許事務所からすると教育は短期間でかつ容易に行いうるとの推測はできるでしょう。なお、企業知財部で管理職を経験されてきた方が特許事務所に転職した場合、特許事務所がその方を受け入れるのは、また別の理由のようです(今回の話とはちと別のことなので割愛しますが)。

自分の場合、企業知財部の前に特許事務所経験があり、企業知財部でもこつこつと自社出願をしていたので、自分の業務遂行能力がいったいいつの経験に基づくのかが混沌としているのですが、行ったり来たりしている経験が少しは役立っているのかも知れません。

とは言え、気を付けないといけないのが、企業の知財部門に所属していると、担当する分野の発明が発明者から提案された場合、知財担当者にはそれなりの権限が委譲されていますので、会社としてのauthorizeは必要であるものの、裁量の範囲が結構広いです。で、その感覚を持ち込んだまま特許事務所の業務を遂行すると、微妙に食い違ってしまうことがあります。

一例として、特許法が要求することもあり、特許出願代理を依頼される際に見せていただける発明者提案原稿または特許出願依頼書類には、当該発明の先行技術に関する文献名が記載されている場合がほとんどになりました。この先行技術は、発明者なり知財担当者が先行技術調査をした結果、適切な先行技術文献を記載しているものと推測されます。で、当該発明にかかる技術の全体像を把握するために、特許事務所の担当者が先行技術調査を行ったところ、発明者提案原稿に記載された先行技術よりも当該発明の先行技術として適切ではないかと推測される先行技術が発見できたとします。この場合、知財体制が整っている企業であると、そもそも出願代理を依頼する際に企業側が想定している業務範囲に先行技術調査は含まれていないことが多い(企業は本来ならば先行技術を一番知りうる立場にあるでしょうから)ので、特許事務所が先行技術調査を行うこと自体、厳しい言い方をすれば越権行為と言われかねません。しかも、万が一さらに適切であろうと客観的に判断される先行技術を特許事務所が発見してしまったならば、知財担当者なり発明者なり、当該発明についての先行技術調査を行った担当者の面子をつぶすことにもなります。企業の知財担当者であれば先行技術調査を行い、それとの対比で発明把握の方向性をimproveすることは要求される業務範囲内ですが、企業の知財担当者の頃の感覚でこのような業務遂行をすると、最悪の場合、企業の心証を損ないかねません。

この辺りが、実は非常にもどかしいところではあるのです。代理人としての分を弁えるべきところなのです。最近、知財経営コンサルティングの議論をする時、提案型営業が推奨されており、上に書いたような事例であるならば、特許事務所側が積極的に先行技術の存在を調査し、それに基づいて発明把握自体を変更すべしと言う論調になりがちです。当然、知財体制が整っていない企業に対しては提案型営業を推し進めることに問題はないと思いますが、クライアントの事情を考慮せずに何でも提案型営業、という議論はしてはいけないと思います(当然ですが、私が知っている弁理士先生でそういった議論をされている人は知りませんが)。

あと、日本の社会は、未だに「この道一筋○○年」という方が尊重される風潮があるように思っています。そうなると、私のように特許事務所と企業知財部とを行ったり来たりしている人間は尻軽に思われてしまうようです(事実、尻軽なんでしょう)。私も、未だに時と場合に応じて特許事務所の立場で会話している時と企業知財部の立場で会話している時とが不断なく入れ替わりますので、よく考えると整合性の取れない議論をしていることがあるかもしれません。一方で、クライアントの担当者に対して説教めいた話をしそうになることもあります。自分の経験からすると、そういった企業知財部の判断はこのような不利な問題を生じると思いつつも、そもそもその判断は当該企業内において相当の議論がなされ、権限のある人がauthorizeしたものである以上、外部である特許事務所の一担当者がそれを指摘したところで何も変わるはずもなく、逆に「余計なお節介」と取られてしまうでしょう。そんな時、クライアントに対して知財経営コンサルティングができたらどんなに楽か、とも思うのです。そんなジレンマを時々抱えながらこつこつと仕事をしておりますsad

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

管理人様、ご回答ありがとうございました。
たとえ議論が見つけれられなくとも、幅広く情報集めをするつもりで検索かけてみたいと思います。
ありがとうございました。

一介のサラリーマンさん、こんにちは。コメントありがとうございました。

この記事自体がもう一年以上前に書いたもので、twitter上の議論もその頃のものですから、今からこの議論の内容を検索で探すのはなかなか骨の折れる作業だと思います。私のtwitterアカウントをお探しになって(一応このBLOGとtwitter上での議論とは一線を引くことにしているので、申し訳ないのですがアカウントはお教えしないことにします)検索機能でこの記事を書いた頃の私の投稿を探していただくことになります。

とは言え、この議論、なかなか難しい問題を孕んでいます。結構意見が対立して一定の結論が出にくいです。それをご承知の上で、お手間ですが検索いただけるとよろしいかと。よろしくお願いいたします。

大変興味深く拝見させていただいております。
さて、本記事中に「企業での研究開発経験が特許事務所で活かされるのかどうか」についてtwitterで議論があった、とありますが、ぜひその議論に目を通したいです。(企業→事務所の転職を考えているため・・・)
どこを見ればその議論が見れるか、教えていただけると助かります。どうぞよろしくお願い致します。

2007/2008年度コンサル委員でした、さん、こんにちは。多分、10年ほど前に名刺交換をさせていただいているのだろうと記憶しています(間違っていたら申し訳ありません)。

企業知財部と特許事務所との間でコミュニケーションを取りましょう、また、共に成長できる関係でありたいとこのBLOGで言ってはいますが、なかなか理想論であって実現はかなり難しいことも承知しています。言葉は悪いのですが、お互いにセクショナリズムに陥っている部分があるなぁ、と。とは言え、実は、大企業であっても特許事務所から業務改善に関する有用な提案があればこれを受け入れることはあり得、実際に有用な提案をする特許事務所が重用される経過も目にしています。

仰るように、互いが越権行為を嫌うのではなく、運命共同体として共通の目的達成のために活動をするのが大事だと思っています。とは言え、まだまだ道半ばではありますが。

たまに、拝見しています。同感!と思う記述が多かったのですがコメントは初めてです。それ以前に実はお会いしていたりするかも。
私も企業と事務所の間を行ったり来たり(企業知財→国内特許事務所→企業知財)で、今は企業にいます。
企業から事務所に移ったとき、「越権行為」を嫌う企業知財担当がいること、そのような知財担当者に気を使う事務所に驚くとともに違和感を覚えました。約10年ぶりに企業に戻り、企業知財が戦略立案や経営貢献を求められるようになりつつある近時、いまだに開発から上がってくる発明についての先行技術との対比や発明提案書、出願原稿のチェック、といった、優秀な弁理士さんにお任せできることを手放すことを嫌い、事務所の弁理士さんの「越権行為」を嫌う企業知財担当者が結構な数、いることに驚きました。
企業の知財担当がなすべきは、時々刻々と変化する事業環境を把握・考慮して自社が確保・保有すべき知財はどのようなものかを検討し、その確保・保有策を構築し実行することになりつつあるのではないかと思う昨今、明細書作成における事務所弁理士さんの「越権行為」を嫌う担当者ってどうよ、そういう担当者をはびこらせてる企業知財部門ってどうよ、と個人的には思いますが、10年前と同じで事務所は越権行為を自制し増すし、そうせざるを得ないのが大勢というのが現実かな、とも思っています。

アマサイさん、こんにちは。お世話になってますhappy01

さて、私は資格者云々ということは気にしていません。で、明細書作成能力が知財業界のどこに所属していても、ものすごい基本をなすものであるとともに、非常に役立つと思います。明細書作成業務に長けていない方の知財経営コンサルティングそのものを真っ向から否定することはしませんが(ニーズがある限り受け入れられるわけですから)、しかしながら明細書作成業務があってトータルに理解できるのだと思うので、知財経営コンサルティングにあっても明細書作成能力をおろそかにしないべきである、と思います。

とにかく、私も当分この業界にいますので、引き続きよろしくお願いいたします。

感想を書きます、と言った気がしますが、Senriさんのブログでさらに言い尽くされた感があり、無資格の私がどうこういう筋合いのことではないようです。

ただ、明細書作成能力がある程度あれば、事務所で活きることは勿論、企業知財でも、知財コンサルでも応用が利くという確信があります。私が中小企業でなんとかやってこれたのも、それがあったからこそです。

これからの特許事務所、弁理士は、出願業務だけでは生き残れない(またやりにくい)ということは多くの人の一致するところです。しかし、それが上級レベルでできて、さらにコンサルであるとか、周辺法が理解できるという付加条件が必要ということ解釈をしていないように思います。明細書あってこそです。

私もこれからもこの業界で末永くやっていくつもりでいます。

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