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2012年7月

弁理士のライバル意識

今日は小ネタでcoldsweats01

先日、企業知財部門経験が長く、しかも知財協でも重要な役職を務められた方を囲んでの宴席がありました。その席で、その方から「弁理士にはライバル意識があるんですか?」という質問をいただきました。丁度その席にいる弁理士がいわゆる特許事務所の勤務弁理士先生ばかりであったこともあるのか、席上では「ライバル意識はないですね」という話でまとまり、次の話題に移ってしまったので、私としては特段のコメントをせずに終わりました。

では、特許事務所経営者である弁理士を含めて、弁理士にライバル意識があるのかどうか。私はあると思っています。では、どうしてライバル意識があると思うのか、どのようなポジションにある弁理士に対してライバルであると意識するかについては色々と議論があるかと思います。

根本的な問題として、弁理士はどのような競争環境に置かれているのか、ということがあります。弁理士、あるいは特許事務所が特定のクライアントの代理業務を得られるかどうかについては、当然業務の質(ここで言う「業務の質」とは、クライアントが評価する意味での業務の質なので、具体的内容はクライアント毎に異なります。従って、ここで詳細を議論する意味があまりありません)が評価されることが前提となりますが、その上で、様々な要因が絡み合って(タイミングが良かったという何とも言えない要因もありますから)代理業務を得られるかどうかが決まります。「業務の質」については、特許事務所の努力により得られることも多いかと思いますので、この部分については最低限、弁理士同士は競争しているのだと言えます。
続いて、特定のクライアントに対して複数の特許事務所が代理業務を得ている場合、この特許事務所間においても代理業務の数や幅を広げようと努力することも多いと思います。特定の特許事務所に対してどの程度の件数やどの範囲の業務を代理依頼するかについては、当たり前ですがクライアントの評価次第ですから、クライアントから高い評価を得られるように特許事務所、あるいは弁理士同士は競争していると言えます。ただ、クライアントから代理業務を得られるかどうかの場合と同様に、クライアントは「業務の質」を含めて多面的な評価をすることが通常です(他にどのような要因があるかについては、私が窺い知れないことも多々ありますので、ここでも議論をしません)。

こうやって考えてみると、クライアントからの評価という簡単な言葉で示されてしまう事項についても実は多様な要因が絡み合っており、しかも、特許事務所なり弁理士が努力して得られるであろう「業務の質」すらも結果的にクライアントが評価する意味での業務の質ですので、特許事務所なり弁理士が努力し、切磋琢磨しても、どのような結果が得られるかはクライアント次第ということになります。これは、弁理士がサービス業であるとするならば、実は至極当たり前の結論だとも言えます。

とは言え、特許事務所なり弁理士が様々な観点(ここには上に書いた業務の質以外にも様々な観点があります)から努力を重ねることは、全てではないのですがクライアントの高評価を得ることが多いのだと経験的に思っています。ですから、特許事務所の経営者は、まずは同じクライアントから代理業務の依頼を受けている他の特許事務所をライバルとして意識することが多いです。また、特定のクライアントから代理業務の依頼を受けたいと思っている場合は、既にそのクライアントから代理業務を依頼されている特許事務所は(あるいみ仮想的な)ライバルとして意識することになります。

次に、同じ分野(例えばバイオ、コンピュータソフトウェア)や同じ業務(例えば著作権契約、知財コンサル)を専門としている弁理士の間でも、切磋琢磨して競い合っていることがあります。この場合は特許事務所単位ではなく弁理士単位でのライバル意識になります。ただ、この場合も、最終的な目標はクライアントからの代理業務の件数や代理業務の幅の広さになりますので、上に書いた特許事務所単位のライバル意識に若干近いものがあります。

このように考えてみると、特許事務所や弁理士にもライバル意識は存在するわけですが、最終的にはクライアントの評価如何で結果が異なってきますので、単純に「業務の質」を追求するだけではライバルに一歩先んじることはできないことがあります。従って、特許事務所や弁理士は様々な知恵を絞る必要があると思っています。この「知恵」ですが、では具体的に何なのかを説明することは簡単ではありません。それは、最終的にクライアントの評価を得るという目標はあるものの、それに至る道筋はクライアント毎に随分と異なるように思うからです。当然、この「知恵」は各特許事務所や弁理士のノウハウでもありますから、どこかの本に書いてあろう筈もなく、従って、各人がやはり苦労をしないといけないという至極真っ当かつ結論と言えない結論になります。

あと、ライバル意識があるからと言って、ライバル関係にある(と考えられる)特許事務所間、あるいは弁理士間が険悪な関係にあるのかというと、当然そんなことはほとんどなく、特に同じクライアントから代理業務をいただいている特許事務所間、あるいは弁理士間は連帯意識を持つこともあり(連帯して何かをするわけではないですが)、このあたりはなかなか面白いです。

私自身も、ライバルとは言いませんが、競い合う良き仲間と思っている弁理士先生が数人いらっしゃいます。その先生方とは実に良好な関係でお付き合いしていただいているのですが、一方で競い合っているところもあると思っています。逆に、そういった良い仲間を持つことが、自分の弁理士としての生活を豊かにしているのではないかと思っています。

10年後の弁理士業界もろもろ

7月1日は「弁理士の日」で、例年、これを記念して、ドクガクさんの呼びかけで知財系ブロガー(かっこよい呼び方)の方々が同じテーマで記事を書かれています。私も呼びかけをいただいたのですが、かなり業務が立て込んでいた関係で、やんわりとお断りしました。で、皆さんの記事を拝見して、なるほどなぁ、と感心するばかり。それでは、遅くなりましたが、業務の合間を盗んで、ざっとですが私が感じることを。

お題は、「10年後にどうなっているのか」ということでした。さて、困った。何が困ったかというと、10年前の自分が今の知財業界なり弁理士業界を的確に予測できたのかを考えると、ぼんやりとした概念は何となく合っている気がするのですが、一方で予想以上の事態が山ほど出現し、トータルで言うと何も予想が合わなかったという評価が正しいように思うのです。

具体的に、丁度10年前は、当時の小泉首相が所信表明演説で「知財立国」を高らかに宣言し、これを受けて知財戦略本部、知財推進計画が次々と立ち上がった時期になります。この時点で、世界的に知財に関する期待の高まりは予想できました。問題はその中身です。
確かに、知財立国たる日本が目標とするのは米国でしたが、この時点で米国の特許出願件数は日本の特許出願件数をかなり下回っており、世界各国から特許出願が集中するとともに米国国内においても特許出願熱が高まる現状を予想することは私はできませんでした。況んや、中国がこの時点で特許出願件数世界一になることなど夢にも思いませんでした。まず、10年前の中国は、特許審査官のレベルも向上の道を歩んでいましたが、一部の業界では国内産業保護の観点からか審査遅延が目立ち、また、審査官の技術教育のために様々な説明会を日本企業が中国に出張して行うなど、いつの段階において日米欧のレベルに達するのかを予測することは困難でした。他にも、パテントトロールの跋扈がここまで進んでいること、日本の特許出願件数が私の予想を上回るペースで下降傾向を刻んだこと、などなど私の予想できない事項は多数に登ります。
一方、弁理士業界において登録者数が多数に上ること、弁理士試験合格者が弁理士業界に就職するためのハードルが高くなったこと、企業内弁理士の数が急激に増加したことなどは、いずれも私が近くない将来に訪れるであろうと思っていました。全て当てはまることではないのですが、「弁理士冬の時代」は必然的な近未来の姿だと思っていました。

こんな状態の私が、果たして10年後の弁理士についてどれだけ的確な予想ができるのか、また、予想できるだけの力量が自分にあるのか、非常に心許ないところがあります。

言えることは、「弁理士冬の時代」は当分続くだろう、ということです。そのベースとなるのが、日本企業が日本国特許庁に特許出願する件数は随分と減少しましたが、今後増加傾向に転じる要素はかなり少なく、可能性として現在の件数で今後10年間くらいは推移するのではないかと思うからです。
特許行政年次報告や特許事務所年鑑を見ていると、ここ数年で産業毎の特許出願件数がどのように推移してきたかが大まかにわかります。確実に言えるのが、電機業界は特許出願件数1万件を超える企業が複数社あった時代からほぼ単調な右下がり傾向にあり、何度かの平坦な時期を経て、更に現在は減少傾向にある(当然、企業単位では随分とまだら模様ではあります)こと、特にこれはAVメーカーに顕著であること(社会インフラ事業を持っている電機メーカーはそちらの事業の件数が堅調であるのか、あまり大きな減少傾向にないようです)、また、自動車産業は何度かの山を越えた後、現在は単調減少傾向にあることです。日本の特許出願件数で、電気産業と自動車産業に属するメーカーからの特許出願件数はかなりの割合になりますから、これら産業の動向が日本の特許出願件数に大きな影響を与えると思います(これについては、そのうち数字でまとめてみたいと思うのですが…)。他に、精密機器産業(コピー、プリンタメーカーがここに属します)も若干減少傾向にあります。バイオ産業、素材産業については、全体の特許出願件数を押し上げるほどの影響力はない様子です。

こう考えると、仮に弁理士登録数の増加傾向が一定程度落ち着く(この前提に根拠はありませんので、悪しからず)ことがあったとしても、そもそも日本の特許出願件数というパイは縮小傾向にあり、この限られたパイをどのように切り分けるかという議論になりますから、様々な動きは起こるのだろうと思っています。淘汰というショッキングな言葉を使うかどうかの議論はあろうかと思いますが、何らかの選別の動きが起こることは間違いないでしょう。既に、そういった動きについて漏れ聞くことはあります。つまり、事務所単位での地殻変動は日常茶飯事で起こる可能性があるということです。
この動きが、その後どのような事態を引き起こすかについて、私は明確な将来像を持ち得ていません。リストラが頻繁に起こるのか、リストラされた人々はどのような職を得るのか…現状では、パテントサロンの求人広告を見ていると、採用を旺盛に行っている特許事務所が多数存在しますので、好況不況はまだら模様に起きているようにも思えます。では、弁理士業界が不況一色で塗りつぶされてしまうことはあるのか。大凡毎年35万件の特許出願件数、審査請求件数が毎年大凡20万件ですから、いわゆる中間処理も毎年大凡20万件と見て良いでしょう、これだけの市場規模(これで全てではないです、後で説明します)を7000人の事務所勤務弁理士、そして正確な数は把握できない特許技術者が分け合う構図を、それだけの数があるのだと安堵するのか、あるいは、それだけの数しかないと不安に駆られるのか、です。この議論は、弁理士個々の生活水準をどこに置くのかで結論が変わるでしょう。年収600万円を是とするか、年収800万円、あるいはそれ以上を求めるのか。

もう一つ、統計数字になかなか出てこないものがあります。特許行政年次報告書からも明らかなように、日本企業は外国出願件数を順調に伸ばしています。伸びた分の大半はBRICs向けだと思っています。日本の弁理士は、統計数字には見えない形で外国出願に関与しています。つまり、表向きは代理人として現れない、ということです。ここで考慮すべきは、外国出願に対してもコスト抑制の命題があり、日本企業が国内代理人(つまり弁理士)を関与させない形で外国出願をする傾向が増加するかどうかです。これについての統計数字は明確にならないので、傾向を客観的に把握することは極めて困難です。日本企業の外国出願増加の恩恵を日本国弁理士が享受できるのであるならば、トータルとして弁理士業界の収支を改善する方向に働くでしょう。本来は、そうなるように個々の弁理士が努めるのが本筋です。

今までの議論は、個々の弁理士の好況不況、そして収入の格差についてそれほど詳細な議論をしていません。それは、個々の弁理士の好況不況をもたらす要因が何であるかについて、私自身が明確なビジョンを持ち得ていないからです。個々の弁理士が提供する業務の質が好況不況の原因になるのです、といった単純な図式を私は容易に肯定できません。クライアントがある弁理士、ある事務所をどのような選定基準で選定するかについては、数多くの要因が存在します。業務の質は要因の一つでしょうが、そればかりではないということです。ここの議論の難しさが、弁理士業界の将来を予測することをかなり困難にしているという考えを私は持っています。当然、企業に対して単純な評価基準で弁理士を評価し、選定すべきであるという主張を私はするつもりはありません(それほど簡単な問題ではないということです)。とは言え、クライアントの要望に明確な意思を持って対応し、クライアントの要求以上の業務を提供する弁理士には、ある程度明るい未来が期待できるのではないか、とも思います。

ちと歯切れの悪い議論になってしまいましたが、弁理士業界は明確に時代の岐路に来ていると思っています。そのことをどれだけ意識して行動に結びつけるかが、個々の弁理士の将来を左右するのだと、自戒を込めて思っています。

なお、知財コンサルに関して、今回は敢えて議論を避けました。それは、知財コンサル業務の市場規模に対して明確な予測をすることが未だに困難であること、知財コンサルができるかどうかは個々の弁理士が持つ資質や努力により大きく左右されることが理由です。一部の弁理士は、知財コンサル業務によっても明確に収入を得ることができると思いますが、その流れを弁理士業界全体で共有することは非常に困難だと思っています。知財コンサルを含めて、周辺業務(この言い方は私は好きではありません、周辺とは中心に対する貶称のように思うからです)によって弁理士業界が大いに潤うとは思えません。それは、知名度の問題であったり、そもそも市場規模を明確に予測できず、従って弁理士の多くがそれをメインの業務とすることができなかったりするからです。

それでは。

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