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2012年8月

企業内弁理士という存在

本日は一部でお約束していた話題である企業内弁理士についてのお話を。とは言え、さらっとお話しするだけですので、当て外れに感じられた方がおられたらひたすらごめんなさいm(__)m。

企業内弁理士の数は、登録している弁理士の数で勘定すると、だいたい全体の1/4程度に相当する約2500人になります。弁理士試験合格者数増加の勢いをかって(という言い方はよくないかもしれませんが)企業内弁理士の数も増加しています。以前は、同一企業内に2桁の企業内弁理士が在籍する企業はごく限られた数でしたが、今や同一企業内に数十人の企業内弁理士が所属する企業もいくつかあります。
私も、足かけ16年ほど企業内弁理士として活動をしていました。最初に所属した企業は、知財部立ち上げの時に私が中途入社したこともあり、私が退職する直前までずっと弁理士は私一人でした。その後中途入社した企業は比較的規模が大きかったせいか、私が入社した時点で既に結構な数の企業内弁理士が所属しており、その後、あっという間に企業内弁理士の数が2桁に達しました。

これだけの勢力(別に組織立っているわけではないですが)を持つ企業内弁理士に対して、弁理士会としてこれまで様々な施策を取ってきたのだと思うのですが、弁理士会から提供される情報はどちらかというと権利形成業務、しかも明細書作成、中間書類作成に関する情報が大半を占めていたせいか、企業内弁理士の立場からすると自分の業務に直接的に役立つ情報をタイムリーにしかもどこよりも早く得ることができたのかと問われると素直に肯定しづらい状態にあったように思います。企業知財部員も権利形成業務を行っている人が大勢いらっしゃいますが、権利形成業務を行う企業知財部員の主たる業務は、特許事務所に作成を依頼した明細書原稿なり中間処理書類原稿を企業の観点からチェックするものです。この作成する側の見方とチェックする側の見方は微妙に異なっていますので(いつか詳細にご説明できるといいのですが…)、弁理士の持つ知識や、さらには弁理士会が事務所経営・事務所勤務弁理士のために提供する情報が直接役立つとも言いにくいのです。
一方で弁理士会登録維持のためには企業内弁理士も月会費を弁理士会に支払う必要があり(支払主体が企業であったとしても)、月会費に見合ったbenefitが得られているのだろうかという意見もあったかもしれません(直接そういった意見を聞いていませんので、あくまで推測です)。
そんな意見を反映してなのか、弁理士会の執行部は、企業内弁理士のみを構成員とする委員会を弁理士会内に立ち上げ、様々な検討をしているようです。この委員会からどんなアウトプットが出てくるのか、私は個人的に楽しみにしています。

さて、少し話を戻して、私が企業内弁理士でいた頃、結構な数の方に企業内弁理士の企業内での業務内容、及び、企業内弁理士でいることのメリットについて質問を受けました。企業内弁理士の企業内での位置づけは企業により様々ですから、一般的なことは言えないのですが、私なりの経験に基づいたお話をその時はお返ししました。
以前にもこのBLOGでお話ししたように記憶していますが、企業知財部員として業務を遂行していく中で、どの組織からどのような情報を得るかという観点で見ると、知財部門を有する企業が所属する団体である日本知的財産協会(知財協)からの情報が一番有用であった気がします。その次は業界団体、経団連あたりでしょうか。弁理士会の場合、様々な委員会に所属して積極的に活動すると有用な情報を多く得られることがあるのですが、企業内弁理士であると弁理士会の委員会に参加する許可が得られないことも多く(業務上の意義を問われると結構答えに窮します)、こうなると知財協等を経由した情報のほうが有用であることが多くなります。従って、弁理士会に所属しているメリットをどこに求めるかについて結構悩んでいました。
一方、弁理士は産業財産権法の専門家ですから、法体系の理解を背景にして個別案件を眺めることができると私は思っていました。実際に権利形成業務を社内で行っていた頃も、また、知財管理業務を行う中で時に法改正の流れを検討することがある時も、弁理士試験勉強で得られた知識、さらには合格後に自分なりに深めた法律知識が大きく役立ったと思っています。ある意味、弁理士試験勉強で得られた知識等が、自分が物事の是非を判断する際のバックボーンであったわけです。職務発明制度に関する法改正事項の説明を社内で行う業務をした際にも、巨視的観点から様々に検討を行い、最終的に発明考案規定の改定、説明会開催、質疑応答といった一連の流れに落とし込む業務を円滑に遂行することができたと考えています。当然、こういった業務に対して弁理士が有する知識が必須ではないのですが、この知識が様々な議論を行う中での議論の深みと根拠をもたらせてくれたのではないかと思っています。

とは言え、私が弁理士であることは、私自身が企業内で古株のような顔をしていましたので殆どの方が意識していただいたようなのですが、一般的に企業知財部員が日々の業務を遂行する中で「さすが弁理士」と同僚なり上司から一目置かれるにはちょっとした努力が必要ではないかと思っています。つまり、企業知財部員が日々行う業務を遂行する上で弁理士試験の知識が必須とは言えない(ここが難しいところです)ので、企業内弁理士が業務を行うことのadvantageをそれなりに主張しないと「企業内弁理士」であることを同僚、上司が意識する機会が少ないのだろうと思うのです。
では具体的に…と言われると説明に詰まる所があります。つまり、個々の企業において企業内弁理士の位置付けは随分と異なると思うので、どのような業務を任されているか等の条件によって何を主張するかが違ってくるのです。また、自己主張が強いと周囲から認識されることは、特に日本企業において若干マイナスに働く可能性がそれなりにあると思いますので、「俺に聞いてくれ」といった顔で職場をぐるぐる回っても誰も意識してくれそうもありません。とは言え、日々の業務を遂行する中で、わずかながらでもアピールするチャンスはあるのだと思っています。そのチャンスを逃さないことが必要だと思います。
そして、そのチャンスを生かすためには、最低限日本の産業財産権法の今日的課題やトレンドについて敏感であることが大事だと思います。何かしらの機会で自分の意見を述べることがあった場合、「さすが弁理士」と思わせるだけのことを述べることが大事だと思います。特に、企業内弁理士であっても弁理士ですから、権利形成業務、特に明細書作成、中間処理作成については大抵の企業知財部員に対してadvantageがあるはずです。仮に社内で明細書作成ガイドラインのような基準作りをする機会があるならば、それこそ企業内弁理士にとっては大チャンスだと思います。また、知財部門で管理職を務めるときにも、日々の判断を過たずに行うためにも弁理士試験の際に培った知識、さらには合格後に研鑽する中で得られた知識が有用だとも思っています。

私は、16年間の企業内弁理士生活は、自分にとって実に有意義な年月だったと振り返って思っています。特に自分の場合、特許事務所経験もありましたので、企業知財部門の立場と特許事務所の立場の双方を理解し、その上で何が最善であるかを考えながら日々業務を遂行していました。なかなか得がたい経験だったと思っています。
ですから、今企業内弁理士として企業に所属している方々には、是非企業知財部門のできるだけ中枢で業務を行い、ご自分が持っておられる知識をバックボーンに縦横無尽に活躍していただきたいと思うのです。そういった活動が、後進の企業内弁理士の道をさらに開拓するのだと思います。

弁理士は何業か

本日は、予定変更して、ちと思いついたことを。

私は折に触れて、弁理士は「サービス業」であると思っていると述べてきました。実際、アンケートなどで職業を聞かれると、堂々とサービス業のところに○を付けています。
一般的には、弁理士はいわゆる士業だと言われています。この士業という言葉の意味を私は今一つ明確に把握できていません。弁護士、公認会計士、税理士など、「士」という文字が含まれる資格を用いて生計を立てている人達を士業と言うようなのですが、当たり前のように資格毎に事情は随分異なり、上に書いた共通点以上の定義を私は見出していません。
結局、士業とは法律により守られた専権業務を業として行っている職業を指すんだろうと思うのですが、ニュアンスとして専権業務を既得権として考えている人々の集合体とも聞こえがちだと思っているので、私はあまり積極的に使っていません。

私が弁理士をサービス業だと思っているのは、弁理士業はクライアントたる発明者及び企業に対して明細書等の成果物を介して知財サービスを提供しており、最終的にはクライアントに満足していただくことが目的だと思うからです。ただ、サービス業というと、クライアントの言いなりに仕事をすることのように思われそうですが、弁理士には専門家としての矜持がありますから、弁理士のprofessionalismを発揮した上で最適なサービスを提供することがサービス業としての弁理士業だと思っています。

クライアントの満足というと、かなりの方が顧客満足度(CS)という言葉を思い浮かべられるのではないかと思います。顧客満足度の考え方は、そのまま適用しにくい(知財サービスは非定形業務ですから)と思いますが、顧客満足の重要性は弁理士業でも十分認識されるべきだと思います。
とは言え、殆どの弁理士は、意識していなくともfor the customerとして業務を遂行しています。目前の案件に全力を尽くせば、大抵は顧客のためになる仕事です。ただ、自分の意識とクライアントの意識との間に齟齬が生じていないかについて常に自問自答する謙虚さが必要だと思います。クライアントが何を求めているか、それを察知、探知する努力が必要です。

それを踏まえた上で、更なるadvantageを与える考え方があるんですが、それは企業秘密ということでcoldsweats01

未経験者の弁理士試験合格者のキャリアプラン

本日は、自分でもあまり結論の出ていないお話なので、びしっとした結論を希望されている方にはちと肩すかしで終わるかもしれません。予めお詫びしておきます。

弁理士試験制度が改正されてだいたい10年ほど経過しました。例の小泉元首相が提唱した知財立国の掛け声とともに弁理士試験の合格者が急増し、その結果と言えるかわからないのですが、企業の現役エンジニアの方など、知財業界での勤務経験がない(いわゆる未経験者)方が数多く合格されるようになりました。日本の弁理士試験制度が知財業界の経験を必須としているわけではないので、未経験者の合格者が増えること自体に何ら問題はなく、私は逆に知財業界に新規参入していただける優秀な方が増えることは望ましいと思っています。

さて、未経験者の方が合格した場合、自分のキャリアアップを目的に職場を変える決意をされることが多いと思っています。この場合、企業勤務者(たいていエンジニアの方)であると、自分が勤務している企業の知財部門への異動を願うか、思い切って特許事務所に勤務するか、のだいたい2パターンで知財業界に入ってこられるわけです(稀に大学TLOや公的機関へ転職される方もいらっっしゃいますが)。知財部門への異動は、しかしながら人事マターですから、常に希望が叶うわけではないです。特に、企業内弁理士という存在を歓迎する企業もあれば、特段大きなメリットではないと考えているだろう企業もあるので、弁理士試験合格即知財部門への異動という数式は簡単に成立しません。小泉元首相が提言した知財立国宣言以来、知財業界に従事する人数は順調に(?)増加しているようですが(特許庁か知財戦略本部事務局かがそんな資料を作っていた記憶があります)、個々の企業の知財部門において人数が増加したかについては、当然ながら個別事情に基づくものですから、なかなか一概に言えない気がします。もっとも、新卒採用において企業知財部門志望で入社する方は確実に増えていると私は思っているので、門戸は微妙ながらも全体的には広がっているようです。

一方で、特許事務所業界でも、未経験者を歓迎する事務所とそうでない事務所とがあります。なぜ一様に未経験者を歓迎しないのか、と問われると、事務所毎の事情がおありだと思うので、あくまで推測の域を出ないのですが、特に小規模事務所では、未経験者に対する教育の時間を割く余裕がないことがあるようです。未経験者が特許技術者(ここでは、資格保有の有無を問わずに一律に特許技術者という表現をします)として一人前になるには、座学やOJTを含めてかなりの時間を要します。どの程度かと問われるとなかなか一律に答えられないのですが、私の感覚では、最低1年は必要です。好ましくは、自分が作成した明細書の中間処理をやって特許査定を得るまでが一つのサイクルだと思っています。この間、未経験者に対しては大きな売り上げを期待することができません。事務所が小規模であると、ある意味での余剰人員(全く余剰というわけではなく、事務所の売り上げに大きく貢献できない、という意味です)を抱えるだけの余裕がない場合もあるようで、それだけのコスト(人件費を回収できないという意味でのコスト)を抱えるよりは、経験者を採用して即戦力で頑張っていただける道を選択することがあるようです。
特許事務所において、教育に関するリソースをきちんと確保するかどうかというのは、なかなか単純に議論できる問題ではないです。企業の場合、定年制及びポストの定期的ローテーション・交替という、ある意味強制的に世代交代がされるシステムが確立していますので、必然的に人材教育の仕組みが必要になりますし、そのためのリソースが予定されています。特許事務所の場合、定年制が採用されているところがほとんどだと思いますが、世代交代に関するシステムが確立されているとは言えず(人材流動に伴うポスト交替は結構な頻度でありそうですが)、このため、未経験者から始まる人材育成プログラムを保有している特許事務所は少数派に属するのではないかと思っています(逆に、人材育成プログラムを保有している特許事務所は未経験者にとって狙い目かもしれません)。もっとも、弁理士単位では自己研鑽に努めている弁理士がほとんどですが(私が認識している限りは)。

で、ここ10年間ほどの弁理士試験合格者数増加により、事情はどのように変わったのか。一番変化したのは、企業知財部門が中途採用で優秀な人材を確保する機会が増加し、その傾向に乗って、特許事務所経験者(含む弁理士)が企業知財部門に転職するケースが増加したように思います。そうなると、一つのキャリアプランとして、企業のエンジニアで弁理士試験に合格し、それを契機に未経験者歓迎の特許事務所で一定の経験を積み、さらに企業の知財部門に中途採用で入社する、というプランが実現味を増したように感じています。
実は、私は微妙に違ったルートですが(特許事務所に未経験者で転職し、そこで弁理士試験に合格してから企業知財部門に中途採用された)、上に書いたキャリアプランはなかなか面白いと思っています。一番の理由が、企業知財部門と特許事務所との両方の経験がありますので、双方の実情を理解した上で実務が行えることです。特許事務所側からすると、事務所側の事情を知っている企業知財部門の人間はなかなか手強い、という印象があります。一方で、事情を知るがために、特許事務所側が仕事のしやすいように手順を整えることもできると思っています。例えば、発明者側に対してどのような資料を揃えるべきかについて、特許事務所の立場を考慮した上でアドバイスができ、結果として特許事務所との打ち合わせを円滑に行えてスピーディーにかつ企業側の意図に沿った明細書作成業務を特許事務所にしていただけるようになります。ただ、あまり特許事務所の事情を考慮した業務を進めてしまうと、「おまえは誰の立場で仕事をしているのだ」と批判されるかもしれません(私は経験していませんが)。

折角様々な努力をされて弁理士試験に合格されたのですから、自分が持てる知識を最大限に活用するキャリアを積むことが自分にとっても好ましいですし、また、社会にも大きく貢献できるのだと思っています。合格したことによりキャリアの選択肢が増えたわけですから、色々と検討されてもいいのではないかな、と思っています。

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