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未経験者の弁理士試験合格者のキャリアプラン

本日は、自分でもあまり結論の出ていないお話なので、びしっとした結論を希望されている方にはちと肩すかしで終わるかもしれません。予めお詫びしておきます。

弁理士試験制度が改正されてだいたい10年ほど経過しました。例の小泉元首相が提唱した知財立国の掛け声とともに弁理士試験の合格者が急増し、その結果と言えるかわからないのですが、企業の現役エンジニアの方など、知財業界での勤務経験がない(いわゆる未経験者)方が数多く合格されるようになりました。日本の弁理士試験制度が知財業界の経験を必須としているわけではないので、未経験者の合格者が増えること自体に何ら問題はなく、私は逆に知財業界に新規参入していただける優秀な方が増えることは望ましいと思っています。

さて、未経験者の方が合格した場合、自分のキャリアアップを目的に職場を変える決意をされることが多いと思っています。この場合、企業勤務者(たいていエンジニアの方)であると、自分が勤務している企業の知財部門への異動を願うか、思い切って特許事務所に勤務するか、のだいたい2パターンで知財業界に入ってこられるわけです(稀に大学TLOや公的機関へ転職される方もいらっっしゃいますが)。知財部門への異動は、しかしながら人事マターですから、常に希望が叶うわけではないです。特に、企業内弁理士という存在を歓迎する企業もあれば、特段大きなメリットではないと考えているだろう企業もあるので、弁理士試験合格即知財部門への異動という数式は簡単に成立しません。小泉元首相が提言した知財立国宣言以来、知財業界に従事する人数は順調に(?)増加しているようですが(特許庁か知財戦略本部事務局かがそんな資料を作っていた記憶があります)、個々の企業の知財部門において人数が増加したかについては、当然ながら個別事情に基づくものですから、なかなか一概に言えない気がします。もっとも、新卒採用において企業知財部門志望で入社する方は確実に増えていると私は思っているので、門戸は微妙ながらも全体的には広がっているようです。

一方で、特許事務所業界でも、未経験者を歓迎する事務所とそうでない事務所とがあります。なぜ一様に未経験者を歓迎しないのか、と問われると、事務所毎の事情がおありだと思うので、あくまで推測の域を出ないのですが、特に小規模事務所では、未経験者に対する教育の時間を割く余裕がないことがあるようです。未経験者が特許技術者(ここでは、資格保有の有無を問わずに一律に特許技術者という表現をします)として一人前になるには、座学やOJTを含めてかなりの時間を要します。どの程度かと問われるとなかなか一律に答えられないのですが、私の感覚では、最低1年は必要です。好ましくは、自分が作成した明細書の中間処理をやって特許査定を得るまでが一つのサイクルだと思っています。この間、未経験者に対しては大きな売り上げを期待することができません。事務所が小規模であると、ある意味での余剰人員(全く余剰というわけではなく、事務所の売り上げに大きく貢献できない、という意味です)を抱えるだけの余裕がない場合もあるようで、それだけのコスト(人件費を回収できないという意味でのコスト)を抱えるよりは、経験者を採用して即戦力で頑張っていただける道を選択することがあるようです。
特許事務所において、教育に関するリソースをきちんと確保するかどうかというのは、なかなか単純に議論できる問題ではないです。企業の場合、定年制及びポストの定期的ローテーション・交替という、ある意味強制的に世代交代がされるシステムが確立していますので、必然的に人材教育の仕組みが必要になりますし、そのためのリソースが予定されています。特許事務所の場合、定年制が採用されているところがほとんどだと思いますが、世代交代に関するシステムが確立されているとは言えず(人材流動に伴うポスト交替は結構な頻度でありそうですが)、このため、未経験者から始まる人材育成プログラムを保有している特許事務所は少数派に属するのではないかと思っています(逆に、人材育成プログラムを保有している特許事務所は未経験者にとって狙い目かもしれません)。もっとも、弁理士単位では自己研鑽に努めている弁理士がほとんどですが(私が認識している限りは)。

で、ここ10年間ほどの弁理士試験合格者数増加により、事情はどのように変わったのか。一番変化したのは、企業知財部門が中途採用で優秀な人材を確保する機会が増加し、その傾向に乗って、特許事務所経験者(含む弁理士)が企業知財部門に転職するケースが増加したように思います。そうなると、一つのキャリアプランとして、企業のエンジニアで弁理士試験に合格し、それを契機に未経験者歓迎の特許事務所で一定の経験を積み、さらに企業の知財部門に中途採用で入社する、というプランが実現味を増したように感じています。
実は、私は微妙に違ったルートですが(特許事務所に未経験者で転職し、そこで弁理士試験に合格してから企業知財部門に中途採用された)、上に書いたキャリアプランはなかなか面白いと思っています。一番の理由が、企業知財部門と特許事務所との両方の経験がありますので、双方の実情を理解した上で実務が行えることです。特許事務所側からすると、事務所側の事情を知っている企業知財部門の人間はなかなか手強い、という印象があります。一方で、事情を知るがために、特許事務所側が仕事のしやすいように手順を整えることもできると思っています。例えば、発明者側に対してどのような資料を揃えるべきかについて、特許事務所の立場を考慮した上でアドバイスができ、結果として特許事務所との打ち合わせを円滑に行えてスピーディーにかつ企業側の意図に沿った明細書作成業務を特許事務所にしていただけるようになります。ただ、あまり特許事務所の事情を考慮した業務を進めてしまうと、「おまえは誰の立場で仕事をしているのだ」と批判されるかもしれません(私は経験していませんが)。

折角様々な努力をされて弁理士試験に合格されたのですから、自分が持てる知識を最大限に活用するキャリアを積むことが自分にとっても好ましいですし、また、社会にも大きく貢献できるのだと思っています。合格したことによりキャリアの選択肢が増えたわけですから、色々と検討されてもいいのではないかな、と思っています。

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