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Apple vs Samsung覚え書き

書こう書こうと思っていたApple vs. Samsungの訴訟案件、アメリカでの陪審の評決が出て、さらには日本では1つの特許について地裁判決が出たようですが、まだわからないことが多いこともあり、現時点で私が考えていることを備忘録的に書いておきます。なお、訴訟記録等を詳細に見ていないので、結構当てずっぽうな議論であることを事前にお詫びしておきます。

Apple vs. Samsungの訴訟案件は全世界的に広がっていて、韓国、日本、米国等複数の訴訟案件が並行しているようです。訴訟対象となっている特許権、意匠権は訴訟案件毎に異なるようですが、大別すると、

Apple…iPad等の意匠(米国の場合意匠特許=Design Patentと言うので、報道記事では実に頻繁に「特許」と省略されていることが多いです)及びUI関連の特許権(UI関連で意匠権はほとんど成立しません)を含む特許権
Samsung…移動体通信、特にいわゆる3G規格に関する必須特許権を含む特許権

各国の訴訟では、論点はだいたいこのようになっていたようです。

・意匠権=Galaxy Tab等がiPadの意匠権を模倣(厳密には侵害ですが、わかりやすい言い方として)したか否か
・UI特許権=Samsung側からの特段の反論は報道記事からはあまり見えてこない、見えているのは、Apple側がSamsungとしては考えられない高額のライセンス料のオファーをしてきた
・3G必須特許権=Appleは、自分がQualcommからチップを買っているので、3G必須特許権はこのチップベンダーにより解決されている、あるいは、規格必須特許権はFRAND(fair, reasonable, and non-discriminatory terms)でのライセンス供与が必要であるが、Samsungが提示したライセンス料はFRANDから逸脱している

意匠権については、実にガチンコで似ている似ていないという議論が繰り広げられたようです。もっとも、報道されている内容は、多分に陪審団を意識した訴状の内容に基づくものなので、オリジナリティに関する議論と物真似に対する辛辣な指摘(糾弾と言える程度の)がクローズアップされていて、一般的な意匠の類似判断とはちと異なる、非常にシンプルな物言いになっているのだろうと思っています。この点が、陪審団による評決を経る米国の知的財産訴訟の難しさでもあります。ただ、似ている似ていないという議論は、一般的な意匠権侵害事件においてもなかなか微妙な問題ですので、ここでは論評を避けます。UI特許権については、上に書いたようにSamsung側の反論が報道記事からあまり見えてこない(私が見過ごしていた場合は申し訳ありません)ので、なかなか論評できません。

FRANDの議論については、報道記事でちらちらと訴訟時の応酬が見えていますが、報道記事は法律的な正確性を欠くことが多いので、本当のところは判決文を見ないとよくわからないではあります。ただ、FRANDの議論については、このApple vs. Samsung事件に限らず、最近の電機・通信系企業の悩みの一因になっていると思っています。
FRANDの考え方は独禁法の考え方を色濃く反映しています。技術規格に必須の特許権を特許権者(含む規格制定議論に参加した企業全体)が独占使用すれば、規格制定に参加しなかった企業はこの必須特許権の存在により市場そのものへの参入を阻害されます。従って、規格制定に参加するかどうかにかかわらず、ライセンスを求める企業に対して必須特許権はライセンスされるべきであり、しかも、そのライセンス料は妥当なものでなければならないという考え方が支配的です。これがFRANDの考え方です。
では、FRANDによるライセンス料はどの程度が適切であるかについては、技術規格個別の事情等もあるので、FRANDだからいくら、という決め方はされません。また、必須特許権を保有する企業同士の場合はライセンス料の相殺があり得るので、一つの技術規格におけるライセンス料が一律であるかどうかの保証もありません。このあたりの事情は企業間の決め事ですので、具体的なことはよくわかりません。
今回、Appleは3G必須特許権についてライセンス料の支払いをする意思がどこまであったのか、実は私としてはそこから事情がよくわからないでいます。FRANDと言えども多くの通信機器メーカーはライセンス料を支払っているのだと推測します。そうでないと、必須特許を巡って各メーカーが「払え」「払わない」の応酬をしていなければならないからです。実際のライセンス料率やライセンス料そのものについては守秘義務があるのだと思いますので、漏れてはきませんが。だとすると、Appleが3G必須特許権のライセンス料を踏み倒す意思があったとは推測できません。
Appleがこの件について拠り所としているであろうことは、欧米(特に欧州)の公正取引委員会(各国毎に呼称は違いますが)が標準規格に関連する必須特許権に対して、権利者による権利行使を独占禁止法の観点から厳しく制限する傾向にあることです。Appleは、推測するに、Samsungがオファーしたライセンス料はFRANDの定義に合致せず、従ってSamsungによる権利行使は特許権の濫用であって認めるべきではないという論陣を張っており、欧州の一部の訴訟及び今回の米国の陪審団はこの主張を是としたのではないか。米国の陪審団の評決が「3G特許権非侵害」という報道を幾つか見たのですが、3G規格を使用している限り形式的には侵害していないわけはないので、こういった論理の組み立て方をしたのではないかと思います。
あるいは、Appleは適法な業者からチップを購入していたのであって権利は用尽(あるいは消尽)したとの主張があったかもしれません。一般的に、特許権はチップに関しても成立しますし、装置に関しても成立します。同一技術でチップと装置の双方に特許権が成立することもあります。この場合、チップメーカーはよく「チップに関するライセンスはうちでライセンス料を払っているので用尽しているけど、装置を作ったらそれは別物だと思うのでご注意を」という注意書を付しています。さて、この場合、チップに関する特許が用尽したのだったら、そのチップを使用した装置を製造してもそもそも特許権は用尽しているのでは、という考え方もあるのだと思います。この点について、似た案件が米国最高裁で争われた(Quanta vs. LG Electronics事件)のですが、米国最高裁は方法特許に関する用尽を一般論として認めたものの、上に書いたチップと装置の特許の用尽説については明確な判断をしていないと私は思っています(この事件、結構複雑なのですよ)。

…とまぁ、推測に推測を重ねた結果のお話ですので、判決文を子細に見ると色々とわかってくることがあると思います。ただ、その作業は私のお仕事ではないので、多分やらないでしょう。しかも、まだまだApple vs. Samsungの訴訟は各国で進行中ですし、数日前に評決が出た案件も米国地裁での判断ですから、本当に続くのであれば高裁での判断を待つしかありません。

あと、ついでに、この事件がAndroide陣営にどのような影響を及ぼすのかについて。Appleが対Samsungで対象としたUI特許権は、Android陣営の他の通信機器メーカーの機器にも使用されているかもしれません。そうなると、純粋な可能性としては、他の通信機器メーカーに対してもAppleは特許訴訟を提起することができるわけです。しかし、果たしてそうなるのかどうかは不透明な部分が多々あります。既にAppleはHTCに対して特許訴訟を提起していますが、他の通信機器メーカーに対しては「まだ」訴訟を提起していません。提起するならば、今すぐにでもできるはずなのに、です。
ここから先は本当に推測に過ぎないのですが、あるいは、Appleは他の通信機器メーカーに対しては、必須特許権以外による特許権侵害の反訴のリスクを考慮し、時勢を眺めているのではないか、と。元々、Appleという会社はそれほど好戦的ではないという印象を私は持っていました。Appleは米国において被告になることは多々あるのですが(NPEによる特許訴訟が多いのだと思っています)、原告になることは結構稀であると思っています。iPhone vs. Androidの構図ができた時点から、Android陣営のメーカーに対してのみ態度が違う、という感想です。

もっとも、20年ほど前は、AppleはMicrosoftに対して主に著作権の観点からUIの類似性について訴訟を提起して、ある種の泥沼状態になっていました。この時も、AppleはWYSIWYGのOS(UI的なところ)についてMicrosoftが真似をしたという主張をし、この訴訟の中で、AppleもXeroxのPalo Alto研での研究成果であるSmalltalkを真似したという議論にもなりました。何かしら、Apple(というかSteve Jobs)の虎の尾を誰かが踏んだときにAppleは猛然と仕掛けるという印象があります。20年前はMicrosoftのWindowsでしたし、今回はGoogleのAndroidだったわけです。

さらに、Samsungに与える影響については、これはあまりにも未知数な部分があってよくわかりません。Samsungの売り上げの中で携帯電話の占める割合は非常に大きいのですが、直ちにSamsungが携帯電話を売れなくなる、あるいは売り上げが低下するとはなかなか考えにくいです。特に、米国においてはeBay判決以降差止請求権を認める条件が厳格になりましたので、直ちに差し止め請求が認められる確率は低いでしょう。

こんなことで、全然結論になりませんが、取り急ぎの覚え書きということでscissors

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