« 特許事務所HPを見ていて思うこと | トップページ | 日本国の弁理士が外国特許出願業務を行うこと »

知的財産戦略業務を行うには(私見)

自分がかつて知的財産戦略業務に大して従事していないのに、あれこれと書くのは気が引けるのですが、ちと思うことを。

ここ10年ほどの企業知財部門を取り巻く環境が基本的に好転する傾向にあることを受けてか、職種別求人を採用する企業に対して企業知財部門への配属を希望する新卒応募者が増えた感があります。私が社会人になったかれこれ30年ほど前は、特許部への配属を約束した求人はごくわずか(私が知る限りでは1社だけ)でしたが、今現在は結構な数の企業が職種別求人の中に知財部門配属を約束する求人を用意しているように思っています(統計を取っていないので、具体的な数については知らないのですが)。また、結構な数の企業が知財部門への中途採用の求人を出しています。中途採用の場合は経験者採用に限定されていると思うので、未経験者に対しては門戸を閉ざしていると言えるのですが、かつては企業知財部門員は新卒社員(他部門からの異動を含む)だけ、という企業も多かったように思うので、随分と様変わりした印象があります。

で、企業知財部門への配属を希望する新卒応募者の方に将来の夢をお聞きすると、「知的財産戦略業務に従事したい」という方がかなりいらっしゃいます。あるいは、権利活用業務、渉外業務で他社との交渉の最前線に立つ業務に従事したい、と。確かに、これら業務は外見的には華やかな業務であると思います。

では、知的財産戦略業務にしても権利活用業務、渉外業務にしても、新卒採用者が直ちにこれら業務を行うことができるのかと問われると、私の乏しい経験からしてもこればかりは非常に難しいと思っています。

そもそも知的財産戦略業務って何をするのかという概念については、実は話者により随分と違うように思うのですが、とりあえず、知財部門の部門方針と企業全体の知財方針とを決定することを知的財産戦略業務であると考えた場合でも(多分、この範囲だと大抵の方はこれを知的財産戦略業務であることに同意していただけるのではないかと思っています)、この業務自体がなかなか定型化することができません。また、様々な内的要因、外的要因を検討した上である種の経営判断を行わないとこの知的財産戦略業務に対する最終的な結論を出すことができないと私は思っており、そして、この経営判断を行うにはある程度の経験と知識と先見性がないと難しいとも思っています。こんなこともあり、知的財産戦略業務は大抵の場合企業知財部門のマネージャー、さらには企業知財部門を担当する役員が関与しますし、一部の企業では経営陣による議論の対象になっているようです。

そもそも、知的財産戦略業務の担当者になるためのキャリアプランを用意している企業はあまりないのではないかとも推測しています。確かに、企業は定常的に新陳代謝することを義務づけられていると思うので、知的財産戦略業務の担当者に対しても(それが専任者であってもそうでなくても)後継者育成のプランは必要になるのですが、特定の養成プログラムを持っている企業はほとんどないのではないか(私は聞いたことがありません)と思っています。

こう書き進めてみると、新卒応募者の方には申し訳ないのですが、知的財産戦略業務に従事することを希望して企業知財部門に配属されたとしても、その希望が叶うための明確なプログラムが用意されている状況にあることは稀だと思います。

とは言え、確実に知的財産戦略業務に従事する人員は企業知財部門に存在するわけですから(知的財産戦略業務と認識していなくても、上に書いたような意味での知的財産戦略業務に従事している人員はいるはずです)、何かしらの判断基準に則って企業知財部門員の一部は知的財産戦略業務に従事する業務命令がなされ、そして業務を遂行しているわけです。彼ら/彼女らはどのような判断基準に則って知的財産戦略業務に従事することになったのか。

部門方針を作成するためには、少なくとも自社の知財部門に対する的確で詳細な現状把握が必要になると思います。この現状把握を得るためには、一定期間の(しかも結構長い)企業知財部門、好ましくは当該企業の知財部門での勤務経験がないと難しいと思います。そして、現状把握をした上で、改善点があるならばその改善点を認識し、改善の方向性を筋道立てて(つまり短期、中期計画レベルで)計画する必要があります。これらの知識と実践がないと、部門方針立案業務はうまく遂行できないように思っています。
次に、企業の知財方針を作成するには、内的要因と外的要因の把握が必要だと思っています。内的要因とは企業とその知財部門が抱える課題、あるいは強みといったものです。外的要因は、企業とその知財部門が他社や社会との関係で直面する課題、あるいは強みといったものです。これを行うには、企業が属する業界の事情、企業が活動する国、地域の事情、協業他社及びその知財部門に対するベンチマークといった事実に対する客観的分析が必要となります。その上で、経営課題と結びつく形で企業の知財方針を立案することになります。

上に書いたことを完璧に行っている企業がどれだけあるかという具体的数字については私は明確な証拠を持っていませんが、理想的には上に書いたことを個別に実践することで企業知財部門の部門方針と企業の知財方針が決定されると思っています。

さて、新卒採用者が企業知財部門に配属されることが決定したとき、上に書いた事項をどのように実践するのか、実践できるまでの知識と経験を得るのか…企業内の個別事情についての知識は、当該企業での勤務経験を重ねること以外に得る方策はないでしょう。また、協業他社の知財部門のベンチマークについては、残念ながら知識を得ること自体が非常に困難です(やってできないことはないですが、一般化ができないのです)。それ以外の知識については、最近は経営学、MBA(随分と批判されていますが、知識を得る手段としては有用なことが多いと思います)、MOT、MIPなど、学ぶ手段は随分と増えたと思っています。ただ、知識として得たとしてもこれを応用する段階では各人の知恵が必要だと思っています。知識は応用して初めて実践の場で役立ちます。

あと、自分の経験からすると、様々な事項に対する問題意識をどこまで持っていられるかが結構な鍵になると思っています。現状を見て何を問題と考えるか、そしてそれをどのように解決したらよいか、についての思考実験を常に行うことで、問題意識を継続して持つことができると思います。ただ、問題意識を部門内の他の人、特に上司、先輩に直にぶつけてそれが直ちに採用されなくとも、そこで意気消沈してはいけないと思います。採用されないにはそれなりの理由があることが多いです。採用されない場合には何故採用されなかったかについての謙虚な反省が必要です。採用されないことを他人の批判につなげるのは得策ではありません。

とは言え、実際に知的財産戦略業務に従事するまでには結構な年月がかかると思います。それまで夢を持ち続けていられるか、ですね。

« 特許事務所HPを見ていて思うこと | トップページ | 日本国の弁理士が外国特許出願業務を行うこと »

知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 特許事務所HPを見ていて思うこと | トップページ | 日本国の弁理士が外国特許出願業務を行うこと »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
フォト
無料ブログはココログ