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日本国の弁理士が外国特許出願業務を行うこと

今日の話題は、微妙にsensitiveな話題を含んでいると思うので、異論がある方も一定数おられると思いますが、一つの考え方としてご理解いただけるといいなぁ、と思っております。

私が定期的にBLOG記事(直近はこちら)でご紹介している、日本国特許庁への特許出願件数の推移をご覧いただければおわかりのように、日本国への特許出願件数はここ数年漸減傾向にあり、直近の2~3年だけを見ると一つの底を打ったようにも思いますが、とは言え、出願件数だけで言えば米国、中国に追い抜かれ、長年守ってきた(そのこと自体の是非はさておき)特許出願件数世界一の座を明け渡す結果になっています。一方で、日本国出願人が海外に特許出願する件数は、若干の増減はあるものの、長期的に見れば増加傾向にあると思います(この会議の配付資料をご覧下さい)。

このところ、日本企業が国内出願をする件数が漸減傾向にあることから、弁理士の立場から受任件数の減少を憂う声もちらほらとあり、特許出願件数減を産業競争力低下と結びつける論調も見受けられるように記憶しています。実際に、1人の弁理士当たりの特許出願件数については、私が先程ご紹介したBLOG記事でご報告したように、ピーク時から比較するとかなりの減少傾向にあります。当然、この数字は、全体の特許出願の中でどの程度の代理率であるか、また、実際に出願に関与している弁理士は登録弁理士の中のどの程度であるか(企業勤務弁理士を除くと概数は出ますが)を考慮するともう少し高い値になるものと推測できますが、全体の傾向として減少していることは間違いないと思います。
現在の傾向としては、弁理士試験合格者数は一定数あり、一方で国内特許出願件数は減少傾向にありますから、1人の弁理士当たりの特許出願件数が減少傾向になるのは致し方ないと思います(その是非についてはここでは議論しません)。個々の弁理士の売上高の概算についても以前BLOG記事で話題にしましたが、この記事での算出方法に則れば、弁理士の平均売上高はやはり減少傾向になります(あくまでも売上高であって収入は簡単に算出できないことにご注意を)。このような数値的背景もあってか、弁理士が新規業務に進出するにはどうしたらよいか、といった議論を散見するように記憶しています。知財コンサル業務もその一環であると思います。

その中で、なかなか統計に出てきにくいのですが、弁理士が行っている知財業務の中で、今までも重要度が非常に高い上、今後その重要度がさらに高まるであろう業務が、日本への特許出願を基礎とした海外への特許出願業務があります。ここ数年の記事で、日本企業が海外特許出願の比重を高めることが報じられたものがあります。企業自体が表明しているものとしてこの報告がありますし、中国特許出願の増加傾向に関する全般的な記事としてはこれがあります。従って、弁理士が行う知財業務として、海外出願業務が有望であるという考えはあり得るでしょう。
しかし、ここで考えなければならない事項があります。それは、日本国弁理士が海外特許出願に対してどのような貢献ができるのか、ということです。海外特許出願を実際に代理しているのは現地代理人です。そして、現地の法制度を最も知悉しているのも現地代理人です。このような考えに立って、現地代理人とのコミュニケーションを企業内の知財担当者が直接行うことで、日本国弁理士が仲介することなく海外特許出願を行っている企業も存在します。
では、日本国企業と現地代理人との間に日本国弁理士が仲介する必要性はないのかと言われれば、私は必要性はあるのでは、と思っています。一番の理由は、そもそも弁理士が特許出願を代理しているメリットは何か、ということです。 企業は外部弁理士に特許出願手続の代理を依頼することなく、自らが特許出願用の書類を作成し、特許庁に出願をすることができますし、実際に外部弁理士に特許出願手続の代理を依頼せずに自ら特許出願している企業も(一部の案件のみ自ら特許出願をしている場合も含めて)存在します。しかしながら、特許庁に出願された特許出願全体で見ると、企業自ら特許出願をしている割合はかなり少数です。特許行政年次報告書 2012年の統計数字によると、2011年の数字で、トータルで34万件ほどある特許出願のうち、いわゆる本人出願は29000件程度です。数多くの企業が、弁理士による特許出願手続の代理のメリットを実感されて、弁理士に対して特許出願業務の代理を依頼されているわけです。この論理を外国出願にまで敷衍すれば、日本国弁理士が海外出願の仲介を行うメリットはあるのだ、という論調になります。
この論調を検証するためには、海外特許出願における日本国弁理士の業務は何であるかについて詳細に見なければいけません。

海外特許出願において日本国弁理士が行っている業務として挙げられるものは、次のようなものです。

・海外特許庁が受理する言語への翻訳の前段階として、日本語による翻訳元原稿作成

・翻訳業務

・現地代理人選定

・現地代理人への各種手続実行指示

・現地代理人からの連絡を受け、これを企業に伝える

・現地特許庁からの各種連絡の検討及び検討結果に基づく手続案作成、提示

・複数国における各種手続の統括

これら全ての業務を全ての日本国弁理士が全ての企業向けに行っているわけではなく、いずれの業務を日本国弁理士に依頼するかは企業毎に、時には案件毎に異なってきます。
そして、(ここからが問題なのですが)上に書いた業務の中には依頼側企業と現地代理人との間の仲介人としての業務であるものがあり、時に「単なる仲介人」としての業務しかしていないと見られることがあったように思います。これは、あくまで自分の経験や感覚的なものであり、具体的証拠を見せるべしと言われた場合でも、的確な反証ができる自信はありません。ほとんどの特許事務所であれ弁理士であれ、自分が関与する以上はそこに何かしらの付加価値を付与してこそ幾ばくかの手数料をいただけるのだということは承知しているはずですし、事実、自分も含めて、我々弁理士が関与することでそれなりの付加価値があると認めていただけるように、業務に邁進してきました。
しかしながら、上に書いたように、現地代理人に対して直接外国出願を依頼する企業が存在するわけです。その理由は、日本の弁理士に対する業務上の不満ばかりではなく、コスト的な問題が大きく横たわっているように思います。つまり、外国出願件数増加に伴い、知的財産部門が必要とする予算(あるいは事業部門が負担する場合もありますので、事業部門における知財関係の予算)が巨大になり、従って、業務の質を維持しながらどうやってコスト低減を図るかが大きな課題になっていると推測しています。
その一環として、日本の特許事務所を介在させることなく外国出願を行うことで日本の特許事務所に支払っていた分の手数料だけコスト低減を図る(実はこの数式は簡単に成立するのかどうか、議論があるところだろうと思っています)施策を図る企業もいるでしょう。 このような企業が抱える課題に対して、日本の特許事務所、弁理士はどのように対処するのか。私が所属していた企業知財部門の責任者の方は、日頃から「日本の特許出願が権利になるまで安い国産車1台分、海外の特許出願が権利になるまで高級外車1台分の費用がかかることを忘れないで下さい」とおっしゃっていました。企業はそれだけのコスト意識を持って特許出願をし、権利化作業を行い、そして予算策定作業を行っています。手数料をいただく我々弁理士として、付加価値があればその分の手数料を支払っていただくのは当然、という意識になっていないか。コスト意識をもって業務を遂行しているか、さらには、企業が抱えるコスト低減に関する課題を解決する方策を提案できるか…。

最近、中国、韓国の特許事務所は、元々日本語にfamiliarな方がそれなりの数いらっしゃること、さらには翻訳料も含めて安価な人件費を背景に、中国、韓国の特許事務所に一括して外国出願を依頼すると、時に日本語原稿をこれら特許事務所に送付すると、これら特許事務所がハブとなって各現地代理人に対して出願依頼をし、中間処理もこれら特許事務所がトータルに行うことを日本企業に提案されているようです(このような提案に対しても色々と批判はあるかと思いますが)。
単純にこのような特許事務所をライバル視、敵視することは簡単ですが、その背景には、日本企業が外国特許出願に対して以前よりシビアな目で見ている、という現実があるように思っています。 単純に言えば、日本にある特許事務所は日本にいること、そして、日本語がnativeであること、さらには日本国の知的財産法に知悉していることのメリットがあるのだと思っています。ここでは個別の提案は避けますが、当たり前の結論として、クライアントたる企業が抱える課題を直視し、掘り起こし、そして日本国弁理士であることのメリットを洗い出し、その上で業務を遂行することで幾ばくかの解決策が見えてくるのでは、と思っています。
単に外国語が得意である、外国の法制度に詳しい、というだけではなかなか展望が開けてこないように思っています。外国の法制度は、当該国の現地代理人が一番詳しいはずです。何をもってadvantageとするか、この点が大事だと自省の念を込めて申し上げます。

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コメント

こんばんは。だいぶまえのBLOG記事にご賛同いただき、ありがとうございます。この記事に書いた内容は、5年経過して何か変わったかと言われるとあまり変わっておらず、そう考えると、この内容については常に自問する必要があるのだろうと思っています。

とても危機意識が伝わるものです。同感できることがあります。

とても危機意識が伝わるものです。同感できることがあります。

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