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ジュリスト2013年9月号

本日は久しぶりに知財系の書籍(正確には雑誌)のご紹介を。本当はさっさと書かないといけないネタがあるんですが、忘れないうちに書かないと内容をけろっと忘れるので。

で、ご紹介するのは、一月ほど前に発売されたジュリスト(2013年9月号)です。このジュリストの特集は「標準規格必須特許の権利行使をめぐる動き」です。先日(平成25年2月28日)の東京地裁判決で、アップルvsサムスンの損害賠償請求権不存在確認訴訟についての東京地裁の判断が出ました。このところ、アップルvsサムスンに限らず、欧米や米国において標準規格必須特許権を巡る訴訟が幾つかあり、日本においても上に書いた判決が出されたことで、日米欧で色々な判断が出揃ったことになります。

ジュリスト2013年9月号特集では、標準規格必須特許の権利行使にまつわる問題について、独禁法の適用を除く対応、つまり、権利濫用、裁定実施権、差止請求権の制限に絞った論考が収録されています。権利濫用については、上に書いたアップルvsサムスンの東京地裁判決の評釈を中心とした論考が、また、企業で標準化特許全般に携わっている実務家の方がその実情を紹介した論考が、また、米国におけるRAND条件(特にライセンス条件)に関する裁判例を紹介した論考が、また、裁定実施権については日本における不実施裁定実施権及び公共の利益のための裁定実施権の現状を紹介した論考が、さらに、差止請求権の制限については特許法100条1項の改正試案を紹介した論考と民法学における差止請求権の一般理論を紹介した論考とが収録されています。

この中で一番個人的に興味を持ったのが、民法学における差止請求権の一般理論を紹介した論考でした。つまり、物権の排他的効力の反射的効果としての伝統的な差止請求権は、複雑に絡み合う利害関係の中から生まれる差止請求権の効果の調整を十分に行うことができないことがあり、また、権利として法的に認められているであろうもの以外に法秩序により保護すべき利益(例えばプライバシー、日照など)についての差止請求を認めることもできないという問題を抱えているので、このような伝統的な差止請求権理論に代わる学説が出現しているとの紹介がありました。この上で、現代の差止請求権理論に則るならば、特許法において差止請求権に対して利益考量を入れた条文を用意するならば、それは一般法である民法の理論も許容することができるのではないか、という見解が示されていました。
この考え方は、ある意味で英米法における差止請求が衡平の理論に基づくものであることに近い結論を与えるように思います。米国ではeBay最高裁判決において衡平の観点から差止請求権に対する行使制限をしましたが、日本は制定法に基づきますので、特許法100条そのものの改正をする必要があると思いますが、とは言え、かかる衡平的な観点を特許法100条に入れ込むことを民法学側が許容しうるという見解は、私としては非常に新鮮なものでした。

とは言え、個人的に今回の特集で残念であったのが、(F)RAND条件が日本においてどのような意味を持つのかについてあまり触れられていなかったことです。上述した東京地裁判決では誠実交渉義務を生じさせることを明らかにしたと理解していますが、米国においては(F)RAND条件の宣言により「第三者のためにする契約」が成立するとの判決が出ており、この流れを考慮するならば、日本においてもそういった解釈が成り立つのではないか(北大の田村先生はこの考えを提案されているようです)とも言えます。そうなると、上述の東京地裁判決の控訴審で、東京地裁判決の論理構成を修正しうる余地が生まれるかもしれません(話はそれほど簡単ではないと思いますが)。また、日米において(F)RAND条件の解釈が異なることで、世界各国に標準規格必須特許を所有する権利者(大抵の場合、標準規格必須特許は世界各国において権利を取得していますので)国毎に対応を検討しなければならない(いわゆる属地主義である以上仕方ないとも言えるのですが)手間がそれなりにあるだろうなぁ、とも思います。

また、企業にいた経験からすると、標準規格必須特許に対する差止請求権の制限に関する議論は、いわゆるパテントトロール(あるいはNPE)に対する差止請求権の制限の文脈の中で語られている雰囲気がしています。確かに、標準規格必須特許に対して安易に(何をもって「安易に」というかについて様々な議論があると思いますが、ここでは敢えてその辺りの議論は避けます)差止請求権の成立を認めるならば、被告のみならず公益的な観点からの影響も大きいでしょうから、パテントトロールが所有する特許権に差止請求権を認める以上に社会に与える影響が大きいのは理解できます。一方で、仮に標準規格必須特許に対してロイヤリティの支払を拒否している(権利者側が誠実交渉義務を履行したという前提で)法人が存在した場合に、かかる行為をどのように阻止するかを考えるならば、損害賠償請求訴訟をしたとて、結果的に認められるのは(F)RAND条件に基づくロイヤリティであると考えられ、訴訟費用の負担を被告に求めたところで、訴訟費用以外の原告側の手間等を考慮すると、権利者側に若干不利に働く気がしています。権利者以外の標準規格必須特許の実施者がロイヤリティ支払に傾くインセンティブをどこに求めるのか、かなり悩ましい問題です。この点、MPEG2パテントプールにおいては比較的頻繁に無断実施者に対する特許権侵害訴訟を提起しており、無断実施者に対してロイヤリティ支払をさせる仕組みがうまく働いているように考えます。

(F)RAND条件に関しては、自分自身もトータルで明確な立場を取るまでに至っておらず、色々な報告書等を読んで勉強中の身ですから、上に書いた見解も見当外れの部分があるかもしれません。とは言え、今回ご紹介するジュリスト2013年9月号は、現時点において標準規格必須特許の権利行使について様々な観点から検討された論考が並んでおり、非常に参考になる文献だと思っています。


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