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「知的財産部門の業務の特徴」

知人のBLOGに、「企業経営に連携する知的財産部門の構築」という書籍に「知的財産部門の業務の特徴」として次の10項目が紹介されていて、企業知財部門の集まりで激しく同意があったとの話が紹介されていました。

① 知的財産部門の業務は、ほぼ全てが他部門との共同作業・連携作業
② 共同作業・連携作業をする部署数が極めて多い
③ 知的財産活動は、短期間に成果が出ない
④ 他部門からすると、ラインとは異なる部門(知的財産部門)との共同作業
⑤ 数値情報化が難しい
⑥ 地味な業務が基本
⑦ 専門色の強い業務
⑧ 自社の先端技術・新製品に接する機会が多い
⑨ 競合他社の先端技術に接する機会が多い
⑩ 多くの側面を持つ部門

私も、数年前まではなんちゃって知財部門員でしたので、これら10項目については基本的に同意します。その上で、自分なりに考えることを少し書いてみます。なお、以下に書く内容は、知的財産部門の構成員個々のお話ではなく、組織としての知的財産部門全体についてのことです。また、ここで取り上げる内容は産業財産権に係ることに限っています。著作権を含めた知的財産権全般については事情が違うことがあるかもしれません。

① 知的財産部門の業務は、ほぼ全てが他部門との共同作業・連携作業

この特徴は、産業財産権が及ぼす効果が知的財産部門以外の多くの部門の業務に波及しうることと、産業財産権の権利形成及び活用業務が、知的財産部門以外の部門の業務に影響されることが多いこととの両面があるからだと思っています。特に、最近多くの企業で標榜されている「経営活動に資する知的財産」という目標を達成するためには、知的財産部門と他部門との間の両方向の矢印が以前にも増して太くならざるを得ないと思いますので、他部門とのcollaborationは必須になると思います。
以前は、知的財産部門が比較的閉鎖的であるという印象を他部門から持たれていたように記憶していますので、知的財産部門に所属する人間がcollaborationの必要性を認識することは重要なことであり、さらに、collaborationの度合いが高まることが、理想的には「経営活動に資する知的財産」という目標の実現に近づくことだと思っています。

② 共同作業・連携作業をする部署数が極めて多い

①の話と重複する点がありますが、つまりは産業財産権が及ぼす影響と、産業財産権に及ぼす影響とが共に多面的である、ということの現れだと思っています。ただ、どの程度をもって「極めて多い」と言えるかについては、なかなか悩ましいです。
つまり、他部門とのcollaborationがない部門は考えにくい(存在意義をどこに求めるかが非常に難しい)一方で、どこからが「極めて多い」という表現になるか、です。加えて、企業の規模によって業務も細分化され、これに伴って部門数も増加しますから、企業の規模が大きいとcollaborationをすべき部門数も増加すると考えられますから、「極めて多い」という表現は、本来は他部門におけるcollaborationとの相対的比較との中で捉えるべきだとも思うからです。
とは言え、自分自身の経験では、確かに社内に存在する部門の中でコンタクトを取らなかった部門はほとんどなかったように記憶しています。具体的内容についてはまだ守秘義務があると思っていますのでここでのご紹介は遠慮させていただきますが、とにかく多数の部門とのコンタクトを取っていた記憶があります。加えて、私は一時期社内でビジネスモデル特許担当であったので、いわゆる間接部門の発明者とのコンタクトも多数存在し、その意味でも「極めて」多数の部門とコンタクトを取っていました。

③ 知的財産活動は、短期間に成果が出ない

この話は、知的財産部門に所属する人間に対して、自らが行うべき業務の注意点として語られていた記憶があります。業務の視点をどこに置くべきかを考える上で、将来を見ることは非常に大切です。
一方で、他部門に対して知的財産活動を説明する際にも、この特徴を紹介することがありました。近年、特に商品のライフサイクルが短期化する中で、特許出願から登録まで通常数年、それから権利活用をして、というプロセスを踏む中で、いかに商品や事業を適切な時期に知的財産でサポートするかという観点で考えると、早期の対応が必要であるとともに、現時点での業務は数年先を見通して行うべきである、ということです。その分、他部門がpatientであることを知財部門としては切に望む、ということです。

④ 他部門からすると、ラインとは異なる部門(知的財産部門)との共同作業

スタッフ部門である知的財産部門の特徴を他部門(特にライン部門)に理解していただくにはそれなりの苦労が必要ですが、結果的にそれは知的財産に対する他部門の認識度に依存するとも思っています。私の経験では、知的財産部門がスタッフ部門であることで苦労したことも若干あります(特に知的財産部門立ち上げから暫くの時期)が、粘り強い地道な作業の結果、知的財産部門の必要性について他部門の方々が十分認識していただくに至ったので、最終的にはそういった苦労はせずに済みました。

⑤ 数値情報化が難しい

数値情報化が難しいのは、知財部門に限らず間接部門全般においても同様だと理解しています。そういった間接部門に対して数値目標を与える試みがいわゆるKPIだと思っています。知財部門におけるKPIの試みは一時期特許庁も検討していましたし、知財協でも委員会での活動成果が知財管理誌に発表されていたと記憶しています。
数値化する上での注意点は、数値化することで数値そのものが一人歩きし、知財部門の活動や業務が知財部門が意図しない方向で解釈される可能性があることです。その結果、会社経営陣のmisleadを招く可能性があります。
一方で、例えば特許出願件数や登録件数というわかりやすい数値は、他部門や経営陣にとっても扱いやすい数値です。従って、知的財産部門として、こういったわかりやすい数値を利用することも時に大事なのではないかと思っています。特許出願件数等の数字をKPIとして用いると、個々の出願の重要性の大小を捨象してしまう可能性がありますので、これこそ会社経営陣のmisleadを招く可能性があると考えられますが、こういった可能性があることを承知した上で、出願案件の質を一定以上に維持する活動を同時にするならば、出願の費用対効果をアップさせることもできますし、知財部門の活動を非常にわかりやすい形で「見える化」できて好適だとも考えられます。

⑥ 地味な業務が基本

これについては、実は私は「何とも言えない」というスタンスでいます。会社の業務で「派手な業務」とは何か、という議論です。例えば、知財戦略立案業務と書くと、何だか華やかな業務であるように思われがちなのですが、実際にこの業務をしている現場を私は知っているので、「そんなことないよね」と思います。訴訟をすると一見派手な業務のように見えますが、特許訴訟を担当した経験からすると、派手な業務だと思う暇も無くひたすら次の期日に向かって多忙な日々に文字通り忙殺されていました。地道な業務こそ第一だと思っています。

⑦ 専門色の強い業務

この手の話題は実際によくしていたのですが、例えば、社内の経理部門であっても専門色の強い業務だと思いますし、専門色が強いことが知的財産部門の特徴とまで言い切る自信は私にはありません。どんな業務であってもそれなりの専門性があり、その部門に異動したらまずは専門知識の習得に努めるわけです。
専門色が強い故にジョブ・ローテーションの機会が少ないという見方は、ある程度妥当すると思っていますが、当然のように知的財産部門もそのことについて十分認識しており、どうやって開けた知財部門にするかについて日々努力していると思っています。

⑧ 自社の先端技術・新製品に接する機会が多い

この特徴を知的財産部門の強みであると考えるには、先端技術を知ることで他部門に対して提案できるだけの力を備えないといけないと思います。とは言え、提案することが、実は当該先端技術を担当する事業部門の業務を阻害する可能性もありますので、他者を納得させるだけの提案ができるかどうかにかかっているように思っています。

⑨ 競合他社の先端技術に接する機会が多い

私としては、競合他社の先端技術に接する機会を多く持とうとする意思を有する人物が、知的財産部門に所属するメリットがあると思っています。端的に言えば、好奇心を持つことが知的財産部門に所属する人々の務めだと思うのです。

⑩ 多くの側面を持つ部門

企業の各部門には所掌範囲がありますので、幾ら多くの側面を持ちうると言っても実際に知的財産部門が多くの側面を持っていいのかどうかという素朴な疑問があります。一方で、①、②に記載したように、知財部門は他部門とcollaborationする機会は非常に多いですから、他部門からの情報収集と他部門への情報提供は怠ってはいけないと思っています。

こんなところで。

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コメント

的場さんのお名前、確かにありましたね。

ご紹介した本のテーマについて今研究したとしても、本質はそれほど変わっていない気がします。とは言え、経営と知財との関係について深く考える人は増えていると思うので、その点での裾野は広がったと思っています。

 私が関わらせていただいた本が取り上げられていて、ビックリしました。
(私が直接執筆した箇所が話題となっていたのではなく、ホッとしました・・・笑)
が、取り上げられた10項目については、執筆者全員で議論しながら列挙したり、統合分離した記憶が、微かに残っています。

 この議論は2006年にしていたのですから、既に7年が経過しています。
今、同じテーマで研究がなされたり、本が執筆されたらどのようになるのでしょうね。 

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