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2013年9月

「知的財産部門の業務の特徴」

知人のBLOGに、「企業経営に連携する知的財産部門の構築」という書籍に「知的財産部門の業務の特徴」として次の10項目が紹介されていて、企業知財部門の集まりで激しく同意があったとの話が紹介されていました。

① 知的財産部門の業務は、ほぼ全てが他部門との共同作業・連携作業
② 共同作業・連携作業をする部署数が極めて多い
③ 知的財産活動は、短期間に成果が出ない
④ 他部門からすると、ラインとは異なる部門(知的財産部門)との共同作業
⑤ 数値情報化が難しい
⑥ 地味な業務が基本
⑦ 専門色の強い業務
⑧ 自社の先端技術・新製品に接する機会が多い
⑨ 競合他社の先端技術に接する機会が多い
⑩ 多くの側面を持つ部門

私も、数年前まではなんちゃって知財部門員でしたので、これら10項目については基本的に同意します。その上で、自分なりに考えることを少し書いてみます。なお、以下に書く内容は、知的財産部門の構成員個々のお話ではなく、組織としての知的財産部門全体についてのことです。また、ここで取り上げる内容は産業財産権に係ることに限っています。著作権を含めた知的財産権全般については事情が違うことがあるかもしれません。

① 知的財産部門の業務は、ほぼ全てが他部門との共同作業・連携作業

この特徴は、産業財産権が及ぼす効果が知的財産部門以外の多くの部門の業務に波及しうることと、産業財産権の権利形成及び活用業務が、知的財産部門以外の部門の業務に影響されることが多いこととの両面があるからだと思っています。特に、最近多くの企業で標榜されている「経営活動に資する知的財産」という目標を達成するためには、知的財産部門と他部門との間の両方向の矢印が以前にも増して太くならざるを得ないと思いますので、他部門とのcollaborationは必須になると思います。
以前は、知的財産部門が比較的閉鎖的であるという印象を他部門から持たれていたように記憶していますので、知的財産部門に所属する人間がcollaborationの必要性を認識することは重要なことであり、さらに、collaborationの度合いが高まることが、理想的には「経営活動に資する知的財産」という目標の実現に近づくことだと思っています。

② 共同作業・連携作業をする部署数が極めて多い

①の話と重複する点がありますが、つまりは産業財産権が及ぼす影響と、産業財産権に及ぼす影響とが共に多面的である、ということの現れだと思っています。ただ、どの程度をもって「極めて多い」と言えるかについては、なかなか悩ましいです。
つまり、他部門とのcollaborationがない部門は考えにくい(存在意義をどこに求めるかが非常に難しい)一方で、どこからが「極めて多い」という表現になるか、です。加えて、企業の規模によって業務も細分化され、これに伴って部門数も増加しますから、企業の規模が大きいとcollaborationをすべき部門数も増加すると考えられますから、「極めて多い」という表現は、本来は他部門におけるcollaborationとの相対的比較との中で捉えるべきだとも思うからです。
とは言え、自分自身の経験では、確かに社内に存在する部門の中でコンタクトを取らなかった部門はほとんどなかったように記憶しています。具体的内容についてはまだ守秘義務があると思っていますのでここでのご紹介は遠慮させていただきますが、とにかく多数の部門とのコンタクトを取っていた記憶があります。加えて、私は一時期社内でビジネスモデル特許担当であったので、いわゆる間接部門の発明者とのコンタクトも多数存在し、その意味でも「極めて」多数の部門とコンタクトを取っていました。

③ 知的財産活動は、短期間に成果が出ない

この話は、知的財産部門に所属する人間に対して、自らが行うべき業務の注意点として語られていた記憶があります。業務の視点をどこに置くべきかを考える上で、将来を見ることは非常に大切です。
一方で、他部門に対して知的財産活動を説明する際にも、この特徴を紹介することがありました。近年、特に商品のライフサイクルが短期化する中で、特許出願から登録まで通常数年、それから権利活用をして、というプロセスを踏む中で、いかに商品や事業を適切な時期に知的財産でサポートするかという観点で考えると、早期の対応が必要であるとともに、現時点での業務は数年先を見通して行うべきである、ということです。その分、他部門がpatientであることを知財部門としては切に望む、ということです。

④ 他部門からすると、ラインとは異なる部門(知的財産部門)との共同作業

スタッフ部門である知的財産部門の特徴を他部門(特にライン部門)に理解していただくにはそれなりの苦労が必要ですが、結果的にそれは知的財産に対する他部門の認識度に依存するとも思っています。私の経験では、知的財産部門がスタッフ部門であることで苦労したことも若干あります(特に知的財産部門立ち上げから暫くの時期)が、粘り強い地道な作業の結果、知的財産部門の必要性について他部門の方々が十分認識していただくに至ったので、最終的にはそういった苦労はせずに済みました。

⑤ 数値情報化が難しい

数値情報化が難しいのは、知財部門に限らず間接部門全般においても同様だと理解しています。そういった間接部門に対して数値目標を与える試みがいわゆるKPIだと思っています。知財部門におけるKPIの試みは一時期特許庁も検討していましたし、知財協でも委員会での活動成果が知財管理誌に発表されていたと記憶しています。
数値化する上での注意点は、数値化することで数値そのものが一人歩きし、知財部門の活動や業務が知財部門が意図しない方向で解釈される可能性があることです。その結果、会社経営陣のmisleadを招く可能性があります。
一方で、例えば特許出願件数や登録件数というわかりやすい数値は、他部門や経営陣にとっても扱いやすい数値です。従って、知的財産部門として、こういったわかりやすい数値を利用することも時に大事なのではないかと思っています。特許出願件数等の数字をKPIとして用いると、個々の出願の重要性の大小を捨象してしまう可能性がありますので、これこそ会社経営陣のmisleadを招く可能性があると考えられますが、こういった可能性があることを承知した上で、出願案件の質を一定以上に維持する活動を同時にするならば、出願の費用対効果をアップさせることもできますし、知財部門の活動を非常にわかりやすい形で「見える化」できて好適だとも考えられます。

⑥ 地味な業務が基本

これについては、実は私は「何とも言えない」というスタンスでいます。会社の業務で「派手な業務」とは何か、という議論です。例えば、知財戦略立案業務と書くと、何だか華やかな業務であるように思われがちなのですが、実際にこの業務をしている現場を私は知っているので、「そんなことないよね」と思います。訴訟をすると一見派手な業務のように見えますが、特許訴訟を担当した経験からすると、派手な業務だと思う暇も無くひたすら次の期日に向かって多忙な日々に文字通り忙殺されていました。地道な業務こそ第一だと思っています。

⑦ 専門色の強い業務

この手の話題は実際によくしていたのですが、例えば、社内の経理部門であっても専門色の強い業務だと思いますし、専門色が強いことが知的財産部門の特徴とまで言い切る自信は私にはありません。どんな業務であってもそれなりの専門性があり、その部門に異動したらまずは専門知識の習得に努めるわけです。
専門色が強い故にジョブ・ローテーションの機会が少ないという見方は、ある程度妥当すると思っていますが、当然のように知的財産部門もそのことについて十分認識しており、どうやって開けた知財部門にするかについて日々努力していると思っています。

⑧ 自社の先端技術・新製品に接する機会が多い

この特徴を知的財産部門の強みであると考えるには、先端技術を知ることで他部門に対して提案できるだけの力を備えないといけないと思います。とは言え、提案することが、実は当該先端技術を担当する事業部門の業務を阻害する可能性もありますので、他者を納得させるだけの提案ができるかどうかにかかっているように思っています。

⑨ 競合他社の先端技術に接する機会が多い

私としては、競合他社の先端技術に接する機会を多く持とうとする意思を有する人物が、知的財産部門に所属するメリットがあると思っています。端的に言えば、好奇心を持つことが知的財産部門に所属する人々の務めだと思うのです。

⑩ 多くの側面を持つ部門

企業の各部門には所掌範囲がありますので、幾ら多くの側面を持ちうると言っても実際に知的財産部門が多くの側面を持っていいのかどうかという素朴な疑問があります。一方で、①、②に記載したように、知財部門は他部門とcollaborationする機会は非常に多いですから、他部門からの情報収集と他部門への情報提供は怠ってはいけないと思っています。

こんなところで。

ジュリスト2013年9月号

本日は久しぶりに知財系の書籍(正確には雑誌)のご紹介を。本当はさっさと書かないといけないネタがあるんですが、忘れないうちに書かないと内容をけろっと忘れるので。

で、ご紹介するのは、一月ほど前に発売されたジュリスト(2013年9月号)です。このジュリストの特集は「標準規格必須特許の権利行使をめぐる動き」です。先日(平成25年2月28日)の東京地裁判決で、アップルvsサムスンの損害賠償請求権不存在確認訴訟についての東京地裁の判断が出ました。このところ、アップルvsサムスンに限らず、欧米や米国において標準規格必須特許権を巡る訴訟が幾つかあり、日本においても上に書いた判決が出されたことで、日米欧で色々な判断が出揃ったことになります。

ジュリスト2013年9月号特集では、標準規格必須特許の権利行使にまつわる問題について、独禁法の適用を除く対応、つまり、権利濫用、裁定実施権、差止請求権の制限に絞った論考が収録されています。権利濫用については、上に書いたアップルvsサムスンの東京地裁判決の評釈を中心とした論考が、また、企業で標準化特許全般に携わっている実務家の方がその実情を紹介した論考が、また、米国におけるRAND条件(特にライセンス条件)に関する裁判例を紹介した論考が、また、裁定実施権については日本における不実施裁定実施権及び公共の利益のための裁定実施権の現状を紹介した論考が、さらに、差止請求権の制限については特許法100条1項の改正試案を紹介した論考と民法学における差止請求権の一般理論を紹介した論考とが収録されています。

この中で一番個人的に興味を持ったのが、民法学における差止請求権の一般理論を紹介した論考でした。つまり、物権の排他的効力の反射的効果としての伝統的な差止請求権は、複雑に絡み合う利害関係の中から生まれる差止請求権の効果の調整を十分に行うことができないことがあり、また、権利として法的に認められているであろうもの以外に法秩序により保護すべき利益(例えばプライバシー、日照など)についての差止請求を認めることもできないという問題を抱えているので、このような伝統的な差止請求権理論に代わる学説が出現しているとの紹介がありました。この上で、現代の差止請求権理論に則るならば、特許法において差止請求権に対して利益考量を入れた条文を用意するならば、それは一般法である民法の理論も許容することができるのではないか、という見解が示されていました。
この考え方は、ある意味で英米法における差止請求が衡平の理論に基づくものであることに近い結論を与えるように思います。米国ではeBay最高裁判決において衡平の観点から差止請求権に対する行使制限をしましたが、日本は制定法に基づきますので、特許法100条そのものの改正をする必要があると思いますが、とは言え、かかる衡平的な観点を特許法100条に入れ込むことを民法学側が許容しうるという見解は、私としては非常に新鮮なものでした。

とは言え、個人的に今回の特集で残念であったのが、(F)RAND条件が日本においてどのような意味を持つのかについてあまり触れられていなかったことです。上述した東京地裁判決では誠実交渉義務を生じさせることを明らかにしたと理解していますが、米国においては(F)RAND条件の宣言により「第三者のためにする契約」が成立するとの判決が出ており、この流れを考慮するならば、日本においてもそういった解釈が成り立つのではないか(北大の田村先生はこの考えを提案されているようです)とも言えます。そうなると、上述の東京地裁判決の控訴審で、東京地裁判決の論理構成を修正しうる余地が生まれるかもしれません(話はそれほど簡単ではないと思いますが)。また、日米において(F)RAND条件の解釈が異なることで、世界各国に標準規格必須特許を所有する権利者(大抵の場合、標準規格必須特許は世界各国において権利を取得していますので)国毎に対応を検討しなければならない(いわゆる属地主義である以上仕方ないとも言えるのですが)手間がそれなりにあるだろうなぁ、とも思います。

また、企業にいた経験からすると、標準規格必須特許に対する差止請求権の制限に関する議論は、いわゆるパテントトロール(あるいはNPE)に対する差止請求権の制限の文脈の中で語られている雰囲気がしています。確かに、標準規格必須特許に対して安易に(何をもって「安易に」というかについて様々な議論があると思いますが、ここでは敢えてその辺りの議論は避けます)差止請求権の成立を認めるならば、被告のみならず公益的な観点からの影響も大きいでしょうから、パテントトロールが所有する特許権に差止請求権を認める以上に社会に与える影響が大きいのは理解できます。一方で、仮に標準規格必須特許に対してロイヤリティの支払を拒否している(権利者側が誠実交渉義務を履行したという前提で)法人が存在した場合に、かかる行為をどのように阻止するかを考えるならば、損害賠償請求訴訟をしたとて、結果的に認められるのは(F)RAND条件に基づくロイヤリティであると考えられ、訴訟費用の負担を被告に求めたところで、訴訟費用以外の原告側の手間等を考慮すると、権利者側に若干不利に働く気がしています。権利者以外の標準規格必須特許の実施者がロイヤリティ支払に傾くインセンティブをどこに求めるのか、かなり悩ましい問題です。この点、MPEG2パテントプールにおいては比較的頻繁に無断実施者に対する特許権侵害訴訟を提起しており、無断実施者に対してロイヤリティ支払をさせる仕組みがうまく働いているように考えます。

(F)RAND条件に関しては、自分自身もトータルで明確な立場を取るまでに至っておらず、色々な報告書等を読んで勉強中の身ですから、上に書いた見解も見当外れの部分があるかもしれません。とは言え、今回ご紹介するジュリスト2013年9月号は、現時点において標準規格必須特許の権利行使について様々な観点から検討された論考が並んでおり、非常に参考になる文献だと思っています。


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