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2014年2月

今は昔のソフトウェア特許話

今夜やろうとしていた事が諸般の事情によりできなくなったので、また小ネタですがbleah

昨年末、大掃除をしていて、過去の日本弁理士会のソフトウェア委員会に所属していた頃の資料が自分の部屋の奥底から出てきました。丁度平成7~8年の頃の資料ですから、今となっては大した価値もありませんでしたので、名残惜しい気持ちがありつつ、資料は廃棄処分にしました。

とは言え、当時としては結構先端的なことをしていたなぁ、と資料を見返しながら思っていました。というのも、この頃はAlappat事件において装置としてのソフトウェア関連発明の特許性が認められ、Lowry事件においてデータ構造の特許性が認められ、さらに、Beauregard事件においてコンピュータ可読媒体に格納されたプログラムの特許性が認められ、と、立て続けにCAFCレベルで画期的な判決が出され、実務的にもこれら事件にいかにcatch upするかが重要な事項だったからです。ソフトウェア委員会としても、up to dateな情報をいかに会員に提供するかを主眼に、精力的な活動を繰り広げていました。当然、日本国特許庁がどのような対応をするかについても適宜情報を入手していました。この辺りの歴史的経緯は、「世界のソフトウエア特許 -その理論と実務」という書籍に詳細に紹介されています。

一方、「今となっては大した価値がない」というのも事実です。日本は平成14年特許法改正によってプログラムを物の発明に含める法改正を行い、さらにこれに合わせて行ったソフトウェア関連発明の審査基準改訂以降、実務的に顕著な変更は行われていません(私の記憶では)。日本においては、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」という、若干厳しめとも言える条件に基づいて実務が運用されていますので、ソフトウェア関連発明において発明の成立性(特許法29条1項柱書違反)に関する判断の是非を巡って業界が揺れる事態にまでは至っていない気がします。現在の日本弁理士会のソフトウェア委員会も、注目すべき判例として発明の成立性に関するものよりも、侵害訴訟における解釈についての判例を優先して会員に紹介しているように思っています。

一方、アメリカでは、ご存じState Street Bank事件において、"Useful, Concrete and Tangeble result"を生み出すならば発明の成立性を認めるという基準が提示されて以来、日本のようなハードウェア資源の連関性について請求項で明確に言及していないと思われる米国特許が成立するようになりました。この余波が、日本においても「ビジネスモデル特許ブーム」として到来したわけです。当時、私も企業においてビジネスモデル特許の専門的な担当者として奮闘しており、当時のことが今でも昨日のように思い浮かびます。マスコミもビジネスモデル特許を黒船到来のように報道し、知財業界のみならず社会全体が過熱していたとすら思えます。

当然、このような米国特許の存在を疎ましく思う人々が出てきます。主にそれはソフトウェア業界の人々です。リチャード・ストールマンのような、ある意味過激な主張をされる方ばかりでなく、一般的なソフトウェア産業に従事する方であっても、自分が書いたコードが一々特許権を侵害するのかどうかチェックすることに忙殺されるのを疎ましく思うわけです。その背景には、伝統的にソフトウェアに関する権利処理は著作権に基づいて行われていて、その上位概念とも言えるソフトウェア特許についての関心がソフトウェア業界全体では希薄であっただろうことがあると思っています。とは言え、私はソフトウェア特許に関する明細書を書くのが生業ですから、業界全体としての注意義務は一定果たすべきであるとのスタンスです。要は、過去に自分が行ったコーディングに関する技術的思想を、思い付いた時点できちんと保護することが大事だと思うのです。そして、過去自分が思い付いてコーディングしたものに関する技術的思想について他人が特許出願をしていたら、やはりそれを阻止する手数をかける手間を惜しんではいけないとも思うのです。

ソフトウェア特許については、外延の不明確性があるという指摘があります(Patent Failure)。確かに、ソフトウェア特許の請求項は機能的表現によって書き表されることが殆どで、回路構成であると当業者であれば機能的表現に一定の外延を思い描くことができると思うのですが、このアナロジーでソフトウェア特許の外延を当業者の誰もが同じ位置に思い描けるかというと、なかなか難しそうです。実は、この機能的表現の問題については米国でも認識しているようで、オバマ大統領もこの件について対策を講じることを明言しているようです(PDF)。

そして、米国においても、ハードウェア資源との関連性がかなり希薄な「純粋ビジネス方法特許」の発明適格性について問題視され、かの有名なBilski事件において、CAFC大法廷はState Street Bank事件での判断基準を捨てて"Machine or Transformation"テストを採用すべしとの判断を示しました。しかしながら、この事件、最高裁ではMOTテストが全てではない、抽象的アイデアであれば発明の成立性は否定されるべきとの判決を出し、かなり判断が混迷する結果になりました。

そして今、米国で話題になっているのがCLS Bank事件です。この詳細については紹介記事(PDF)に任せますが、Bilski事件では「純粋ビジネス方法特許」の発明成立性に絞って議論されたものの、ソフトウェア関連発明全般の発明成立性については特段の議論がされませんでした。今回のCLS Bank事件は、ビジネス方法特許のみならず、コンピュータ可読媒体やシステム特許についても議論の対象になっています。この事件、CAFC大法廷では判事全体の意見が全くまとまっていません。現在事件は最高裁の審理中で、今年6月には判決が出されるのではないかと目されています。

こう考えてみると、CLS Bank事件の対象となっている特許はState Street Bank事件以降に登録されたものばかり(私が調べた範囲では)ですので、ある意味、State Street Bank事件の余波が未だに影響していると言えます。日本においてはビジネス関連発明の登録率がここ1~2年で急上昇しており、実務的にもだいぶ安定した感がありますが、米国ではまだまだソフトウェア関連発明の取扱について様々なチャレンジがされているように思います。CLS Bank事件の最高裁判決は、内容によっては米国実務に与える影響が多大だと推測しますので、今はとりあえず最高裁判決が出るのを固唾を呑んで待っています。

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