« 弁理士が依って立つべき立場(未完) | トップページ | 我田引水なはなし »

IT産業と自動車産業とから始まってのとりとめのない話

本日は、とりとめのない技術経営的なお話を。

最近、IT企業が自動車産業に進出するという話を夙に聞くようになっています。

考えてみると、自動車ってメカの塊という印象があるのですが、実はエンジン制御も含めて電気・電子的なウェイトは非常に高まっています。特に、ハイブリッド車は非常に細かい電子制御(ちと古い言い方ですね)をしてますので、ある意味、優秀なパソコンでハイブリッド車が動いていると言っても全く問題ないと思います。ただ、ECUと呼ばれる電子頭脳や、車内に張り巡らされたセンサー等とECUとを結ぶワイヤハーネスは丁寧に隠されていますから、乗車しただけでは全くわかりません。

しかも、いわゆる高度道路交通システム(ITS)への準備が着々と進められていますし、ITSに先立ってカーナビが通信機能を有するようになることで、カーナビを含めた車載機器がインターネットに容易に接続されるようになり、オープンなネットワークの一端末として自動車が位置づけられるようになっています。東日本大震災後に、どの道路が通行可能かという情報が、特定の自動車会社に搭載されていた車載機器の通行情報から分かるようになった、というニュースがありましたが、この辺りは自動車がネットワーク上でどのように位置づけられているかという事実を如実に表していると思います。

さらには、自動車、特に(プラグイン)ハイブリッド車はいわゆるスマートグリッドを構成する重要な要素になりつつあります。こういった傾向は、電気自動車になれば全ての制御が電気・電子的に行われるわけですから、さらに強まります。

IT産業も、スマホに搭載されたカーナビアプリが車載機器であるカーナビと同様の機能を持つに至ったことから分かるように、自動車産業は実に有力な市場であることが十分認識されていると思います。

とは言え、自動車産業には結構特殊な事情があるとも思います。それは、安全性確保が絶対的命題であるということです。PCレベルであると、何か不具合があればPCを再起動すればいいという風潮が未だに残っている気がしますが、自動車の走行制御において何かあったら再起動という考え方は絶対許されないと思います。再起動している間に走行制御が何もできなければ、その間に事故が発生してしまうでしょう。現状のIT産業が容易に参入可能な領域、例えばカーナビアプリであれば、仮に不具合があった場合でもそのことによる影響は限定的だと思いますが、例えばECUのOSを担当するような場合は、robustnessが徹底的に求められるわけです。

IT産業において、例えば基幹システムのrobustnessは冗長性(多重性)と分散処理とバックアップにより実現されると思っていますが、車載機器において多重性は実現できても分散処理するにはハードウェアが不足するように思います。また、自動車は基本的にスタンドアロンで動作すべきものですから、バックアップがあったところで切替に時間がかかったのではあまり意味がありません。

こう考えると、IT産業が自動車産業に進出する際にはかなり慎重な設計等を行う必要があるように思います。しかし、慎重な設計は、一方で対応の迅速性や柔軟性を損なうこともあり得ますから、IT産業がそれまで直面してきた手法がどこまで通用するか、何とも分からないところがあります。

さて、自動車の走行制御であると安全性確保が絶対的命題であるわけですが、自動車を巡る領域であれば、若干のtry and errorが許容されるようにも思います。ある新聞記事で、中国ではIT産業がタクシー迎車システムの開発に鎬を削っているという話が紹介されていました。主に2つの企業が先を争って新機能追加を行っているらしく、従って時に見切り発車の部分があるけれど、それは対応の早さで補っているということになるようです。ある意味、ユーザー=消費者が実験台になっているということです。

日本だと、タクシー迎車システムを立ち上げるとなれば様々な実証実験を繰り返した上で不具合を徹底的に潰し、一定のレベルに達しないとリリースできないだろうと思います(タクシー迎車システム自体は既に稼働してますけどね)。これは、日本のユーザー=消費者が、比較的些細な不具合であっても許容する範囲が(中国に比較して)狭いんだろうと思うので、完成度を高める必要がどうしても出てくるんだろうと思います。

この辺り、日本と中国の現時点でのイノベーションモデルの差があるように思います。つまり、中国の場合、数多くの競業者が時間を競って新事業を立ち上げ、try and errorの結果、敗者の死屍累々の上にごく少数の勝者が残り、結果としてその勝者は国際競争力をその時点で獲得しているわけです。翻って現在の日本の場合、様々なシチュエーションを念頭に置いて慎重な開発を継続し、リリース当初から完成度の非常に高いサービスを提供しています。そして、日本風のイノベーションモデルがスピード感を持って実施されていれば問題がないのですが…

ただ、こういった現在の日本のイノベーションモデルは、随分前からそうだったわけではないと思います。我々が現在見ているestablishedな企業のうち、かなりの企業は戦後すぐの段階では比較的小規模な企業であり、数多くの大規模、小規模企業が入り乱れて国内市場で苛烈な競争を行い、結果的に幾つかの企業が生き残ったのだと思っています。例えば戦後すぐの自動車産業、オートバイ(オート二輪車でもいいですね)産業などがいい例だと思います。家電・AV産業の場合、戦前からの大企業が何社かおられたので全てが当てはまるわけではないですが、国内での競争の結果、自然と国際競争力を身につけたという点では当てはまると思っています。

翻って、では今の日本のイノベーションモデルはどうあるべきか、について明確な答えがないのですが、上に書いた日本のユーザー=消費者の厳しい目がある以上、破壊的イノベーションを当初から目指すよりも、ベンチャー企業であっても高品質な製品・サービスを継続的に提供する方向性は維持すべきなんではないかと思っています。時に過剰品質であると批判されますが、仕向地のマーケットリサーチを精密に行うことでミスマッチをできるだけ減らす努力は必要であるとしても、高品質というキーワードは日本の売りなのだと思っています。

本当にとりとめのない話ですが、こんなところで。

« 弁理士が依って立つべき立場(未完) | トップページ | 我田引水なはなし »

企業経営・技術経営」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« 弁理士が依って立つべき立場(未完) | トップページ | 我田引水なはなし »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
フォト
無料ブログはココログ