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Akamai事件備忘録

ここ数年、米国の最高裁は知財関係の上訴を数多く受理しており、従って、知財関係の最高裁判決が幾つも出される結果になっています。今月(なんと一月の間に!)も、本日ご紹介するAkamai事件(Limelight Networks Inc. v. Akamai Tech Inc.)の最高裁判決、そして、このBLOGで何度も取り上げているCLS Bank事件の最高裁判決と、私が注目している判決が立て続けに出されました。

Akamai事件については、私の知りうる範囲で4つの紹介資料(資料1資料2資料3資料4)が公表されています。多分、7月に米国の特許事務所等が開催するセミナーが幾つかあり、そこでもAkamai事件とCLS Bank事件は取り上げられるだろうと予想しますので、そのうち数多くの紹介資料が出てくると思っています。本日は、ご紹介した4つの資料と判決文とを読んだ上での備忘録を書いておこうと思います。
なお、今回の備忘録は、主に米国特許弁護士である矢部達夫氏が作成した資料(資料1)に依拠しています。矢部達夫氏とは、氏が日本の特許事務所に在籍されていた頃に仕事上の付き合いがありました(私がクライアントとして)。なんだか懐かしい思いがしました。

さて、事件の概要です。Akamai社(Akamai Technologies Inc.)は、CDN(Content Delivery Network)を利用する電子データ配信手法に関する米国特許(USP6,108,703)の専用実施権者です。Limelight社(Limelight Networks Inc.)はこの米国特許のクレーム19を実施しているとして提訴されました。Limelight社は、クレーム19のうちほとんどのステップを実施しているものの、タグ付け処理については顧客が行っていました。

Akamai事件の争点は、複数のステップからなるクレームが複数の主体により実施されていることが特許権侵害になるかどうか、です。米国特許法でも日本特許法でも、この争点は「間接侵害」に該当するかどうかに絞られてきます。

伝統的に、特許権侵害(直接侵害)は、方法クレームについては全てのステップを単独の主体が実施してはじめて成立します。しかしながら、こういった考え方では、例えばノックダウン等の形態について特許権侵害が成立しないという問題を抱えることになります。従って、日本特許法では101条に間接侵害の規定を置いています。米国特許法では、271条(a)項に直接侵害の規定を置き、日本における間接侵害に相当する(内容はちと違いますが)規定として、271条(b)項に誘導侵害(Inducement Infringement)、271条(c)項に寄与侵害(Contributory Infringement)の規定を置いています。今回のAkamai事件では、上に書いたLimelight社の行為(及び顧客の行為の全体をみて)が271条(b)項に該当するかどうかが争われました。

一方で、コンピュータソフトウェア関連発明については、かなり前からこういった論点、つまり、複数のステップからなる方法発明において、複数の主体が関与している場合にどのような論理構成によって特許権侵害を議論できるかという論点について議論されていました。私が記憶しているものは、2001年に行われた第10回SOFTIC国際シンポジウムでした。このシンポジウムでは、複数の主体が共同して特許権を実施している場合、共同不法行為としての共同直接侵害が成立しうるか、また、一部のステップを国外で実施している場合の間接侵害の可能性について議論がされました。

コンピュータソフトウェア関連発明、特に複数のステップからなる方法発明において、一部のステップのみ別の主体が実施することが比較的容易です。この場合、間接侵害の典型的な実施形態であるノックダウンと同様の議論をすることは難しいだろうと思います。つまり、ノックダウンでは特許権が存続している国内において最終的な実施がされ(製品が完成する)、ここをもって直接侵害が成立することを前提として間接侵害の是非を議論できると思うのですが、複数のステップからなる方法発明の一部が別の主体により実施されている場合、そもそも直接侵害が成立しない(前に書いたように)ので、さて、どのような論理展開をすべきかが問題になります。

Akamai事件に戻って、CAFC大法廷は、顧客が実施しているステップについて、被疑侵害者が実施していなくとも他の当事者(この場合は顧客)を実施するよう誘導した場合、誘導侵害(271条(b))が成立すると説示しました。

最高裁は、271条(a)項による直接侵害行為を構成しない場合には、被告は271条(b)項の責任を負うことはないと判断しました。すなわち、Muniauction事件のCAFC判決において、方法クレームについては全てのステップが単独主体により実施されることで直接侵害行為が成立するとの判断がされており、最高裁はこのMuniauction事件のCAFC判決を引用して、単独主体により全てのステップが実施されていない以上、直接侵害行為は成立せず、そして、直接侵害のなきところに誘導侵害はないと判断しました。この判断の中で、最高裁は、271条(f)(1)(ノックダウン行為を間接侵害とする規定)を立法する契機となったといわれるDeepsouth Packing事件を提示しています。このDeepsouth Packing事件でも、ノックダウン行為は直接侵害を構成しないと判断しています。
私が判決文を見たところでは、Akamai事件の最高裁判決は、このDeepsouth Packing事件との整合性(つまり直接侵害行為が成立していない)を重視したのではないかと思います。つまり、最高裁判決は、侵害を構成しない行為についてどのように誘導侵害の責を負わせるかについて立法府は271条(f)(1)を制定したのであり、仮に、これと異なる侵害論が必要であるならば、特許法に明記されているはずであると述べています。これは裏返して考えてみると、こういった複数主体による方法クレームの実施という事態について最高裁としても問題意識は持っているものの、それは立法により解決されるべきであるとのメッセージが含まれていると思います。
実際、最高裁は、今回の判決は271条(b)項の解釈が論点であり、271条(a)項についての判断はしていないこと、及び、Muniauction事件のCAFC判決の妥当性についても判断していないことを述べています。

さて、長くなりましたが、本判決の実務上の参考点を考えてみます。複数の資料では、方法クレームを立案する際には、単独主体により実現されるステップのみをクレームに記載すべしというアドバイスが書いてありました。しかしながら、現在のソフトウェア技術において、どのステップをどの主体が行うかについてかなり柔軟な設計ができる場合がありますので、クレーム立案時に、単独主体により実現されるステップのみをクレームに記載したつもりでも、第三者からすると設計変更が容易な、言い換えれば、一部のステップのみを取り出して別主体に実施させる設計が容易にできる場合があると思っています。
米国の特許訴訟をみていると、コンピュータソフトウェア関連発明のうち方法発明について第三者の侵害を認めていることが多いように思っています。従って、実施行為の特定がしづらいと言われている方法発明であるものの、米国においてはかなり価値のある発明であるという印象を持っています。
しかしながら、この記事でずっと書いてきた、複数主体による方法クレームの実施について侵害行為論をどうやって組み立てるかという問題については、今回のAkamai事件の最高裁判決でも結論めいたことは出ませんでした。

今回の最高裁判決はCAFCへの差し戻しを指示するものですので、CAFCは、271条(b)項が成立しうるとした大法廷判決を見直すことになると思います。一方、最高裁判決が(間接的に)指摘したように、271条(f)(1)を追加した場合と同様に、立法府が法律的な手当を行う動きを見せるかもしれません。

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