« Akamai事件備忘録 | トップページ | 弁理士の日記念企画協賛「知財業界のキャリアプラン」 »

Akamai事件備忘録(補遺)

昨日、Akamai事件の最高裁判決について備忘録記事を書いてBLOGにアップし、その後、数時間してアップした記事を思い返してみたところ、2つほど書き足しておいたほうがいいと考えた点がありましたので、補遺という形で追加しておきます。

書き足しておいたほうがいいと考えた点は、① 複数主体による方法クレームの実施について、なぜ271条(b)項により特許権侵害とする判決が出てきたのか、② 最高裁判決は、間接侵害について従属説を採用すること「のみ」を判決の要旨としているのか、です。なお、今回の記事も、前回の記事でreferした資料1~4に依拠する部分があります。

まず、Akamai事件についてCAFC大法廷が271条(b)項に基づいて特許権侵害と判断した背景についてです。この項については、鈴木將文 名古屋大学大学院法学研究科教授の資料に大幅に依拠しています。

昨日の記事にも記載したように、米国特許法においては、271条(a)項に直接侵害を、271条(b)項に誘導侵害を規定しています。誘導侵害は、そもそも、特定の主体をして特許権の侵害を誘導せしめる行為、言い換えれば教唆行為を特許権侵害とするものです。従って、教唆の対象となった特定の主体が特許権侵害をしていることが「文字通り(literally)」に解釈すると必要となります。ですから、「271条(a)項による直接侵害行為を構成しない場合には、被告は271条(b)項の責任を負うことはない」という従属説が妥当しうると考えられます。そして、271条(a)の定める直接侵害の成立が認められるためには、被疑侵害者により、クレームの構成要件の全てを満たす物または方法についての行為が行われていることを必要とします(いわゆる"all limitations rule")。この段階では、複数主体による方法クレームの実施を271条(b)項の該当性の有無により判断するという発想はなかなか出てきません。

一方で、方法の発明について、方法の工程の一部が異なる者によって実行されるようにクレームが記載されていることがあります(つまりは複数主体による方法クレームの実施)。このようなクレームは"divided"または"distributed"クレームと呼ばれます。これら"divided"クレームについては、all limitation ruleも妥当しませんので、単純に考えると271条(a)項に規定する直接侵害行為は成立しません。

しかしながら、"divided"クレームについて直接侵害行為が成立しないという判断は、権利者にとってあまり好ましい状況とは言えません。こういった状況を背景として、学説として、"divided“クレームについては、271条(b)または(c)により誘導侵害または寄与侵害が成立しうる可能性が指摘されていました。そのうちの一つの学説に、the "agency" theory(「代理」論)がありました。これは、コモンロー上の、代理人を管理する本人は、代理人の不法行為(torts)について責任を負うという考え方を、不法行為の一種とされる特許権侵害に応用するものです。

こういった状況の中で、CAFCが2007年に判決を出したBMC Resources事件(BMC Resources Inc. v. Paymentech L.P.)において、CAFCはこの「代理」論を採用し、「クレームの一部を第三者が実施している場合、被疑侵害者がその第三者の行為を管理(control)しているときは、代理責任の考え方により、被疑侵害者に直接侵害責任を認めることができる」と判示しています。この後、CAFCは、Muniauction事件の判決においてこのBMC Resources事件での考え方を踏襲して、「直接侵害が成立するか否かは、BMC事件で判示された如く、オークションの管理者である被告が、入札者に対し管理または指示を行っていたか否かを判断する必要がある」とした上で、「被告に成り代わって、第3者が一部のステップを実行している場合にのみ直接侵害が成立すると」判示しました。

このように、"divided"クレームについてどうやったら権利侵害の議論ができるかどうかについてCAFCは幾つかのチャレンジをしています。Akamai事件のCAFC大法廷においても、これまでCAFCが積み重ねてきた判断をより進めた判決をしています。具体的には、「直接侵害があることは、誘導侵害の認定に必要ではあるが、米国特許法271条は、特許侵害は「単独の者」でなければ成立しない、とは規定しておらず、「単独の者」を要求したBMC判決等は誤りであった」と、また、「方法クレームに係る誘導侵害の責任があることを立証するためには、(1)誘導者に故意があること、(2)クレームに係る方法の全てのステップを実施したか、第三者の実施を誘導したこと、及び(3)クレームに係る方法の全てのステップが実施されたことにより満たされる」と判示しています。

しかしながら、Akamai事件の最高裁判決は、こういったCAFCの議論について、法律解釈の大原則に戻った判断をして、結果的に271条(b)項には該当しないとの判断をしています。

次に、Akamai事件の最高裁判決では、誘導侵害について従属説を採用すること「のみ」を判決の要旨としているかどうか、についてです。

確かに、最高裁判決では、直接侵害が成立する場合にのみ誘導侵害の責任を負うことを判示した上で、この判断のみをもって棄却判決の理由としうるだろうとも述べています。しかし、最高裁判決は、この一文の後、「しかしながら」として、CAFC大法廷において、直接侵害に関する議論がなくとも271条(b)項に基づく誘導侵害の責任を負うことがあると判示していることを受けて、丁寧な議論をしています。なお、上に書いた、誘導侵害について従属説を採用することの根拠として、最高裁はAlo事件最高裁判決(1961年)を引用していますが、この事件は271条(c)項、つまり寄与侵害に関する判決ですので、今回の最高裁は、誘導侵害と寄与侵害とを一体のものとして捉えているようです。

従属説を採用することを明示した後の議論では、最高裁は、Muniauction事件についてのCAFC判決において、複数ステップからなる発明において、単独主体が、クレームされた方法クレームの全てのステップを実施することが、271条(a)項の直接侵害行為の要件であるとの判断が「正しいものとして推定」しています。これ以降、Deepsouth Packing事件を最高裁が引用する場合においても、直接侵害行為が成立しうるかどうかという議論を展開しています。

この議論は、一見すると、誘導侵害について従属説を採用することを前提として、直接侵害の成否を議論しているように思えるのですが、私としては、最高裁は、むしろこのAkamai事件を誘導侵害の成立の可否を議論するのではなく、そもそも、Limelight社の行為が直接侵害行為として成立しうるのかどうかを議論すべきではなかったのか、というメッセージを込めているように思えるのです。
最高裁判決は、271条(f)項を引用しながら、複数主体による方法クレームの実施行為に関する侵害の規定が法上存在しない以上、新たな侵害理論を立てるべきではないとした上で、最後に、今回の判決において、上告人も被上告人も271条(a)項ではなく271条(b)項の該当の有無について議論していたのでこういった判決になったと述べています。加えて、最高裁は、上に書いた、複数ステップからなる発明における直接侵害行為の成立を規定したMuniauction事件のCAFCの判断の正当性について論じないとも述べています。この言葉を裏返してみると、CAFCは、そもそも複数主体による方法クレームの実施についての直接侵害行為の成立要件を見直すべきではなかったのか、と最高裁が述べているように思えるのです。

とは言え、271条(a)項の解釈、つまりall limitation ruleの見直しは、複数のステップからなる方法発明の実施の概念を大幅に変えるだけでなく、侵害論全体の大きな見直しにつながってしまいます。仮に、均等論の成立要件を参考にして、複数のステップからなる方法発明のうち、非本質的ステップについては他の主体による実施があっても、全体として単独主体による実施であると考える説を導入したとしても、実際の侵害訴訟において非本質的であるか否かの議論を延々とすることになり、あまり効果的とは言えません。また、Akamai事件において、顧客が実施しているタグ付けステップが「非本質的」であるかと問われると、私の感覚では多分違う(発明の本質の一部を担うステップである)と思っています。

なかなか結論の出ない話ですが、補遺としてはこの程度で終わらせて下さい。

« Akamai事件備忘録 | トップページ | 弁理士の日記念企画協賛「知財業界のキャリアプラン」 »

知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

« Akamai事件備忘録 | トップページ | 弁理士の日記念企画協賛「知財業界のキャリアプラン」 »

2017年8月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
フォト
無料ブログはココログ