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特許事務所の規模とメリット?

久し振りのBLOGですが、結構重たい話題ですcoldsweats01

自分は特許事務所を幾つか経験していて、しかも、大規模、中規模、小規模事務所もそれぞれ経験しています。この、大規模、中規模、小規模特許事務所の分け方も人によって違うと思うのですが、私は、大規模特許事務所は所員100人以上、小規模は10人未満、中規模はそれ以外、という分け方です。

で、クライアントからすると、大規模、中規模、小規模特許事務所のメリット及び心配な点(デメリットがあると出願代理を依頼しないですから「心配な点」という言い方をします)が何であるかを考えてみたいと思います。何となく考えると、大規模=安定感及び担当分野の広さという点からかなり有利なところがあるように見えますが、そんなことはないと思っています。

まず、大規模特許事務所について。

特許技術者の数が多い、しかも、技術分野を電気、機械、化学と大きく分けた場合、全ての技術分野において専門とする特許技術者がいることがほとんどだと思いますので、クライアントからすると、様々な事業分野があっても同一の特許事務所に依頼することができるメリットがあるように思います。つまり、技術分野毎にどの特許事務所に依頼するかという考えをしないでいいです。しかし、表向きはそういった考えができそうに思えますが、私が企業の知的財産担当者であった経験からすると、企業はかなり細かい技術分野毎にどの特許事務所が適切であるか(得意であるか)を考えて出願依頼をすることも結構ありますので、大規模特許事務所の間口の広さがそのままメリットになるとも言えません。特に、バイオ、技術標準に関わる通信技術など、化学、電気(通信)が専門であるから直ちに当該技術の専門であると言いがたい技術分野については、大規模特許事務所であっても数多くの特許技術者が所属するとは限りませんので、間口の広さが常にメリットになるわけではありません。
特許技術者の数が多いことによるメリットは他にもあります。クライアント側の都合で、比較的短期間に数多くの特許出願を完了して欲しいと依頼することがあります。大規模特許事務所であれば、特定のクライアントに対応する特許技術者を弾力的に対応させることができますので、こういった依頼案件の変動に比較的容易に対応することができます。ここでいう「弾力的」とは、通常そのクライアントを担当していない特許技術者が担当するということばかりでなく、通常そのクライアントを担当していても全ての期間において担当していない(つまり、複数のクライアントの担当をしている)特許技術者において、一定期間は特定クライアントの担当だけをする場合も含みます(大抵そちらの場合が多い)。
コスト面ではどうでしょうか。特許技術者が多いとともに、いわゆる事務方の人数も多くなります。当然、多くの事務方を多くの特許技術者の収入で支える構造になります。一見、これによりコストダウンが図れそうな気もするのですが、事務方の仕事は特許事務所毎に大きく異なるわけではない(特に出願、中間処理業務に絞って考えると)ので、多くの事務方でサポートすることによるコストダウンの効果は明確でないです。また、事務方の人間が多いから専門性が担保できるという議論も、中小規模特許事務所からすれば明確に反論したいところでしょうから(事務方の品質の重要性はどの特許事務所も明確に認識してますから)、これも全てが当てはまるとも思えません。取扱件数が多いことで、システム構築、維持に関する費用を件数単位で分配すると低廉になるという議論があるのですが、これも、規模に応じたシステムを構築すればよいことですし、システムの大小で事務方の品質の高低が決まるとも思えません。
明細書等を含めた庁提出の書類の品質の担保(特に複数担当者によるチェック、パートナーを含めた最終的な品質担保の体制)についても、大規模特許事務所であるから高品質、あるいは品質担保がやりやすいという議論も、自分がクライアントとして中小規模特許事務所に依頼した経験からしても、どうも当てはまらないと思っています。逆に、クライアント側が、大規模特許事務所だから品質担保ができるという印象を持っているならば、私は今小規模特許事務所に勤務している立場からすれば、明確に反論するでしょうし、百歩譲ってそういった印象を持たれているクライアントがいらっしゃるならば、そう思われない努力をするだけのことです。
庁提出の書類の品質担保について少しだけ付言します。大規模特許事務所及び中規模特許事務所の中には、パートナー制を採用してアソシエイトたる弁理士はパートナーの個別指導を受け、アソシエイトが作成する庁提出書類は全てパートナーのチェックを経てからクライアント及び特許庁に提出するという体制を取っておられる特許事務所があります。この体制自体は優れたものだと思っています。一方で、こういったパートナー制は小規模特許事務所でも採用しうるものですし、品質担保についてパートナーによるチェックが唯一の回答ではないと思っていますから、パートナーのチェックが絶対的なメリットとは考えにくいです。
大規模特許事務所は、数多くの出願案件を取り扱っていますので、手続等に関する例外的事例や、日本のクライアントがあまり出願していない外国への出願を取り扱う確率は全般的に高くなることが考えられます。このような例外的な案件に関する対応力をメリットと言うならば、それはそうかもしれません。あと、大規模特許事務所の場合、法律部門を併設している、さらには法律特許事務所として運営されていることが結構多いですから、権利行使から訴訟に至るまでの手続を、出願代理からシームレスに行えることも多いでしょう。同様に、大規模特許事務所は調査部門を併設していることが多いので、先行技術調査、クリアランス調査、無効資料調査も特許事務所に依頼でき、その結果を出願業務にフィードバックすることができることも多いでしょう。とは言え、中小規模特許事務所が調査部門を併設する、さらには中小規模特許事務所の特許技術者(含む弁理士)が特許調査に関する知識を十分有している場合も多くなってきていますから、調査から出願までを一気通貫に行えるというメリットは大規模特許事務所だけのものではなくなってきているように思います。

次に中規模特許事務所についてです。

上に書いた技術分野で考えると、電気、機械、化学の全ての技術分野に個々に対応する特許技術者が所属する中規模事務所は限定されると思います。私が所属した中規模事務所は、2つの技術分野に関する専門知識を有する特許技術者が所属しているか、3つの技術分野に対応する特許技術者は所属していても、どれか一つの技術分野に通暁した特許技術者の数がかなり少なかったです。ただ、中規模あるいは小規模特許事務所の場合、特定の技術分野に関する専門知識が突出している場合が結構あります。私が知っている、バイオ関係の特許出願について評価の高い特許事務所が3つありますが、その中の2事務所は中規模事務所に属します(とはいえ中規模の中でも結構規模は大きいですが)。この、特定の技術分野に強みを持つことは、クライアントに対するメリットになり得るでしょう。つまり、クライアントは、特定の技術分野に強みを持つ特許事務所には、その分野に絞って出願案件を依頼するインセンティブが働きます。とは言え、クライアントが特許事務所に出願案件を依頼する理由は色々とありますから、特定の技術分野における強みが明確でない場合でも出願を依頼されることは十分あります(むしろそちらの方が多数派)。
時期毎の出願依頼案件の変動にも、中規模事務所であれば対応が比較的容易であると思います。中規模事務所の場合、事務所単位でクライアントから出願代理を依頼される案件が相対的に小さいので、一人の特許技術者は幾つかのクライアントを担当していることが、大規模特許事務所よりも多いと経験上思っています。ですから、特許事務所全体として弾力的な対応ができやすいと思います。
コスト面において、中規模事務所がコスト高になるという理由は思い付きません。品質担保の問題も、中規模事務所であると特許事務所の所長が自ら品質管理を(ぎりぎり)できる範囲ですので、単一的な基準に基づく品質管理がしうると言えます。

最後に小規模特許事務所についてです。

小規模特許事務所の場合、特定の技術分野に強みがある、明細書の品質に特徴がある(品質というのは相対的評価になりますので、高低を議論するのは難しく、何らかの特徴をクライアントが評価していただける、ということだと思います)ことがメリットになりうると考えます。小規模特許事務所の場合、こういった明確な「売り」がないと特許事務所として生き残るのが難しくなっています。私の知っている範囲でも、特許調査をメインにして明細書作成については協力事務所に依頼する特許事務所や、技術標準に関する通信技術に特化した特許事務所、さらには中小企業(特に事務所がある地域を中心とした)のサポートに強みを持つ特許事務所などがあります。
また、小規模特許事務所の場合、個々のクライアントを大事にする必要が出てきますので、クライアントからの要望に迅速にかつフットワーク軽く対応することが多くなってくると思っています。当然、小規模特許事務所以外の特許事務所が、クライアントからの要望に迅速にかつフットワーク軽く対応できないとも思いませんが、小規模特許事務所では、一般的に事務所単位で考えるとクライアントの数が少なくなりますから、個々のクライアントを重要に考える割合が高くなってくることが多いです。とは言え、クライアントからの無理難題を小規模特許事務所なら何でも対応するかと言えば、そこには一定の限界がありますが。
コスト面については中規模事務所と同じですね。品質担保の問題も、小規模特許事務所であると所長なりパートナーの目の届くところで仕事が進んでいきますので、品質管理が行き届くことが多いと思います。
あと、段々と減ってきているのですが、特許事務所に所属する弁理士が所長先生お一方、という特許事務所(いわゆる一人事務所)があります。統計数字からすると、こういった経営形態の特許事務所が全国的には一番多いです。クライアントからすると、所長先生がお元気なうちはいいのですが、年齢を重ねてこられた場合、現在出願代理を依頼している案件をどこまで継続的に担当していただけるのだろうという懸念があります。このため、大規模クライアントであると、一人事務所には出願案件を依頼しない、という方針をとってるクライアントが幾つかあるようです。また、聞くところによると、クライアントからの要望に応じて一人事務所を合併したケースがあるようです。一人事務所にはそれなりの「心配な点」があるということです。

あと、大事なことが。私がライフワークとして推進している知的財産コンサルティングについては、私の考えでは大規模特許事務所、中規模特許事務所、小規模特許事務所のいずれであっても十分対応できると思います。そもそもコンサルティング業務はきわめて属人的なものですから、よほどの大プロジェクトでないとチームで対応することがありません。コンサルティング業務にたけた担当者がその特許事務所に所属するか否かが全てです。しかも、知的財産コンサルティング業務を十分遂行しうる担当者は、特許事務所業界全体でみると極めて少数派です。

以上、長々と説明してきましたが、特許事務所の規模毎にメリット及び心配な点がありますが、では、それが決定的なものかというとそれほどのことでもないように思います。これは、自分が今現在小規模特許事務所に所属していますから、少なくとも大規模特許事務所に負けないように仕事を進めているという自負心から、若干中小規模特許事務所に肩入れした議論をしたからかもしれません。
あと、特許事務所に勤務する人間からみたメリット及び心配な点というのも幾つかあるんですが、今回はその点については全く触れていません。というのも、勤務する側の懸念点等は事務所毎の個別の問題に帰着することが多いと思いますし、私自身がどれだけの数の特許事務所の個別事情を知っているかと言えば大した数でもないですから、あまり断定的なことは言わないのがよいと考えたからです。

かなり長文になりましたが、こんなところで。

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知的財産/特許」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
依頼人の立場からすれば、事務所への依頼件の内容と比較して出願原稿案がどの位
変化しているかを評価していると思います。
その変化が事務所評価につながるのではないでしょうか。
更に、その変化が依頼人の期待に答えているかどうか。
その結果が事務所間の評価につながり、依頼が変化していると思います。
もちろん、評価もせずに、依頼している依頼人も居るかもしれません。
事務所により担当技術の範囲の大小はありますが、依頼人の立場からすれば、
競合がすでに依頼しているかどうか、競合が、後から依頼してくるかどうかにあるかと
思います。
従って、分野の範囲はそれほど問題もないかもしれませんが、大手に安心感のようなものも多少あるでしょうね。
では。

通りすがりの…さん、こんにちは。

本文にも書いたように、明細書の質の定義は各人異なって当たり前なので、今回もあまり議論していません。質の高低は、明細書作成者とクライアントとのコミュニケーションで改善することが結構あると思います。

アマサイさん、こんにちは。

今回は明細書の質についてあまり議論しませんでした(本文に書いたようにあくまで相対的なので)が、プロフェッショナルである弁理士が書く明細書はすべからく高品質である(クライアントの要望に合致している)べきであると思っています。でないとお金をいただけないと思ってるから。質を担保するのは個人の努力も必要ですけど、システム化が大事(パソコンを使うとかではなく、誰がやっても同じことができるという意味)です。頑張って下さい。

「明細書の質」と言いますが、何を持って「質が高い」というのか、それが一番難しいところだと思います。私の率直な感想としては、(私が思う)質の高い明細書には滅多にお目にかかれないのが実情です。

明細書の質の向上はどの事務所でも考えなくてはいけないことです。新興事務所のせいかなぜか弊所ではそれが十分でない。ダブル、トリプルチェックをかけるのがまず出来る方策です。所長に提案しようと思いますが、結果的に私の負担が増大します。頭の痛いところです(~_~;)

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