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2015年9月

”製造業のサービス化”の流れの中で、知財人財には何が求められるのか(仮)

ちと遅れましたが、今週月曜日に参加した研修会の話題について。

日本知財学会の第2回定例研究会「”製造業のサービス化”の流れの中で、知財人財には何が求められるのか(仮)」に参加して参りました。講師は、かの「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか-画期的な新製品が惨敗する理由」の著者として知財業界では夙に著名な妹尾堅一郎先生です。

妹尾先生のご講義は、上に書いた著書を上梓された頃には数多く拝聴していたのですが、自分が特許事務所に転職して以降は、特許事務所の実務に関連する研修会に絞って参加していたため、久し振り(多分4年ほど)に拝聴しました。

内容は、上に書いたように「製造業のサービス化」というキーワードを中心に、インダストリー4.0やIoTの話題をご紹介いただき、その上で日本の産業はどの方向に進むべきかという、かなり経営戦略的な(その意味で知財とはダイレクトに結びつきにくい)話題について縦横無尽に論じていただきました。最終的には、この研究会が日本知財学会の知財人財育成研究分科会が主催する研究会であったため、知財人材の育成についてまで議論が進む予定であったようですが、実際には時間切れでなかなか議論が深まらずに終わってしまいました。

製造業のサービス化であれ、IoTであれ、産業自体が大きく変貌する(インダストリー4.0は言い換えれば第4次産業革命ということです)時代の中で、知財担当者も様々に知恵を巡らせ、さらには産業なり企業が進むべき方向を見いだしてそれに先んじることができる知財人材をどのように育成すべきかというのは、大きく言えば我々に課された課題であると思っています。

つまり、現行の知財制度は有体物に適用される無体物たる知的財産権を取り扱っているわけですが、有体物の特徴が情報という無体物に化体し(例えば、3Dプリンタを前提とすると、どう作るかではなくてどのような形状であるかを示す情報が重要であるということです)、さらに、それぞれのセンサなりCPUなり(ノードってことですね)が自律的に行動し、これらが緩やかに結合する(グリッドコンピューティングとも微妙に違うわけですが)システムにおいて、特許権を実施する主体は何であるか(システムであると全てのシステムについての特許権の実施が必要であるが、自律性を前提とすると「全て」という用語をどのように解釈すべきなのか)、などなど、特許権の実体をどのように把握して権利化し、これを行使するかについて悩ましい問題が出てきます。

例えば、3Dプリンタの登場により、CADデータ等が入手できれば、特徴的な機構(STF)を有する装置を家庭内で製造することができます。この場合、家庭内での実施は特許権の侵害に該当しませんから、どのような実施行為について権利侵害の網をかけるかについて考える必要があります。製造方法について特許権を取得しても、通常は3Dプリンタによる製造方法に係る請求項は立てていないでしょうし、立てたとしても製造方法そのものに特徴があるとは考えられません(3Dプリンタを使ったということだけしか特徴がない)。一番価値のあると思われるものは、3Dプリンタにより装置を製造するためのCADデータです。しかし、データそのものは特許権に馴染みません。仮定的な話として、少し工夫をしてプログラムに関する請求項を立てられたとしても、そこまで考えて請求項を立てている実務家はごく少ないでしょう。しかも、このプログラムと装置とそれぞれについて請求項を立てた場合、特許法37条の取扱はどうなるのでしょう。こうやって考えはじめるときりがないのです。

様々な知恵を絞り、しかも、システムでいえば上位レイヤーにおいて覇権を競う競業他社に対してどのような対抗策を取るか、こういった、ある意味での思考実験を行いうる知財人材をどう育成するか、これもまた難しい命題です。一つだけ言えることは、世の中で起こっていること全般について好奇心を持ち、さらに、(ちと古い用語ですが)ビジネスモデルを自ら立案し、あるいは、新規なビジネスモデルを即座に理解しうる柔軟性が必要なのだろうと思っています。好ましくは、マーケティングを含めた経営学に関する知識が要求されます。

大企業であると、様々な知識なり知恵は、複数人の総和(つまりチーム)により対応することができるわけですが、規模が小さい企業の場合、知財担当者がマルチな才能なり能力を持つことが要求されます。とは言え、一人の人間が獲得しうる知恵なり知識にはある程度の限界がありますから、簡単にはいきません。ものすごい大きな宿題をもらった気がしています。

こんなことを考えていると、やはり企業の知財管理の仕事って楽しいなぁ、と思うわけです。

あと、余談ですが、この研究会の運営側に私の知人が3人もおられて、何だか不思議な気持ちになりました。

グローバル企業の知的財産マネジメントに関するセミナー

先週金曜日、知的財産研究所が開催したセミナー、「企業の知的財産戦略-特許の取得・活用と知財関連の社内組織のあり方を中心に-」に参加してきました。標題が示すとおり、参加者の方は企業知財部の方ばかりで、特許事務所勤務の人は多分私だけだと思います(とは言え、自分も心は企業知財部員でしたがcoldsweats01)。

講師は、日本IBMの知的財産部長であられる上野剛史氏、及び3Mジャパンの知的財産部長であられる赤澤大朗氏のお二方でした。奇しくも(いや、多分、主催者は意識的に)企業自体もグローバル企業であり、知的財産マネジメントもグローバルに運営されている2つの企業の知財責任者の方々で、講演いただいた内容も、グローバルな知的財産マネジメントに関することが中心でした。

とは言え、日本IBMはIT産業に属する企業であり、一方、3Mは素材産業に属する企業であり、さらには企業文化もかなり異なる(であろう)2つの企業ですので、知的財産マネジメントもかなり異なるものであったように感じました。

具体的には、今回のセミナーではオープンイノベーションに関する対応が主催者側から事前に指定されていたようで、日本IBMが考えるオープンイノベーションと3Mが考えるオープンイノベーションについてのお話がありました。上野氏は、オープンイノベーションに関してミドルウェアの例を挙げておられました。つまり、ハードウェアとソフトウェアと繋ぐのがミドルウェアであり、IBMとしては、クローズドとオープンを繋ぐミドルウェア的な活動を重視されているというお話でした。

私はこの話を聞いて、IBMとしては相互互換性(Interoperability)についてfocusされているのだと理解しました。Interoperabilityという用語は、Microsoft社が使うときは「お前のソフトウェアも使わせろ」的な意味合いで使われるように思うのですが(苦笑)、IBMの場合、システムインテグレーションの際にもLinuxサーバを結構積極的に使っており、このLinuxサーバをIBM社のメインフレームと一緒に使うとき(あるいはメインフレームの互換としてLinuxサーバを使うとき)の互換性(つまりはミドルウェア)をどのように担保するかという観点でオープンイノベーションを捉えているのだと思います。

IT産業の場合、システムインテグレーションの対象となる全ての機器を自社が製造するという図式はもはや成立しない時代です。他社の最適な機器を用いて所望のシステムを構築するという観点が重要視される中、IBMとしても他社の優秀な知的財産(それは例えばLinuxだったりするわけです)を適切に利用し、スピードと性能とを両立させるシステムインテグレーションを実現することが大切です。こういった観点から、オープンソースを含めたオープンイノベーションを実現することが重要になります。また、IBMとしては現在はリスクマネジメントの観点から(主に包括的な)クロスライセンスを重要視し、設計の自由度を確保する方針でおられるとのことです。

一方、3Mの場合、「社内オープンイノベーション」という言葉が3M内であるそうで、つまり、技術のシーズが社内に数多く蓄積されており、さらに、いわゆる15%ルールに代表されるように、社内の研究者が、自分がassignされているプロジェクト以外のテーマに(就業時間内で)ついて研究する自由がある(日本だとUnder the Tableと言われますが、3Mでは堂々とやるわけです)ので、社内において思いがけないcollaborationというか、掛け合わせが成立しうるようです。この辺り、いわゆる研究者内であれば誰が提案した発明提案書であっても閲覧することができるようで、IBMの場合には「限られたメンバー以外は閲覧できません」と仰っていたことと対照的でした。

3Mの場合、「テクノロジープラットフォーム」と呼ばれる技術基盤が42もあるそうで、つまりは、3Mが属する素材産業の場合、1つの技術シーズが多面的に展開しうる特性を持っています。赤澤氏が例に出していたのが、微細フレネル・レンズを製作するための表面微細加工技術が、フレネル・レンズ以外の様々な応用分野を生み出しているとのことです。こう考えると、1つの技術シーズが思いがけない応用分野を生み出す、さらには、社内に優秀な技術シーズが多数存在する(であろう)3Mにおいて、社内のcollaborationをまず重視する姿勢に立つことは、実に自然の流れだろうと思います。

こういった両社の姿勢の差がよく現れたこととして、社内において似たような発明提案書が別のプロジェクトから生じた場合にどう対応するか、という質問への回答がありました。IBMの場合、一つのシステムを複数のチームで並行して開発することはあるが、それぞれのチームの役割が異なるので、あまりそういった事例がないようなことを上野氏は仰っていていました。一方、3Mでは、上述したように発明提案書がオープンであること、さらには全世界を統括する知的財産部が存在することなどから、似たような発明提案書が提案されたときは、世界的な観点からどの国で最先に出願するかを決定すると赤澤氏は仰っていました。

多分に、この辺りの議論は、全世界的にR&Dをどのように管理するかという考えが異なることと、所属する産業が異なることとが関与すると思います。

なかなか興味深い議論が多数あり、久し振りに企業の知的財産マネジメントを考察する機会が得られて大変楽しかったです。こう考えると、やはり私は企業にいて知的財産管理をするのが性に合っているという感が強くなりました…とは言え、一つの企業に縛られずに様々な仕事をしたいと思って企業を飛び出したわけですし、もう少しやり残したことがありますので、まぁ、とりあえず今の仕事を続けないと、なんでしょうねぇdespair

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